Neetel Inside ニートノベル
表紙

マンション
永沢由香里

見開き   最大化      

1. 永沢由香里

今日私はとんでもない失敗をしてしまった。
あいつの性器を剥ぎ取るのを忘れてしまっていたのだ。
あの時私は夢中であいつの頭にバットを振り下ろしていた。
私お手製の木製バット。制作には3日を要した。
あいつの頭は既に原型を留めておらず、まるで得体の知れないモンスターのようだった。
私はロールプレイングゲームの主人公になった気分で
爽快にモンスターめがけて剣を振り下ろし続けたのだ。
ゲームとは違い剣を振り下ろす度飛び散る血飛沫に、えもいわれぬ興奮を覚えたのだった。
あいつの頭は意外に固くて、気づけば私の両手は感覚を失っていた。
しかし私は興奮していたため、既に手から落ちているバットには気づかず
何度も何度もあいつの頭に向けて、ありはしないバットを振り下ろし続けた。
血飛沫が飛散していないことに気づいたのは玄関からチャイムの音が鳴ったからだった。
ピンポーン
ピンポーン
宅配便でーす
どうやらあいつに荷物が届いたらしかった。
しょうがないやつ、宅配便受け取る前に死んでしまうなんて。

そう思い、優しい私は代わりに受け取ってやることにした。
送った側も配送の人も、いつまでも受け取ってもらわないと困るだろうから。
ただ、その時私はあいつの返り血で全身真っ赤だった。
「うーん、弱ったな。」
ピンポーン
チャイムはまだ鳴っている。
配送の人もプロだ。少し変な人が出てきたところで慣れたものなのだろうが、
さすがに血まみれの女が荷物を受け取りに出たら驚くんじゃないか?
少し迷ったが、さっとシャワーを浴びて出れば問題ないだろうと思い
配送の人に言って少し待ってもらおうと玄関に走った。
「すいませーん、いまシャワー浴びてて、少し待っててもらえますか?」
玄関の手前で外の配送人に声をかける。
少し待って返事が返ってきた。
「あ、はい。すいませんお取り込み中。」
「いえいえ、じゃあすぐ上がりますんで。」
私はすぐに服を脱ぎお風呂場に入ってシャワーの栓をひねった。
当然まずは水が出てきたが、興奮していた私の身体は熱気を帯びており、
冷たい水がかえって心地よかった。
すぐに水はお湯に変わったので驚いてシャワーを止めた。
まぁさっきよりは大分ましだ。
風呂場の外には几帳面にも真っ白なバスタオルが4枚も綺麗にたたんで重ねられていた。
私は無造作に上から2枚目のタオルを取り、軽く身体を拭く。
バスタオルの白はまだ身体に残る血の色に薄く染められ、私は「桜みたい」とつぶやいた。
いまだ私の全身は熱く、タオルを巻くのもおっくうになって
待たせてはいけないとの思いも重なり裸のまま玄関へ向かった。
「お待たせしましたー。」
玄関を開けると外は秋の匂いがした。
秋風がなんとも心地いい。
「あ・・・・・っと・・・・」
目の前には宅配便のお兄さんもいた。
さすがにこの寒空に裸の女があらわれたせいだろう、戸惑っている。
でも全身血まみれよりかは幾分ましだろう。
「あ、すいません。シャワー浴びてたもので・・・。
 荷物はそちらですか?」
右手でドアを支え、左手で胸を隠す。
「あ!はい・・・
 すいません!こちらです」
お兄さんは右手に持った荷物を慌てて差し出し顔を伏せる。
「すいません、はしたない格好で。
 ここにサインすればよろしいかしら?」
「あ、はい!お願いします!!」
お兄さんが左手で差し出したペンを受け取り「安田」とサインした。
あいつの名前だ。
「どうも、ありがとうございます。」
荷物を受取ってお兄さんにお礼を言ったが、お兄さんは顔を伏せたままだった。
「あ!はい、すいません!では!!」
お兄さんはそれだけ言うとすぐに振り返り足早に去っていった。
「いえいえ、こちらこそすいません」
お兄さんの背中に声をかけながら
さっきから二人ともスイマセンばっかり言ってるなあと思い、少し可笑しかった。

       

表紙

ぽちらち 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha