Neetel Inside ニートノベル
表紙

誰の声も無の向こう
ゾンビ道

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 ゾンビがまた溢れていた。俺はなんとかしなきゃと思った。鉄砲を持ってぱんぱんぱん。ゾンビが倒れていく。
 俺の拳銃に残った弾丸はあと五発。
 心もとない。寂しさと恐怖が襲い掛かってきた。でもそんなものは嘘だ。偽物だ。だから俺は怖くない。怖くなんてない。
 ゾンビに溢れた街を走る。
 そうだ、何も怖くない、そうだ、何も・・・・・・・
 出会い頭にゾンビと接近、膝を打ち抜き物理的に動けなくしてやる。俺は走った。近くにあるものはすべて投げた。コップとかフォークとかそういうものを投げながら走った。そうだ、もう何も怖くないのだ大切なものなどどこにもない。俺は弾丸を探して彷徨い歩く。それだけでいい生き物なのだった。もうほかに、行く場所もない、ああ。
 拳銃のグリップだけが安心感の苗床だった。
 俺はふらつきながら建物に逃げ込む。ゾンビの腐りかけた頭部を肘鉄で吹っ飛ばしたあとに念のため胸に弾丸をぶち込んで一息入れた。よくみるとそいつは警官の服装をしていた。俺はマガジンを頂戴した。弾丸復帰。
 頭痛がした。めまいもだ。なにか俺は大切なことをしていなければならないはずだったのに。畜生。どうしてこんなことに。だがいつか俺は回復する。そう、このゾンビ警官と出会って弾丸を回復させたように。弾丸はいつか回復するものなのだ。
 俺は家を調べてテンションを回復させ治療薬を手に入れあとにした。外にはゾンビがいっぱいだった。俺は車を盗んで走った。キーは挿しっぱなしだった。ゾンビどもを蹴散らしながら街をいく。ガラスをぶち破って邪魔なゾンビに弾丸をぶちこむ、ぶちこむ、ぶちこむ。
 大通りに出た。俺はドリフトさせて車をショーウィンドウに突っ込ませ大破させた。フロントバンパーから煙が上がる。俺はエアバッグから逃げるように外へ転がり出て忍び寄ってきていたゾンビどもに弾丸をぶち込んだ。這いずるように逃げているときに弾丸のパッケージを発見。掴み取った。弾丸回復。俺はマガジンに新しい息吹と死をぶち込んでゾンビどもにぶっ放した。どんどん弾丸が減っていく。ふらふらのゾンビの一匹を蹴り倒して突破する。息が上がる。
 俺は味方を探そうと思った。もう一人ぼっちはいやだった。誰か、誰か俺の助けになってくれるやつはいないだろうか。俺のためだけに動いてくれるようなやつが。ああ、畜生、いないのか、もうみんなゾンビなのか。俺の敵なのか。畜生、どうして、くそ、なんで。
 俺は銃のグリップでゾンビどもを破壊しながら先へ進んだ。寒かった。あたたかいところへいきたかった。ぬくぬくとしていて、ほかほかで、そしてなにも苦しまなくていいところ。そこへ死ぬ前にいきたかった。この街を出さえすれば。そうすればきっと。そうすればきっと。
 俺は走った。殴った。撃った。暴れた。逃げた。隠れた。呼吸を止めて、また吐いた。
 弾丸はどんどん目減りしていく。いろんな拳銃を集めた。小さなものや大きなもの。たくさん集めた。それで、それでどうにかしよう。俺は銃で体が重くなっていた。が、仕方ない、銃なんだから。俺は身を守るのだ。そのためにはちょっと我慢くらいしないと駄目なのだ。そうだ、我慢すれば、俺が我慢すれば。
 いやだ。
 俺はもうなにもかもいやになった。俺は大通りに飛び出して奇声を上げながら手持ちの銃を乱射した。ゾンビどもが倒れていく。俺はすべての弾丸を撃ち尽くした。もうカラッケツだった。何もなかった。ただの鉄くずになった銃を最後のあがきで投げ捨ててもゾンビはいなくならなかった。ああ畜生、俺の闘いは無駄だった。何もかもが――そのとき、
 バラバラバラバラバラバラ
 ヘリの音が聞こえた。俺は上を見上げた。すると火炎放射機とロケットランチャーで俺の周囲のゾンビどもを蹴散らしながら何かの特殊部隊と思しき人間が俺に手を差し伸べてくれた。
「手を! こっちへ!」
 ああ、そうだ、俺はこの手を待っていた。その手を掴んで引っ張り上げてもらう。その人が俺の身体をぎゅっと抱きしめてくれた。女の人だった。マスクを取った彼女はまだ十七、八ぐらいの少女だった。長くて黒い髪と緑色の目が印象的な女の子だった。
「もう大丈夫、もういいんですよ」
「うっうっ」
「あなたはよく頑張った。もういいんです、もう無理しなくていいんです。ゆっくり休んで。後始末は私たちがしますから」
「ありがとう……」
「お礼は私が言いたいくらいです」
「え?」
「――生きていてくれて、ありがとう」
 その言葉ですべてが決壊した。俺は泣き叫びながらその少女に取りすがった。もう何も苦しまなくていいのだ。もう何も考えなくていい、もう何も、もうゾンビが俺の首筋に手をかけてくることはない、その牙に恐れ眠れぬ時間をべったりとしたその時間を過ごすことはないのだ、すべては終わった。俺は勝った。勝ったのだ。
 柔らかい手が俺の背中を撫でてくる。
「もういい、もういいんですよ――」
 ああ、その言葉を、このぬくもりを、
 何千年も待っていた気がする――



「完」

       

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