Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

『きんぎょ in the box』が第10回サンライトライオット最大の優勝候補と言われているのには数多くの理由があった。

ドラマーの馳杏が大会主催者で向陽町町長の馳海舟の娘でコネクションを多数持っている事も理由のひとつではあるが最大の理由は楽曲の幅の広さである。

本来私は地方TVのインタビュアーで音楽の知識は豊富ではないのだが『きんぎょ in the box』はメジャーデビュー予定曲「Happy Powder」に

代表されるギターポップを中心にハードロック、ジャズ、プログレ、歌謡ポップなど万華鏡のように演奏スタイルを変える。

そのスタイルは若いバンドに見られる「1点特化型」とは違い、サンライトライオットの勝ち抜きルールに上手く適応している。

その楽曲のほとんどの制作を手がけているのがギターボーカルで現役高校生3年の江ノ島エスカである。

「ライブになるとトランス状態になる」という彼女のMCは聞いていてとても胸のすくものではないが彼女の子宮から絞り出す声、とでも言うのだろうか。

彼女の歌は聴く人を惹きつける。どんな鼻歌でもオリコントップチャートに殴り込めるような名曲に変えてしまう音楽センスはもはや向陽町に置いておくにはもったいない。

『きんぎょ in the box』はこの大会を最後に全国のリスナーの元へ羽ばたいていくだろう。

かつてメジャーデビューを目前にして夢途絶えた『liner LIGHTS』のようにはきっとならない。そう考えていたら思わぬ言葉がベースの由比ヶ浜カイトの口から飛び出した。

「この大会直前まで解散寸前だったんですよ。わたし達」

事前の出演者個別インタビューでカメラの前で彼女は語った。

「冷静に見て2回解散してます。Darekaさんとの全国ライブ中とライブが終わって地元のファミレスでのミーティングで。
要はエスカと杏の音楽性の違いやエスカの表現したい事が『きんぎょ』を通して上手くオーディエンスに伝わってないっていうか、
エスカなりにも悩みがあったんだと思います。アーティストとして。わたし達も悩んでたけどエスカの苦悩はわたし達の予想を超えてた。
でもあの子なりに開き直ったんだと思います。T-Massのティラノ君っていうライバルも出来たし。
今は3人共サンライトライオット本番に向けて気持ちをひとつにして一緒に演奏していられる時間を大事にして楽しんで演ってるって感じです」

吹っ切れたような顔で私に応えるカイトの瞳には壁を超えた者特有の「余裕」と「覚悟」があった。

自分達の演奏を楽しむという「余裕」、レコード会社やスタッフの為に絶対に優勝しなければならないという「覚悟」。

その決意はサンライトライオットで結果として表れた。


まず初戦の相手『ENJEL FISH』戦。矢継ぎ早に「Candy rop」「マシュマロホイップ」「honey toast」の3曲を演奏する京都の刺客に対し

壮大なインスト曲「蛍光色の金魚の夢」をぶつける余裕っぷり。演奏時間9分32秒の1曲だけでエンジェルフィッシュを飲み込んだビックフィッシュの次の獲物は

2回戦、シンガーソングライター幸福あゆむを奇抜なステージングで破った『ハシモト・トッツァン・ボーヤーズ』。

政治家のポスターをステージ上で燃やすというパフォーマンスは我々TV関係者から大ひんしゅくを買ったが、視聴者から話題を呼び、審査員投票の倍のツイッター票を荒稼ぎ。

そんな初戦を突破した彼らには怖いものなし。「大阪を首都にし・て・し・ま・え!」と歌う「大sucker」他1曲を演奏するもきんぎょの眼中外。

ジャジーな「ラッキーストライク」、代表曲「Happy Powder」にムーンライトステージのオーディエンスは大熱狂。約3倍のスコアをつけ完勝した。

大阪から来たパフォーマー集団に「向陽町にきんぎょあり」、というのものをまざまざとを見せつけた。

決勝の相手はT-Massと惨劇メークアップの勝者。圧倒的ツイッター票を誇る惨劇メークアップが有力視されているが私は決死の覚悟で挑むT-Massに期待したい。

初戦、ボーカルのティラノ君の経歴を快く思わない観客からブーイングも飛んだが彼らはそれを出演後には歓声に変えていた(しかも大雨の中、機材の音が出なくなるという状況を乗り越えてだ)。

特にティラノ君の観る人に力を与え、相手のファンさえ飲み込んでいってしまう人間的魅力は第3回大会に現れた日野光太郎のそれに似ている。

しかしここはネットで日々ファンを拡大している惨劇メークアップが勝ち上がってくると見るのが順当だろう。2回戦でも10万票(とまでいかないくても)のツイッター票を集めると

決勝での戦いは更に混迷を深めていく。この先どんな奇跡やドラマを私たちを待ち構えているのか。第10回サンライトライオットから目が離せないのである。



TVCO番組スタッフ 梅崎 たけしの記録

       

表紙
Tweet

Neetsha