Neetel Inside 文芸新都
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 大通りの風景はいつも通り、自分と同じスーツ姿で携帯電話に向かって生き生きと話す人、友人と笑いながら歩いている学生、買い物に向かって談笑している親子、様々であった。
 その中にスーツ姿で走る男。ただ一つだけの目標に向かって集中し、走り続ける男。周りの人もちらりとその姿を見る。
 (なぜ俺を見る。スーツ姿ってだけでそれ以外はただ走っている一般人じゃないか。走っているせいか集中もし辛いな)
 男は注目されることに慣れていなかった。周りの目を気にしてしまい、集中力が削がれる。気のせいか聞き慣れている街の音が大きく聞こえてくる。
(クソ、余計なことを考えるな。自慢の集中力はどうした。次のルートを考えることに集中しろ)
 再び集中する。右に曲がり、細道に入る。突然人が来ても安全なように、大回りして入っていく。減速はしない。
 人は来なかった。細道であり、この時間帯にしては珍しく人がほとんど見当たらなかった。このルートを直進することで大幅なタイム縮小に繋がることを男は知っていた。
 とことんまでついていることに走りながら笑いそうになる。脇目に看板のようなものが見えたような気がしたが、気にせず走った。
 左に曲がった瞬間眼を見開き、急停止する。
 眼前に広がるのは黄色いヘルメットを着け、青い作業着を着て下水道に入っている作業員の姿。歩道には看板があった。
 『工事中 ご迷惑をお掛けしております ご協力をお願い致します』
 男は看板に書かれている文字を見て、呆然とし、立ち尽くした。
 その姿を見ていたのか、作業員の一人が男に向かって言葉を発した。
 「あんれあんちゃんどったのそんな立ち尽くしちゃって。わりんだけどここは昨日から工事中なんだよ。ほんとごめんねえ。迂回して頂戴ね。」
 作業員は一通り話すと、自分の作業に戻っていった。
 (なんということだ。俺が腹を痛めている間に…これは…これこそ陰謀、策略…。いや、まだ大丈夫だ)
 すぐに気持ちを切り替え、新しいルートを構築する。一先ず大通りに出ることにした。多少の時間はかかるが、大通りから細道に出るルートはまだある。
 男は踵を返し、走った。

       

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