Neetel Inside ニートノベル
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クリスマスデイ
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 Ⅰ
 

 「きよしこのよる」のメロディが街頭でオルゴール調にかかっている、かのようでした。僕の頭の中は、
クリスマスでいっぱいだったのです。でも目の前を見回します。僕の、愛すべき恋人の町田さんは周りの
どこにもいません。確か、この噴水が目印のこの公園で今日町田さんと会う約束をしていた、そう、
約束していた、はずなんです。でも僕の周りをいくら見回しても、そこに町田さんはいません。
そこに町田さんはいないのです。
 まるで、トロイメライの調べが僕の後ろで鳴り響いているかのようでした。
 町田さんが、僕の見回す周りに、会う約束をしていたはずなのに、どこにもいないのです。ただ、ただ
それだけなのに、僕はこの年にもなってひどく泣きそうになっているのです。いや、もう泣いているかも
しれません。いえ、滅相もないくらい僕は今、途方にもない思いに突き動かされているのです。たぶん、
きっともう泣いているのでしょう。視界はにじんでいるようにもみえます。外気が肌をつんざきます。
つんざいたように外気の冷たさが肌に、顔に、手に染み込んでいきます、痛いです。
 町田さんが、そこにはいないのです。たったそれだけのことなんです。でも、たったそれだけのことで
僕の周りを歩いていくつがいのような男女の組に末恐ろしいような劣等感や寂しさを抱いてしまうのです。
街が、僕を笑っているように思えてくるのです。世間は、街は、ハッピークリスマスに包まれています。
でも、僕はハッピーなんかじゃないです。アンハッピークリスマスです。
 だってそこに町田さんがはいないのだから。

       

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