Neetel Inside 文芸新都
表紙

リアルショートショート
お祝い

見開き   最大化      

 のどかな昼下がり。
 今日、還暦を迎える大翔は、軋む音を立てる安楽椅子に揺られていた。大翔は一人暮らしだが、今日は3人の客人に囲まれている。還暦を祝う為に訪れた大翔の息子、息子の嫁、孫の3人だ。
「親父もついに還暦か。ここまで無事に生きてくれて嬉しいよ、ホント。一人で暮らすって言い出した時はどうなることかと思ったけどさ」
「ホントホント、水くさいですよお義父さん。私達とご一緒にお住みになってくださればよろしかったのに」
「確か親父とお袋は同い年だったよな? 還暦、お袋も一緒に迎えられれば良かったんだけどなあ……」
 大翔は安楽椅子に揺られたまま、黙って聞いている。

「ねえ、あなた、夕飯はどうしましょうか」
 息子の嫁がそう言うと、それまで退屈そうにしていた孫が声を上げた。
「やきにくがいい!」
「焼肉が食べたいの? そうねえ、あなたはどう?」息子の嫁が息子に尋ねる。
「いいな、焼肉。しばらく食ってないもんな」
 孫が満面の笑顔で、うんうんと頷く。息子はそんな孫の頭を撫でながら口を開いた。
「焼肉の何が食いたいんだ?」
「タン!」
「ははは、タンか。渋いな。よし、焼肉で決まり!」
 息子が孫の頭をわしゃわしゃと撫でて言った。頭を撫でられる孫も、それを見つめる息子の嫁も笑顔だった。大翔は黙って安楽椅子に揺られていた。

 のどかな夕暮れ時。
 3人は安楽椅子に揺られる大翔を囲んで他愛のない雑談を続けていた。その時、孫の腹が鳴った。
「ねえ、あなた、そろそろ……」
「そうだな……親父、テレビつけていいか?」
 大翔は何も答えない。息子は答えを待たず、テレビの電源をつけた。テレビの中ではニュースが流れていた。
 息子が静かに立ち上がり、安楽椅子に手を掛けた。孫が慣れた手つきでリモコンを操作し、テレビのボリュームを上げた。ニュースのキャスターが、鼓膜を震わせるほどのボリュームでニュースを読み上げている。息子が両手で大翔の首をそっと掴んだ。大翔の呻きは、テレビの音声に掻き消された。
「では次のニュースです。現在我が国は人口の増加、高齢化に伴い、深刻な食糧難に悩まされています。政府はそれを受け、食糧化年齢を現在の60歳以上から、55歳以上に引き下げる方針を固めました」

       

表紙

エアルフ 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha