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* ボクの塔 *
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* 最上階の暖かい部屋 *
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「んっ……ふぁぁ、ふあああっ」
大きなベッドに埋まるように眠っていた伊藤月子は、大きく、甘ったるい声のあくびをして目を覚ました。
シルクのパジャマ、パリっと糊のきいたシーツにふかふかの毛布。どれもが心地良く、いつまでも眠っていたいとさえ思ってしまう。
そんな伊藤月子に、誰かの声が直接頭に響いてきた。
『月子、月子! おはよう!』
「つっ……あんまり大きな声出さないで……頭痛い……」
『ご、ごめん……』
しゅんとうなだれた様子が声から伝わった。
伊藤月子はテレパシーの精度を落とし、調整する。
聞こえた声は、女性の声だった。
「ええと、あなたは誰? あと、どうして私はここにいるの?」
『そうだね、説明しないといけないね。
ボクはこの塔の主。ああ、ここの建物って塔になっているんだよ。
詳しいことは秘密なんだけど、月子はそこから出口を目指すんだ』
「出口? ここから?」
伊藤月子は目を閉じ、超能力を使用して塔全体を把握しようとする。慣れた様子で、手を伸ばすように“感覚”を広げていく。
だがその瞬間、すさまじい疲労が全身を襲った。
「うっ、はぁ、はぁ……! なに、これ……!」
心臓が爆発してしまいそうなほどに鳴っている。
おそらく超能力の反動だろう。今までなかったわけでもないが、これほど大きなものは初めてだった。
『今の月子の超能力には制限があってね……使うほど体力が削られていくんだ。
体力がつけばどんどん使えるようになると思うから、最初は辛抱してほしい。ごめんね……』
伊藤月子はかけられていた毛布をそっと浮かす。ふよふよと、上下左右に動かして感触を確かめる。
まるで階段を早足で上がっているように疲労が溜まっていく。たしかに、これでは自由自在に使えない。ちゃんと考えて使わなければならない。
「なるほど……うん、わかった」
『さすが月子、理解が早い!』
「あはは……」
おそらく好意を持ってくれているのだろう。しかし自分にはちゃんと恋人がいるし、女性同士の関係にはそれほど理解がない。正直、ちょっと困ってしまう。
『それとね、ボクからプレゼントがあるんだ! そこの箱に入っているからぜひ受け取って!』
ベッド脇に宝箱(装飾がとてもきれい)を開けると、真っ白なワンピースが入っていた。
「わぁ、すごいっ」
『そうでしょ? ぜったい月子に似合うと思って、がんばって作ったの!』
「手作り!?」
『うん! ほら、さっそく着てみて!』
【シルクのパジャマ → ワンピース】
驚くほどに身体にぴったりだった。胸元のピンクのリボンがとても可愛くて、フリフリのレースが施されている。
細かいところまで丁寧に作れられている。どんな想いが込められているのか、サイコメトリーを使うまでもなく感じ取れた。
「ありがとう……すごく、嬉しい……」
『そう言ってもらえるとボクも嬉しいな。
……感傷に浸るのはここまでにするとして、さあ月子、冒険の始まりだよ。そこの扉から、塔の出口を目指すんだ。
モンスターはそれほどいないし、トラップもない。途中でこういう部屋もあるからしっかり休憩するんだよ。
……がんばってね、月子。ボク、待ってるからね』
「うんっ、私がんばる!」
脱出の他に目的ができた。塔の主に会いたい、ちゃんとお礼が言いたい。そんな想いが伊藤月子を突き動かす。
伊藤月子は部屋の扉を開けた。