****************************************
* *
* 僕の塔 *
* *
* 巡る巡る魔物の巣 *
* *
****************************************
モンスターに殺される。気づけばフロアの入り口に戻っている。
そんな異常な事態が起こったにもかかわらず、伊藤月子はいたって冷静だった。
いくら泣こうが喚こうが、死んだという結果は変えられない。なら生かすしかない、経験を、記憶を。そう、なぜか死んだのに生きているのだから。
もともと超能力なんていう異質な力を保有しているので、精神がタフだったのだ。
まず、死んだらフロアの入り口に戻される――と考えていいだろう(推測)。
身体や衣服の損傷は治っていて体力も戻っている。が、意識が消える瞬間までの記憶は残っている(これは事実)。
戻ったあとでもフロアのトラップやモンスターの配置は変わっていない(再びカエルと出会ったときボコボコにした)。
そして、超能力は思っている以上に使用することはできない。けれど体力さえつけば使い放題になるだろう(これも推測)。
それらを把握し、慎重に塔の攻略を試みることにした。
要領がわかれば比較的楽だった。ゆっくりと確実にモンスターを駆逐、トラップを解除してフロアを降りていく。
次第に体力も向上し、全盛期にはほど遠いもののそこそこに使用できるようになっていった。
しかし、そうそう楽に攻略できるような塔(しかも神道陽太の魔改造済)ではない。ちょっとした油断が命取りとなる。
そう、今回のように。
「来ないで……イヤぁぁぁぁぁっ!」
フロア中を逃げ回り、ついに行き止まりに到着してしまった伊藤月子は叫び、恐怖を隠すことができなかった。
握りこぶし大の蜘蛛が通路、壁、天井、すべてを覆い尽くしていた。
うっかりと踏み潰してしまった一匹の蜘蛛。すると辺りからじゃうじゃと蜘蛛が湧き出てきて、気づけばこんな有様だった。
何度も念動力を使い、おそらく百匹以上は蹴散らしたことだろう。だが一行に減らない、それどころか増えてきている。いつしか戦うことを諦め、守ること、逃げることに専念していた。
「来ない、で……」
体力は限界だった。もつれそうな脚では転ばないのが精一杯で、もはや普通に歩くよりも少し早い程度にしか動けない。
そんな状態の伊藤月子を、蜘蛛たちが見逃すはずもない。
ビュルッ
「うわ、あ」
一匹から吐き出された糸がべっとりと身体に張りついた。動くほど服と肌にネバネバと絡みつき、とても取れそうにない。
そんな糸が至るところから、シャワーのように降りかかってくる。
「わっ、う、ああああっ」
叫ぶこともままならない。伊藤月子の全身には真っ白になるほど糸が巻きつき、まったく動けなくなってしまう。
「白くて、ネバネバして……気持ち、悪い……!」
ガサガサと蜘蛛たちの音が近づいてくる。
振り絞って使った念動力は巻きつく糸すら切ることができなかった。
伊藤月子の身体に蜘蛛が到達し――
バリッ
「い゛っ!」
蜘蛛の牙が柔らかな肌に刺さり、食い破る。
バリバリバリバリッ!
「ぎ、ぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!」
蜘蛛が身体中を覆い、伊藤月子を貪る。
一瞬でショック死。そして伊藤月子は肉はもちろん、髪や骨を少しも残さず蜘蛛に食い散らされた。
【ゲームオーバー】