Neetel Inside ニートノベル
表紙

ああ、無情なり私の人生―――。
びちゃびちゃ×うまい棒

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 最近の話をしよう。ノンフィクションで語ろう。
 と言っても最近が何時から何時までと明確な規準を私は知らないため、取りあえず三日前の話をしよう。
 三日前の夜中、今年こそ大学を卒業したい私は、独りで机と睨めっこをしていた。不得意な科目に移ったところで私は不意に時計を覗いた。
 午前二時三十分。
「お腹が空いたな……」
 私は空腹を理由に数字と記号に塗れたプリントから決別し、自宅から一番近いコンビニに立ち寄った。
 まあ、肉まんでも買って帰り道で立ち食いでもしようとか、考えていたのである。
 ゆっくりとした歩調で、レジ前まで来て、
「すみません、肉まん一つください」
 喋る訳である。
 店員はスキンヘッド+筋肉質と中々な風貌をしていたため、私は少しばかり恐れを抱いていた。
「―――に、に、肉まん一丁ッ!」
 男の遠吠えにも似た接客に私はビクついた。まあ、説明すると私は極度のビビリなのである。 
 新入りの店員なのか、元居酒屋で働いていたのか、もとからこうなのかどうなのかそうなのかああなのか全くと言って良い程知らないが、深夜の静けさには似合わない怒声である事は確かだ。 
 もしこんな大柄な男が昼間店員をし、レジの度に叫ぶとなると―――店長もそう思いシフトを夜中にしたのだろう。
「…………」  
 彼の飛沫した唾液を来ていたポロシャツで拭うと、彼がトングを持って私の顔をみていた。
 睨まれているのか……私。
 膝は震え、今にも失禁しそうだが何とか堪え、
「何か……?」
 勇気を出した私を自分で褒めたい。良くやった私。
 しかし、この店員当て嵌めるべき言葉を見失っていた。 
「な、何味にしましょうかッ!!」 
 何味……。 
 肉まんの中身は味では無く、具であろう。俺は普通に驚愕し再び失禁しそうになった。 
 だが、その時の私は男よりも優位に立っていると言う優越感に少々浸った為、要らない深読みをしていた。
 これは、もしかしたら男なりのユーモアなのかも知れない。そうだ、その通りだ。こんなに恐ろしい風貌なんだ、少しでも緩和するために軽いジョークをかましてきたのだ。
 ああ、なるほど。
 では、私も乗ってあげるくらいの器は持っている。舐めるなよ!
「ぶ、ぶ、ブルーハワイなんてどうかな……」 
 私はしたこともないボケをしてみた。
 それが悲劇だった。
「へ?」 
 男はきょとんとし、「ブルーハワイまん、は……ありませんが……」と呟いた。
 あ―――ッ。
 私は少し失禁した。
「……すみません……ただの肉まんをください……」 
 紅潮しながらモジモジした訳だ。下半身はナイアガラ並だ。
「……へ、へい、わかりました」
 男が持って来た肉まんの包みを受け取った私は、代金をキッチリ払うと直ぐさま自動ドアを突き破らんばかりの勢いを闘志に秘めながら、自動ドアが開くのを阿呆の様に待ち家路へと向かった。内股で。 
 廃墟に近いと言うより灯りが点いていなければ、ただの廃墟と何ら変わりのないアパートの階段を上がり、無事ではないが、帰宅した。
 私は玄関に雪崩れ、泣いた。上も下も、びちゃびちゃである。エロい意味ではなく……。
「うぅぅ―――ああぁぁ―――」
 情けないではすまないぐらい、惨めだろう。
 もし誰かがこの姿を見たとするなら俺は今すぐにでも首を括ろう。だが、ロープは隣町のコンビニで買いに行こう。
 そして私は鼻水と泪を流しながら肉まんに、かぶりついた。
 どろぉぉ。


「中身……あん……あんこかよぉぉ……」


 あんまんを持った私の嘆きは虚しく室内に谺したが、もう一度あのコンビニに行き、あの男にクレームを言う勇気も無いため、サランラップで丁重に包んで冷凍庫に放り込んだ。
 その夜は、タンスの裏で埃を被っていた、うまい棒だけが味方だった。
 私は潰れたうまい棒のカスを飲み込み、黄ばんだシーツを被り夜明けを待った。
 ああ神様、あなたは何と残酷な結末を用意するのだろうか。
 その時の私は、二日後あのコンビニ店員が強盗犯を捕まえ、警察から感謝状を貰い受け、地元テレビ局のインタビューを受けると言う事など知る由もなかった。
 
 勿論、明日の朝シーツの一部分がびちゃびちゃになっていた事も。

       

表紙

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