Neetel Inside ニートノベル
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*   僕の塔                                *
*                                      *
*     出口近くの塔の主の部屋                      *
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「『もっと続けろ』。ゲームオーバーにはまだ早い」

 まるで独り言のように“命令”を行う神道陽太。その顔は怒りに満ちていた。

「また寝取られエンド……! なんで、なんでそうなるんだ……!」

 まるでスクリーンのように壁に映しだされた、クラゲに脳を弄られる伊藤月子の姿と彼女が見せられている幻覚。神道陽太はその内容が気に食わないようで、怒りに任せて床――いや、床に転がるそれを踏み締めた。

「ウッ……あう!」

 神道陽太の足元にいたのは、バニーの立川はるかだった。
 トレードマークであるウサミミはなく、レオタードやストッキングはボロボロ。かつて伊藤月子を魅了した肌は擦り傷で血がにじみ、豊満な胸は神道陽太の足で押し潰れていた。

「そもそもこの不愉快さはお前が原因なんだよ……! 僕は軽く苛めるように言っただけなのに、なんだってあんな……あんなことするんだよ!」
「グッ、アアアアッ!」
「この幻覚だって、なんで超能力で抵抗しないんだ……くそ、クソ!」

 まるで床のようにバニーの身体をグリグリと踏み締める神道陽太。
 バニーは苦しげに、しかしどこか楽しそうに神道陽太を見つめていた。

「……なんだよ、その目は」
「キミの大好きな月子ちゃん……案外、そういう性癖があるんじゃないの?」


 グシャ!


 砂の城を踏み潰したように、バニーは粉砕し死亡した。
 立川はるかに刺さった足を引き抜き、神道陽太は“命令”を行う。

「『立川はるか、生き返れ』」

 逆再生されるようにバニーは回復し、復活した。身体に大きな負担がかかっているのか、バニーの息はひどく荒い。

 神道陽太とバニーはこの殺害、死亡、そして復活を何度も繰り返していた。

「はぁ……お前は何度殺しても楽しくない……住む世界が違うからだろうね」
「よくわかんないけど……私は、ちょっとガッカリだわ……」
「ん? 何がだい? ……もっと月子と遊びたかった、とか言うんじゃないだろうね?」
「それも多少あるけど、私は、キミにガッカリ」
「僕に?」
「そうよ……最初はイイ男って思ったのに……蓋を開ければこんなつまんない男だなんて……恋人だったら、全部受け入れてあげ」
「『立川はるか、潰れて死ね』」


 ぐちゃっ


 もう何度だろう、バニーは真っ赤な床の染みとなり、死亡した。
 神道陽太にはもはや、復活させる優しさは残っていなかった。

「『立川はるかにバッドエンドを与えろ』」



【立川はるか(バニー)――バッドエンド:脱出失敗】



「多少は気分も晴れたかな。さて……それはそれとして」

 怒りで歪んでいた顔に笑顔を浮かべ、神道陽太は壁に歩み寄る。

「ずっと黙ったままだけど、そろそろ反応してほしいなぁ。せっかく生き返らせてあげたんだから」

 そこにあるのは壁だけではなかった。あのとき、たしかに首締めによって殺されていた塔の主が立って――いや、大きな杭で両手を突き刺され、無理やり立たされていた。
 無残にも白いスーツは切り裂かれていて、スレンダーな身体、シルクのような肌、形の良い乳房が晒されている。

 どれだけ待っても返事がない、塔の主は黙ったまま。やれやれ、と言わんばかりに、神道陽太はその身体に触れる。
 指は艶かしい胸の曲線を沿い、膨らみを押し潰し、頂点をコリコリと引っ掻く。そのまま下がって脇腹。かすかに塔の主の身体が震える。そこからゆっくりと、焦らすように上昇して頬に到達。手のひらを当てたまま、親指で唇を何度もなぞる。

「……っ!」

 顔を振って抵抗を試みるが、神道陽太が逃がすはずがない。手はしっかりと拘束し、執拗に塔の主の唇を責め続ける。
 しかしその表情は、先ほどまでの機嫌の悪さを差し引いても、明らかに不満気だった。

「はぁぁぁ……キミでも楽しくない。まあ、似たような存在だしね。しかたないか」

 重い重いため息。塔の主の顔にもそれがかかる。

「……なに、あれ?」

 指が離れたところを見計らい、塔の主は神道陽太に投げかけた。

「ん? ようやく口を開いたと思ったら何を……」
「“命令”……お前の“命令”は、いったい、なに?」

 塔の主は、自分の“命令”と神道陽太の“命令”に大きな差があることに気づいていた。
“命令”によって対象を殺すことは自分でもできる。だが復活させることなんて不可能。そして何よりも、『塔のシステムである巻き戻りや結末を何者かに“命令”する』なんて、もはや理解の範疇外だった。

「はっきり言えば、性能の差だよ」

 ぐりぐりと唇を押し当てる親指に力が込められていく。次第に唇をこじ開けていき、唾液で濡れ始める。

「キミの“命令”は対象に働きかける……言ってしまえば脳に直接作用する。もう禁止しちゃったから使えないけどね。
 僕のは、基本的に制約は変わらない。対象がはっきりしている場合はその名前と、ある程度近づく必要があるけれど……
 でも、大きな違いは抽象的なことにも“命令”ができる。僕はね、僕やキミや月子の、いや、数々の世界の神様に“命令”ができるんだ」
「神様……ングッ」
「そう、神様さ。ちょっとわかりづらいかな?」

 思わずつぶやいてしまった瞬間、神道陽太の指がするりと口内に侵入した。
 暴れるわけではない。しかし異物が入ったことで吐き気を催してしまう。
 塔の主の目には涙が溜り、それは溢れて頬を伝って落ちていく。そんな嗜虐心をくすぐられそうな様子の塔の主にも、神道陽太はにこりともしない。

       

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