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* ボクの塔 *
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* 最上階の暖かい部屋 *
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「んっ……ふぁぁ、ふあああっ」
大きなベッドに埋まるように眠っていた伊藤月子は、大きく、甘ったるい声のあくびをして目を覚ました。
シルクのパジャマ、パリっと糊のきいたシーツにふかふかの毛布。どれもが心地良く、いつまでも眠っていたいとさえ思ってしまう。
この光景には見覚えがあった。
あの部屋だ。ここは塔の一番上にある部屋。探索はここから始まったのだ。
けれど1つだけ違う。
声が聞こえない。
あの子の“声”が聞こえなかった。
伊藤月子は遠視を使い、1階のフロアに観た。
前のときと比べ、疲労感は少しもない。
(陽くん……残してくれてたんだ、記憶と、体力を……)
最後の“命令”の意味がわかり、伊藤月子はじわりと感動してしまう。
遠視で隅から隅までフロアを探し、ようやく部屋を見つける。
そこで眠っている女性の姿。顔を見るのは初めてだったが、この女性こそが塔の主で、助けてくれた恩人で、ずっと会いたかった相手だとわかった。
伊藤月子はベッドから降り、宝箱に入っているワンピースに着替え、部屋から出た。
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全盛期ほどではないとはいえ、ほどほどに超能力が使用できる伊藤月子にとって、この塔はあまりに簡単だった。
伊藤月子は一度も巻き戻ることなく、1階の塔の主が眠る部屋の前にいた。
この部屋に来るまでの途中、出口はあった。鍵はかかっておらず、押しさえすれば簡単に開くようだったが、それでも伊藤月子はこの部屋に向かった。
ノックをせずに扉を開く。眠っていることはわかっていた。
ベッドの中、穏やかな寝息を立てる塔の主。
ようやく会えた。感動のあまり、伊藤月子の手が震えてしまう。
起こさないように近づき、そっと頭を撫でる。
そうして塔の主の目が覚めるまで撫で続けた。
「ンッ……え……?」
しばらくして、塔の主は目を覚ました。
すぐそばに想いを寄せ続けた相手がいる。そのことに塔の主は驚きを隠せない。
「おはよう。気分はどう?」
「つ、月子……どうして?」
「起こしたらいけないと思って、こっそり来ちゃった。
……気分は、どう?」
塔の主は言葉を詰まらせる。
言いたいことが山ほどあったのだろう。思考が追いつかず、喉をつっかえ、口をぱくぱく動かすしかできなかった。
「ゆっくりでいいよ。落ち着いて」
「あっ……あああ……」
その言葉に、塔の主はぼろぼろと涙をこぼした。
「ボク……すごく怖い夢を見ていた気がする……思い出せないけど……う、うう……」
そんな塔の主を、伊藤月子は抱き締めた。
「思い出さなくていいよ……いっぱい泣いてもいいよ。落ち着くまで、ずっとこうしているからさ」
塔の主は伊藤月子の腕の中で、泣き続けた。
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「……落ち着いた?」
「うん……ありがとう」
「ここに来るまでの間ね、たくさん休憩室あったね」
「え、ああ、うん……」
「おいしいお菓子たくさん置いててくれたね。可愛い服もたくさんあったね。ありがとう」「……! ……知ってるの?」
「もちろん。お菓子、全部おいしかった。手作りだよね? お菓子も、服も」
「うん、全部手作りだよ」
「やっぱり。すごく嬉しかったよ……たくさん服があったけど、このワンピースが一番好き。だって、初めてもらったものだから……」
「……月子」
塔の主は伊藤月子を抱き締める。
伊藤月子もそれを抱き返した。
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「んっ……」
伊藤月子は目を覚ました。
もう見慣れてしまった天井。この部屋で過ごすようになって何日経ったことだろう。
シーツの感触を肌に通しながら、もぞもぞとベッドから抜け出す。そしてベッドの外に脱ぎ捨てられたワンピースを念動力で引き寄せ、着る。
ベッドに戻り、塔の主の身体を揺らす。
「起きて……朝、だよ」
「……んんん、ふぁ……あ、わあああっ」
塔の主は顔を赤くして埋まる。
こうなってしまうとなかなか出てこない。いい加減慣れてほしい、こちらはもうとっくに見慣れたのに……伊藤月子はため息をつく。
「服、そこにあるからね」
「う、うん……」
いつの間にこんな関係になったのだろう。気がつけば惹かれて、肌を重ねてしまっている。
しかし後悔はなかった。恋人とは違った感情が、塔の主に対してあったのだ。
けれど、それも今日で終わる。
ずっと決めていた、この塔から出ていく日。それが、今日だったのだ。
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二人の前にある扉。外へと繋がる唯一の扉が、音もなく、静かに開いた。
太陽の光が差し込み、草原が一面に広がっている。風もとても心地よい。
「じゃあ、行くね」
「……うん」
伊藤月子は塔の主に背中を向け、歩く。
その背後からひしひしと、塔の主の悲しみが伝わってきた。
あと一歩踏み出せば、脱出となる。
その寸前で、伊藤月子は立ち止まった。
「…………」
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* 塔から脱出する *
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* 塔から脱出しない *
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