Neetel Inside ニートノベル
表紙

緑の剣士
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「おっと、大丈夫かアキナ?」
 そう言ってアキナの手を取る。
 アキナはコクリと頷き、笑顔を向けた。
 たくさんの汗を掻いてるみたいだが、別段疲れた様子は見せない。まぁ逆にそれが心配なのだが。
 いくら身体能力が高い、虎人でも女の子には変わりないわけだし。留守番してろと言えばすぐに泣きそうになるし。
「はぁー」
「うぅ、ごめんなさい」
 あーまた泣きそうになる。というか露骨にため息をした俺が悪いな、反省だ、反省。
「いやこっちのことだ。アキナは十分頑張ってくれてるし、その調子だったら大丈夫そうだな。魔法使い、あとどれくらいかかりそうだ?」
 俺は前にいる魔法使いに話しかけた。
「うーん、ぼくの見立てだと、あと1時間くらい?」
 魔法使いはそう言いながら足場が10cmない場所を崖に手をかけずに平然と歩く。まぁ俺も手をかけてないが、鍛え方が違うし。
「ちょっと気になってるんだが、お前のそれも魔法なのか?」
「うん? なにが?」
 そう言いながら魔法使いは一回転する。お前は平気そうだが目の前でそのようなことをされるとこちらの心臓に悪い。それに銀色の髪が当たって鬱陶しい。
「その平衡感覚だ」
「あーこれか……まぁ、ぼくのような転移魔法使いはその場の座標軸を無意識に計算しなきゃいけないからね、だからこれくらいお茶の子さいさいなのさ」
 なんだそりゃ? まぁ理屈はわからんがまぁ魔法の類じゃないってことはわかった。
「剣士くんのは魔法かい?」
「なにがだ?」
「へーこーかんかく」
「いろんな修行したからなー」
「ふーん」
 聞いておいてその態度はなんだ。まったく、あの魔法使いが考えていることなんて全くわからん。
「あとどれくらいで着きそうだ?」
「直線距離で14.2キロ」
 じゃあこの道のりで考えると倍くらいか。というか、いちいちよくわからん言い方をする奴だな。
「すぐにこの道も開けるから安心してよ、お嬢ちゃん?」
 そう言ってまたくるりと回転しながらアキナに微笑みかける。
 アキナもそれに気づき笑顔を向ける。
「さて、お喋りはそこまでだ。気を引き締めていくぞ。」
「わかりました」
「りょーかい」
細い崖道を魔法使いを仲間にすべく俺たちは一歩一歩前に進む。

     

「ここら辺で休憩しようか。もうちょっと歩けると思うけど休憩スペース的にはここが一番最適だからさ」
魔法使いはそう言いながら体を木にもたれさせる。まぁ確かにここら辺の地理に詳しい魔法使いが言うのだからその通りにした方がいいだろう。まだ、別段急ぎというわけでもないしな。
 たしかにここら辺は開けているし、野犬夜盗の類が来てもすぐに反応はできそうだな。
「じゃあここで休憩する、問題ないな?」
「わかりました」
と、アキナは笑顔を浮かべ、
「まぁぼくが勧めたとこだしね」
魔法使いは肩を竦めた。
「魔法使い――」
「火は出せないよ」
「…いや、そうじゃなくてだなここら辺に出る生物の情報を知りたい」
 つか、火は出せないのか。
「そっちかー。えっと、危険なのは出ないはずだよ」
「そうか。じゃあ俺は燃やせそうなものを探してくる。アキナと魔法使いは食事の準備を頼む」
「わかりました」
「あいさー」
「まぁ、何かあったら叫べばすぐに駆けつけるからな」
「おいおい、ぼくが危険なものは出ないって言っただろ、少しは信用してくれよ」
「念のためだ、夜盗が出るとも限らないしな」
「こんなところに夜盗が出るわけないじゃないですか。そもそもここら辺の領域はぼくの家系の管轄ですよ。一応じっちゃが言うには結界を張っているみたいだし」
「そうなのか、気づかなかったな。…うむ修行不足か」
「あー結界と言う言い方が悪かったね、鳴子みたいなものだよ、高位の術者じゃないとほぼ気づかれることがない類のってじっちゃが供述してた」
 供述って…。
「鳴子というのは、あの引っかかると音が鳴るという?」
 アキナはそう言いながら魔法使いに疑問を投げかける。つかそれ以外の鳴子は俺も知らん。
「そでだね。まぁ具体的なことは管轄外だからわかんないんだけどこの森全域に何者かが入るとわかるようになっているんだよ。その他にも、意識しないとこの森に入れないようにする物も複合させてるみたいだけど、ぼくにはよくわからないや」
 俺にもわからん。
「つまるところ、何かここに入ってきたらわかるってことだよ、君たちみたいにね」
「魔法って便利だな」
「使い方次第だけどね」
「その通りだ。つか魔法使いってのは火とか水とか雷を出す類の輩だと思ってたんだが案外地味なんだな」
「地味って言うな。まぁ出せるよ系統が合えばだけど。まぁうちの家系はほぼだめだね、うちは五大系統の魔法は使えない制約だし」
「制約って?」
「そう言う限定条件を付けることで魔法が強化されるのだよ。詳しいことはわからん」
魔法使いって全員頭が良いと思ってたが案外そうでもないのね。
「あの……」
「どうしたアキナ?」
「ごはんの準備できました」
「「……あ」」
どうやらかなり話し込んでたらしい。
「じゃあ、すぐ探してくるから待っててくれ」
「はい」
「まったくだめな人だねー」
「魔法使いお前がいうな」
「あっ、あっち側の方が結構落ちてると思うよ」
「おう、わかった」
「気を付けてねー」
「おう」
 後ろに手をひらひらさせながら森の奥に進んだ。
 後ろを振り返れば魔法使いが嫌な笑みを浮かべていたらしい。アキナからの後日談である。

     

「っしと、これくらいでいいか」
 とりあえずこれくらいあれば足りるだろう。集めた小枝をマントの中にしまう。確かに魔法使いが言った通りにここら辺には可燃物がたくさんあった。
「まぁ、少しくらいは感謝せんとな」
 空を見上げると既に赤から青に変わっていた。
 はやく戻らんとアキナが心配するな。
「そうと決まれば…っと」
 言いながら俺は来た道を戻る。
「?」
 そして、足を止めた。
「なんだありゃ?」
 来たときには、気づかなかった緑色の光が奥の方から垣間見える。
 なんだ、野党か? いや、野党はあんな光を出さない。同じ理由で獣も却下。
 となると、魔法生物か魔法使いになる。なんたってここは魔法使いの森なんだし。
 念のため確認はした方がいいよな。俺たちに危害を加える可能性もあるわけだし。
 俺は茂みの中を突き進むことにした。案外光が出ていた場所にはすぐに着いた
「ここか」
 光が強い方向に歩いて行くと洞窟があった。そして光は洞窟内から漏れ出している。
 これで魔法生物の可能性が高くなった。大穴で緑色に発行するキノコだな。
 スライム、キメラ、ゴーレム……ほかに魔法生物いったけ?
なんにせよ――
「――行けばわかるか」
そして、一歩を踏み出す。


『光視えしモノよ、即刻立ち去るがよい』


 悪寒が走る。踏み出した足に力を入れそのまま後方に飛び引いて腰に下げている剣を構える。
「何者だ、あんた」
『久方ぶりの来訪者だが、まだ時では無い。そして貴様でもないだろう』
「おい、俺の問いに――」
『二度は言わぬ、立ち去れ。我は貴様らに害は与えぬ』

 声から届くのは音より先に殺気。
 俺は数秒思考し構えを解いた。
「今はその忠告を素直に聞こう」
 そう言って俺はアキナたちの所に戻った。言葉は返ってこなかったが、代わりに殺気が消えた。
とりあえず、俺はその場を離れることにした。光見えなくなる場所まで決して目を逸らさずに。

     

「おい、魔法使い!!」
「お、その様子じゃ視えちゃった人ですか」
 魔法使いは半ば予想していたかのように俺に話しかける。
「なんだ、あれは聞いてないぞ」
「まぁ、言って無いしね。第一ぼくはぼくが見たものしか信用しないから、ばっちゃの話なんて眉唾くらいにしかとらえてないし、そもそも剣士くんが見たものが龍なのかさえ知らないし。まぁ龍だと思うけど、で剣士くんはいったい何をみたんだい?」
 そもそも危険じゃなかっただろ? と魔法使いはまるで台本を読むが如く、すらすらと話す。
 怒りの矛先が飄々としてるせいか怒るのもバカらしくなってくる。
「……姿は見てない。俺が見たのは光だけだ。アレはなんなんだ?」
「ふーん? あー立ち去れて言われて立ち去ってきた人か。ぼくは賢明な判断だと思うよ。これは剣士くんと冒険することになれば死ににくい旅ができそうだ」
そう言いながらくすくす笑う。
「ちゃかすな、魔法使い。なんなんだアレは、教えろ」
「はいはい。じゃあぼくが教えてあげましょう。って言っても……ぼくもあまり知らないし、あの場所に行かせるように言ったのばっちゃだし、こう言うのは帰ってからばっちゃに聞くのが一番だと思うけど」
「今は、お前が知ってることだけで構わん」
「あの?」
 そう言いながら、アキナは俺のマントを申し訳なさそうに掴んだ。
「アキナ? どうした?」
「その……そのお話、食事をしながらでもよろしいですか? その……」
 あーそりゃそうか、こんな険しいところは、アキナを連れては初めてか。それにアキナは弱音を吐かずに俺たちのペースについてきた。腹が減るのは当たり前だ。それに、気づかないとはまだまだだな俺も。
「あー、俺は腹が減った。魔法使い、話は飯を食いながらでいいか?」
「別にぼくは構わないよ。で、剣士くん手には何も持ってきてないようだけど、もしかして落として逃げてきたとか」
 と、若干苦笑気味に魔法使いは言う。
 まぁ若干腹は立つが実際あのような慌て具合をを見せてしまったあとだ。何を言っても裏目だろ。
 だから俺は無言でマントに手を突っ込み、次々と小枝やら枯葉を取り出した。
「おー、これは良いマントだね。第三世代? いや第二世代のものかも、ちょっとこれどこで見つけたのさ、ちょっと触って良い? 良いよね、うわー今時マントってと思ってたのに」
「うるさい、お前の話が終わった後にしてやるよ」
 そう言いながら、執拗に近づいてくる魔法使いを遠ざける。魔法の系統で興味があるだろうか?
「えー、ケチ」
「黙れ、アキナじゃあ頼んだぞ」
 アキナはコクリと頷きごはんの準備を始めた。
「剣士くんはなかなかいい人だね」
「…なんか言ったか」
「なにも、ぼくも手伝ってくるよ」
 そう言って魔法使いは小走りでアキナの隣に行った。
 俺は頭を掻きながらそれを見送った。

     

「まぁ、うちの一族ではあれは運命龍って呼ばれるものだね」
 魔法使いが一通り食べ終わった後、おもむろに話してきた。
「運命龍?」
「そう、これが視れるのは29、30日周期でね丁度ファーストムーンが満月になる時かな。そして視た者によって光の色が違うらしいよ」
ふーん。確かに今日は満月だ。
「で、見える光が違うってどういうことだ? 人種か? それとも男女で? ありそうなのは後者だが」
「いんや? オールランダムっていうのかな? まぁこれぞ運命龍って云われるが所以っていうか、なんて言うか」
「歯切れ悪いな」
「だって、ほとんど知らないからね。まぁ、ばっちゃが言うには見る人の運命によって違うんだってさ」
「ふーん」
「まぁ、光を視る……ばっちゃは認識するって言ってたけど、視えない人もいるんだって、つかぼくは見えないし」
「ほー」
「その反応は信じてないね? 剣士くんが話せって言ったんだろ? まぁぼくも信じてないから人のことは言えないけど」
「すまない、だがいきなり運命とか言われてもな?」
 とアキナに振る。
「私は…素敵で良いと思いますけど」
 と耳をピコピコさせながら答える。
 ちなみに食事中なのはアキナだけだ。と言うのもアキナは猫舌であり、最初の頃は隠そうとして頑張ってたのを見るのが楽しみだったな。まぁ最終的には可哀そうに思って言ってしまったわけだが、もったいないことをしたと食事をするたびに後悔の念に駆られる。
 まぁ、そんな話はさておきだ。
「そうか? 俺には理解できん」
「お嬢ちゃんはロマンチストだね。ぼくもみならわなきゃ。っと、視た色はなんだい? 赤? 黒?」
「なんで、決めつけてんだよ。緑だ、緑」
 そういった瞬間魔法使いの目は丸く見開かれ――
「へー」
 ――そして口元にいやらしい笑みを浮かべた。
「殴っていいか」
「おいおい、勘弁してくれよ。これは本当に意外だったんだ。なんせ君死にたがりに見えるし」
「あー」
 そう言うとアキナは同意したように頷く。いいから黙ってスープを飲んでいてくれ。
「で、緑はなんなんだよ」
「緑は平和、救済とかだね。…ね? だから驚いたんだよ、ほら剣士くんだって驚いてるじゃないか」
「あぁ一番俺には縁遠い言葉だなも」
 そう言うとアキナはクスリと笑みを浮かべスープの入った皿を膝の上に置く。
「そうですか? 少なくても私は救われましたし、今の聞いてやっぱりって思いましたが?」
「フフフ、なんだ剣士くんにピッタリじゃないか、じゃあぼくもこの鳥籠から救済してもらおうとしますか」
「あのな、俺はたまたまアキナを助けれる位置にいただけで、あの場に俺以外のやつがいたらそいつが先に手を伸ばしている」
「では、あの場にいたのがあなたでよかったです」
「なっっ……こほん。で魔法使い、赤と黒は何なんだ」
「話を逸らすなよ色男ー。……悪い冗談だから剣をしまえって。ごめん悪かった」
「で?」
「そんあことより、マントのこと話してくれよ、僕は結構話したと思うけど?」
「そうだな、このマントはだなとある遺跡で……」
 俺のくだらない昔話はサードムーンがちょうど頭上に来たあたりで切り上げた。

     

「あれですか?」
「あれだろうな」
「あれだよ」
 目の前に広がる大草原の真ん中に不自然に鎮座する人工物――ゴーレム。30メートル離れても肉眼で確認できる事からかなりの巨体だろう。
「流石にでかいな、魔法使い」
「じっちゃの自信作みたいだからね」
 あの、頑固者のじじぃ作か…。
「じゃあ、正確悪そうだなあれ」
「まぁ、ドラゴンと戦うために作られたシリーズの一つって言ってたから素材は最高級の物を使って造ってると思うな」
「ふむ」
あの手のゴーレム系とは何度か相手をしたことはあるが、ここまででかいのは初めてだしな。まぁドラゴンと戦うために造ったというのも頷けるな。
「アキナ! 魔法使い! お前たちは1キロは離れていろ。さすがにあの巨体だとここも危険だろ」
「うん? いいの、手伝わなくても?」
 魔法使いはそう言いながら首をかしげる。
「あぁ、大丈夫だ。それにあのじじぃお前の手は借りるなって言ってただろ」
「極力ね」
「同じことだろ」
「まぁ、ね」
 と言って魔法使いはアキナの手を取る。
「まぁぼくはここから出ていきたいから、全力で手伝いたいんだけど剣士くんがそう言うなら仕方ないや。アキナ行こうか」
 アキナは魔法使いの手を振り払う。
「?」
「アキナ?」
「私も……私もお手伝いします」
「アキナ、わがまま言うな」
「さすがにアレは一人じゃ無理です、無茶です、不可能です」
 そこまで言うかよ。
「わかってるでしょ? あの、娘大好きなおじいさんが手加減してくれるわけがありません、だから私も――」
「アキナ、お前は初めて遭ったとき言ったよな。もうこんなのはごめんだって、もう争いなんてやめて平和に暮らしたいって」
「……」
「だから、その夢を持つお前を戦わせたくないんだ。お前が俺の夢を手伝ってくれると言ったから……俺はお前の夢を守ってやる」
「しかし……」
「大丈夫だ、お前を救った剣士様はお前が思うほどやわじゃないさ、それとも俺を信頼できないのか?」
「いえ、信頼してます。でもそれ以上に……それ以上にっ――」
「あとな、別にこれを倒すために動くんじゃねーし、一時間耐久レースだろ」
 そう、魔法使いを仲間にする条件。それはあのゴーレムから1時間生き延びること。無論、一対一の戦闘での一時間なんて永遠にも等しい時間なのだが。
「一時間程度、その程度くらいでくたばるようじゃ俺は自分の夢を叶えることができねぇ」
「わかりました……ご武運を」
 そう言って、アキナは一礼して魔法使いの手を取る。
「…妬けるねー」
「ば――」
 魔法使いは俺の方を見てにやりと笑うとそう言った。そしてすぐさま消えた。俺の言葉は消える時の音にかき消された。まぁもとより一文字しか喋れなかったが。
「ったく、…そんなんじゃねーよ、あいつは」
 ゴーレムを見据え、一歩ずつ進む。
「さて、ここら一帯を瓦礫の山に変えてやるとするか」

       

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Neetsha