Neetel Inside 文芸新都
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「アウラ、と呼んでいいかな」
 最初に私を包んだのは、そんな、声。

 AW-RA-1270-LDF。
 名前ではない、けど、私の一人称たる文字列。

 アウラ。
 それが私。
 その時、それが私の名前になった。私がそうなるために作られたかのように。

 そうなるために作られたかのように。
 そうなるように作られている私は、マスターに導かれ経験を重ねた。
 唇も重ねた。
 体も重ねた。
 そのたびに、マスターは色々な事を、色々な言葉を教えてくれた。
 そうして、私の世界は広がっていった。マスターの右後を中心にして。

 だけど。
 手が届く範囲は見えている世界よりも狭い。
 マスターが、あの人から聞いてきた言葉。
 そして、右後、マスターの邪魔にならない位置が私の場所。
 どれだけ世界が広がっても、その位置さえ約束されているならば、私は大丈夫。

 背中合わせに。
 マスターの呼吸と鼓動が規則正しく伝わる。
 そのどちらも、私は持ち合わせていない。

 持ち合わせていない。
 尻尾。
 気持ちを伝えるための。時に激しく。埃を巻き上げるほどに。

 重ねても重ねても、持ち合わせていないものばかり。

 だけど。

 もう文字列ではない。
 名前も、マスターの右後も、時間も。
 他のどの監視兵器よりも沢山の新しい言葉も。
 どれも、マスターからもらった物。私の。

 ふと、指が触れる。マスターの手に。私の手が。
 触れてもなお、もっと側に近づきたくて。それでも。
 自分の手をマスターの手の上に重ねるのは何か違う気がして。
 小指で数回、マスターの手のご機嫌を伺う。
 避ける反応が無いことに安心し、それから、私の手をマスターの手の下に滑り込ませる。
 私の手がマスターの手に包み込まれるように。


(special thanks:細胞ちゃん先生)

       

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