Neetel Inside 文芸新都
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         *

 ヘリが到着した時、既に視界から月は消えていた。
 いつのまにかヘリに収容され、エリが俺の頭を自分の胸に押し付け、号泣していた。

 アウラを喪ったのは、俺なのに。

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 その後、検査やら入院やらで予定は詰まっているが退屈な日々が過ぎてゆき、そんな中で少佐が見舞いに来て言うことには、あの子供たち五人は、俺が戻らないことを不審に思って投入した部隊が無事にキャンプへ連れ帰ったそうで、その件と連れ去られて戻った件をあわせて、更に降格を一階級減じて、結局のところ元の通りの階級に戻るそうなのだが『君の見解を借りて言うなら「兵器ひとつで子供五人の未来を拾えたのだから儲けもん」ということになるのかな』などとしれっと言うのだけれど、実はそれですら俺はウワノソラでしか受け取る気にはなれなくて。

 俺が喪ったのは、アウラなのに。

         *

 そして俺は除隊した。
 正確にいうならば、除隊させられた。
 誰に? エリに。
 本当はそれは言い訳で、除隊後の行き先の選択肢を増やす以上の影響力はなく。
 次の『アウラ』を『アウラ』と呼べる自信が無かった。
 あの二十四時間以外を『アウラ』と共有する違う個体を別の名前で呼ぶ自信も無かった。
 理由は? と訊くと、俺が作るフィッシュアンドチップスが子供の頃食べていたものより美味しいからだそうで、淑女であると自己主張すれば真意なんて伝えなくてもいいと思っているらしいことは理解できた。
 たぶん、本音を言うことに照れが残るだけだろうけど。

         *

 私室の荷物をまとめ、少佐に挨拶に向かった。
 少佐はなにやら騒動に巻き込まれているようで、記録装置のない執務室で小一時間状況を小出しに俺に伝える作業をしながら指示対応をしていた。
 要するに俺は愚痴られていたわけだが。
 理由を察するに、記録兵器用のデータ保存サーバが情緒不安定としか言いようのない不安定さでエラーを繰り返し、それに伴い記録作業の遅延が起こっているらしい。
 そんなこと俺に『原因は思い当たるか?』なんて問われても困るわけで。
 俺としては半ば投げやりに、
「記録兵器の福利厚生に力を入れたらどうですか」
 と冗談を言い残して退出してくるだけで既に疲れ果てていた。

       

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