「掌握(サキュバス式拘束術)」
「え……?」
アカネが放ったそれはナツメから自由を奪った。口は動く、思考は回る、それなのに首から下の神経が途絶えてしまったように、身体は言うことを聞いてくれない。
「これ、どうですか? 睡眠(サキュバス式子守唄)でも良かったのですが、やっぱり意識がはっきりしている相手をどうこうする、というのが燃えますよね。反応がないなんて人形を相手にしているのと変わりませんからね。その点、掌握(サキュバス式拘束術)は最高です。何しろ嫌がる表情、拒絶する声を堪能することができるんですから」
「何を言っている……?」
「つまり、こういうことですよ」
後ろにいたアカネが、ナツメの前に回り込んだ。
「今から、ナツメさんをレイプします」
そのアカネのことを、ナツメは知らなかった。ナツメとアカネの付き合いは長い、それなのに初めて見るアカネがそこにいた。
妖艶。まさにその一言。仕草や雰囲気が妙にネットリとしていて絡みついてくる。見慣れたスタイルのはずなのにゴクリと生唾を飲んでしまった。
それ以上に瞳。ピンクに染まり、潤った瞳はゆらゆらと揺れている。
「アカネ、お前……」
「そうなると、私の処女はナツメさんに捧げることになりますね。よろしくお願いします~」
「よろしくしない! さてはあの声だな……!」
「まあまあ、何だっていいじゃないですか」
今度は前から抱き締めた。顔と顔がぶつかりそうになるほど近づく。もちろんナツメは掌握(サキュバス式拘束術)によって動けない。
アカネの吐息がナツメの顔を撫でた。ぺたり、ぺたりと温かなアカネの指、手のひらが這いまわる。
ナツメは、嫌な気分はしなかった。それどころか――
「ドキドキします?」
「そん、そんなこと……」
「無理しなくてもいいですよ。今の私は勝手に魅了(サキュバス式チャーム)が発動しているんですよ」
「なんだそれは……」
「言ってしまえば催淫アロマみたいなものですね。そこらのバニーとは比較にならないほど濃いものですが。
ですのでナツメさん、ムラムラしちゃうのは自然なのですよ」
「自然……?」
「そうですよー。だから、素直になってもいいんですよー」
アカネはナツメの目を覗きこんだ。ナツメは目を逸らせない。そのピンクに光る瞳に吸い込まれてしまう。
素直になってもいい。素直になればいい。ナツメの理性は瓦解していく。
ぼぅっとするナツメに、アカネはニタリと笑う。そしてローブ、インナーを脱ぎ、床に投げ捨てた。黒いレースのキャミソールとショーツだけになったアカネは、投げ捨てた衣服の上にナツメを押し倒した。
ここで話は冒頭に繋がる。
「さてナツメさん。私はあなたの使い魔です、どんな命令にでも従いましょう」
「どんな、命令も?」
「ええ、なんなりと。やめろと言われればやめます、死ねと言われれば死にましょう。
さあ、言ってください。
ナツメさんが、
今、
一番、
私にさせたいことを」
「して、ほしい」
ナツメは間髪入れず言った。
それは命令ではなく、懇願だった。
「ナツメさん、それだけじゃあわかりません。
私は、あなたを、どうすればいいんです?」
「めちゃくちゃに、して」
「めちゃくちゃ、と言いますと?」
「ひどいこと、されたいの。いっぱい叩かれて、嫌なことを言われて、傷つきたいのっ。
いっぱい、いっぱい! 苛めて、ほしい!」
やけになったように吠えるナツメ。アカネはそれを、冷たく見つめる。
「腕を叩かれて気持ち良さそうにしていたので、もしかしたらと思っていましたが……やっぱりマゾだったんですね」
アカネは服の上から、ナツメの慎ましい膨らみを鷲掴みにした。ギリギリと力をこめていくたびに、ナツメの表情は歓喜に満ちていく。
「マゾの人を苛める趣味はありませんが、これは命令ですからね。しっかりたっぷり、堕としてあげますよ」
アカネはナツメに顔を寄せる。ナツメは自然と目を閉じた。
小さく口を開き、アカネは頬張るようにナツメの唇を奪った。
「んっ、んん……」
もごもごとナツメの口内で暴れるアカネの舌。それはとても乱暴な動きだったが、ナツメにはそれが心地良いものだった。
「ん……ンンッ!」
突然、ナツメは苦痛に顔を歪める。冷たく笑いながらアカネが離れると、つうぅっと、唾液に混じって赤い液体がこぼれ落ちた。
「ごめんなさい。ナツメさんの舌、とっても柔らかかったので噛んじゃいました。
痛かったですか? もうやめたほうがいいですか?」
返ってくる答えはわかりきっている。アカネはあえて、ナツメ自身に理解させるように問う。
ナツメはアカネの予想通りに、首を振った。涙を浮かべながらも、笑顔を作っていた。
その様子に、アカネは満足して微笑む。
「ふふ……いらっしゃい、こちら側の世界へ」
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X 大賢者“ナツメ” ―> サキュバス“ナツメ” X
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