Neetel Inside ニートノベル
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「いや~、いやいやいや」
「いや~、ほんっとにもう、」
「いや~いやいやいやいや」

ホテルの一室、ボクらT-Massは膝を付き合わせて笑っていた。頭がおかしくなった訳ではない。輪の中でボクは立ち上がって叫んだ。

「T-Mass、初戦突破!おめでとうっ!」
「いや~、ほんっとにもう、」
「いや~いやいやいやいや」

「それもういいって。お前ら」

なんと、ボクらのバンドT-Massがサンライトライオット初戦を突破したのだ。

『きんぎょ』のドラマーで主催者の娘である馳杏(チョー悪い女!決勝戦のステージ上でオシリペンペンしてやる予定!)にライブを妨害され

半ばやけくそになりながら演奏したボク達だったが結果発表の場でドラマが待っていたのであった。


「T-Massの点数は~?...638点!!」

ああ~という形であつし君が頭を抱える。ひとり100点の持ち点で10人いる審査員のひとりがボク達に向かって言った。

「やっぱり音が出なくなっちゃったのは悔しいけどさ、あんなにムキになってめちゃくちゃにやられたら困っちゃうよ。テレビも入ってるんだからさぁ」

「はい...」

30点を付けた壮年の音楽評論家が顔を赤くして机を叩く。「私は良かったと思いますけどね」91点を付けた黒木瞳を太らせた感じの審査員が言った。

「苦境をうまいこと自分たちの表現に持っていったのは評価できます。1曲目もきれいなメロディで良かった。
最初の曲でスローな曲を選んだりアドリブで演奏したりしたというのはとても応用力のあるバンドだと、私は思いますね」

「そうなんスよ!やっぱり話がわかる人はいるんだ!ボクのもーへーを、ぎみみ...」「余計な事言うな」

問題児のイタリア人FWのようにマッスに口を塞がれるとMCが大型ビジョンを見上げた。

「はい!T-Massは審査員の総得点が638点!初戦の『THE 桜高軽音部'Z』が総得点が1641点ですのでツイッター投票が1004票以上でT-Massが初戦突破です!
『THE 桜高軽音部'Z』のツイッター票が801票だったことも考えるとこれはちょっと厳しいか?運命の結果発表!...一旦CMでーす」
「あららら...」「おっとっとっと...」「そんなことしますー?」

おなじみのズッコケネタを挟むとボクらは祈るような気持ちでツイッター結果の発表を待った。

結果は...1103票!これに審査員総得点を足した1741点でボクらは初戦を突破した。

ボクらは嬉しくって抱き合ったが次のバンドがスタンバっていたのでスタッフにそそくさとホテルに戻るよう言われた。そして冒頭の「いやいや」の状態になっていたのである。


「まさか本当にあの状況で初戦を突破できるとは思わなかったよなー」

あつし君が感慨深げに言葉を吐くとベットに横になった。携帯をいじりはじめたマッスがボクに画面を見せて微笑んだ。

「こんなつぶやきも来てる『白:大雨の中、音が出ない状況で演奏するT-Massを見て感動しました!このまま決勝まで突っ走ってくれ!』
やっぱり逆境で戦う俺たちを見て心が動いた人はたくさんいたんだと思う」

「まあでも」

ボクはマッスから受け取った携帯のツイート画面を眺めて言った。

「演奏についてのカキコミはほとんどないな」
「まぁ、みんながみんな耳が肥えてる訳じゃないからな」
「でもよかったじゃん。あの曲を次に持ち越せたんだから。これは次の戦いで優位に立てるんじゃないかな?」

あつし君が言うとマッスがテレビのリモコンを手にとった。

「そういや次の対戦相手が決まる頃だ。確認してみっか」

ライブ出演者が約1時間後に対戦する相手をテレビで知るなんておかしな話だ。もしボクらが途中でバックれたら主催者側はどうするつもりなのだろう。

マッスがリモコンの電源ボタンを押し、ブラウン菅が立ち上がるのを待ちながらボクらは次の対戦相手の予想をした。

「おれは『刃 -YAIBA-』ってバンドが勝ち上がってくると思うな。出演者唯一の正統派ロックバンドだし!」
「いや、さすがに『惨劇メークアップ』だと思うぞ。フロントマンの暗野って奴、相当のやり手らしいからな」
「俺は『惨劇メークアップ』が来て欲しい。てか来てくれないと困る」

2人がボクを振り返るとテレビの画面が映った。MCが何やら声を張り上げている。

「『惨劇メークアップ』、得点が出ました!105301点!じゅうまんごせんさんびゃくいってんです!!
この結果、T-Massの次の対戦相手は『惨劇メークアップ』に決定しました!!」

「へ?」「じゅうまん...なんだって?よく聞こえなかった」
「面白れぇ...やってくれるじゃねぇか!暗野由影!!」

勝利と喜びで紅潮していた顔が恐怖と戦慄で一瞬で青ざめてしまった2人をよそにボクは部屋を出た。この圧倒的な投票差にどう立ち向かっていこうか。

相次ぐ逆境でボクの心は燃えていた。

       

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