Neetel Inside 文芸新都
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 男の周りは相変わらずざわついているが、男はまるで聞いてはいない。
 真に集中すれば、人はあらゆる情報を遮断することができる。本を読んでいる時、勉強をする時、外部がやかましくて集中出来ないという人は集中が足りないか、不健康であるかどちらかだ、というのが男の持論である。
 (今一度眼を開けてみるか。いや、まだ早いだろう。集中力はまだ十分残っているし、精神的にも余裕だ。眠気もない。ゆっくり時間が経つのを待つとするか。落ち着けばいいだけだ)
 誰に対して言っているわけでもなくそう思った。
 顎に手を当て、今日のプランを脳内で再生する。出来るだけ時間をかけて流す。と、目的地まで半分のところで集中が途切れた。肩を叩かれたのだ。自慢の集中力も外部からの衝撃という情報には弱い。
 俺もまだまだかと思いながら振り返り、何者か確認すると、同期の友人であることが分かった。友人は夕飯に誘おうとしているのか、これからの予定を聞いている。最低限の情報だけを友人に伝え、誘いを断る。
 友人は残念そうな顔をし、世間話を始めた。男は適当に相槌を打ち、友人が去った後、時計の方に眼をやる。
 四時五十九分。秒針は「5」を指している。
 会話したことで少々体力をくったが、時間潰しになった友人に心の中で感謝をしつつ、部長の方に椅子ごと身体を向ける。秒針は「8」と「9」の間を指している。
 鞄と袋を持って立ち上がり、部長のいるデスクへと向かった。自分の椅子から部長のデスクまで、歩行速度を計算した上で五時ちょうどになるように歩く。イメージトレーニングは散々した男に抜かりはないつもりであった。
 五時になり、社内に定時連絡の音楽が響く。
 部長に向かって帰宅することを告げる。
 「定時ぴったりに俺のところに来るなんて、そんなに疲れてたか。今週は良く働いてくれたからな。無理せずゆっくり休むと良いよ。お疲れ様。」
 気さくな部長である。良い人ではあるのだが、人付き合いが苦手な男にとっては少々苦手なタイプであった。今回に関してはその性格が吉となった。

       

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