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福太郎の恋
福太郎の恋

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福太郎の恋                                                              ゆうたろう
                  作:ゆうたろう






「また手伝って貰えないかしら?」
「なんだ、またやる気か?久しぶりに再会したと思えばそれかよ・・
まだ俺たち執行猶予中なんだぜ。そういうの分かってんの?」
「だってしょうがないじゃない!生きていくにはお金はかかるし、今更私にどんな仕事しろって言うのよ・・」
俺自身も仕事に困っており彼女の言わんとしている事の大体は分かっていた。
要するに俺たちのような犯罪者を雇ってくれる所はないって事。
身元引受人になってくれた方の紹介で何カ所か働いてみたのだがどれもうまくいかなかつた。

「で今度は俺に誰を調べてほしい訳ですか?」

スミレがバッグから1枚の写真を取り出し俺の前へ差し出した。
写真の男は見るからに田舎者といった風貌だ。
身長は160センチないだろう。156センチってとこか?
まず髪は絶対洗ってないだろう。寝癖も酷いし
全体的なセンスがおかしい。
上は赤と白と緑色のチェックのシャツ。
下は赤と白の迷彩のカーゴパンツ。あきらかに1サイズ大きい。
靴は中学校なんかで指定されているジャガーの白い靴を履いている。
こんな奴見た事ない! 頭も悪そうだ。
俺のような男が同じ格好をしてもこうはならないだろう。
右手には紙袋を持っているのはポスターかカレンダーだろう。
オタクっていうんだろうな。こういう人の事。
それが俺のこいつの第一印象だ。

「写真の裏に名前と住所を書いておいたわ この坊やの事出来るだけ調べて欲しい」
「おいおい、こんな奴のどこに金があるんだよ?マジで言ってんのかよ?」
『お金じゃないのよ。そのうち分かるわ』
写真の裏には愛知県西加茂郡 三好町**ー**と書いてある。
『じゃ 頼んだわよ 期限は明後日まで』


『 おい!ちょっと 待てよ!スミレ』
それだけ言い終えるとスミレは飲んでいたグラスもそこそこにして出て行った。

     

俺の名前は加瀬。
昔スミレと一緒に詐欺で捕まった。
今は執行猶予中だし大人しくしてる今日仕事中に突然彼女から着信があってこの「BAR 響」に呼び出された。
最初電話があった時から嫌な予感はしていた。
また詐欺に加担するんじゃないかって…
でも、結局は電話越しのスミレに会いたいという気持ちには勝てなかった。
俺は今でも彼女のこと、いやスミレの事が好きだ。
スミレのことをもっと知りたい。
そして、また詐欺をするのであれば説得して辞めさせたい。

出所して暫くは大人しくしてたけど・・
またスミレに加担する事になった。
抵抗しようと思いつつも、いつのまにか向こうのペースにはまり依頼を引き受けてしまう。
たぶん、依頼を断れば彼女に会えなくなるからというのも理由ではある。
ともかく、写真の男について調べるか。


     

朝の光が窓から直接顔を照らす。
今、何時だ?
特に用事ないので時間は気にしてないのだが癖なのか起きたらつい時間を確認してしまう。

布団から出てタバコの一服でもするのだろうが、特に予定も無い身とあっては身動きは危険だからな~
なぜ危険かって?
知るかよ!
一旦起きたら夜までが長いから退屈になるというのが理由だろう。
朝も昼も暇つぶしになるようなテレビもないし

とはいえ腹が減った
確か冷蔵庫の上にどん兵衛があったはずだ!!
このまえスーパーで88円だったのでまとめ買いしたやつが後一つあるはずだ。


布団を蹴飛ばし冷蔵庫のある台所に行くと、どん兵衛はあった。
そのまま衝動的に外側の袋を足下に破り捨て蓋を開け粉を入れる。
カップラーメンと違ってどん兵衛はいい。カップラーメンはやれ粉が先だとか後いれだとか、ややこしくてかなわん。

その後はお湯を入れるのだ。
ポットの下にどん兵衛をセットしたその時だ

ポットのランプが消えている!?電気コードは繋がれたままだ。電気止めやがったな!やられた!ふざけんなよ!
咄嗟にに水道の蛇口に手を伸ばした。
勢いよく水が流れ出てきた。
けっ!水だけで生活しろってか
床に置いてあるどん兵衛にお湯を入れてみた。
まだポットにかすかだが湯気を感じる。
おそらくは電気を止めてから一時間も立ってないはず。

お湯をここまで入れろという線よりも半分の所でゴボゴボッと音を立て最後の一滴を麺と粉の上に落とした。

適当にかき混ぜて麺を啜る。
ぬ!ぬぬぬ ぬるい!!
電気が止められてポットの湯が冷めたのだろう

こんなくそまずいもん食ってられるか!けれども、代わりの食べ物などないので一気にかき込んだ。
最後にそのぬるいスープを半分程飲みほすと流し場めがけてぶちまけた。

どいつもこいつも死ねよ!
なんて惨めな生活なんだ。
なんで僕がこんな目に・・
僕は優秀な人間だ!
思えばこんなはずではなかった。
小中高と散々いじめられ大学の試験にも落ちた。
やっと入れた会社では営業ノルマに達してないのが理由で今月で七回目の減給だった。
まー会社からはもう来なくていいと言われたのでどうだっていいんだが

コタツに足を入れ今日の予定を考えてみる。
食料もつきたしスーパーに行って買い溜めでもしようか


電気代も払わないとな。三ヶ月もためたんだ一ヶ月分というわけにはいかないかもな。
コタツのの上の無造作に散らばっている紙を手に取る。
「料金お支払いのお願い 滞納分の未納料金2,1787円 12月18日までにお支払い頂けない場合は送電を切らせて頂きますのでご容赦下さい」
もっと早く知らせろよ! 馬鹿が!誰がこんなん払うか!
電気がなくても生きていけるんだぞ僕は。
ハガキごとグチャグチャに丸めてテレビに投げつけた。

そういえば、さっきから携帯をみないな
布団の中か?
たしか昨日は携帯小説を読んでて途中で寝てしまったはず。
立ち上がり足でその布団をめくり上げた。
痛っ!
足に携帯が当たったようだ。
痛ぇーな!マジぶっ殺すぞ!!
声高に誰かに聞こえるくらいに言ってみた
今のはあれだイマイチだ。

痛ぇーな!マジ殺すぞ!!!
今度さっきよりも声高に叫んでみた。
まだまだ、もっと叫んでやってもいいんだが今日はこの位で許してやる。
次はこんなもんじゃねぇー殺すからな!!

足下にあるiPhoneを拾いロックを解除する
天気予報のアプリを開くと愛知県三好市は一日中雨マークが表示されている。
ベランダ側のカーテンを捲ると小降りだが雨がぱらついていた。
ホーム画面に戻り2chまとめを開いた。
えーっと面白いのないかな~
『ヤイコの鼻がおかしい ワロタw』
ほーう。気になるけど今はいいや。
良さげな記事がない。
『リサが劣化してる件』
リサって誰だよ
もっとまともな記事ねーのかよ!
仕方なくホーム画面に戻りブラウザーを開く、そして出会い系のサイトにログインする。
ここの『出会えるよ.COM』には20万円近くつぎ込んでいる。
そろそろ出会えないと詐欺だろう
いつも後一歩の所でポイントがなくなる。
この前なんていざ出会う事になり豊田市駅のロータリで待つこと2時間相手は来なかった。
相手とは『まりこ』のことである。
仕方なく家に戻りまりこに返事を送る
『まりこさん。今日は体調でも悪かったのですか? できればですが、またお話ししたいです。
福太郎より 』
あれからたまにまりこからメッセージが来ているが時間とポイントの無駄だと思いメッセージは見ないようにしている。
で今狙っているのは『あかり』という名前の子だ。
後もう少しで落とせる。
早く、あかりにぶち込みてーぜ!くっそーう!
ポイントが後5ポイントしかねぇ!
これじゃ、あかりとSEXできねぇ。
ファック!!
マイメニューにいきポイントのページを開いてみる。

本日3時までに3千円をお振り込みいただきますと通常330ポイントが何と10330ポイントに!!

なっ!なにー!!
すげー10000ポイントもあればSEXが出来る。
ゆ夢みたい。

そういえば今何時だ?iPhoneの画面の上の方に目を移す。
2時!
起きたのが12時頃だったけど、もうそんなに立つのか。
後一時間しかないな。
ここで迷ってる奴は出会い系なんかやる資格はないよなーなんて呟き早速銀行に出掛ける準備をした。

準備が整い玄関の前に立つ。
『これより、福太郎 『出会えるよ.COM』より10000ポイント授与の為、銀行まで行って参ります』
『必ず帰還しろ!』
『サー!イエッサー!』
福太郎は上官と部下とのやりとりを一通りやり終えると銀行までスキップしながら後にした。

     

私は、『スミレ』顔もスタイルも良くて頭もいいの。
世の中の馬鹿な男達に夢を見させてあげるの。
さーて今日はどんな男に夢を見せて差し上げようかしら。

ここは名古屋の栄の交差点。
左腕のカルティエは夜の九時をさしている。
ダイヤがぎっしりと散りばめられているカルティエの時計はとてもスミレに似合っている。
すれ違う男性達はこぞってスミレの首筋から胸とそして足先までを舐め回すように見ている。
だがスミレのように完璧な女性に簡単に声を掛けれるような男など皆無と言っていい。

交差点の信号が青になり皆が一斉に歩き出した。
スミレも歩を前に進める。
信号を半分まで進んだ所で何か汚ない物が視界をよぎる。
今の男、何処かで見たわ。
何処かしら?
その男の風体はホームレスさながらといった風とでもいおうか。
上はチェックのシャツに下は迷彩のズボン。
ベルトの代わりなのか紐で縛ってある。
155センチ70キロ位だろうか。
その小太りな体型のその男の半径2mには人がいない。
みな避けているのだろう。
スミレの周囲も人がいないのだが少し男とは訳が違う。

女性達はスミレと比較されたくないのだろう。
スミレのようなヒールの似合う女を女性達は嫌う。

私のようにルックスが完璧だと周囲を寄せ付けないのよね。
罪だわ~

そうこうしてるうちに小太りの男と向かい合わせになった。

『うっ!?臭っ!!何よこの臭い?』
『くっ臭いとは何でありますか?失礼なっ』
『いいから、どきなさいよ!』
『あなたの方が道を譲るべきだと思うであります』
『いいから、どきなさいよ!!』
『退かぬ!媚びぬ!省みぬ!』
『ぐぬぬっ・・おのれ・・』
『あなたみたいな馬鹿は目障りなんだからきえなさいよ 気持ちが悪いわよ』
そう言い終えると小太りなその男のつま先めがけてヒールで足蹴にした。
『ふんぬっ!』
小太りの男はもんどりうって地面を這いつくばっている。
『我が生涯に一片の悔いなし!なし!ナッシング!』
男が何か発していたが全くもってどうでも
良かったし、二度と顔も見たくなかった
なぜここまでしたのか?
それは私には分からない。
私はどうしても道を譲りたくなかった。
ただでさえ男など利用するか、利用するくらいにしか思った事がないのにこの小太りで汗臭い男は私に対して刃向かってくるじゃない。なんなのよこの男!
この男が退かないのが悪いのよ。

ふと見渡すと周囲にいくつかの人だかりが出来ていた。

『何これ、痴話喧嘩ってやつ?』
『そんなわけないだろう あのおっさんが痴漢でもしたんじゃねーの?』
『何こいつ、キモイ!』
うわっ! 見ろよ 何こいつ 頭おかしいんじゃねーの』

     

『プープープー プープープー』
右からも左からも車のクラクションが鳴り響く
見上げると信号は赤になっていた。
クラクションの音と同時にギャラリーは一斉に散らばりもとの日常に戻った。
いつ落ちたのだろうか、足元に気持ち悪い男のものであろう免許証や診察券の類が散らばっている。
なにも考えずに数枚を手に取りポーチの外側のポケットに押し込んだ。
そしてスミレもそのギャラリーに同化するように交差点の向こう岸まで一気に駆け抜けた。

ふと小太り男が気になり振り向いたが、すでにその姿はなく右から左からと車が行き交う風景だけが目に映る。

『どうでもいいわよ!あんな奴!』
あー今日はもう疲れたわ 横になりたいわ
どこかその辺のビジネスホテルに入って休もうかしら
それがいいわ
そう考えるとスミレは夜の繁華街に消えて行った。

     

今日はさんざんな一日になった。
電車の中では笑われるし!
あの高飛車な女が全て悪い。
僕は充実してる女が大嫌いだ。
ややや、男でも女でも嫌いだ。
ああいう人の迷惑を考えないタイプはろくな死に方をしないと思う。
これも全部社会のせいだ。いあ政治家が悪い。
うん、きっとそうだな 。うひひー。
結論が出たようで妙に納得した。

電車を乗り継ぎ赤池駅に着くと右手にマクドナルドが見える

反対の左手には自宅のある三好方面に帰るバス停がある
いつもの風景だ。
そのバス乗り場付近にチャラチャラした若者たちがいて騒いでいる。
『何それ、ギャグかよ ダセー』
『その女 マジでおまえに惚れてんじゃねーの?』
『ギャッハハー』
下品な会話と笑い声が耳に焼きつく
体中に悪寒が走る。
くそう!バスに乗って早く帰りたいのに・・
とにかく目を合わせてはいけない。
僕はああいう奴らに絡まれやすいからな
もし、絡まれてみろ またこの前みたく上半身裸にされてお腹にオバQの顔を書かれて腹芸をやれなんて事になったらかなわん。
それにさっきみたいに怪我でもしたら大変だし
さっきは女だったけど
あたたたっ・・まだつま先が痛む
とにかくマクドナルドに避難して時間をつぶそう。

『いらっしゃいませー』
店内を見渡す。
えーっとサラリーマンが1人と二十代前半のカップル それに僕と同じ三十代前半くらいの男がテーブルにノートパソコンを広げ何かに夢中になっている。
害虫はいないな。ひとまずはよし。
またいつもの癖がでてしまった。
そうしていると店員が声を掛けて来た。
『いらっしゃいませ。店内でお召し上がりでしょうか?』
『いえ、食べて行かれましょう』
『か、かしこまりました』
・・・
ぐはっ!何たる失態!不覚にも動揺したでござる!
これは世界金融危機の予兆か!?
そうに違いない。
なぬー!それは困りまするなぁー
参ったでござるよ

『お お客様? お客様?』
『え?あ はい?』
『ご注文の方ですが・・宜しいでしょうか?』
『えーっと このビッグマックをレタス抜きで
後、ポテトのLサイズを一つ、飲み物はメロンソーダな』
『申し訳ないのですが、当店ではレタス抜きというのは出来かねます。
申し訳ありません』
『はっ!?いつもはやってもらってるぞ!』
『ですが当店ではそういったご注文は出来かねるのです』
『おいおい!こっちは客だぞ!お客様の命令は絶対だろが!!それに出来かねるって何だよ
立場分かってんのか!?』
すると奥の方から男が駆け寄って来た。
『どうした?』
『いえ、こちらのお客様がレタス抜きのご注文をされましたのでマニュアル通りに・・』
『なるほど。
お客様~失礼しました~只今、お作りしますので少々お待ち下さい すぐにご用意出来ますので』
『ほーう なかなか話の分かる男じゃないか
それに比べてこの女はまるで立場を分かっとらん!
『申し訳ありませんでした さっ安田君も謝って!』
『なーんか しらけちゃったな。もう帰るよ
サラバ』
『左様でございますか・・』
カウンターに背を向け店を出た。

     

ふー少し疲れたな。しかしさっきの僕はかっこ良かったな~

すこし歩くとバス停にさっきの奴らはいなかった。
そうしてるうちに三好行きのバスが停留所に止まった。
ヤバッ!あれに乗らないとだ
『ダッダッダッダッ』
『ぷぎやー 足痛ぇー!!』
さすがの痛みにもんどりうった。
見上げるとバスが今にも発車しそうである

ダッダッダッダッダッ
『待ってください!まだここにいます!行かないで!!』

ダッダッダッダッダッ

『痛っ!うう…』
どうやら石につまずいて前のめりに転んだようだ。
バスの走り去って行く姿を目で追いかける。

『くそっ!お前が悪いんだ!この野郎がっ! お前のせいで手が折れた!どうしてくれるんだ!』
つまずき転んだその原因の石を手に取り左折して曲がっていくバス目掛けておもいっきり石を投げた。
『バコーン!!』
まさか本当に当たるとは思わなかった。

石がバスの後ろに当たったあとに運転手が降りて来て、すぐさま後部へ確認しにいく。

まさか当たるとは思わなかった。少しカーブがかかったに違いない。
だって僕は天才だから。
僕に声を掛けていれば今頃、プロ野球界は面白いことのなっていただろう。
惜しいことをしたものだ。
まー今までスポーツなんて野蛮だしやったことないんだけどね~
うひひ~
バスを見ると石が当たったであろう場所は一目瞭然で塗装も剥がれている。
握りこぶし一個分はへこんでいるだろう。

運転手はへこんだ場所を触りながら携帯電話で誰かと話し始めた。
バスこわれたのかな?
僕は悪くない。
待てと言って待たないバス、いや運転手に非があるのは誰が見ても一目瞭然じゃないか。
運転手がこっちを見ながら携帯で誰かと話している。
運転手までの距離が約20メートルくらいだろうか
今なら逃げれる!
そもそも石なんて投げたっけ?
うん。投げてない・・投げる訳がないだろ。
そもそもバスに石投げて何のメリットがあるわけ!?

少しづつ少しづつここから離れるんだ。
後ずさりするように誰にも分からないように後へ下がるように歩く
もうこれ以上は下がることは無理だ。
電話で誰かと話していた運転手がバスの中へ入っていった。

あ!!逃げるなら今じゃないか!?
そもそも逃げるって何だよ。僕は悪くないぞ。
「なぜなら僕はバスに石なんて投げる理由はないからだ!」

うーん。何かいまいちピンとこないな
けど今はそれどころじゃない。一旦非難しよう。
「ひなんだひなんだ」
駅のビルとゲームセンターの間にある通路を通り一目散に駆け抜けた。
途中何度か後ろを振り返ったが誰も気づいていないようだった。

何をやってるんだ僕は!!
まったく何て世の中だ!


     

スミレが繁華街のど真ん中にあるセレブリティ・ホテルにチェックインしたのは9時40分頃
部屋に着くなりルームサービスを呼び夕食をとりシャワーを浴びると、ソファーに腰かけた



年代物のワインをグラスに注ぎながら今日の交差点であった出来事を反芻してみる。


「今日のあの男は何なのよ!」
「腹が立つわ!」
「そうだポーチにあの小太りの男の免許証があったはず」
ソファーから立ち上がりポーチに手を伸ばす。
数枚のカード類が指先に引っかかったので何枚かを手に取ってみた。
免許証には「熊狩 福太郎」と書いてある
生年月日: 昭和54年 12月31日
住所:愛知県 みよし市 三好※※-※※

「54年生まれって、私と一緒じゃない!」
「とてもじゃないけど30代には見えないわ。お世辞でも40代半ばってとこかしら」
こんな男、お金なんか持ってるわけないじゃない。いかにも敗者って感じが顔から滲みでているわ
こんな男じゃターゲットにはならないわ
あーあ馬鹿らしっ」
免許証に写っている写真を見て、その他のカード類ごとゴミ箱に放り投げた。

残りのワインを飲み干し部屋に備え付けの電話を手にとる

「もしもし」
「こちらフロントです」
「高梨ですけど。明日の朝食はいらないからいつものマッサージの予約大丈夫かしら?」
「はい、高梨様 明日の朝のマッサージの予約は既に埋まっていまして…申し訳ありません。」
「もう埋まってるって!?何なのよ。
そこを何とかしなさいよ。
せっかく最上級のスィートに泊まってるんだから!
「そ そう言われましても…」
「何度言わせれば分かるのよ!
あなたから先客の方に断りの電話を入れれば済む事じゃない」
「そんな…」

「ガチャン!!」

     

「何なのよ!あの従業員の態度は・・それとも何私よりも太い上客でもいるのかしらね。まあいいわ」
テーブルの上にあるテレビのリモコンを取り電源を押した。
番組なんて何でもいいのだけれどシーンした部屋に自分を置きたくなかったというか、寂しかった。

適当にチャネルを変え一周して元のニュース番組でリモコンをとめた。

「先程、赤池駅付近で何者かによって握りこぶし位の大きさの石がバスに投げつけられる事件があったもようです。
現場付近にいた複数の目撃者の話によりますと容疑者と思われる男は身長160cm位のやや小太りの体型だそうです。
石を投げつけた後に独り言をつぶやきながら逃げたとのことです。
また、警察では最近赤池駅で多発している投石などの事件との関連性も視野にいれて捜査中とのことです。


「えー続きまして全国の天気予報です」

「えっ!?」
「160cm、独り言、小太り」
この3つのフレーズで思いつく男はあいつしかいなかった。

「まさかね。でもあの怪しい男ならやりかねないわね」

     

「うへへー、今日は寒いな一段と冷えやがるぜ」
結局バスに乗るのはやめて赤池駅から電車に乗り栄の繁華街まで来た。
「しっかし、どこ行こうかね。自由すぎてどこ行けば良いか分からないですぞ」
しばらく歩いてみることにした。

30分 180円!!「まんが郎」
という看板が入り口に置いてある。
「漫画喫茶か~しばらく行ってないな。よし!今日はここに避難するか」
受付を済ませると個室に案内された。
荷物をおろしリクライニングチェアーに腰を下ろす。
とりあえずPCの電源をいれてみた。10秒もしないうちにデスクトップ画面が開いた。
「ややや、ハイスペックPCは起動も速いでするなぁ~恐れ入りまする」
インターネットエクスプローラー
(Internet Explorer)を起動させると「まんが郎」のホームページが開いたので、そこからリンクにあるYahooのホームページをクリックしてみた。


「なななっ なぬー!!ここれは!?」
『愛知 赤池駅にてバスに投石事件 犯人逃走中』
見出しが何を言いたいのかは分かった。

「さっきのバスの事か!? 逃走って・・あれをやったのは僕じゃないぞ 何か勘違いされてないか?」
とにかくその記事をクリックしてみた。
目がぐるぐる回ってうまく読めなかったが、おおよその内容は理解出来た。
なことより小太りってなんだよ!失礼だろが!いあてかこれ僕じゃないから・・うわーん勘違いされちゃってるよ」

     

パソコンの画面の右下を見ると時刻は23:45分と表示されている。
「今日は長い一日だったなー これから僕どうすればいいんだろ? いささか参りましたねー」
しばらく画面に触れずにいるとスクリーンセーバーに切り替わった。

「そういえばしばらくiphoneを触ってないな」
右ポケットから取り出し下側にある丸いボタンを押す。
「シュッ サッ ポチッ!」
「ここまでの動作に2秒02 上官!準備完了です!!」
まずはブラウザー立ち上げてみると前回の終了画面のタブが開いたままだった。
「ヤバッ!うひゃっほう あたたたたたーこれはこれはやらかしたっぽいね。ブヒーブヒー最悪だ 
くそう」
ブラウザーは「出会えるよ.COM」の画面が開いていた。
「もーう。色々ありすぎて振り込むの忘れてたよ。うへへーこりゃ人生詰んだかもしれんですな」

     

iPhoneのブラウザー閉じるとメールが何件か来ていることが分かる。
メールがどこから来ているかおおよその検討はついていた。
おそらく、いや絶対に「出会えるよ.COM」は一件は入ってるだろう。
たぶんまた振り込んだら10000ポイント付与するので振り込んでください何ていう催促に違いないぞ。
二件目も「出会えるよ.COM」だと思うな。
あいつらときたら、しつこさだけは天下一品だから。
三件目はそうだなー職場か妹の紗英からか・・
会社からはもう来なくていいって言われたんだし関係ないや。

メールの画面を開くと3件とも紗英からだった。
内容は、一件目「お兄ちゃん今どこ!?
電話して」
二件目「家に行ったらいなかったよ。至急連絡して!!」
三件目「!!!」
なんかあったかな!?
なんだっけ?
ちゃんとお金は返したし、なんか急いでる感じだな。
ともかく一旦外にでて電話しょう。

荷物を持ち受付で会計を済ませると外にでた。
時刻は0時7分。
iPhoneを取り出し紗英に電話をかけると、最初のコール音が終わる前に電話がつながった。
「お兄ちゃん?もしもし」
「あーもしもし、聞こえてるよ。何かあった?」

「あのさ、単刀直入に聞くけど今どこにいるの?」
「えあや、あ!紗英なんか電波が悪いみたいだ。き 聴こえる!?」

「プチッ」

思わず電話を切ってしまった。
しばらくは電源を切っておいた方が良さそうだ。

「それにしても紗英の奴 バスに石を投げた事疑ってるのかな?」
紗英は今年の春から婦人警官として豊田警察署で勤務をしている

「ともなると色々まずい気がしますなー逃げざるをえまいという感じですかな」

     

逃げざるを得まい!?
「逃げざるを・・」
「逃げるってなんだよ!」
「まずあの時の僕は何をしてたかだな」

目と鼻の先でティッシュを懸命に配っている女性がいる
しばらく見て観察しているとなぜか目が合った。

「ドキッ!」
目をそらした途端にその女性は何故かこちらに向かってくる。

なんだよ・・うう・・こないでくれ・・
いあ来て欲しい気もするけど・・

「あ、あの~今こっち見てましたよね?」

「は、はい!?えあいややや 僕はあのその お姉さんがお持ちになっているティッシュを見ていました。 ティッシュ白いですね」

「あははっー お兄さんって面白~い。
何か重そうな紙袋とか持ってるけどもしかして田舎から上京して来たとかですか?」

「はひ!? 上京物語ですか!?」

「あははっー物語ってなに!?
なんでそこで物語が付くのよ 超うけるんだけど、あははっ」

いやはや、それはですね上京というのは常々として物語とセットなる物なのですよ。これは覚えていて損はないです。はい」

「へーそうなんだ。分かった。 所でお兄さん今からどこか行く所ですか?」

「僕は いあ私は常に時間に追われている身だからね。 今も大事な商談をまとめてきた所だよ。
50億近くの契約だったからね。
まー大変だったけど、社長に信頼されてるし仕方がないよね。
30分そこそこでまとめてきたよ。
そうそう今からでも泊まれるビジネスホテルなんか探してるんだけど、どこか心当たりないかい?」

     

「そっか~お兄さんもう帰っちゃうんだ・・
なんだか寂しいな・・」

なんかこの人って超~頭おかしいんだけど。
でも、こういうタイプがお金たくさん持ってたりするのよね。
まー最悪貧乏でも何かのたしにはなるっしょ。
とにかく、ここで逃がしたらまずいわ。頑張らなくっちゃ!


「おおお姉さん。寂しいですか?
それは困りました。
は は話くらいならば聞きますよう」

これは、確実に僕に惚れているだろう。
も もしかすると将来のお嫁さんになるという事もありえますぞ!
うへへ~とにかく頑張らねばなりませぬ。ませぬませぬですぞ!
起承転結、心頭滅却、因果応報
うう・・何か違うけどとにかく当たって砕けろだー!
~うぇい うぇい~

「えっ!本当に!?話聞いてくれるの?」

「是非ともお話聞かせていだきたいですなー
そ それに私は包容力のある男だと思います」

「そうなんだ。私包容力のある方がタイプなの
とにかく、ここじゃ風邪ひいちゃうわ。どこか場所を変えましょ」

「は はひ 行きましょう」
そう言うとこの女性は僕の腕に腕を絡めてきた。
突然の事でビックリしたが僕の魅力に参ってしまったのだろう。
なんせ50億の取り引きを任されているんだもの。普通の人はそんなすごい人に出会った事ないんだからビックリして当然だよな。
まー嘘と言われれば嘘に違いないのだけど、僕の場合はいずれ50億位の取り引きをするくらいの器なんだし、あながち嘘とも言い切れんよな。
ともかく今この人は僕が輝いて見えるのだろう。
そう考えると妙に納得した。

「お兄さん。私の行きつけのお店があるの。そこ近いからそこ行きましょ」
「いいっ 行こう行こう」

腕を組まれて妙に恥かしいという気持ちと当然だなという二つの気持ちが交差する。

路地をしばらく二人で真っ直ぐ歩いていくと右手にセレブリティ・ホテルが見える。

     

そういえばこの子の名前なんだっけ?まだ聞いてないよな!?
恐る恐る横にいる女の子の方を見てみる。
どこかの建物を見ているのだろうか、目線はずっと上の方にあるビルを見ているようだった。
視線の先をゆっくり追っていくと、そのビルの看板を見ているらしかった。
看板には「セレブリティ・ホテル」と書いてある。

ほ ほほホテル!?ほほー どういう事だ?ここに行きたいのかな?
僕たちもうそんな関係だっけかな?

脳内コンピューターをフル回転させて今の状況とこのホテルとを掛け合わせて考えてみる。
「・・・・・・・・・・」
う うーむ 分かんないけど・・
たぶんいい展開だぞう!これは!
ふむふむ

もし僕の将来のお嫁さんになる人なら遅かれ早かれそんな関係になってもいいのだけれど
それにしても僕はこの子の名前も知らないんだぞ。
うへへ~僕にはこんな魅力があったのか!
こりゃやべーっすな!
うひゃっほ~う

思考をパタリとやめて横にいる女の子の顔を覗き込んでみた。

え!?えー!!
なんと女の子の目から涙がこぼれ落ちているではないか!!
音を立てて泣いている訳ではないが静かに静かに泣いていた。

「どうしたの?大丈夫かい?」
「あ ごめんね。こんな所見せちゃってさ」
「い いや構わないけど、何で泣いてるの?」

     

「・・・・ぅううう・・・」
目の前にいる名前も分からない女の子は突っ伏したまま泣いたまま顔をあげずにずっと泣いている。

しばらくはそっとしておいたが場所を変えようと考える。
どこがいいんだ。
つかここどこ!?

「どこか入ろっか」
目の前にいる女の子が顔を上げて言う

「うん。そ そうしょう」
本当はずっとこのまましゃがんでいてくれた方がパンツが見えてるので良かったのだが・・
仕方が無い。

ちなみにパンツの色は水色だった。

立ち上がり交差点がある所を右に曲がり歩いて行く。
僕はただ着いて行くだけ。
いつのまにかそういうことになっている。
たしか行きつけの店があるとか言ってなかったっけ。

でもさ、なんかこの展開おかしくないか!?
まーけっこう前からおかしい事には気づいてたさ。
そんな事より何より
まずこの女の子は仕事中じゃなかったっけ?
そうそうティッシュ配りしてたよね・・
仮にも仕事中に抜けだしていいのかよ。
それと何でこんな可愛い子が僕を誘うのかってこと。
いやいや、そりゃ僕は顔はあんまりよろしくないのは充分分かっている。
要するに不細工って事さ。
でもね、そんな不細工な顔を補える程の性格の良さを持ってるわけだ。
いやいやそんな事を言いたい訳じゃない。
パンツが見えたあたりから話が上手くいきすぎてる気がするんだよね~
怪しすぎだろう。
今頃気がついた僕もどうかしてたかもしれない。

これからどこか連れていかれて怖いお兄さんとか出てくるんじゃないだろうな。

・・・・・・・・・・・

そーだ!にげるか??
だんだんと薄暗い路地に入っていってるしさ。
これもう怖いお兄さん出て来るの確定だろう。
確定かよ!

このくそ女 馬鹿にしやがって!!
だんだんと怒りが湧いてくる。

女がバッグからタバコとライターを取り出している。
逃げるなら今かもしれない。

そう考えると同時に体は反対向きになって走っていた。

振り向いたら最後だ。
とにかく走れ!

今の僕はカール・ルイスやボルトより速い。
そう世界的に速いのだ。
走れ!走れ!!

途中何度か女が大声で呼んでいたが振り返らずにひたすら走っていた。

       

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Neetsha