Neetel Inside 文芸新都
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ポンチ短編集
蘇生の章第十六話 黒き魔姫は残酷な選択に躊躇う バッドエンドルート

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海神の像を奪ったシーモンキーは、その力を悪用し強力な海の悪魔であるウォーターデーモンへと変貌を遂げた。しかし、シーモンキーの度重なる挑発に怒り心頭のカレニアによってウォーターデーモンは倒された。クリスたちは海神の像を取り戻し、現在台座の間へと向かうところであった。
「台座の間は何処かしら?リリシア、精霊の鏡で台座の間の場所を映し出して…。」
フィリスはリリシアの持つ精霊の鏡で台座の間の場所を映し出すように言った。リリシアは精霊の鏡を取り出し、鏡に強く魔力を念じた。
「鏡よ…海神の像がもとあった場所を映し出したまえ……。」
リリシアがそう言った瞬間、鏡には水に囲まれた祭壇のような場所が映し出される。どうやらその場所が海神の像が祀られていたところであった。鏡に場所が映し出された瞬間、精霊の鏡が光りだした。
 「えっ!?鏡が光りだしたわ!一体何が起こったの!?」
驚くのも無理は無い。リリシアが鏡に念じた場所から光の道が現れ始めたのだ。クリスたちはその光を辿り、一階へとやってきたが、光の道が続いていた。
「そうだわ!!この鏡の隠された能力…魔力でできた光の道で映し出した場所へと導いてくれるんだわ!精霊の鏡にまさかこんな能力が隠されていたとは知らなかったわ……。とりあえず、この光の道を辿っていけば、台座の間へとたどりつくわね。」
リリシアがそう言った後、クリスたちは光の道を辿り、台座の間へと向かっていった。

 一方海神の神殿の最奥の洞窟では、リヴェリアスが怒りの表情でそう呟いていた。
「シーモンキーが倒された……。おまけに海神の像も奪われた。どうやらこの神殿に侵入者がいるようだな。しかし私の臣下を一網打尽にするほどの力を持つ人間のようだな…。許せん!!マーマンよ、神殿に侵入した侵入者を生け捕りしてこの牢に閉じ込めておけ!!」
リヴェリアスが怒りの表情でそう言った後、臣下である水獣のひとつ、マーマンに侵入者を捕らえるべく、行動を開始しようとしたとき、リヴェリアスが呼び止める。
「待て。お前たちにこれを預かっておく。これは魔界に生息する『睡眠蝶』と呼ばれる虫から取った鱗粉で、その粉を吹きかけられた人間を深い眠りに誘う粉だ。侵入者を見つけたらこの粉を吹きかけるのだ!」
リヴェリアスが臣下であるマーマンたちに睡眠蝶の粉を持たせた後、マーマンたちが了承のサインを送った後、侵入者を探すため神殿内部へと向かっていった。
 「侵入者よ、我が臣下の力をなめるなよ…!!俺は眠るとしよう。怒りのあまり頭痛がしてきた。」
リヴェリアスは怒りの表情で、再び眠りについた…。

 クリスたちは光の道を辿り、台座の間へとやってきた。クリスは祭壇に海神の像を置いた瞬間、大きな揺れが発生したと共に、水没していたエルザディア諸島が元通りになった。
「何が起こったのかしら?大きく神殿…いやこの大陸自体が揺れたのですが、外で何かあったかもしれないわね…。とりあえずこの神殿の外に出ましょう!!」
カレニアがそう言ったあと、クリスたちは神殿の外に向かおうとした瞬間、リヴェリアスの臣下のマーマンが集団で台座の間に突入してきた。
 「侵入者発見!リヴェリアス様の命で、お前らを生け捕りにする!!」
マーマンは槍を構え、クリスたちを威嚇する。クリスは青銅のシミターを構え、マーマンを迎え撃つ態勢に入る。
「私たちはやらなければいけないことがあるのよっ!はやくそこを退きなさいっ!!」
クリスはシミターを握り締め、一気にマーマンに斬りかかる。するとマーマンの一人が粉のようなものをクリスに吹きかけた瞬間、クリスに深い睡魔が襲った。
「な…何のつもりなの…体の…力が抜けていく……。」
ドサッ――マーマンによって睡眠蝶の粉を吹きかけられたクリスは、その場に倒れ眠ってしまった。
 「粉を吹きかけられた瞬間、クリスが眠ってしまったわ。これはどういうことなのっ!!マーマンを倒す前に、クリスのシミターを取ってこなくちゃ!!」
カレニアがクリスのシミターを取ってきた後、リリシアが全員にそう言う。
「あの粉は魔界に生息する睡眠蝶の粉よ…。あの粉を浴びた者はたちまち眠ってしまうわ。カレニア、ひとつだけ言っておくわ。あの粉を鼻や口に入らないように気をつけて!」
リリシアがカレニアにアドバイスを送ると、カレニアがマーマンを迎え撃つ態勢に入る。カレニアは得意の炎の術で、次々とマーマンを倒していく。しかし何匹倒しても、マーマンの数が減る気配が無い。
「まったく!!何匹いるのかしら…。あの魚野郎、何匹倒してもきりが無いわ!ここは私の剣で…!?」
カレニアが鞘から剣を引き抜こうとした瞬間、彼女の後ろから回り込んだマーマンが睡眠蝶の粉を撒き散らしてきた。カレニアが深い眠りに包まれた後、フィリスとディオン、そしてリリシアも眠ってしまったのだ。全員が眠ったのを確認すると、マーマンは眠っているクリスたちを抱え始めた。
 「よし。これで全員だ。はやくリヴェリアスのところまで持っていくぞ!」
マーマンの集団は眠っているクリスたちを抱え、リヴェリアスのいる神殿の最奥へと向かっていった。

 マーマンの襲撃から数時間後、クリスは冷たい岩肌の上で目覚めた。
「ここは何処かしら?それより早くみんなを起こさなきゃ!!」
目覚めた瞬間、クリスたちは洞窟の牢に閉じ込められていた。一足先に目覚めたクリスは眠りについている仲間たちを起こそうとしたとき、リリシアの姿がいないのに気がついた。
「リリシアがいない…。私たちとはぐれたんだわ。しかしこの牢屋を抜けない限り、外に出れないわ…。」
クリスが悩んでいるとき、カレニアが目を覚まし、クリスにそう言う。
 「私たちは確か魚野郎に眠らされた後、この牢屋に捕まってしまったんだわ。私、みんなを起こしてくるわ!」
カレニアがそう言った後、クリスが口を開いた。
「カレニア…リリシアが何処にもいないのっ!!みんなを起こした後、ここから脱出するわよ。」
クリスがそう言った後、カレニアが眠っているディオンとフィリスを起こした後、カレニアが全員にそう言う。
 「みんな、リリシアが何処にもいないの!はやくこの牢屋を壊して神殿を探すわよ!」
カレニアがそう言った後、物陰から誰かが現れた。
「クックック…。リリシアのことか…?それなら私の近くにいる。侵入者の君たちの命は、リリシアの言葉一つで決まる。ひとつは、『侵入者を助ける代わりにリリシアが死ぬ。』もうひとつは『侵入者を殺す代わりにリリシアが生きる』だ。今リリシアにはどちらかを選ばなければならない避けられない選択を迫られているのだからね。まさか、七大魔王の裏切り者がリリシアだったとはね…。」
リヴェリアスがクリスたちにそう言った瞬間、クリスが冷静な表情で答える。
「私たちはリリシアの言葉を信じるわ。リリシアは私たちを裏切ったりしないわ。彼女は私たちと一緒に困難を乗り越えてきた仲間よっ!!」
クリスの言葉に、リリシアが悲しげな表情でそう言う。
 「クリス…私のことなんてもういい…。あなたたちだけでも生きてて欲しいの。分かって…くれるよね。」
リリシアのただならぬ表情に、クリスの表情が変わる。
「あなたを見捨てられるわけ無いじゃない!!唯一心を通い合わせることのできる仲間であるあなたを失ってしまったら、私どうしていいか…ぐすっ…。」
リリシアを失うということに、クリスの目から涙が流れる。クリスの表情を見たリリシアは、クリスのほうを向いて答える。
「ごめんね…みんなの命を救うためにはこうするしかなかったの。私の命があれば……みんなを救うことが出来る。短い間だったけど、あなたたちとはお別れね……。」
リリシアはただ苦しい現実に苦しんでいる中、リヴェリアスがクリスたちの前に来てそう言う。
 「君たちも決めなければならない。リリシアの死ぬ代わりに君たちが生きるか、君たちが死ぬ代わりにリリシアが生きるか、どちらかを…。リリシアよ、今一度仲間と話す時間をを与えよう。決意がついたらクリスたちの前に来てどちらかを決めるのだっ!!」
リヴェリアスの言葉に、リリシアがクリスたちの前に現れた。クリスはリリシアの苦しみをひとつでも和らげようと慰めの言葉を投げかける。
「リリシア……私は…あなたに生きてて欲しいのっ!!もちろん私たちと一緒にね。もしあなたが横道にそれることがあったら、私たちが全力で連れ戻すからっ!だから…もう自分を責めないで……。」
クリスの言葉に、リリシアは静かに首を縦にふった。クリスの言葉が、彼女の抱ええている苦しみを取り除きつつあった。
 「やっぱり…クリスは優しいね。あなたの言葉で、仲間の大切さ、そして絆の大切さを改めて実感することが出来た…。もう覚悟はきまったわ。クリスたちを助けて…私も生きる!」
クリスの慰めの言葉で、リリシアは苦しみから解放された。痺れを切らしたリヴェリアスが、リリシアに選択の答えを尋ねる。
「さぁリリシアよ!答えを聞かせてもらおう!!」
リヴェリアスがそう言った瞬間、リリシアが静かに口を開いた。

 「リヴェリアス様…覚悟はできております。私の命と引き換えに、クリスたちを助けてあげて……。」
リリシアがそう言った瞬間、リヴェリアスが笑いながらクリスたちのほうを向いた。
「いい言葉だ…。リリシアよ、お前の命と引き換えに仲間を救いたいと申すか…。しかし、裏切り者のお前の願いなど聞かぬ。残念だが仲間もろとも消えてもらおう。」
リヴェリアスがそういって手のひらをクリスたちに向けると、強大な闇の力が発生し、リリシアとクリスたちに向けて放たれた。
 「終わりだ…ディメンジョン・ダークホール!!」
強大な闇の力で出来たブラックホールが、リリシアとクリスたちを飲み込んだ。
「や…約束が…違う…わ!!リヴェ…。」
リリシアはその言葉を最後に、クリスたちと共に死ぬまでもとの世界へと戻れない闇の底へと引きずり込まれた。

クリスたちがいなくなった後、フェルスティアは残りの魔王と共に、支配されてしまい、恐怖の時代がやってきたのです。
その後の、クリスたちの行方を知るものは、誰もいません。

BADENDルート その① 終わり。

       

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