Neetel Inside ニートノベル
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*                                      *
*   僕の塔                                *
*                                      *
*     巡る巡る魔物の巣(2回目)                    *
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「あっ」

 次に目が覚めたときにはベッドの中にいた。
 このフロアは最初と同じで休憩室があり、どうやらスタート地点はここのようだった。

「ウウ……アアア……」

 怪我はない。けれど全身に這いまわった蜘蛛の感触と少しずつ削り取られていく身体の痛みはしっかりと覚えていた。
 目を閉じれば思い出してしまう。こうしたフラッシュバックは超能力が原因で何度も経験している。
 そんなときは寝るに限る。なので伊藤月子は半ば不貞腐れるようにベッドに潜り込んだ。

 が。


 ムニッ


 とても柔らかな何かが、顔を覆い尽くした。
 温かい。それでいて良い香りがする。

「これは……?」

 予想はついているが半信半疑。ゆっくりと顔を上げると――

「あら、寝ないの?」
「……! わ、わわわわわっ!」

 ベッドの中には自分以外に誰かがいた。驚き飛び起き、シーツをひっぺがして確認する。
 まず目に入ったのがウサミミ。そして胸元が大きく開いたレオタード(が崩れて胸がこぼれている)。カフスにストッキング。
 この衣装は知っている。

 バニーガール!

「えっと、えっとぁ、誰、ですか?」
「あー、はじめまして。私は」
「服、直してください……」
「……あらら、ごめんなさい」

 バニーガールはいそいそと胸を収納して、改めて自己紹介。

「はじめまして。私は立川はるか、職業はバニー。よろしくね~」
「はい……」

 伊藤月子も同じように自己紹介。差し障りのない程度に超能力のことを言っておいた。

「私も上から降りてきたんだけど、いい加減疲れたからゴロゴロしてたの。そうしたら月子ちゃんがここに戻ってきたわけ」
「そうでしたか……」
「あんまり可愛かったからチューしちゃった」
「え゛!?」
「ウッソ~」
「なぁんだ……」
「服を脱がしてネットリ見てただけー」
「え゛え゛!?」
「うそ嘘ウッソ~」

 どうにもこの軽いノリ、妙に甘ったるい声が苦手だった。
 それなのに――伊藤月子の鼓動は高鳴っていた。バニーの仕草や香り、魅力的な身体や表情のすべてが誘惑してくるようでドキドキとしてしまう。
 赤くなった顔を隠すように、伊藤月子はバニーから視線を逸らす。

「あら、怒った? ごめんね~」
「いえ、そんなことは……」
「ならこっち見てほしいなー、寂しいじゃない。
 ま、そんなことよりもさ。こうして巡り会えたのも何かの縁。
 いっしょに、脱出しない?」
「それってつまり」
「そっ、仲間ってヤツ」

 パチリッ。
 バニーのウィンクに、伊藤月子はボッと顔から火が出るほど熱くなった。

【バニーが仲間になりました】



 仲間が一人加入したことで、探索は飛躍的に順調に進んでいった。
 まずバニーが囮になるよう先陣を切り、隙をついて伊藤月子が念動力で一気に片をつける。ダーツによるバニーの的確なアシストも大きな助けとなった。

 とんとん拍子に降りていき、疲労を感じ始めていたところで休憩室を発見。休息を摂ることになった。

「はい、お水どーぞ」
「ありがとうございます……」

 ベッドに腰かけていた伊藤月子はバニーから水の入ったコップを手渡され、それをコクコクと飲み干した。
 妙に甘ったるい味がしたが、きっと疲れのせいだろうと思った。

「はぁー、私も疲れたし、座ろっと」

 さも当然のように伊藤月子の隣りに座るバニー。その拍子に腕が触れ、伊藤月子はやはりドキッとしてしまう。
 バニーの香りがする。とても濃厚な香り。初対面のときから感じている香りは甘く、酸っぱく、爽やかなのにどこか濃厚だ。
 ドキドキしてしまう。なぜだろうか、身体が熱い。

「ねえ月子ちゃん」
「はい?」
「キミは、処女?」

 どこか夢心地だった伊藤月子に、バニーはとんでもないことを訊いた。

「……えええっ!?」
「いいじゃない、女の子同士なんだし。それに、もっと知り合うのも大事かなーと思うんだけど」

 なんとも無理やりな展開だが、意識が朦朧としている伊藤月子がそれに疑問を持つことはなかった。
 先ほどから身体が熱い。バニーから漂う香りや艶っぽい仕草に脳が溶けてしまいそうだった。
 伊藤月子がその質問に答えるまで、そう時間はかからなかった。

「いえ、処女じゃ、ありません……」
「わはー、そうなんだ。じゃあ何人と寝たの?」
「……一人だけ、です」
「まあぁ、一途!」

 バニーは伊藤月子に抱きついた。そんな過剰なスキンシップにも、伊藤月子の抵抗はない。
 豊満な胸に顔が埋まり、くすぐったい吐息が耳をくすぐる。すべすべとした肌やじんわりと伝わる体温、一定のリズムを刻む鼓動に伊藤月子は思考を止めてしまう。

 されるがまま。もはや物事を考えられるような状態ではなかった。

「その幸運な男って、彼氏くん?」
「はい……陽くん、です」
「神道陽太くんでしょ? ちょっとお話したけどいい男よね。
“魅了”を使ってもキミに一筋で見向きもしない……イライラしちゃう」

 恋人の名前が出たことで、伊藤月子の思考は一瞬、戻った。しかし、戻らなかったほうが良かったかもしれない。バニーが、目を覗き込んでいた。
 じぃぃっと見つめる目を逸らすことができなかった。

「そう、そのまま私の目を見ていてね」
「はい……」
「うん、いいよ、そのままね……私の声以外は聞こえなくなる。私しか見えなくなる。ほら、いい?」
「……はい」

 まるで泥の中へ沈むように、伊藤月子の五感は停止していく。
 ニコリとバニーは笑う。そして、魔法を唱えた。

「魅了(チャーム)」



(な、なに、なんなのこれ……)

 正常な意識に戻ると、伊藤月子は自身に起きた変化に驚きを隠せなかった。
 もはや爆発してしまいそうなほどに鳴り響く心臓。自身を焼き殺してしまいそうに体温が高い。自然と荒くなっていく呼吸。
 それ以上に、もっともっとおかしなことがあった。

(どうして……私、バニーさんのことが……?)

 なぜ自分が、同性のバニーにときめいてしまっているのか。
 そしてなぜ、力いっぱい抱き締めているのか。
 そんな自分の行動を説明することができなかった。

「さっきのお水、おいしかった?」
「み、ず……?」
「ちょっと甘かったと思うんだけど……さてさて、何が入ってたと思う?」

 血の気が引いた。
 もちろん何が入っていたかはわからないが、バニーの意地悪な笑みから何か良からぬものが入っていたことはわかった。

「いったい何を」
「月子ちゃんの身体が素直になれる“おまじない”が入ってたの。
 気持ち自体はここに来るまでにそこそこ傾けることができたし……
 まあ“魅了”のかかり方を見るに、もう私のトリコ、かな?」

 バニーは笑う。その表情に伊藤月子の感情がグラグラと乱れ、非常に深い好意へと傾いてしまう。
 バニーの言う通り、伊藤月子はトリコになっていた。あろうことか神道陽太との記憶がおぼろげになるほどに。

「ウソだ……わたしは、陽くんのこと……」
「いやあのべつにさ、月子ちゃんの気持ちなんてどうでもよくってさ。
 今この瞬間、私と月子ちゃんが楽しくできるかどうかが大事なわけ。
 オッケー?」

 ベッドのスプリングを使い、バニーは抱きかかえたまま伊藤月子をベッドの真ん中まで運び、組み伏せる。
 体力は万全。超能力を使えば簡単に引き剥がせる。それなのに、伊藤月子は抵抗できない。いや、しない。

「ほら、キスしなさい」

 バニーは伊藤月子の顎を撫でながら、命令する。

(う、うううっ)

 かろうじて理性はやめるよう訴えかけている。けれど身体はまったくの逆、震える手がバニーに伸びていく。

「あっ、ううっ」

 腕はバニーの首に巻きつくように廻される。
 そして顔と顔が近づき――

「ンンー……!」

(わぁぁぁぁ、キスしちゃってる……)

 ただ触れ合うだけのキスではない。最初から舌同士が絡みあうキス。
 ぐちゃぐちゃと頭の音で唾液が絡む音が響く。興奮しているのかバニーの荒い鼻息が顔をくすぐる。

「ん、ぷはっ」

 バニーは顔を離す。唾液の糸が伸び、ぷつりと切れる。
 それまでは余裕のある表情を浮かべていたバニーだったが、今ではぜいぜいと息が荒くなっている。

「意外に積極的なのね……あの彼氏くんともそうしてるの?」

 自分の意思ではない。それなのに、こくりと、伊藤月子は正直にうなづいた。
 ふと考えてしまう。これは浮気になるのだろうか、と。
 もちろん浮気には違いないのだが、伊藤月子は疑問すら抱かない。

「ああもう、可愛い、すごく可愛いね月子ちゃん。
 腹いせにちょっと遊んで虐めてあげるつもりだったけど……本気になっちゃったかも」

 バニーはレオタードをずらし、自分の股間に手を当て、先ほどとは別の魔法を唱える。


「擬態 (トランスフォーム)」


「うわ……!?」

 伊藤月子は目を疑った。
 バニーの股間から突然、女性では有り得ないものが生えたからだ。

「素敵な魔法でしょう? 男の子になれちゃうのよ?
 ……もしかして、男の子になりたかった?
 だめ、ダーメ。私が、貴女を、食べちゃうの」

 バニーは伊藤月子の顔を掴み、そのまま偽りのペニスに寄せる。

「ほら、してよフェラチオ。彼氏くんにするようにさ」

 目の前でビクンビクンと脈打つそれ。
 魔法で生えた偽物のはずなのに寸分違わない造り。独特の臭いすら再現されている。
 それに、明らかに平均以上(恋人以上)のサイズ。

 伊藤月子にも当然性欲はある。が、痴女ではない。ごく一般的な程度である。しかし今はバニーの毒牙により、ペニスを前に生唾を飲んでしまっていた。

「……あんむっ」

 誘われるように、ぱっくりと咥え込んだ。そのまま口の中でぐりぐりと舌を使って亀頭を舐め回す。
 全体的に唾液が満たされたところで、吸い込むように喉奥まで飲み込む。トロトロになった竿はなめらかに伊藤月子の口で上下に動く。

「あ、あらぁ……? 想像以上に教え込まれてるのね……!」

 そんな予想だにもしないテクニックに、バニーの余裕は一瞬で掻き消えた。

「……そんなこと、ないです……」
「何言ってるのかな、この子は……うぅ、ああダメ、気持ちいい……!」
「私はただ、陽くんが喜んでくれるから……ぺろ、レロ……」

 もともと“擬態”は使用者の神経に結びつくため、本物以上に感覚が伝わってしまう。バニーは全身が性感帯になってしまったようで、びくびくと身体を震わせていた。
 いっそ一度ぐらい果てても良かったのだが、そこはバニーのプライドが許せなかった。主導権は常に自分が握っていたかったからだ。

「……そろそろ、このぐらいにして、と……」

 腰を引いて伊藤月子から離れる。
 唾液でベトベトになったペニス。熱く潤った瞳をした彼女。それらが、バニーの性欲を駆り立てる。

「――アッ」

 突き飛ばされるように、伊藤月子は押し倒された。そして脚を大きく開かされ、びっしょりと濡れた下着がずらされる。

「なんていやらしい……それに、オンナの匂いがする」
「見ちゃ、やだ……」
「そうやって顔をそむける姿もたまらないわ……
 認めたくないけど、私はもう、月子ちゃんに夢中。すっかり本気になっちゃった」

 バニーが伊藤月子に触れる。

(早く、早く挿れて……!)

 二人の間を邪魔するものはない。もはや伊藤月子は思考でさえバニーを求めていた。

「可愛い顔。すごく欲しがってる。
 ほら、召し上がれ」


 ずいっ


「あっ、あっ!」

 先端が入った。そこから、押し分けるように入っていく。

「アア、大きっ……ああああ!」
「ン……! こんな、こんなぴったりくる子、初めて……!」

 そして、すべてが入った。滾る肉棒が身体の中に埋まったことで、伊藤月子はとてつもない熱さを感じていた。

「ふふ、入ったぁ……さすがにきつい、かな。ねえ、どうかしら?」
「ひゃんっ」
「ねえ、彼氏くんとどちらがいーい?」

 服の上からその慎ましい胸を撫でる。快楽を得るというよりも伊藤月子を焦らすように腰をゆるゆると動かす。

「そ、それは……」
「ほぉら、どっち?」
「あっ、アアアアっ!」

 一瞬、激しく動いたかと思うと、すぐにバニーは動きを止めた。

「ど、どうして……」
「答えてくれたら続けてあげる」
「ウゥ……」
「ほら、素直になりなさい」

 バニーは顔を慎ましい胸に落とし、唇を押し当てる。
 ジュゥゥゥゥゥゥッ。鋭い音と共に肌が吸われ、キスマークがつけられる。
 何度も何度も繰り返され、無数の赤を残していく。さらにそれは首にまで及んだ。

「うふふ、私の印……アハッ、気分がいいわぁ」
「ウウ、ああぁ……!」
「切ないの? きゅんきゅん締めつけてくるよ? ああ、本当に、この身体は気持ちイイ……!
 ほら、早くっ。早く、どうしてほしいか言いなさい!」

 バニーからは余裕が消えていた。自分から求めるわけにはいかない。ここが、最後の正念場であった。



 ――伊藤月子の答えは一つだけだった。

 ほしい。
 もっと快楽がほしい。ペニスがほしい。狂うほどに快感を得たい。
 バニーに、蹂躙されてしまいたい。



 ――が。
 それ以上に。

 魔法を使用されても、薬を盛られても、偽りのペニスを刺されようとも。

       

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