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▲ ◆現在のステータス ▲
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▲ ◇立川はるか ▲
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▲ 【敗戦国の姫 レベル24】 ▲
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▲ 戦士の剣技 レベル13 ▲
▲ 魔法使いの魔法 レベル11 ▲
▲ 学者の知識 レベル8 ▲
▲ 盗賊の身体能力 レベル10 ▲
▲ バニーガールの魅力 レベル4 ▲
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▲ ◇浅田浩二 ▲
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▲ 【ガンマン レベル13】 ▲
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▲ 精密射撃 レベル12 ▲
▲ 速射 レベル10 ▲
▲ 弾薬製造 レベル10 ▲
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▲ ※状態異常 ▲
▲ 自己嫌悪 ▲
▲ 軽度の精神破綻 ▲
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並んで探索を始めてどれぐらいの時間が経っただろう。実際はそれほど経過していないのかもしれないが、立川はるかには数十時間のように体感していた。
最初の自己紹介からずっと、会話がない。ここでモンスターにでも遭遇すれば、多少のコミュニケーションツールとして利用できるのだろうが、そんな機会もない。
立川はるかは、とにかく沈黙の耐性がない。
「…………」
ちらちらと横目でうかがうが、浅田浩二はそれに気づかない。
あえて説明しておくと、立川はるかと浅田浩二は『面識がない』。
立川はるかにとって浅田浩二は貴重な戦力、仲間であり、そして伊藤月子という心の拠り所の代用である。
浅田浩二にとって立川はるかは、他人。それ以上の認識はない。
お互いがこんな感じなので、わざわざコミュニケーションをとることもなさそうなのだが、なぜだか立川はるかはは浅田浩二のことが気になっていた。
何でもいいので会話がしたかった。
「あのぉ、浅田さん」
「……なに?」
「今日はいいお天気ですね」
「外、見えないけど。キミは超能力者なのか?」
(おや、ウィットに富んだ返事だ)
てっきり無視されると思っていたが意外と良い反応。
言葉のキャッチボールができる限り、立川はるかに黙るという選択はない。
「えっとえっと、すごいねー、そのライフル。私はよくわからへんねんけど、装弾数っていくつなん? さっきは景気良く撃ってたみたいやけど」
「原理はわからないけど、これは特殊なライフルで無制限らしい」
「無制限! ほえー、すごいなー。ちょっと触らせてっ」
「嫌」
(そりゃそうか……戦士の剣みたいなもんやしな……
でもええなー、ライフル。魔法使わずに遠距離攻撃ができるんやもんなー)
「なんやねん、ケチっ。あ、そーだ、私の短剣貸してあげるからっ」
「…………」
返事はない。相手にするのが面倒になったのかもしれない。
(あかん、これは典型的なコミュ障や……なんか盛り上がれそうな話題ないかなぁ)
あれこれ考えるものの、会ったばかりの相手にそうそう話題は見つからない。
再び二人の間に沈黙が流れる――と思われたが、それは思いもかけないことで破られる。
「あの」
浅田浩二が、口を開いたのだ。
「な、なぁに!?」
(話しかけられた! なんや、なんやなんや!)
ありえないと思っていた立川はるかは、短剣を落としてしまうほどに驚いた。震える手で、それを広い、これまた震える口で返事をする。
「どう、どうしたんや!?」
「……危ないですよ」
「なにがぁ!?」
「胸と脚。はだけそうですよ」
その言葉で、立川はるかははたと我に返る。
今まで伊藤月子、つまりずっと同性といた。なので着衣の乱れなんて気にする必要がなかったのだ。だが目の前の相手は違う。知らない男、異性なのだ。
ゴッ
立川はるかは盗賊(レベル10)の身体能力でぶん殴り、胸元を手で覆う。
浅田浩二は言葉なくうずくまった。
「見んなや変態!」
「忠告しただけなのに……」
「うん、ありがとうな! でもそれとこれとは別やし!」
感謝らしくない感謝。そしてその後は回復魔法を唱える立川はるかがいた。
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立川はるかの過度なボディランゲージが緩和剤となったのか、二人はそこそこに打ち解け始めていた。
最初こそ反応の悪かった浅田浩二もちゃんと返事をするようになっていた(まだ自分から話しを振ることはしていない)。
「へー、浅田くんって人を探してるんやぁ」
「うん。と言っても、名前も顔もわからないけど」
「なにそれ。運命の人でも探してるん?」
「うん、たぶん」
よくもまあ、そんな恥ずかしいことを真顔で言えるものだ。質問した立川はるかの顔がほんのり赤くなってしまう。
その様子に浅田浩二は慌てて訂正する。
「あー、そうじゃなくって……なんていうか……うん、『救世主』、そんな人を探しているんだ」
「……世界でも救うん?」
「そんな大それたものじゃないよ。僕を救ってくれる人、かな」
「よーわからんなー……」
ライフルを装備している男を助ける存在。どれだけ人間離れした超人なんだろうかと考えたが、おそらく物理的なものではなく、精神的なものなのだろう……と、立川はるかは想像した。
もともと立川はるかは気がいい、人が良い。もし自分の力が及ぶのなら、もし自分が『救世主』とやらになれるのなら、と考えるのはごく自然なものだった。
「アサダくん」
その名前を呼び、すぅっと深呼吸し、息を吐き。
「ここから脱出したら……見つかるといいね、『救世主』」
けれど、また目の前の彼は、立川はるかにとってそこまで大きな存在というわけでもなかった。
これが二人の距離感だった。
二人の相性は実に良かった。温存したい立川はるかは浅田浩二の射撃の援護を受けながら特攻する。一方、浅田浩二も近接戦闘に不安があり、それが解消された形となった。
時間が経つにつれ、二人は親密になっていく。考えてもみれば、伊藤月子は常に出し抜くことしか頭になかったのだ、お互いが任せ合って探索を進めれば自ずと仲が深まるに決っている。
立川はるかが伊藤月子のことを忘れかかったころ、一際広い部屋の前にいた。ここまで歩いた距離とフロアの広さから推測するに、ここは最奥。つまりお馴染みの、出口近辺の広い部屋だ。
「あ、はーるかちゃーん」
入ると早々に甲高い声。そこにはすでに伊藤月子がいた。
ようやく伊藤月子の思い出し、怪我もなく元気そのものな様子に胸を撫で下ろす。
(んん? それにしても変だなぁ……私たちは、あれだけモンスターに遭遇したっていうのに)
伊藤月子は素手である。体術の心得もないと聞いている。
たまたまモンスターに遭遇しなかっただけ? しかしそれは不自然すぎる。
(変、何か変だけど……うーん)
「あれ、あれれ? その人は?」
立川はるかは怪しみ始めたことをテレパシーで察知し、伊藤月子は無理やり意識をそらす。
深刻に悩んでいたわけでもなかったので、真実に近づきつつあった疑いはたったそれだけで霧散してしまった。
「えっと、途中であった旅の人、アサダくんです。見ての通りのガンマンです」
「浅田浩二です。ガンマンです」
「ど、どうもどうもー、伊藤月子ですー」
妙にギクシャクする伊藤月子を、二人は「なんか変だな」ぐらいの目で見る。
道化を演じる自分が恥ずかしくてしかたない伊藤月子だったが、どうにか疑いが晴れたことにほっと一安心。
『皆さま、お静かに願います』
突然、部屋中に響いた声。三人は身構える。
『規定時間をオーバーしました。定員には達してませんが、ここで締め切りとします。
この場にいない方々は、この時点でゲームオーバーとさせていただきます』
二人が入ってきた扉が乱暴に閉められた。
どうやらぎりぎりの到着だったらしい。
『無事に到着された皆さま、まずは探索パート、クリアです。おめでとうございます。心からお祝い申し上げます』
(あんまり感情こもってへんなぁ……
……『まずは探索パート』?)
『さっそくですが、次は脱出パートのルールを説明させていただきます』
『このフロアから降りることのできる人数は2人以下です。
降りることのができなかったプレーヤーは、先ほどと同じくゲームオーバー、つまり、脱出不可能となります。
手段、方法は問いません。規定人数になるように、他プレーヤーを行動不能にさせてください。
それでは、スタート』
ゴッ
立川はるかは崩れ落ちるように倒れた。後頭部からはねっとりとした血が流れ、髪を赤く濡らした。
床に倒れる立川はるかはぴくりとも動かない。おそらく何が起きたかかもわからなかったことだろう。
唯一の第三者、伊藤月子はたしかに見ていた。
開始の合図と共に、浅田浩二は手に持っていたライフルを振り上げ、後ろから立川はるかをぶん殴ったのだ。
浅田浩二の表情は、とても冷たい。
「はるかちゃん!」
「動くな」
駆け寄ろうとしたが、銃口を向けられ動けなくなってしまう(実際のところ、伊藤月子にとってこんな脅しはまったく無意味であったが、ここからの展開が気になったので流れに身を任せることにした)。
「どう、して?」
流血したまま、ゆっくりと起き上がろうとする立川はるか。レベルアップしていたことで頑丈になっていたのだろう、視点は定まっていなかったが軽傷のようだった。
「どうしてって、さっきのルールは聞いてなかったのか?」
「もちろん聞いてたよ……でも」
ドシャッ!
追い打ちのように殴り、顔面を床に叩きつける。鼻が折れたのかぼたぼたと血をこぼし、無残な様子だった。
「ルールの抜け道を探す、とか? 無理無理、どこにも穴はなかったし。
だから、手近にいたキミを攻撃すればいいかなぁと思ったんだ」
立川はるかは、短い時間とはいえ共に探索したことで、浅田浩二とはそれなりに親密になれたと思っていた。
しかし浅田浩二にはそんな感情は一切なく、近くにいたからぶん殴った、もしかしたら殺すかもしれない、ぐらいのものだった。
つまり、浅田浩二は立川はるかに微塵も心を許さなかった。
「うう、ううぅ……」
「運が悪かったんだよ、キミがすぐそばにいたもんだから。しょうがないよね、諦めてくれよ」
(茶番だなぁ……)
飽き始めていた伊藤月子は、この茶番の終わらせ方を考えていた。
二人の関係がどうであれ、生殺与奪は伊藤月子が握っていると言っても過言ではない。どちらを生かすかなんてとっくに決まっていた。
だが変に動いては怪しまれてしまう。あとに疑念を残さず、それでいて綺麗に幕を下ろす方法でないといけない。
そんな伊藤月子をよそに、茶番は進行していく。
「立川さん。僕は『救世主』を探していると言ったけれど、誰にだって『救世主』の可能性があるのかなと思っているんだ」
「…………」
(……?)
伊藤月子には、何の話しをしているのかわからない。唯一理解できそうな立川はるかは再び身体を起こそうとするが、手が震えて思うように動けない。
「僕は今まで『救世主』に会ったことはない。だって、みんな僕を裏切って去って行くんだ。そう、誰も『救世主』じゃなかった。
立川さん。僕はいつも通りに、キミが『救世主』なんじゃないのかなって期待していたんだ。
でも、結果がこれだ。ルールの都合上、キミたちどちらかは『救世主』じゃないことが確定した。
だから、どちらかを殺す。
……うん、キミだ、立川はるか。キミを殺す」
「アサダくん。キミは、悲しい人だ」
「なに?」
背を向けたまま、立川はるかはぽつり、ぽつりと続ける。
「裏切ったとか、違うとか、いつも通りに、とか。そんなの、アサダくんが勝手に思い込んでるだけだよ。それは単なる我儘だ。自分勝手で、まるで子供だよ」
「……何だと?」
「どうせ大したこともない、しょうもない口喧嘩で裏切られた、とか言ってるんじゃないの? バカらしい。
アサダくん。キミはずっと逃げているんだね。多くの人が自然にぶつかって解決して、そこから強くなっていく……そんな当たり前のことを、すべてを放り出して逃げ続けているんだ。
だからアサダくんは弱いままだ」
「うるさい、黙れよ!」
伊藤月子に向けていた銃口を立川はるかに突きつけた。
ごつんと、後頭部に当たる銃口。それでも立川はるかは止まらない。
「そうやって脅して、あるいは拗ねて、人から遠ざかっていたんだね……別に呆れているわけじゃないよ? ただ、可哀想だなぁって思ってるだけ」
「間違いない……お前は『救世主』じゃない」
「うん。私は違う。アサダくんが望んでいるような、すべてを受け入れてくる甘い人、にはなれない。
喧嘩もして、距離をとって、仲直りして、それで絆を深め合っていく人こそが、そんな人たちが、『救世主』なんだよ?
アサダくんは、どれだけの『救世主』を突き放してきたの?」
「うるさい、違う、違う違う! お前の言うことは、違う!
……もういい、お前はここで殺す、それであそこにいるヤツを降りていくよ、『救世主』かもしれないからな」
トリガーにかかった指に力がこもる。
怒りで震えた指は、何のためらいもなく引かれる、
はずだった。
「……このまま殺しても、この怒りは収まりそうにないな」
「ひゃっ!」
四つん這いになっていた立川はるかの下半身、お尻をライフルで撫でた。
「可愛い声、出すじゃないか。お前処女だろ、どうせ。
それで死ぬというのは哀れだよなぁ」
立川はるかの腰に合わせるように、膝をついて中腰となる浅田浩二。そのままドレスをまくり上げると、そこには水色の下着。
「ウソ、ヤ、やだっ!」
「ガタガタ言うなよ。いいだろ、どうせ死ぬんだからっ」
震える腕、焦る気持ちで興奮したペニスを抜き出し、ずらした下着から見える秘部にあてがう。
立川はるかは恐怖で呼吸が止まり、体温さえ失ったかのように錯覚する。だが大事なところに当たる異物が現実であるということを認識させた。
「本能的に危険を感じたら濡れるって聞くけど……本当なんだな」
「やめて、お願い……いやぁぁぁっ!」
「やめるわけ、ないだろ!」
ずるっ
「ひ、い゛!」
【立川はるかは非処女になりました】