Neetel Inside ニートノベル
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目を覚ますとボクはどこかの医務室のベットの上にいた。

ゆっくり辺りを見渡すと背の低い医者と背の高すぎる女医が話をしている。あれ?もしかして向陽病院に戻ってきたのか?

頭を整理しようとするとジュンさんと目が合う。

「ティラノ君!目が覚めたんだ!」

ボクがベットから体を起こすとジュンさんが肩に手を添える。ボクの担当医だった高戸先生が椅子から立ち上がってボクに言った。

「たまたま仕事の休憩中にジュン君とキミのライブを見に行ってな。そしたらキミがギターアンプから飛び降りて意識を失ったのでな。
『このなかにお医者さまはいませんか?』なんて経験、久しぶりにしたわ!」

「じゃあ、ここはサンライトステージ?」

ボクは自分が意識を失う前の事をゆっくり思い出した。準決勝のライブで演奏の締めにボクは思い切りアンプから飛び降り、

右足首をぐねってそのまま頭をステージの床に打ち付けたのだった。

「鱒浦君、あつし君!Tーれっくすが目を覚ましたわよ!」

ジュンさんがドアを開けて外の人に話しかけるとマッスとあつし君が部屋に入ってきた。彼らの顔を見るとボクは顔の前で手を合わせた。

「ごめん」

テンションが上がってアドリブで勝手な事をしてまた怪我をしてしまった。床を見つめるマッスに対しあつし君は「いいよ、そんなこと」と笑い返してくれた。

「終わったんだな」

なんとなくボクは呟いた。準決勝の戦いは終わった。ボクらの後には惨劇メークアップの演奏がある。結局彼らの10万票を稼ぐツイッターの自動更新ツールに

対する作戦が思いつかずボクらは自分達のすべてをそのままオーディエンスにぶつけたのだった。決勝戦はどうなるんだろう。まあいいや。帰ろう。ボクの家に。

「ちがう!」

あつし君がボクを見て叫んだ。その目には喜びの色があった。

「勝ったんだよ!おれ達が決勝に進んだんだ!」

へ?どういう事?あいつらは例のツールで10万票以上とったんじゃないの?腕組をしたマッスが説明してくれた。

「フロントマンの暗野が演奏中に突然ギターを振り回して暴れたんだ。メンバーが怪我してギターがぶっ壊れてそのまま強制退場。そんで失格」
「あいつ、なんか精神病んでそうだったもんなー。あのキレかたは尋常じゃなかった。ライブ前にクスリでもやってたのかもしれないっすよね?先生?」

にこやかにあつし君は高戸先生と話を始めた。そうか。暗野はボクが呼び掛けたようにひとりのロッカーとして実力だけでライブを演ろうとした。

でも彼の仲間がそれをさせなかった。「俺たちはもう、戻れない所まで来てるんだ」。あの時暗野はボクの背中にそう言った。

おそらくメンバーとツールを使うか直前まで言い合いになりライブを迎え、自分の感情が抑えられなくなって爆発してしまったのだろう。

あくまでもボクの推測だけど暗野由影という男と正々堂々とちゃんとした勝負をしてみたかった。

「ただ、時間がないんだ」

マッスが悟ったような顔で言った。

「もう決勝戦まで10分をきっている」「そんな!?」

ボクはベットから立ち上がった。「痛って!」鈍い痛みが右足首に襲いかかる。まるで足首に鉛を付けてボクの体を地面に飲み込んでしまうみたいに。

「一応痛み止めの注射は打ってある」

高戸先生が言うがボクの額から脂汗が止まらない。先生が空中でボールペンを動かしながらボクらに言った。

「キミらが選ぶ選択肢は2つ。このまま素直に棄権するか。何時倒れるかわからない重症を抱えたフロントマンを連れて決勝を戦うか。
どっちにしても苦しい選択だろう。ここまでやってきたんだから」

「戦うに決まってんだろ!」

机に手をかけボクは叫んだ。大きな汗が乾いた床に音を立てて叩く。やっぱりな、という顔をして先生はボクに話の続きを始める。

「キミ達がここまでやってきたことはみんなが認めている。準決のキミの落ち方をみたら誰も無理に決勝を戦えとは言わないだろう。
それに...次に同じように足を痛めてみろ。もう二度と自分の足では立ち上がれなくなるぞ!」

「それでもいい!!」

ボクの声が部屋に響く。先生に向けて声を張り上げた。

「それでも!俺はこの3人で決勝を戦いたい!エスカさんにも借りを返したいし、ロッカーとしてもみんなに認められたい!
だから!...許してください、先生」

ボクが頭を下げると先生は腕を組んで後ろをむいた。

「かまわん。キミの人生だ。好きにしたまえ...結論は出たようだな」

先生がマッスの方を向いた。「3つ目の選択肢がある」そう言い残すとマッスは部屋の外を出た。ギターの音が鳴ると会場の地割れのような歓声が大きくなっていく。

「ティラノ、大丈夫?」

あつし君がボクの肩に手をかけた。状態、気分。共に最悪。でもボクらの首はつながった。目の前のライブの事だけを考えろ。ボクはみんなに支えられ楽屋に向かった。

       

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