Neetel Inside ニートノベル
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「ベビ BAN、BAN、BAN。おバカ面で~」
「全裸で公園に飛び込んで~」

ボクら3人が酔っ払った某ジャニーズアイドルのようなテンションで公園を走り抜けていると大きなゲートが見えてきた。

「あそこが出演者受付所だな。いくぞ」

男前の鱒浦君を先頭にボクらT-Massは第10回サンライトライオット、通称光陽ライオットの出場エントリーを果たした。

69番の札付きバッジを受け取ると係員さんに隣の向陽体育館で待つように、と指示を受けた。

シャツにバッジの針を通すと建物の中に入りボクらは体育館のドアを開けた。

そこにはボクらより先に来たミュージシャンが全校集会を待つ小学生のように集められていた。

気が弱そうで反原発デモとかに参加してそうなガリヒョロメガネロンT文学系ロックバンドは仲間内で固まり、

ナントカ教授の講演会かなにかと間違えて来たような中分けのマジめ青年は一番前の列、中央に体育座りをし、

3コードパンクを信条としてそうな強面の連中は後ろの方で腕を組んで骨のありそうなバンドは居ないか睨みを効かせていた。

「まるで社会の縮図だな」

マッスが周りを見渡して言う。「あの辺座ろうか?」あつし君が隅の方を指さすが、ボクはステージを目指して歩を進めた。ここの連中に一発かましてやろうと思ったからだ。

「おい、ティラノ!」頂点を目指して音楽を続けています、と言えば聞こえは良いがはたから見たらロッカー気取りの若者の吹き溜まりだ。

俺が本物のロックンローラーだってことをこの大会で証明してやるぜ!マイクを掴むとボクは連中に向かって声を張り上げた。

「イェ!アイアム、キングオブ、ロック!!今大会の優勝は俺たちT-Massが頂いた。この中にアングラ、サブカル気取りがいたらハンターハンター観に帰れ!以上!!」

マイクを床に投げつけると約400の瞳が獲物を見つけた獣のように喉を鳴らした。

「ハァ!?頭おかしいんじゃねぇの!テメぇ!!」「オメェみてぇなずんぐりむっくりが優勝出来る訳ねぇだろ!!」「調子こいてんじゃねぇぞ」「バカ!アホ!死ね!」

浴びせる罵声に耳をすませ、階段をおりるとボクは体育館の中央にむっくとあぐらをかいた。

「いいのか、お前?連中やる気にさせちまったよ」「いいんだよ。これぐらい言わないと」

斜め後ろ、頭ら辺に痛いほど殺気を感じながらボクは開演時間を待った。


「今からサンライトライオット、予選会を始めます。エントリーナンバー1から10までのバンドは正面、サンライトステージへ集まってください」


「おー!とうとう出演時間がやってきたぜ!」

スピーカーから放送が流れると番号に該当するバンドがたちあがり体育館の入口を目指して歩き出した。あるバンドは肩を組んで円陣を入れ、

あるバンドはなぜか般若心経を唱え始め、あるバンドメンバーはビックマウスのボクに中指を立て、体育館を後にした。

いよいよ決戦の時がやってきたのである。「おれ、もういっかいトイレ行ってくるよ」胃腸の弱いあつし君が立ち上がると横にいたマッスがボクに声をかけた。

「大会前に本当にもう一曲仕上げてくるとは思わなかったよ。どんな魔法を使ったんだ?親戚のアニキに作ってもらったのか?」

ニヤけるマッスを見てボクも口角を上げた。ボクが今回こんなにも自信満々なのは3日前に生まれたある曲に勝機を見出したからだ。

「俺にだって負けられない理由はあるんだよ。今回の光陽ライオット、絶対に優勝してやろうぜ!」
「どうした?急にマジメぶりやがって...わかってるよ。注意するのはきんぎょ in the box の1バンドだけだ!やってやろうぜ!」

「お~い。出演時間まだ?トイレ混んでてさ~」

しばらくして間の抜けた声であつし君が合流するとステージ両サイドのスピーカーが声を張り上げた。


「エントリーナンバー61から70までのバンドは正面、サンライトステージへ集まってください」

「いよいよだな」

マッスが意を決した眼差しで体育館の中央で立ち上がる。

「いざ決戦の地へ!!」ボクが2人の前に手を差し出すと手の甲にごつごつとしたマメだらけのマッスの手の平が重なった。

その上にあつし君が手の平を重ねると体育館中に響き渡る声でボクらはおなじみのセリフを叫んだ。

「T-Mass、一本入ります!いよ~」「いくぜ!」「おう!」「セックス!」

しばしの残響と嘲り笑いの中、ボクらは渡り廊下をそれぞれの相棒を背に抱えて渡った。俺たちの音楽で世界を変えてやるぜ。

体育館の出口に青春映画のワンシーンのような鮮やかな光が広がっていた。

       

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