Neetel Inside ニートノベル
表紙

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「はい!それじゃ、けいおんの平沢唯ちゃんの真似しま~す...だいじょうぶっ、じゃん!!」

「うわ、似てねぇー...」
「いっぺん、死んでみる?」
「お前、本当にけいおん見てるのかよ?」

放課後の部室、煮詰まった新曲制作の気分転換にモノマネをしたボクにみんなの冷ややかな視線が突き刺さった。ボクは頭を掻きみんなにこう答えた。

「ちっ、うっせーな。頭がイカれたふりをしてればいいんだろ、けいおんなんて」
「あ、こいつとうとうアニメ見てないこと認めやがったよ」
「残念だけど当然だよ。割れ厨らしい最期だったね」

「まぁまぁまぁ」

空気を読んであつし君がマッスと三月さんの間に割って入った。本番2週間前ということもあり、プレッシャーでみんなピリピリムード。

おまけに約束したスーパー名曲も出来上がっていないということもありボクの立場はどんどん悪くなっていた。ボクはみんなと楽しくバンドをやりたい。

ボクは抱えていたギターをスタンドに置くとテーブルに付き、持ってきた麻雀牌をじゃらじゃらと並べ始めた。

「せっかく4人いるんだし麻雀でもして落ち着こうぜ。あつし君、点数計算出来るよね?」
「おい、お前、今の状況わかってんのか?」
「まぁまぁ、アイツもアイツなりに頑張ってるんだから。気分転換だと思って付き合ってやろうぜ」
「あ、麻雀なら私もやりたーい。昨日麻雀放浪記読破したばっかりだしー」
「まぁ...三月ちゃんもいうなら付き合ってやっか。4人いないと出来ないしな」

3人が口々に呟きながらテーブルに付いた。このメンツで麻雀をすることは何度かあった。場のふいんきを変えるためボクは力強くシャウトした。

「よし!俺の股間のリンシャンもカイホーしてやるぜ!!カン、カン、カン、カン!もいっこ、カン!!」
「普通に多牌なんだよなぁ...」
「相手にすんなよ。よし、始めようぜ」

マッスがサイコロを振るとボクらは麻雀を始めた。ボクは正直役が良くわかっていないので「フリテンの洋」と呼ばれていた。

あまり詳しく麻雀の描写をすると自称中級者様wが沸くのでここら辺はキンクリする。

「あつし君、それ、チー!」
「だーかーら、チーは左側の私からしか出来ないの」
「何回目だよ...次やるとチョンボ扱いにするぞ」

「おい、ちょっといいか?」

「おっしゃ!一気通貫、テンパイキタ━(゚∀゚)━!」
「役名言うなよ...」
「テンパイしただけかよ...よし、みんな、こいつにワンズ振り込むなよ」
「ちょ、ちょっとォー」

「おい、お前らちょっといいか?」
「なんだようるせぇな!良い所なのに!」

ボクが立ち上がってドアの方を見ると制服を着崩した学生がひとり立っていた。名前が思い出せない。「えーと、どちらさま?」

「ちょっと、お前なぁ~」不良っぽい学生はポケットから手を出し首の後ろに手をやった。

「ミヤタだろ。青木田軍団の」ドアの正面のマッスが言った。「ああ、熟女大好きのミヤタ君だろ!?」
「ちょ、お前ら!ロッカーの中、見やがったな!」

ミヤタが急いでロッカーに向い、自分の場所だった戸を開けた。マッスが持ってきた少年マンガがパタパタと床に落ちる。振り返るミヤタにマッスが冷たく言い放った。

「あれからどんだけ時間が経ってると思ってんだよ。ここはお前ら不良のたかり場じゃなくて俺たちの居場所なんだ。今更お前ひとりで来てなんなんだよ?」

ちっ、数回首を横に振るとミヤタはボク達を見据えてこう言った。

「お前ら月末の光陽ライオット、出るんだってな。青木田から言葉を預かっててよ。『つまんねぇライブ見せたらただじゃおかねぇ』って。それだけ伝えにきた」

「俺たちがどんなライブ演ろうと勝手じゃねぇか」
「おい、マッス」

麻雀牌を片付けるマッスにあつし君が声をかけた。あつし君が立ち上がるとミヤタに言った。

「ここは元々ミヤタ達にモノだもんな。お前らから居場所を奪った分、ライブでいい演奏して優勝してくるよ」
「優勝!?言うようになったじゃねぇか!!学祭でオナニーして脱糞して人様のライブ台無しにして病院送りにされて挙句の果てに部室まで奪った犯罪者連中がよ!!」

バン!!テーブルの上の牌が四方に飛ぶ。俺はミヤタを睨んで叫んだ。

「青木田におんぶに抱っこだった金魚の糞が今更偉そうに何言ってんだよ!お前が俺やあつし君にしたこと覚えてんのか!?俺たちT-Massは変わったんだ!!もうお前らの知ってるバンドじゃない!」
「おい、よせって」

マッスが俺の腕を掴んで立ち上がった。

「そうか...じゃあ、本番で公開オナニー、楽しみにまってるぜ。変態オナニストさんよ」「出てけ!!」

ボクの叫び声を背にミヤタは部屋を出て行った。鼻息荒く席に着くボクを横目に三月さんが呟いた。

「でもさ、すっかり立場が逆転しちゃったね。なんだかティラノ君達が悪役みたい」
「今更気づいたのかい?極悪人だぜ?俺たち」

マッスが足元の牌を拾うとあつし君が感慨深げに呟いた。

「ミヤタも青木田や岡崎が学校辞めてから居心地悪そうに毎日過ごしてるよ。俺たちは自分の居場所を勝ち取ったけど、それと同時にあいつらの居場所を奪っちまったんだよな...」

「優勝すればいいんだろ?優勝すれば」

うつむいたあつし君にボクは声を振り絞った。そう、今度の大会はボクらT-Massだけの大会じゃない。色々な人の思いを背負ってボクらはステージに上がるんだ。

その事を理解するとボク達は席を立ち、再びライブに向けてのセッションを始めた。みんなを納得させられる曲を書きたい。

ボクの心は再び情熱の赤い炎で燃え上がっていた。

       

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