Neetel Inside 文芸新都
表紙

智子さんと僕
再会と別れ

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2005年5月 大学一年
僕が智子さんに初めて会った時の話だ
大学に入学して間もない頃だ

本当につまらない日々だ、智子ちゃんが居なくなってからの僕は抜け殻なった。
僕は親に言われるがままに県外のそこそこの大学に進学した、そこで一人暮らしをするようになった。
新入生向けに大学の部活が各所で宣伝をしていた、とりあえずある程度資料だけはもらっておいた、入る気もないのに。
その資料に目を通していると「オカルト研究会・部長山口智子」という名前があった。
僕は大学の講義が終わるとすぐにオカルト研究会の部室に走った、部室の扉の前に来た。
なぜか手が震える、ガチャリと音を立て扉が開く、中の人の視線が一斉に自分に向けられる。
「おっ!新入生かーい?」そのひと声でわかった、別人だ、なぜなら智子ちゃんの特徴は男勝りの口調で相手を一喝するような声色をしていたからだ
「とりあえず座って座って」中に通された、色々なオカルト話を聞いた、どれもつまらない物ばかりだった
「山口さんに質問良いですか?」、「んーなんだい?お姉さんに言ってごらん」
万が一があるので念のために聞く「山口さんって昔奈良県に住んでいた事ないですか?」
「あれ?なんで知ってるんだい?」、まさかと思った「僕です」
「僕くん?」その響きはものすごく久しぶりな気がした、昔のあだ名だ「はい!」
ガバッと、何かが僕を抱きしめた、智子さんだった「僕くん久しぶりだね!」頭を撫で回された
周囲の視線が多分この時すごい事になっていたであろうと思う
しかし僕は恐怖していた、いくらなんでもここまで人が変化するものか?、何かの企みがあるのではないかという疑心があった。
「もうすぐ部活も終わるからうちに遊びにきなよー」、きたきた、あの人の家に行ったら僕は悪魔召喚の儀式の生贄にされるのだろうか?
それとも人体実験であろうか?、はたまた催眠による精神破壊なのだろうか?、だが断った時の方が恐ろしいので僕はとりあえず「はい」と言った

そして部活の活動時間は終わった

「うちさー大学の近くだからすぐだよすぐ」
本当にすぐだった、僕は不安で死にそうだった
「さぁ入って入って」
これは夢か?まるで女子の部屋ではないか
あの人の部屋といったら散らかっていて雑誌などが床に散らばっているという図を簡単に想像出来た。
ポカーンと口を開けていると「どうしたの?そんなに女子の部屋が珍しい?」と笑いながら声をかけてきた
頭がおかしくなりそうになった、「どうしたんですか?」と涙目になりながら聞いた。
「え?どうしたの?」、僕は今感じている違和感をすべて言った一つ一つこぼさない様に、「ははは」と笑った
「そんな事で男の子が泣くな」と笑いながらおでこをツーンと人指し指で押された。
「それはね」と丁寧に説明してくれた、虐待を受けていて二重人格であり、主人格である智子さん
そして男勝りの強気の人格が智子ちゃんという事だと説明してくれた、そして今は特に何も苦労をしていないので
別人格である自然と智子ちゃんは消えていったという、「でもね、いつも智子ちゃんが僕くんの事話してくれたんだよ」
「だからね僕くんの事はいっぱい知ってるよ、」、「名前で呼んでくださいよ、さすがに恥ずかしいです」
「私君の名前は知らないよ?」、「早川無人です」、「はやかわなびとくん?」面白い名前だねとまた爆笑された
ここまで笑う智子ちゃんを見た事がなかった、いや正しくは智子さんなのだろう。
僕は智子ちゃんという存在に恋をしていたんだろう、それは無論智子さんという存在ではなかった。
ここには僕の求めた智子ちゃんという存在は居なかった、もう帰ろう、そう思った。
「無人くんまたねー」とものすごい笑顔で手を振られた、振り返す元気はなかった。

僕は帰路に就いた

ショックではなかった、会いたかった人に数十年ぶりに会えたのだ、うれしくない訳がない、だが何かが違った。
虐待を受けていた、そして二重人格であり虐待がなくなり、その人格が消えたのなら良い事ではないか、そう自分の心に言い聞かせた
そんな事を考えてるうちにいつの間にか自宅に着いていた、部屋に入り、何も考えず目を閉じ眠りついた

       

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