逃げようと塔の主は暴れる。だが男女の体格差ゆえ勝てるはずもない。神道陽太は悠々と塔の主の身体を浮かせる。
そのままベッドに組み伏せ、ぎゅうぎゅうと首を締める力が込めていく。
塔の主は神道陽太の腕を何度も叩き、握り、振り解こうとする。もちろん、力は緩まない。
「このまま犯してあげようか? どうせ処女なんだろう?」
「……! ……っ!」
「ははっ、ウソウソ。僕は月子一筋なんだよ。
それに、キミみたいな出来損ないになんて興味ないんだ。
僕の真似をした、中途半端なポンコツ。
ちゃんと言ってあげるよ。
キミは、いらない子なんだよ」
少しずつ抵抗する力が弱まっていく。顔の色はどんどんと白くなっていき、大きく開かれた目は濁っていく。
塔の主の目からは涙が流れていた。悔しさ、苦しさ、そんな感情から泣いているのだろう、神道陽太はそう思い、せせら笑っていた。
しかし実際は違う。塔の主にとって悔しさや苦しさなんていう感情は慣れたもので、神道陽太に抱いていたコンプレックスは計り知れないほど大きい。嫌悪はあるものの半ば諦めてるところもあった。
涙の理由は、月子に会えないこと。何も結ばれたいとまで思っていない、ただ会いたかった。会って、話して、そして塔からの脱出を見送りたかった。
けれどそんな願いも虚しく、こうして終幕を迎えようとしている。それだけが悔いだった。
「……、……」
伊藤月子を求めるように伸ばしていた手がベッドに落ちた。
塔の主は死んだ。
神道陽太はすっかり痺れてしまった手を首から離した。首には赤くアザが残っていた。
彼が再び塔の主を見ることはなかった。
「……さあて、忙しくなってきた」
神道陽太は考える。
まずは自分好みに改装しなければならない。
トラップを設置し、モンスターを呼び寄せ、せっかくだからゲストも招いておこう。
「楽しませてね、月子」
あまりにも冷たい笑み。それは、とても恋人に向けるようなものではなかった。