Neetel Inside 文芸新都
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 男は部長に礼をして、同期達に会釈をするとそそくさと部屋から出た。
 エレベーターのボタンを押す。押してから男は上を見て、現在のエレベーターの場所を確認する。自分の階に近いことに安心し、エレベーターが来るのを待つ。
 ここでもし階段を下りることになったら、余計な体力は使うことになる。今日はついていると男は思った。
 エレベーターが到着し、慌てずに乗り込む。中はそれなりに人員が多い。すぐに今押されている階を見る。一階までいくつかのランプが点灯しているが、予想の範疇である。何も問題ない。
 一階に近付いてくる。人が入れ替える姿を見るたびに早くしろと男は思った。足をパタつかせてしまった自分を叱る。
 (いかんな。やはり考えるのと実際に感じるのでは違うな。けどこの人達には全く罪は無い。普段通りの日常を過ごしているだけだもんな。こんなところでキレたりしたら、それこそ狂人扱いされても文句が言えない。それよりも立ち位置だが、ふむ、真ん中か。可もなく不可もない)
 そんなことを考えている内に目的の階に近づいていた。
 チャイムが鳴り、一階に着く。男は背後から身体で押され、前のめりになりながらエレベーターを出た。若干の苛立ちを覚えたが、気にしている場合ではない。社外に出てからが本番である。早足で出入口まで向かい、脳内に目的地までの最短ルートを浮かび上げる。そうして外に出て、近くの信号まで走った。
 鞄からコンビニ袋に入れられたスニーカーを出す。社内では原則革靴であるが、外に出ればこっちのものである。それでも恰好はスーツであり、お世辞にも走ることに向いているとは言えない。
 信号が赤になる。素早く袋からスニーカーを出し、履き替え、革靴を袋に入れて鞄にねじ込む。
 信号が変わるまで軽く準備体操をする。万が一の準備は怠らない。
 信号が青になる。男は自分のスタミナ、途中の信号が変わるタイミングを計算して走りだした。

       

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Neetsha