Neetel Inside ニートノベル
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ボクがストリートライブを始めて5日目。向陽町の公園にはとうとう雪が降り積もってきた。もちろん目の前にお客さんはいない。

ばす、雪合戦をやっていた子供たちが投げた雪が頬にぶつかる。

「すいませんでしたー」
「あやまんなくていいって。あの人、なんかオカシイじゃん」
「おいこら、聞こえてるぞー」
「やべ、逃げろ」

そしてボクの周りには誰もいなくなった。氷点下2℃。ボクは暖を取りに近くのファミレスに立ち寄った。

「ご注文は?」
「ドリンクバーは冷たいのとあったかいの、両方出来ますか?」
「はぁ…どちらかでお願いします」

なんだよ、ケチケチすんじゃねぇよ。こっちは喉ガラガラの手のひらガサガサなんだよ。

ボクはドリンクバーを頼むと薄いグラスと厚いカップを両手に持って機械の前に向かった。「あれ?もしかしてキミ、あの時のコだよね?」

機械の前で女の子に出くわした。えっと誰だっけ…「ほら、夏祭りであった。彼女出来た?てかまだ音楽やってんの?」

ドリンク片手に冗談で足を振り上げる彼女を見てボクは記憶がフラッシュバックした。

「あ、お久しぶりです!江ノ島エリカさん!!」
「江ノ島エスカね…」
「チェスカさん?...」
「いやいや!本田圭佑所属してないから!てかこのやりとり懐かしいな!」

「エスカー、どうしたの?」

後ろからエスカさんを呼ぶ女の子の声がする。「あ、紹介するよ。今時間ある?」

え?これはもしかして、誘われてる...?二つ返事でOKするとボクはエスカさん達が座っている席に向かい

両手を使ってパスタを食べている女の子にボクは頭を下げた。彼女がスプーンとフォークを置くとボクは鼻息荒く自己紹介をした。

「ボクの名前は平野洋一です!みんなからは、Tーれっくす、ティラノって呼ばれてます!
エスカさんとは夏祭りで知り合いました!ライブを邪魔された時は犯し殺そうとも思いましたがそれも今はいい想い出。プロのミュージシャン目指して日々頑張ってます!!」

「えー、なにこの人、おもしろーい」
「半生を語りだすかと思った。自己紹介で」

テーブルについていた二人がボクを見て笑う。「誰を犯し殺そうと思ったって?」エスカさんがボクの足を踏んづける。謝罪して席に着くとエスカさんは二人の紹介をしてくれた。

「こっちの髪が短いのが由比ヶ浜絵兎(ゆいがはまかいと)。ウチのバンドのベーシスト。んで、こっちの背の高いのがドラムの馳杏(はせあんず)ちゃん。
今日は今度の全国ライブの打ち合わせで来たってところかな。そして私が江ノ島恵栖華(えのしまえすか)。改めましてよろしく。ティラノ洋一くん」

「よろしくー」
「ども。」

「よ、よろしくお願いしますっ!一緒にプロ目指して頑張りましょう!!」

女の子3人とテーブルを囲みボクはテンションが舞い上がっていた。持ってきたドリンクを飲みながらボクは3人に色々なことを聞いた。

全国ライブに向けての心意気、口説かれそうになった有名人、彼女達が通っている学校の話とか。茶髪でショートカットのカイトさんはノリがよくて

「なでしこジャパン」にいそうなふいんきだったので「サワホマーレ・カイト」と呼ぶことにした。無論、心の中で。

しばらくすると退屈そうにしていた杏さんが口を開いた。「ねー、なんか腐ったドブみたいな臭いしない?」「えっ?そうですか?」

ボクがきょろきょろするとカイトさんが「おいやめろって」と杏さんをたしなめる。「ねー、平野くん、ミントスあげるよ」「はぁ、どうも」

「ねー、平野くん、コーラ飲んで」「はぁ、わかりました...」杏さんに言われるがままボクはミントスを大量に口に含みコーラを口に運んだ。


パァン!!乾いた音がファミレスの店内に響く。「ちょっと、大丈夫!?」立ち上がったエスカさんがボクに駆け寄る。青木田に殴られて入れた差し歯がからんからん、と音を立てて皿の上を転がった。

それをザン!とフォークで突き刺すと杏さんは低い声で話し始めた。

「おめーみたいなブサイクで才能も無い奴がモテるためにバンド始めました、みたいな話聞かされるとムカつくんだよ。
こっちは人生かけてプロ目指してやってんだよ。ガールズバンドってだけで『けいおん』、『けいおん』って後ろ指さされてさぁー
どーせあんたもけいおん見て音楽はじめました、ってカンジのオタクなんだろ?とっとと家に帰ってエロ同人誌でも読んでれば?」

「おい!杏!」
「いや、いいんです。事実だから...」

ボクはコーラと血を口から流しながら杏さんを睨んだ。サイフから千円札を取り出すとそれをテーブルに叩きつけて彼女に宣戦布告した。

「今度キミ達が出る『光陽ライオット』。それにボクのバンド『T-Mass』も出る。そこで俺がファッションで音楽やってるんじゃないってことをステージで証明してやるぜ!
パンツ洗ってまっとけや!このアバズレ女共!!」

「ちょ、てめぇ!!」鬼の形相で立ち上がる杏さんを見てボクは入口に向かって駆け出した。「ティラノ君!」エスカさんがボクの背中に向かって叫んだ。

「今言ったこと、覚えとけよ!」「ええ、覚悟しておきますよ!」ボクは扉を開けるとギターを抱えて街を走り出した。セミプロの人たちにケンカ売るなんて、なにやってんだ俺は。

てかやべぇ。あの杏って子、目がまじだった。ボクは第一線で勝負する女の子達の本性を垣間見た気がしていた。

       

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