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* 塔から脱出する *
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* 塔から脱出しない *
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* ―>塔の主といっしょに脱出する *
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「ほら、行こうよ」
「え……?」
手を差し出す伊藤月子。その意味がわからず、塔の主は動けなくなってしまう。
「いっしょに出ようって言ってるの」
「何で……?」
「私が、いっしょに出たいの」
しかし塔の主の表情は暗い。
伊藤月子は覚えていないようだったが、塔の主は“1つ前”の――神道陽太に危害を加え、伊藤月子を洗脳していたときのことを覚えていた。
どれだけ伊藤月子と親密な関係になろうとも、そこに申し訳なさがあったのだ。
だが、先ほど述べたとおり伊藤月子は“1つ前”のことなんて覚えていない。そんな伊藤月子にとって大事なことは、この今、この瞬間なのだ。
「もー、ウダウダしない! ほら、ほらほらほら!」
手をひっつかみ、さらに超能力を使ってぐいぐいと引っ張る。
抵抗していた塔の主だが、
その力に負けて、
外へ、
出た。
二人が外に出ると、塔の扉が閉まった。
きっと、もう開かない。伊藤月子、そして塔の主もそう感じた。
「つ、つきこぉ……」
「え、ええっ?」
「うれしぃ、うれしいよぉ……」
あれだけ深く、重く思い悩んでいたことをあっさりと崩されたからだろう、塔の主はまるで子供のように泣きじゃくっていた。
「もう、泣かないで。ほら、行こうよ」
「うん……!」
「目的とかないけど、それでいい? まー、そのうち見つかるよね」
二人は手を繋ぎ、歩み出す。
そんな二人の後ろで、扉が閉じた塔は変わらず静かに佇んでいた。
【伊藤月子(超能力者)・塔の主(ストーリーテラー)――トゥルーエンド:共に脱出】