Neetel Inside 文芸新都
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「話変わっけど、あいつどうなったの?」
ふと思いつき正直は言う。
「世の中には無数のあいつがいるのに。」
当然磨理は理解していない。正直は思い出すように目を上に向け、頭を掻く。
「あれだ、陸空海。雪山で遭難してたって奴。磨理が救助したって。」
「あーあれは無事だったねー。」
磨理は大して興味もなさそうに言う。実際あまり興味がなかった。
正直はその様子を見て少し驚く。二人は学生時代、付き合っているのではないかと噂をされるほど仲が良かったからだ。結局本人達の口からは何も聞けずに終わったのだが。
「なんだお前。心配してたんじゃないのか。」
「友達だもの、心配はしてたよ。けどさ…」
磨理は自分の左手にあったコップの水を氷ごと口に含む。氷を乱暴に砕き口の中を綺麗にすると、さらに続ける。
「救助されて早々言ったことが病院には連れて行くなってどういうこと?こっちは命賭けて救助して身を案じて病院を薦めてるのに。救助してあんな態度取られたんじゃ仕事の遣り甲斐ってものもないったらないよ。触ろうとしても振り払われたし。もーなんなのったらなんだっての。」
コップを握る手に力が入る。そして自分を落ちつけるように水を飲み、氷を砕いた。そのままコップを勢いよく置こうとしたが、置く瞬間に思いとどまりそっと置いた。
それを見て正直が笑い、なだめる。
「まあ、あいつにも事情があったんじゃないか?前からそうだったじゃないか。出来る限り自己解決しようとする。それがあいつ。」
「それもそうなんだけど。何年の付き合いだと思ってんの。ちょっとくらい頼ってくれたっていいと思う。」
磨理は納得がいかないが、落ち着いてはいた。
頬杖をつきふと外を見る。外は暗く、車が忙しなく飛び交っていた。
正直も頬杖をつき、外を見る。
「諦めろ。あそこまで成長したら人間早々変わんねえよ。よっぽどのことがない限りはな。」
「遭難したことはよっぽどじゃないと。」
「…あいつにとってはそうなんだろうな。」
互いに外を見たまま話す。外の光景は変わらず、車が飛び交っていた。
両者なにも考えず、途方に暮れていた。非常に無意義な時間であることは分かっていたが、なんとなくそうしていたかったのである。

       

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