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第10回サンライトライオットの記念すべき最初の出演者、『THE 桜高軽音部'Z』の面々が機材チェックを始めるとモニターには今日の昼前に

オープニングアクトとして出演した『となりの壁ドンドンズ』の演奏が映し出された。TVの尺や、間を埋めるためにこういった手法をとっているのか。

そういえばモニターの左上にあった「LIVE」の文字が消えている。ステージ横の大型ビジョンにも「生放送風」ライブが映し出され、

330枚のスマッシュヒットを記録した「BI・WA・KO」を演奏するメンバーを見て観客達が歓声を上げていた。


「この中にひとり、ニセもんがおる!誰や!」

MCの途中でボーカルのドンキホーテ浜田さんが声を張り上げると客席が水を打ったように静まり返った。事前にこのやりとりを見ていたボクは笑いを噛み殺すのに必死だった。

「...俺や!」

びっくりしたように、安心したように客席から暖かい笑いが溢れる。事務所とモメてるのか、ドンドンズが最近リリースするのは洋楽のカバー曲ばかりだ。笑いが収まると浜田さんは静かに呟いた。

「時には、となりの芝が青く見える時もある。せやから、俺はとなりの壁をドンドンし続けるんや!君らも、心の扉をノックし続けるのを止めたらあかんで!」

感動的?な名言でライブを締めくくると「準備OKです!」とスタッフが司会者に合図した。

『THE 桜高軽音部'Z』のメンツが首を縦に振るとMCが大きな声でマイクを握り話し始めた。


「はい!オープニングアクトを務めてくれました『となりの壁ドンドンズ』の演奏でした!お待たせしました!いよいよサンライトライオット最初の出演者、『THE 桜高軽音部'Z』です!」

大きな拍手が鳴る中、ツンツン頭のボーカルがギターを抱えて客席に右手を振った。

「よろしくお願いします!」しかしCMに入ったのか、間が空いたためMCがボーカルに話を振った。雨足が少し強くなりはじめた。

「えー、少しお時間ができたのでお話を伺いたいと思います。『THE 桜高軽音部'Z』っていうバンド名はやっぱりアレから?」

観客から笑いが起こるとボーカルは額を撫でながら言葉を返した。

「あー、はい。そうです。あの国民的伝説アニメから拝借させていただきました。当時、俺、家でも学校でも部活でも全然いい事がなかったから。
そんな時出会ったのがけい、いや、そのアニメで。『きっと僕らには何かが出来るんだ』。そんな気持ちになりこのバンドを結成しました」

「そんな熱いアニメじゃねーだろー」彼の知り合いらしき人からフゥー、という小馬鹿にした歓声が響く。

「あとで連絡先、交換しとけよ」隣に座ったマッスが似た境遇の安倍さだお君とボクを見比べていった。

「おっと、お時間来てしまいました!本番5秒前、4、3、2、1...」

「どうも!『THE 桜高軽音部'Z』です!聞いてください。『青い空』」

おおー、という歓声の中、耳をつんざくようなノイズギターで第10回サンライトライオットは雨の中、幕を開けた。

「いきなりノイズバンドかよ...」腕組するマッスの横でボクはツンツン頭のパンクスを見つめた。

「北京で見たのは 赤いそら ぼくが見たいのは 青いそら 厚ぼったいピンクのくちびるー」

おそらく青い空とセクシー女優の蒼井そらをかけているのだろう。同じ作風のボクには彼らの意図が手に取るようにわかった。

「マイカフォンしゃぶる姿はまさに“老師”!  マイカ老師は実は死人! 青い空にオレは溶けていくー」
「FF-X は関係ねぇだろ。ネタバレすんな」

マッスのツッコミをよそにバンドは1曲目の演奏を終えた。矢継ぎ早に安倍君はMCを続けた。

「2曲目、聞いてください!『性春らぷそでぃーあ』!!」
「今度はスペイン語かよ...」

マッスの素早いツッコミを受け流しながら阿部君はエフェクターを踏み変えて性急なギターリフを奏で始めた。1曲目とは違い、8ビートの馴染み易い青春パンクだった。

「ぼくが無駄にした時間をー あの娘に半分位使えたならー きっと今頃キスまで行けたんだろー

ああ、ああ~ ぼくらー、今が青春なんだろぅ~ らぷそでぃーあ、ラプソディーが、ぼくは今聞きたくなったのさー」

「なんかかっこいい曲だね」

あつし君がボクの横で呟いた。「そうか~?なんか劣化銀杏ボーイズ、って感じじゃねぇ?」こんな事を言ったけど、本当はボクもちょっとカッコイイな、って思っていた。

もしかしたらあつし君は彼らのようなバンドを演りたかったのかもしれない。そんな物思いにふけっているとスタッフさんがボクらを急かした。

「T-Mass、出番まであと3分です!横の通路からステージ裏に抜けてください!」
「やれやれ...ほんと、人使いが荒い連中共だな」
「カリカリすんなよマッス。その怒りをステージングで爆発させるんだ。イッツオーライ!やってやろうぜ!」

ボクらはステージ裏で気合を入れると入れ違いで、演奏を終えた『THE 桜高軽音部'Z』の面々と顔を合わせた。

「後で連絡先教えてよ」「後で、って何時?」

ボクは汗と雨で髪型が崩れた安倍君に向かって言い放った。

「俺たちが表彰台の真ん中にあがった後さ!ロックの教科書、魅せてやるぜ、ブラザー!!」


「さぁ次の出演者は向陽高校が生んだ暴走機関車、T-Mass!放送コードギリギリの危険すぎるパフォーマンスが見られるのか!?要チェックだぜ、ベイベェ!」

       

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