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* 僕の塔 *
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* 最後に待ち受ける者(3回目) *
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あらゆる超能力を使用できる登場人物、伊藤月子。
シナリオライターに“命令”ができるストーリーテラー、神道陽太。
仮に、お互いが殺意を持って敵対した場合、どちらに軍配が上がるのか――それは考えるに容易い。
ほぼ間違いなく、伊藤月子の勝利である。
神道陽太が勝利するには、伊藤月子に気づかれずに接近し、不意打ちで“命令”しなければならない。そう、チャンスはこの一点にしか存在しない。その好機を逃してしまうと、たちまち神道陽太に勝ち目はなくなってしまう。
接近戦はまず無謀である。神道陽太は一言も発せずに念動力で八つ裂きとなる。そもそも、透視や遠視が可能な超能力者には接近することさえ不可能である。
しかも伊藤月子は並外れた超能力者である。ほんの少し意識を向けるだけで遠く離れた神道陽太の首を斬り飛ばせてしまう。それは鍵のかかっていないドアを開けるぐらいに簡単なことだった。
しかしこれは仮定である。最初に述べた通り、お互いが敵意を持って対峙した場合の話しである。
「うう……ああぁ……」
伊藤月子は、階段を降りてすぐのところで泣き崩れていた。
二度も神道陽太に殺されているにもかかわらず、彼女の心は人のまま。鬼になることができなかった。
「ああア……うわぁぁぁぁぁぁんっ」
殺せない。彼女は彼を殺すことができなかった。
許せない気持ちは当然ある。憎いし、恨めしい、そして悲しい。だが恋人であることには違いない。
もう、伊藤月子は動けなかった。
殺せない。
塔から脱出することができない。
伊藤月子は詰んでいた。
誰がどう見ても、また彼女自身もそう思っていた。
その声が聞こえるまでは。
“――月子”
頭の中に響いた。
この感覚はテレパシー。気づかないうちにテレパシーを使用していたようで、誰かの声が頭の中に響いていた。
“月子、返事をして、月子……!”
“誰……? 聞こえてるよ、誰なの?”
伊藤月子も自分の“声”を発信し、相手に呼びかける。
“やっと気づいてくれた……良かった、本当に良かった……”
テレパシーによる会話。距離が離れているのかノイズが走って聞き取りづらいところもあったが、それでも会話に支障はなさそうだった。
“ああ、可哀想に……つらかっただろうね……ごめん。月子は何も悪くない……”
“私のことよりも、あなたは? あなたはいったい、誰?”
聞き覚えのある声。けれど、どうやっても思い出せない。温かくて優しいその声は、ずいぶん前に聞いたような気がした。
その相手は答えた。
“ボクだよ。ほら……一番最初にお話しをした、塔の主だよ”