Neetel Inside ニートノベル
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マンション
矢田哲雄

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5. 矢田哲雄

「くだらねぇ。」
この男の口癖だ。
この男が口を開くと最後はいつもこの言葉で終わる。
「くだらねぇ。」
その日この男はいつものようにイライラしていた。
この男の趣味に「ガラス割り」というものがある。
イラついている時に目に付いたガラスにその辺の石を投げて割る。
なんともはた迷惑な趣味である。
しかも運がいいことに、これで捕まったりしたことがない。
目に付けば家だろうが車だろうが、トイレの鏡なんてのもあった。
ともかく手当たりしだいに割って回るのだ。
捕まらなかった理由の一つに、この男が全国をウロウロと流浪していることがあげられる。
この男は3年前に宝くじで3億円を当て、
それがもとで今は全国各地をあてもなくふらふらと旅をしているのだった。
なぜイライラするのかわからない。
ただ道沿いに妙にイラつくマンションがあった。
「でけぇマンションだな・・・。くだらねぇ。」
そう言ってそのマンションの窓ガラスに狙いを定めた。
手には先ほど拾っておいた拳大の石が握られている。
どうせなら上の階の窓がいい。
上に住んでる奴らは気に食わねぇ。
そう思いながらマンションを見上げた。
そこで男は妙なものを見た。
そのマンションは10階建てなのだが、その真ん中より少し下。
4階あたりのベランダでなにやらやたらと派手な人間がくるくると踊っていたのだ。
歌も唄っているようだ。どうやら女のようだった。
「きちがいか・・・くだらねぇ。」
男はその踊りをみてますますイラついてきた。
石を握る右手に力が入る。
男はおもいっきりその女めがけて石を投げた。
ガシャーン!
石は女をそれ、ベランダの窓に大きな穴を開けた。
女には当たらなかったが、窓ガラスの割れる音に男は満足した。
「へっ・・・ノーコン野郎・・・。くだらねぇ。」
男はそう吐き捨てて踵をかえし、マンションから遠ざかる。
女の金切り声が響いていたが、男の耳には入ってこなかった。

       

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