Neetel Inside ニートノベル
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「『ガン』ってさぁ、本当はもう直せるらしいんだよ、本当は。でもガンが治せたら死なない人間が出てくるだろ?そうなるとどうなる?

地球が人間で溢れかえっちまう。ガンは成人男性の死亡率のトップ3なんだからよー。だから世界の医療関係者はそれをひた隠しにしてるわけ。

でも自分の家族、恋人がガンになったらそんなこと言ってられねぇよな」


へー、そーなんすか。ギャンブラーケンさんの薀蓄を休憩室で聞いていると看護師の魚住ジュンさんがやって来た。

「ティラノ君、手術1時間前だから部屋に戻って」

ボクはベンチから車椅子に体を入れ替えた。体を支える腕が震える。「お、緊張してんのかい?」ケンさんに言われボクは自分の体を見下ろした。

入院中で少し体に肉が付いている。歩けるようになるまでどのくらいかかるだろうか。「大丈夫よ。勇気を出せばきっとうまくいくんでしょ?」

そうだ、ボクはビートルズの曲と一緒に練習したアニキの曲を思い出した。バンドスコアと一緒にギターケースに入っていたCDにはアニキの

東京での8年間の苦悩が込められた曲が収録されていた。上京前に持っていた希望、なかなかうまく行かない焦燥、知らない間に追い込まれていた絶望。

そのすべてがボクの胸を打った。アニキはなりたくて負け犬になったわけじゃない。アニキが間違ってなかったこと、俺が社会に証明してやるからな!

その前に目の前の手術だ。病室で何本か注射をうたれ手術用の患者服に着替えるとドラマでよく見る台の上に乗せられ点滴を打ちながら手術室に搬送された。



手術の結果から言おう。4、5回、死にかけた。

手術じたいは成功したのだが麻酔が切れると右足がめちゃくちゃに痛むのだ。モンスターが自分の足首を少しずつ食っていく感じ。

おかげでお見舞いに来てくれた三月さんの前で失禁しちまったりして大変だった。その後のリハビリでも歩こうとすると激痛が走るので

ボクは毎日リハビリに行くのがおっくうだった。でももう一度ステージの上に立ちたい、またみんなとバンド演りたい、という気持ちがボクを支え続けた。

季節は過ぎ去り、窓の外には雪がちらつき始めた時、高戸先生から念願の言葉が出た。

「怪我は大方完治した。明日退院しても大丈夫」

長かった。これでみんなのところへ帰れる。感情を抑えきれずガッツポーズをすると「もうお別れね」とジュンさんが感慨深げに言った。

「いやいや!また遊びに来ますとも!!」「またバカなことをやって入院するんじゃないぞ」

みんなに釘を差されるとボクは迎えに来たみんなと一緒に3ヶ月入院した向陽町の中央病院に別れを告げた。

駐車場には雪が積もっている。テンションが上がったボクは雪球を握ると尻を突き出し、それを両手で胸の前で構えた。

「武田勝!!」

「おハムー」
「汚いフォームだなぁ・・」

野球のピッチャーの真似をしたボクを見ていたあつし君とマッスがなんJ語で茶化す。...外でなんJ語使うなっつーに...

とにかくボクはこれで病魔とは決着をつけた。学校は間違いなく留年だけどそんなことはもうどうでもいい。

これからいい事がたくさんあるのだ。ボクらは意気揚々とかぁちゃんが運転する車に乗り込んだ。

       

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