Neetel Inside ニートノベル
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*   ボクの塔                               *
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*     出口近くの塔の主の部屋                      *
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「ふふ、うふふふふっ」

 伊藤月子との会話を終え、塔の主はベッドの上をゴロゴロ転がり回った。

「しゃべった、しゃべっちゃった、月子とおしゃべりしちゃったぁ~!」

 まるでプールで泳いでいるように両脚をばたばたとさせ、真っ赤になった顔を枕に埋める。ぴっちりと着込んだ白いスーツが少々乱れてしまうが、そんなことは気にしない。

 塔の主はずっと伊藤月子に恋焦がれていた。この塔に来る前、前の世界からずっとずっと好きだった。
 それほど想い続けた相手がやって来る。興奮しないわけがない。

「さあて、忙しくなってきたぁ」

 塔の主は考える。

 どんな服を着てお出迎えしようか、とか。
 料理を作っておこう、月子は何が好きなんだろう、だとか。
 この部屋を改良して二人で暮らせるようにしちゃおうかな、なんてことも。

 そんな幸せいっぱいの未来図を思い描いていた。
 何も起きなければ(伊藤月子の気持ちにもよるけれど)それを迎えることができただろう。

 ――そう、こんな事態さえ起きなければ。


 トントントンッ


「……だ、だれ!?」

 ノックが聞こえた。塔の主は慌てて飛び起き、身構える。

 伊藤月子が到著した――なんてこと、あるはずがない。いくらなんでも早すぎる。
 まったく別の、意図しない来客。恐怖から手が震え、喉がカラカラに乾いてしまっている。
 鍵はかけていなかったので、扉はゆっくりと開かれた。


「やあ、こんにちは」


「おま、おまえは……!」
「おや? 月子は歓迎して、僕のことは歓迎してくれないのかな?」

 塔の主が嫌いで嫌いでたまらない男――神道陽太は肩をすくめた。
 塔の主は神道陽太を睨み、すぐに顔を背けた。もはや顔すら見たくないほどに嫌いなのだ。
 その理由はただ一つ。伊藤月子の恋人だからだ。

「そんな怖い顔しないでよ。ちょっとお願いしたいことがあるだけだから」
「……お願い?」
「うん。この塔、僕にくれない?」

 何を言っているんだろう……!? 塔の主はサァっと血の気が引いたことに気づいた。が、次の瞬間には怒りで爆発してしまいそうだった。

「怒った? でも考えてみてよ。僕は月子の恋人で、キミはただ片想いをしてるだけ。
 僕がキミ以上に月子を楽しませてあげるからさ。イロイロな意味でね。
 だから、さっさと出てってよ」
「ここでも邪魔する気……!?」
「人聞きが悪いな。前に邪魔したのはキミだったろう?
 たしかに、今回だけで言えば邪魔者はボクだけどね」

 クククと神道陽太は笑う。意地悪そうに、楽しそうに。
 話し合うことなんて無理だ。塔の主は理解した。そうなると最後の手段しかない。

『神道陽太、今すぐ死――』

 塔の主は『命令』を下す。
 制限はあるものの、フルネームさえわかっていればどんな相手でも操れる。
 神道陽太も同じように『命令』を使用することができる。しかも自分以上に便利で優れた『命令』を。
 だからこそ、先に使用したほうが勝てるのだ。

 しかし、神道陽太は塔の主が考えてもいなかった方法で回避した。

「ぐっ……!」

『命令』が始まったと同時に神道陽太は飛び出し、塔の主の首を両手で締め上げた。

「僕も同じ能力を持っているんだ。防ぐ方法ぐらい考えているに決まってるだろ?」
「こ、この……!」
「ああ同じじゃないね。キミのほうが相当劣っている。
 キミの『命令』ってさ、人間を対象にしかできないんだろ? 僕みたいに時間の巻戻しとかできる? できないよね?
 まったく、どうしようもない不良品だ」

       

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