Neetel Inside ニートノベル
表紙

誰の声も無の向こう
ある朝、目覚めたらゾンビの世界だった

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 窓の外を見るとゾンビがウロウロしていた。朝日にやられてくれるかと思ったのだがそうそう上手くはいかなかったらしい。俺は仕方なしに忍び込んだ民家で見つけた拳銃をため息まじりに握り直した。弾丸のストックはそれほどない。どこかで補充しなければ。
 玄関から外に出る。ゾンビに見つからないように移動。
 まったく心臓が跳ね回りそうだ。緊張で頬が火照る。
 どこかで仲間を見つけないと参ってしまいそう。だが学校の連中は果たして生きているだろうか? 昨日分かれたきりだが……生きていて欲しい、心の底からそう思った。
 ゾンビたちはこのあたりにはそれほど数が多くないらしい。俺は比較的安全に学校そばまでいけた。とりあえず学校を奪取すれば人間の生き残りも集めやすい。
 時々出くわすゾンビどもを発砲しながら俺は先へ進んだ。 
 と、知っている顔を見かけた。同じクラスの上条だ。俺は上条に近づいた。
「上条」
「うわっ。びっくりした。なんだ遠坂か」
「おまえも生きてたんだな」
「なんとかね」
 上条は肩をすくめてみせた。
「朝起きたらこんなことになっちまってて……どうしたらいいやら」
「とりあえず仲間を集めようぜ」
「そうだな」
「学校へいくか?」
「とりあえず、それが一番いいな」
 俺たちは連れ立って歩き始めた。
「なにか武器はないのか」
 俺は上条に聞いてみた。
 上条はため息をつく。
「包丁ぐらいしかないよ。それも危ないから持ってこなかった」
「じゃあてぶらか」
「いや、こんなこともあろうかと鍛えておいたヌンチャクがある」
 上条はぶんぶんとヌンチャクを振り回した。
「すごいな。映画俳優みたいだ」
「見てろ。この技でゾンビどもをやっつけてやるから」
 頼もしい。が、交換してくれなどと言われては困るので、俺の拳銃のことは黙っていた。
「なんでこんなことになっちまったんだろう」
 ぽつりと俺が言うと上条が答える。
「さあな。でもこれだけはいえるぜ。死に物狂いにならなければ生き残れない……ってな」
「そうだな……」
「先はながい。気長にいこうぜ」
「ああ」
 俺たちは校庭を突っ切って校舎に入った。
 中は荒れ放題になっていた。誰かが暴れたようにものが散らかっている。
 俺たちは足でゴミを蹴飛ばしながら奥へ進んだ。
「ゾンビどもがいやしないだろうな」
「気配がない。大丈夫だろう。ひょっとした人間の生き残りたちがやっつけてくれたのかも」
「だといいがな」
 俺と上条は階段をのぼった。
「焦げ臭いにおいがするな」
「あっ。あそこが火事になってるぜ。消火しねえと」
「そうだな」
 俺と上条は消火ホースを引っ張ってきて火を消した。
「ふう。いったいなんで火なんかついたんだ」
「やっぱり誰かいるのかな」
「かもしれない」
 と上条が言った時、甲高い悲鳴があった。
「なんだ!?」
「いこう!」
 俺たちは駆け出した。悲鳴は上の階からだ。
 三階につくと、女子生徒が数匹のゾンビと向かい合っていた。
「こ、こないで!」
「うぐぁー」
 ゾンビたちが言うことを聞くはずもない。
「くっ……こんなことになるなんて……私のせいだわ……」
「大丈夫か!?」
 俺たちが駆け寄ると女子生徒が申し訳なさそうな顔をした。
「生きている人がいたのね。ごめんなさい……すべて私のせいなの」
「なんだって!?」
 女子生徒が腕を振るうと、ゾンビたちが悲鳴とともに燃え始めた。
「私はこう見えて魔術師なの。不死の研究の途中で、ゾンビたちを生み出してしまって……」
「君のせいだったのか……」
「ええ、だからあなたたちだけでも逃げて! この町は私が責任を持って焼き尽くすから」
「そんなことさせるわけないだろ! 乗りかかった船だ、俺たちも戦うぜ」
「君たち……!」
 少女はほっと息をついた。
「ありがとう。実はそう言ってもらうのを待っていたの」
「そうだったのか」
「いいわ、あなたたちに私の魔力を分け与える。それでゾンビたちと戦って!」
 少女が俺たちに手をかざすと、ぽう、と光が出て俺たちを包み込んだ。
 力がみなぎる。
「すげえ、これが魔力か」
「生き返ったような気分だ」
「あまり使いすぎないようにね。人間には過ぎたチカラよ」
 少女がうつむく。その横顔には俺たちの想像もできないような苦悩が秘められているようだった。
「大丈夫さ、力を合わせればきっとなんとかなる」
「そうだぜ、頑張ろうぜ!」
「君たち……!」
 俺たちはそこで固く握手を握り合った。
「私の名前は倉井まどか。まどかでいいわ」
「俺は遠坂」
「俺は上条」
「遠坂くんに上条くんね。わかった。一緒に力を合わせて頑張りましょう!」
 その時、悲鳴が上がった。
「いけない! 生きている人だわ。助けないと」
「下からだ! いこう!」
「おう!」
 俺たちは脱兎のごとく階段を駆け下りた。
 校庭で、男子と女子がゾンビに囲まれ、むさぼり喰われていた。
「ファイア・バレット!」
 まどかが叫んで、ゾンビたちが燃えた。喰われていた男女も同じ運命をたどった。
 その亡骸にすがりついて、まどかは泣いた。俺たちは何も言えなかった。
「この事態はなんとか収拾をつけないといけないわ。まずは、警察に向かいましょう。そこで武器を集めるのよ。魔力には限りがあるから」
「わかった」
 俺たちはそこを後にしようとした。
 あの時、背中を向けたことを俺は今でも後悔している。
 生き残っていたゾンビの一匹が上条に噛み付きかかった。
「ぐあーっ」
「上条ーっ!」
「お、俺のことはいい」
 上条がゾンビに抵抗しながら言った。
「先に言ってくれ。そして終わらせてくれ、この悪夢……を……」
「上条ーっ!」
 俺は涙をのんで、上条を見殺しにした。なんてことだ……こんなことになるなんて。
「ごめんなさい、私のせいだわ。私が不死の研究なんてしていたから……」
「悪いのはまどかじゃないさ。こんなことになってしまう世の中が悪いんだ」
「そうね……」
「とにかく上条の死は無駄にできない。一刻も早くなんとかしよう。そのためには、まず警察だ」
「まって! 地上からだと遠回りになるわ。地下からいきましょう」
「地下って、マンホールの下?」
「そう」
 言って、まどかはマンホールのフタを魔法で持ち上げた。俺たちはその下に降りた。
「うえ、くさそう……あれ、綺麗だな」
「ゾンビたちのせいね。ゾンビは水を浄化できるのよ」
「そ、そうなのか。イメージ違うなあ」
「ゾンビに触れたものは汚れをあの腐った身体にろ過されてしまうの……そんなことはいいわ、早く行きましょう。警察はこっちよ」
 俺たちは歩き始めた。
「こんなことになってしまって、本当に残念。できればあなたとは、もっと違った形で出会いたかった……」
「俺もだよ……まどか」
「遠坂くん……いいえ、たけし……」
 俺たちは下水道の路肩の上で、身を寄せ合い、口付けをした……その後ろに迫る死霊よりももっと恐ろしいものの影にも気ずかずに……




     







「たけしくん、なにか気配を感じない?」
「奇遇だねまどか、俺もそう思っていたところだ」
「確かめましょう」
「そうだな」
 俺たちは同時にバッと振り返った。するとそこには、地下水路を埋め尽くすほどの巨大な影。
 タコだった。
 何本もある触手をうねうねとくねらせ、緑色の目玉で俺たちのことを睥睨している。笑っているように見えるのは俺の気のせいだろうか?
「くっ……私のマナを吸って海洋生物が大変なことになっているようだわ」
「ちくしょう、これでも喰らえ!」
 俺は拳銃を取り出してバンバン撃った。バケモノは世にも恐ろしい悲鳴を上げてのたうち回る。
「まどかも援護してくれ!」
「ごめんなさい、さっきの疲労が残っていて今は無理なの……」
「くっ、恨むぜ神様さんよ!」
 俺はたどたどしいながらも素早い手つきで拳銃の装填を終えた。
「いい加減にくたばりやがれ!」
 ダンダンダン!
 バケモノに弾丸が当たるたびにぶしゅっと血煙が上がる。
「タフなやつだぜ、まだ死なない」
「たけしくんっ、もう少し頑張ってみて、もう少しで私のマナも回復するよ」
「わかったぜ」
 そう思ったのだが、
「うわっ」
 タコの触手が俺の足に絡みついた。俺は持ち上げられて宙吊りにされてしまう。
 まどかが可愛い顔を歪めて泣き叫んだ。
「たけしくん、たけっ、たけしくーんっ!!」
「まどかあああああああああああああ!!!」
 俺は叫んだ。こんなところで死ぬわけにはいかない。まどかを残しては……
 だがいくら言ってもバケモノに通じるはずもない。俺はこんなときのために用意していたコンバットナイフを取り出して投げてみたが、刺さりもせずに跳ね返されてナイフは水路に落ちてしまった。
「くっ、ここまでか……」
「いやっ、諦めないで! そうだ、私のあげたマナがあるじゃない!」
「そういえばそうだったな、忘れてたぜ。唸れ、火炎の雷よ!」
 俺の呪文詠唱でバケモノの脳天に炎の雷が落ちた。だがバケモノはやはりビクともしない。
「やはりここまでか……」
 俺は目をつむった。これまでの十七年間の記憶がフラッシュバックする。父さん母さん、地域のみんな……俺のこと忘れないでくれよな。そして取り戻してくれ、あの平和だった羅君市を……
「じゃあな、まどか」
「たけしくん、駄目よ! あなたは死なせはしないわ!」
 まどかは両手を握って目をつむった。その目から一筋の涙が落ちる。

 ぽたーん……

 その時、奇跡が起こった。まどかの流した涙が通路を這って、バケモノを切り裂く刃と化した。俺は吹っ飛ばされて壁に激突する。
「ぐう」
「大丈夫、たけしくん!?」
「心配するな、おまえを残して死んだりしないさ」
「たけしくん……!」
 俺とまどかはひっしと抱き合った。まどかの豊かな胸が俺の胸板の向こうで潰れる感触がたまらなく愛おしい。
「さあ、いこうぜ。こんなところにもう用はないんだ」
「そうね。また変な怪物が出てきてもいけないし。先を急ぎましょう」
「ああ」
 俺たちは振り返らずにその場をあとにした。
「ここだわ」
 まどかが上を示す。鉄のハシゴがくっついていた。その向こうはマンホールになっているのだろう、よく見えない。
「この上が警察署なのか?」
「そうよ。頭の中の地図と照らし合わせたから間違いないわ」
「まどかが言うならそうなんだろうが……」
「どうしたの?」
「もしマンホールを開けて外へ出たらゾンビの大群……だったらどうする?」
「いやっ!」
 まどかが俺を突き飛ばした。俺はばしゃんと水路に落ちる。
「どうしてそんなこと言うの!? 悲しいことはもうたくさん……!!」
「まどか……すまん、悪気はなかったんだ。ただ場を明るくしようとして……」
「暗くなったわ」
「許してくれ、まどか。愛ゆえなんだ」
「そう……愛なら仕方ないわね」
 俺とまどかは上を見上げた。
「いくしかないわ。逝ってしまった上条くんたちのためにも……」
「ああ……俺たちは取り戻すんだ。この町の平和を!」
 俺が先にハシゴに手をかけ、昇り始めた。まどかが後に続く。
 マンホールのふたを開けて、外へ出てみると……


「うごくなっ!」


 ジャキッ、と大勢の人間が拳銃を俺たちに向けていた。
 やれやれ、これはハードな展開になりそうだぜ、と俺はため息をついた。



     






 俺とまどかは武装した男たちに包囲された。大勢いる。三十人はいたろうか。彼らは一人残らず対空ライフルを俺たちに向けて照準していた。目が殺気を帯びている。本気なのだ。彼らは本気で、俺たちを撃つ気なのだ。俺は震えた。
「貴様ら、何者だ」
「じゅ、銃をおろしてくれ、俺たちは敵じゃない」
 男の一人が鼻で笑った。
「信用できない」
 俺は自分の身体をぺたぺたさわった。
「ゾンビじゃないだろ、どう見ても俺らは」
「ふむ……」
 男たちは銃を下ろした。納得してくれたようだ。
「すまなかったな、気が立っていたもので」
「気にするなよ」
「早速だが君たちにも我々の舞台に参加してもらう。いいな」
 俺はびっくりして飛び上がった。
「なんでそんな! 俺たちは助けを求めにきたのに……」
 男が苦虫を噛み潰したような顔になる。
「つべこべ言うな、戦争なんだ、これは」
 俺とまどかは銃器を手渡され、使い方を教えられた。渋々だったが、生き残る可能性が少しでも上がるのならば無闇に拒否はできない。
「俺たち、どうなるんだろうな」
「いまは彼らに従いましょう……」
「そうだな」
 そのとき、けたたましいブザーが鳴った。
「なんだ!?」
「敵だ! であえ、であえーっ!」
 俺たちは対空ライフルを持って表へ出た。
 するとそこにいたのは・・・
「ど、ドラゴン!?」
 ぎゃおおおおおおおす、とけたたましく叫びを上げるのは竜の死体だった。ドラゴンゾンビだ。そいつがしもべのゾンビたちを引き連れて警察署の前を通りかかっていた。
「くっ、もうこんなところに」
「あれはなんなんですか!?」
「見てわかるだろ、敵さ」
 男たちが次々にライフルを撃っては反動に耐え切れず転がっていく。
 俺とまどかも頷きあってライフルをドラゴンめがけて撃った。
 どおおん!!
 激しい音がして俺たちはひっくり返った。だがドラゴンには効いたらしい。敵は身体に大穴をあけてのたうちまわっていた。
「やったわ! 私たちの勝利よ!」
「いや待て、まだだ、まどか、まどかーっ!」
 勝利の雄叫びを上げて敵へ突進していくまどかを俺は止められなかった。
「おい、あの子、殺されちまうぞ!」
 横の男が叫ぶ。俺は目から溢れてくる涙をこらえきれなかった。
「仕方が無い・・・運命だったんだ」
「運命・・・そうか、運命・・・・これが・・・」
 俺と男たちはまどかの散るところをその目に焼き付けようとして、その場で最敬礼した。
 まどかがドラゴンのひづめに弾き飛ばされて宙を舞った。そのまま俺の隣に落下してぴくりとも動かなくなった。
「まどか・・・」
「うっ・・・ん・・」
 まどかは目を覚ました。
「たけしくん・・・? あれ。私・・・?」
「いいんだ。君はよくがんばった。もう、いいんだ」
「そう・・・」
 まどかはゆっくり目を閉じた。
「死んだのか?」
「呼吸はしてる。大丈夫だ」
「奇跡だな・・・あの距離から落ちて」
 俺は男にむかってウインクしてみせた。
「これもひとつの運命、ってことさ。さあ、いくぞ、ライフルの準備だ!」
「おう!!」
 俺たちは協力してライフルを装填しあい、ドラゴンに向かって射撃を続けた。次第にあなぼこになっていくドラゴン。ついには、横だおしになって動かなくなった。俺たちは勝利の雄叫びをあげた。
「勝ったんだ!!! おれたちは勝った!!!」
「ざまあみろドラゴンめ!!! 俺たちには武器がある、だから負けはしない!」
「ああ、そうさ。みんなで力をあわせてもっとたくさんの武器を集めればきっと平和な世の中を取り戻せる!」
 だが、俺たちの喜びは長くは続かなかった。
 ドラゴンの死体の中から、今度はわらわらと奇妙な寄生虫のようなものが這い出てきたからだ。緑色をしたそいつらは俊敏に俺たちに襲い掛かり、次々と仲間たちが散っていった。
「うわあああああ」
「たすけてええええ」
「いぎゃあああああ」
「みんな・・・すまない! くそっ、俺はなんて無力なんだ・・・!」
 自分の不甲斐なさに歯噛みしながら、俺はまどかを背負って、警察署をあとにした。背後から響き渡る絶叫の音を聴きながら、それでも俺はまどかのぬくもりだけを頼りに、生きていこう、生き抜こう、そう誓ったのだった。




     






 俺たちはゾンビから逃げていた。
「くそ、倒しても倒してもきりがないな」
「このままじゃジリ貧だわ。たけしくん、いったん病院へいきましょう」
「え、どうして」
「さっき怪我してしまったの」
「なんだって! どうして黙っていたんだ・・・」
「もし私がゾンビになっても愛してくれる?」
「そのときは俺もゾンビになっているだろうね」
「たけしってば・・・」
 照れるまどか。
「とにかくいきましょう。病院はここから南南西よ」
「あいあい・さー」
 俺たちは病院へついた。
「くぅ、アサルトライフルがもう弾切れだ!」
「鈍器にするのよ、たけし!」
「うおりゃーっ!」
 俺のアサルトライフル殺法がゾンビの頭部を粉々にした。
「なかなかいけるぜ、喰らえ鳳凰機工翼ーっ!」
「かっこいいわよ、たけし!」
「でも駄目だ、これ以上やると筋肉痛になってしまう」
「筋肉痛にきく薬もおいてあるといいのだけれど」
 俺たちはロビーに突入した。
「おーい! 誰かいないのかーっ!」
「だめね、誰もいないわ。あかりも消えてる」
「地下かもしれないな」
「見て! 階段があるわ。ご丁寧に弾薬まで・・・」
「罠かもしれないな」
「それでもいくしかないわ。このままでは私はゾンビに、あなたは筋肉痛になってしまう」
「くっそ、グリーンベレーだっていまどきこんなハードなミッションをプレーしないぜ・・・!」
 俺たちは階段をおりた。
「薬品くさいな・・・」
「倉庫があるわ。見て・・・筋肉柔軟剤と、ゾンビウイルスワクチンよ」
「まどかが魔術で作り出したウイルスのワクチンがもうあるなんて・・・」
「これは旧型なの。むかし、私と同じように神に挑んだ魔術師のせいで・・・そのことはいいわ、あなたが知るには早すぎる」
「とにかく、薬をお互い打とう」
「そうね」
 俺たちは薬を打った。
「ぐあああああああ」
「耐えて、耐えるのよたけし!」
「うぐうううううう」
 俺は立ち上がった。脂汗がしたたる。
「ひどい目にあったぜ・・・」
「つらかったね、たけし。もういいのよ。あなたの筋肉痛は誰にも分かってはもらえないかもしれない・・・それでもあなたにとってはつらいことだった。私だけは、それを知っているから」
「まどか・・・」
 万感の思いが去来する。俺たちは抱きしめあい、お互いの大切さを確かめ合った。
「いこう、まどか。ここもいつ崩落するか・・・・」
「そうね、古い病院だもの」
 倉庫を出るとゾンビと出くわした。
「くそっ、逃げろまどか、俺を見捨てて逃げろーっ!」
「そんなことできない……でもそれがあなたの意思を汲むことなのね・・・また会いましょうたけし。私、それが運命だって信じてる!」
 まどかが走り去っていった。俺は胸に痛みを覚える。すまないまどか、一人にしたりして・・・
 そのとき、背後にいたゾンビが俺の肩に噛み付いた。
「ぎゃあああああああ」
 俺の絶叫が病院にこだまする。
「はなせ、はなせよっ、くそーっ!」
「grrrrrrrr」
「俺はこんなところで死ぬわけには・・・まど・・・か・・・」
 意識が遠くなる。嘘だろ・・・
 そのとき、ふっと肩にかかっていた歯圧が消えた。
「な・・に・・」
 誰かが俺のそばに立って、俺を見下ろしている。
「ターゲット確認。遠坂たけし本人と思われる」
「き・・・みは・・・」
「私は長村由紀。由紀でいい」
「きみとはどこかで・・・・であったことがあるよう・・・な・・・・」
 俺はそのセリフをショートカットでメガネの女の子に最後まで言い切れずに、意識を失った・・・・





「はっ、ここは」
「気がついたようね」
「君は・・・由紀? 俺はいったい・・」
「ここは対ゾンビ特別対策本部。その基地よ」
「俺は・・・」
「安心して。抗体はもう打ってあるわ」
「俺のことはいい! まどかは、まどかはどこだ!」
 由紀は気の毒そうな顔をベッドにいる俺に向けた。
「あなたが言っているのはこの事件を引き起こした魔術師のことね」
「そうだ」
「残念ながら彼女は見つかっていない・・・そして見つけても保護するわけにはいかないわ」
「なっ・・・どうして!」
「彼女は罪を犯した・・・それは償わなければならないのよ」
「ふざけるな! 彼女は悪くない! 悪いのは世の中だ!」
「そうね、そのとおり・・・・あなたは正しい」
「畜生、俺は正しいのにどうして世の中はこんなにくそったれなんだ・・・」
「正義だけでは為せないこともあるわ。来て」
 俺は由紀に従って、ある格納庫のようなところに引き出された。
「ここは・・・?」
「説明するよりも見る方が早いわ」
 そういって、由紀は俺に書類を渡した。俺はそれを読んだ。
「なんだって、対ゾンビフルバースト用テクニカルアーム『アポカリプス・イエスタデイ』!? 俺にこれに乗れっていうのか!?」
「そうよ。あなたしかパイロットはいないわ」
「むちゃだ! 俺は、俺はただの高校生なんだ・・・授業を受けて帰る・・・ただそれだけの日常がいまはこんなにも愛おしい・・・俺はただの高校生なんだ!」
「それはできない・・・勝たなければね」
「畜生・・・」
「ゾンビのウイルスは魔術師が生み出したものだけれど、魔術師が調合するのに使ったDNAマップは、この地球のものではないの」
「嘘だろ・・・?」
「いいえ、嘘じゃない。聞いて。これからもっと多くのゾンビウイルスを持った宇宙人たちが襲ってくるわ。彼らは宣戦布告してきたの。彼らはこう名乗っている・・・『外宇宙から降り注ぎしもの』、と」
「そんな・・・そんなやつらと戦えっていうのか!? 無理だよ、できるわけねえよ!」
「やりなさい。それがあなたの運命なのよ」
「運命・・・またそれか」
「逃げられないわ」
「わかっているよ。乗るさ。誰かがやらなければならないんだからな」
「わかってくれて嬉しいわ。さ、急いで乗って。実戦はいつもなのよ」
 俺は走ってドックを横切り、鎮座している人型の白い機械、そのコックピットに飛び乗った。
「恨むぜ、神様さんよう!」
 いつものセリフを吐いて、スイッチを押し、マシンを機動させる。アポカリプス・イエスタデイ・・・直訳すると黙示録の昨日、か・・・
「これも運命だ・・・乗り手に不満があるかもしれないが頼んだぜ、相棒!」
 俺はアポカリプス昨日を機動させた。ぶうううううん、とモーターの回転する音が心地いい。やってやる、やってやるぜ!
「うおおおおおおお!!!!!!!」
 俺は体当たりで、格納庫を飛び出した。するとそこにはゾンビの大群が・・・・
「お前らみたいのがいるからーっ!!!!!!!」
 アポカリプス昨日が搭載された火器を総動員してゾンビどもを駆逐していく。
 だが、そんな俺に体当たりをしてきたやつがいた。
「ぐっ! 誰だ、いったい! ゾンビじゃないな!」
 見ると、そこにいたのは・・・・・



「も、もう一機のアポカリプス昨日・・・だって・・・!?」

 その機体は、黒く雄雄しく美しかった。

     





 もう一機のアポカリプスと俺は白熱した闘いを行った。弾丸と弾丸のぶつかり合いが廃墟と化した都市にこだまする・・・・
「くそー、負けられない、負けられないんだよ俺はーっ!!」
 どどどどどど
 ぱらららっぱららららら
 アポカリプスに備え付けられているマシンガンを連射する。
 黒いアポカリプスは俺の渾身の思いをこめた弾丸群を簡単に回避してしまう・・・
「どうして・・・・俺の弾丸が当たらないんだ! ぐあっ!!!!」
 敵のホーミングミサイルがこっちのわき腹に突き刺さって炸裂した。一瞬カメラが真っ白になる。
 俺は震える手でレバーを力強く握った。
 あらんかぎりに叫ぶ。
「くそーっ! 誰か俺に、俺に力をーっ!」
「諦めないで・・・」
「! その声はまどか! まどかなのか!?」
「あなたには秘められた力がある・・・・それを忘れないで」
「まどか・・・・わかった、俺は君を信じる!」
 俺はコックピットのど真ん中で叫んだ。
 レバーを通して俺の魔力が機体へと・・・・・流れ込む!!
「ロスト・エナジー・ドライブアウトぁーッ!!!!!!!!!!!」
 しゅわああああああああああ
 俺の力のすべてが機体に伝わった。
 いまではもう、俺こそが機体・・・・機体こそが俺!!!!
 俺こそが、アポカリプス・イエスタデイなんだ!!!!!!
「喰らえええええええええ!!!!」
 どどどどどどどど!!!
 俺の撃つ弾丸のことごとくが敵へホーミングした。これなら外しようがない。面白いように弾丸は次々と敵に当たっては跳弾していった。
 俺は握り拳を作る。
「どうだ、見たか! これが、これが俺とまどかの合わせた力だーっ!!!!」
 敵の装甲がばりばりと剥がれ落ちていく。応戦しかえしてくるも向こうの弾丸はすべてこちらの愛ゆえに弾かれる。
「へっ・・・終わったか」
 そう思って俺はレバーから手を放しかけたが、
「な・・・に・・・!」
 敵は片腕を失いながらも再び突っ込んできた。体当たりで俺は吹っ飛ばされる。
 背骨が砕けそうな衝撃を感じた。
「畜生、なんてタフなやろうだ!」
「grrrrrr」
「その声・・・まさかゾンビが乗っているのか!?」
「GUAAAAA!!!!!」
「うわああああああああーっ!!!!!!!!!!!!!」
 はちゃめちゃに暴れまくるゾンビに俺はもうなすすべがない。このまま負けてしまうのか・・・・だがそのとき奇跡が落ちた。揺るんでいた地盤が底抜けに落ちたのだ。俺と敵はもんどりうって地下へ流れ落ちた。
 駄目だ、相手の方が体勢を立て直すのが速い!!!!
「くそ、回避だ、回避しなければーっ!」
 どどどどっぱららららら
 敵の弾丸がゼロ距離で俺の機体を蜂の巣にする。
 俺はかはっと喀血した。
「こ、こんなはずじゃ・・・・」
「grrrrrrr」
「う、うわーっ! たすけて、たすけてーっ!」
 俺は目をつむった。
「そこまでだ!」
「!? だれ・・・・」
「よくがんばったな、遠坂!」
「その声は・・・・上条!」
「地獄の縁から蘇ったぜ! いくぞ遠坂、俺たちの熱い友情をこいつらに教えてやろうぜ!」
「ああ、赤ペンの添削つきでな!」
 俺と上条は力を合わせてマシンガンをぶっ放した。
 黒いアポカリプス昨日は機能を停止した・・・黒煙がゆらゆらと立ちのぼる。
「やったな」
「ああ、終わったんだ」
「それにしても生きているなんて・・・驚いたぜ」
「あれぐらいで死ねるかよ。ふっ、実はこいつに助けられてな・・・」
「こいつって・・・」
「この機体、ジャッジメントさ」
「そんな・・・・機械が人を助けるなんて・・・・」
「そういうこともあるってこと。さ、こんな薄暗いところにいないでさっさといこうぜ!」
「どこへ?」
「決まってるだろ、俺たちの明日へさ!」
「ああ……ああ、そうだな! 俺たちには明日がある!」
「いこうぜ遠坂! 戦いはまだ始まったばかりだ!」
 俺たちは雄叫びを上げて地下道を突っ走った。砂礫の欠片がモニターにぶつかって弾けていく。そんな風にたった今も地上では大勢の命が失われているのだろう・・・だが俺たちは負けない。この鋼鉄の相棒がいる限り!
 俺たちは、ゾンビにはならない!!




「完」

       

表紙

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