Neetel Inside ニートノベル
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「ピースケ861!ピヨ美923!うららららららぁ~~~!!!」

いつものようにボクは鶏小屋の管理ルームでひよこを仕分けていた。ここに来て2週間。ボクはほぼ毎日この農場施設で働いていた。

キーンコーンカーンコーン。頭の上でチャイムが鳴ると隣の部屋で仕事をしていたあつこさんがやってきた。

「おつかれ!今日は何羽出来た?」「はい!ピースケが902匹!ピヨ美が1041匹!PIYO.ちゃんが103匹です!」
「へぇー、洋一仕事早くなったじゃん」

ボクがオカマ認定した連中のケージから一羽拾い上げてあつこさんは笑った。そいつをオスのケージに放り込むとあつこさんは言った。

「よし!修行終わり!」「へぇ?!ボク、まともにギター教えてもらってないんですけど~!!」「ははっ」あつこさんが微笑んでボクの顔を見た。

「とぼけんじゃないわよ。なんでひよこの鑑別なんかさせたか、わかってんでしょ?」「はは、ばれたか...」

ボクはひよこの羽毛と体液だらけの手で頭を掻いた。その後やってきた耕作さんと一緒に帰り支度をして、ボクらは職場を後にした。


「それじゃ、洋一君、最終日までお勤めご苦労さま!今日は遠慮なく食ってくれ!」「ウホ!これ、全部食っていいんですか?」

ボクが食卓に並んだごちそうを眺めていると奥さんが目を潤ませた。「今日で洋一くんともお別れね」あつこさんが黙々とフォークでチキンを口に運ぶ。

農場で育てた牛の肉は油がのっていてクソうまかった。たらふく飯をご馳走になった後、ボクは湯船の中で手のひらを開いた。

そのまま手のひらをぐっ、ぱっ、ぐっ、ぱっ、と閉じたり、開いたり。波紋はほとんど起こらない。よし。やったぜ。曇った鏡の中で気持ちの悪い顔が笑う。

ひよこの鑑別には手首の柔らかさとひよこを傷つけない繊細さが求められる。その能力をギター演奏に生かしたら?

今までのボクの演奏は自分の感情を伝えようとし過ぎてギターを弾く手に力が入りすぎていた。

ひよこを抱えるようにネックを掴み、ひよこをひねるようにピックを返す。演奏基本動作の反復練習。ボクはここに来て飛躍的にギターを扱うのが上手くなった。

風呂から上がり、窓から満月を眺めながらボクは新鮮な牛乳を飲み干した。ギターを柔らかく操作する力。その能力をオナニーに生かしたら?

ボクはいつものようにパンツを下ろしイチモツをしごき始めた。すげぇ!まるで自分の手じゃねぇみてぇだ!!冷凍庫で冷やして壊死させた右手とは違う。

まるで男の性感帯をすべて心得たベテランAV女優にしごかれているような!衝動的感動!!ま、童貞だからよくわかんないけどね。


「よういち~、Mステに椎名林檎が出てるよ~」「あっ!ダメだって!!」急に引き戸を開けたあつこさんの白い顔にボクの28mmの銃口から飛び出したタマが飛びかかる。

「すいませんでした!」フルチンで立ち上がって謝るとあつこさんがたん、と引き戸を閉めた。カルキ、ザーメン、栗の花。

最終日だっていうのに恩人に精液をぶちまけてしまうとは。このバカチンが。反省して布団に腰を擦りつけていると再び引き戸が開いた。

「おら!オナってんじゃないよ!ほら、ギター弾いてみ?」よだれで濡れた枕から顔を上げるとワンピース一枚のあつこさんが愛用にしているレスポールをボクに向けた。

「2週間の練習の成果、私に見せてよ」

ボクはパンツを履くとあつこさんからギターを受け取った。首からストラップをかけるとずっしりと重い。はぁ、『けいおん!』の唯にゃんはこんな重いギターを

抱えて走り回ったりライブを演ったりしていたのか。「曲は何がいいですか?」「洋一が弾ける曲だったらなんでもいいよ」ケーブルをミニアンプにジャックするために

こっちに尻を向けているあつこさんが言った。とんがりコーンのような尖った尻が全然美味しそうに見えない。いかん、集中、集中。

「それじゃ、バンプで」

にわとりつながり、という事でボクはBUMP OF CHICKEN の天体観測のイントロを奏でた。「うお、すげ!」黒いギターから深みのある重低音が鳴り響く。

まさにロックギター。レスポールってこんな音色だったのか。初めて聞くこのギターの声に感動しながらボクは性急なリズムとメロディーを

6畳の真ん中に座る師匠に向けて贈った。

「おぅ、いぇーい!アハーン!あー、あー、あはーん!!オゥイェーイ!」

最後の音を弾き終わると少しの残響の後、あつこさんがぱちぱちと拍手をした。そして立ち上がってギターを受け取るとボクに言った。

「あ、あんまり上手くないですな!」「ふぇ!?」「...いや、洋一が好きだっていうアニメの真似...この2週間、よくやったよ。バンドバトル、頑張んなよ」

「あ、あの!あつこさん!!」ボクに背を向けたあつこさんを呼び止めた。「ちょ、何やってんの?!」ボクは服を全部脱ぎ捨ててあつこさんに向かって叫んだ。

「初日に恥をかかせてすいませんでした!ほら!お望み通り好きにしやがれ!!ボクの童貞をキミに捧ぐぅー!!」

ギターの弾き方を教えてもらったんだ。これぐらいやらないと。布団の上でM字開脚をするボクを見てあつこさんは言った。

「いいよ、キミまだ16でしょ?初めては好きな人の為にとっときなさいよ」「へ?いいんですか?」股の間からあつこさんが笑う。

「果実は熟したほうが美味しいってね。セーシも受け取ったし」「え!?」「んーん。こっちの話。明日の昼ここを出るから用意しといてよ」

そう言い残すとあつこさんは廊下を出て階段をのぼっていった。


次の日、耕作さんとその奥さんに別れを告げるとボクはあつこさんの軽4で多賀野山の国道をくだっていた。

「ねぇ、洋一、見てみ?」「うぉー、すげぇ...」

崖の向こうから7色の柱が向陽町に向かって突き刺さっている。「あの街に住んでる人は自分が虹に包まれてるって知らないんだね。
幸せもたぶん、そういう形なんじゃないかって」

「お、あつこさん、詩人ですな」ボクが茶化すとハンドルを握るあつこさんが笑う。30半ばのあつこさんが「結婚」という名の虹を掴む日は来るのだろうか。

町内に下り立った車は向陽高校の駐車場に停まった。放課後を告げるチャイムが校庭に鳴り響く。

ここでお別れか。ボクはあつこさんに別れのあいさつをした。「色々ありがとうございました!バンドバトル、絶対優勝してきます!」

後ろの席からリュックを取り出して振り返ると目の前にあつこさんの顔があった。「これ、おまじないね」

ボクのおでこから唇を外すとあつこさんが恥ずかしそうに笑みを浮かべた。「世界を変えてきなよ」「あ、ありがとうございます...」

2週間連れ添った師匠から言葉を受け取ると登下校する知り合いに額のキスマークを冷やかされながらボクは仲間達が待つ第2音楽室の扉を開けた。


3rd Album ホワイト・ライオットボーイ<中編> 終了 <後編>、いよいよバンドバトルが始まります!ご期待ください。

       

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