Neetel Inside ニートノベル
表紙

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 空港に到着した。
 予想はしていたのであろう、そこには・・・
「・・・・・・・・・・」
 黒いスーツ越しでもわかる筋肉質のサングラス男、その数、50、確実にこちらを見据えている。
 中には警棒やスタンガンもちらほらと見える。
「御主人様・・・」
「トロトン・・・無理に付き合わなくていい、オレが選んだ道だ、最後まで、あがいてみせるさ」
「違うブヒ、怖いならやめてもいいと言おうとしたけど、その調子なら言わなくていいって思ったブヒ!」
 黒スーツが一人が口を開いてこう言った。
「ミル・グリースだな、バカな事を考えているならやめておいた方がいい、我々は争いを止める為にいる、キミが何も行動を起こさなければ、争いは起きない」
「ずいぶん舐められてるブヒ」
その言葉だけで十分だったオレは50人のスーツの男達に立ち向かった。


 イクリ morning 最終話 


 長年いた住まいを離れてこれから研究所に住む事を強制されたイクリは飛行機の中で今までの事、これからの事を考えていた。
「・・・」
(私、どうなるのでしょう、小さい頃の事よく覚えていないけれど、とても冷たい部屋の中でずっと泣いていた記憶だけある、あれから、どうなったんだっけ・・・)
「・・・リース」
(何か・・・聞こえる・・・)
「イクリ・グリース!」
「・・・あ、はい」
「食事の時間だ」
 飛行機の中で考え事をしていたせいで周りの声がまったく聞こえなくなっていたらしい、自分の監視役の黒いスーツを着た男が機内食を持ってきていた。
「今、おなかすいてないので」
「食べておいたほうがいい、お前の健康管理も我々の仕事だ」
 そういってむりやりスプーンを握らされる、そのスプーンをじっと見つめ、イクリは家族の事を思い出していた。
(・・・あれ、なんで私、こんな所にいるんだっけ?)
 スプーンを握った手が解けて、また全身の力が抜けていく。

(_______________私の

             家族は?______________________)


 目を覚ますと豚がいた。
「あ、御主人様大丈夫ブヒ?」
「あぁ、トロトンおはよう、じゃないな、・・・なんでここ・・・」
 オレは何故ここにいるのか考える、周りを見渡すと空港だなこれは、でもなんで・・・。
「ご主人様がんばったブヒ、一人くらい倒せるものかなと思っていたブヒ、でも御主人様最初の一人に即効で投げ飛ばされてしまったぶひ、何度も何度も投げ飛ばされても立ち向かっていって最後に投げられた時に打ち所が悪くて意識を失ったブヒ」
 オレは、全て思い出し、どうしようか、考えた。
「ご主人様、どうするブヒ、今日はもう帰るブヒか?」
 一瞬帰るという選択肢に怒りを覚えた、何を言っている、あきらめる気か?イクリはお前にとってそれだけの存在なのか?と、けどすぐに冷静に考え直した、一度落ち着いて帰宅し、作戦を立て直すか・・・だが、それは帰って考えるか、今ここで考えてすぐに行動するか、どちらも悪くない選択肢だ、他にも選択肢は探せば出てくるだろう、重要なのは、どれが一番イクリを連れ戻す事に貢献するかだ。
「トロトン、何か、作戦はないか?」
 豚に聞いてみる。
「そうブヒねぇ、取り合えずイクリさんが向かった先は何処かを探す事からブヒねぇ。」
「と、するとイクリがオレ達の家を出てから空港に着くまでの時間から何か手がかりがあるはず」
「イクリさん、僕達に研究所の在り処教えてくれればよかったのにブヒぃ・・・これじゃ手紙も出せないブヒぃ」
「それはイクリも知らないだろう、知っていたらオレ達に伝えるはずだ、きっとこの空港で待ち合わせしていたんだろうさ」
「どうするブヒ?」
(わからないブヒよ~、って感じだ、どうする?何か手がかりはないか?    !!)
「トロトン、頼みがある」
「なんでしょうブヒ?」
「今からイクリの匂いを嗅げ、及び追跡しろ」
「む、無理ブヒ~、ぶたは犬じゃないブヒ~!」
「頼む!名犬ラ○シュ並の動物パワーを見せてくれ!!・・・・ダメなら今夜のエサはトンカツにするからな!」
「そんな~共食いは嫌ぶひ~ってか無理ブヒよ~!!」
「オレもやるから」
「え・・・ブヒ・・」

-------------------------------------------

「ついたぞ」
 黒いスーツの男がイクリに目的の研究所についた事を告げる。
 一瞬でわかった、私は過去に戻ってきてしまっていた、何もかもが許されない、悲しい事しかない施設、ここから抜け出せない事はわかってしまった、ここで生き、ここで死ぬのだろう、私はそういう物だから、私は人間じゃないから。
「・・・はい」
「こっちだ」
 黒いスーツの男が入り口の警備員にカードを見せてイクリに中に入るように促す、イクリはいわれるがままに
研究所に入っていった、研究所に入る時警備員の体の大きさと筋肉質な体つきを見て自分は完全に抜け出せない事を悟った。
 研究所の中に入ると中は以外と狭い通路と両脇に並ぶ部屋だけだった、入り口から3つ目の部屋に入るように指示されたので言う通り入るとそこには何もおいていない空虚な空間だった、少し考えると事の異常さに気づく、しかし遅かった、イクリは黒いスーツの男に後ろから一撃をくらい意識を失った。
 ピピッ、ピピッ、スーツの男の携帯電話の音が鳴る。
 ピッ
「・・・・はい、準備はできました」
「なんの準備ができたんだ?」
「きっとぶた達の楽園の準備ぶひ?」
「トンカツ食べ放題ってか?」
「き、貴様はミル・グリース!」
「それとゲストのドーベル犬、ジャポラ君も一緒だ!」
「ヴァウ!ヴャウ!」
「いけ!ジャポラ君!かみつく攻撃だ!!」
「ガァルルルルァアア!!!!」
「ひ、ひぇええええええ!!!!」
 ミルがドーベル犬にそう命令すると共にトロトンと一緒にスーツの男に襲い掛かった、初めはジャポラの攻撃にとまどったスーツの男だったがすぐさま冷静さを取り戻し、腕に噛み付いたジャポラを引き剥がそうとした、だが、ミルとトロトンがそれを全力で阻止する、二人は妨害役、ジャポラは攻撃役という連携が完全に出来上がっていた性か黒いスーツの男へのダメージは蓄積されていった。
「く、くそ!離せ!離せ!!!」
「誰が話すか!、トロトン、トンカツになりたくなかったら絶対に離すなよ!」
「そのネタもうやめてブヒ!豚は傷つくブヒ!」
「グルルルル!!ヴウウゥウウワン!ワン!ワン!」
 必死に犬を剥がそうとするスーツの男だったが長期戦になるにつれ体力がどんどん落ちていった、無理もない、個人的な能力では黒のスーツの男の方が勝っているのだが、スタミナの総量はやはり3:1では3人の方が上なのだ。
「うぐ、、、、ッ!、、ッ!」
「そろそろブヒね」
「ヴァンヴァン!」
「それじゃあ、いくぞ黒スーツ、オレ達三人の必殺技をなぁ!」
 そういってオレ達は倒れているスーツの男から離れ一斉にジャンプ、男のみぞおち目掛けて肘打ちを同時に喰らわせた!
 喰らわせた瞬間ミルは『◆ダイヤモンド◆クオリティッ!!◆』と叫んだ。
「ガブァ!」
 スーツの男は変な声を上げてしばらく痙攣したあと、意識を失った。
「やったぶひ~!豚と御主人様、それとゲストのジャポラ君のおかげで勝ったブヒ~!」
「イクリ!」
 オレはすぐにイクリの無事を確認した、特に外傷がなく、意識だけ失っている事が先ほど戦った男の強さを物語っていた。
「よかった、無事みたいだ」
「よかったブヒ~!これで一緒に帰ってまたみんなで一緒に幸せにくらすブヒ!」
「ワンワン!!」
 ペロペロ
 ははっ、ゲストのジャポラ君も喜んでいるみたいだ。
「ご主人様!奴等に見つからない内に早く逃げるブヒ!」
「そうだな」
 とその刹那、オレはイクリを抱きかかえて部屋を出ようとしたら黒いスーツの男達が部屋の前に突如現れた。
「先ほど『◆ダイヤモンド◆クオリティッ!!◆』と聞こえたので来てみたらこんな事になっているとはな・・・」
 しまった、オレ達の必殺技の威力がでかすぎて気づかれてしまったか!
「クッ!」
 オレはイクリを抱えて無理にでもそいつらを押しのけて外に出ようとする。
「気が動転して冷静な判断もできないみたいだな、そんな事では我々の手から逃げる事はできない」
 突如オレの腹に衝撃が走る、それからだんだん意識が落ちていって・・・・。
「ご主人様!」
「ワンワン!」
「子供は早く寝るんだ、大人の仕事に口を出すものではない」
「グ・・・ちく・・・しょ・・・」
 オレは意識を失った。


「おはようございます、ミルさん」
「おはようイクリ」
「おはようブヒ~!ご主人様~」
「おはようトロトン」
 なでなで
「ブッヒ~~~~!!!」
「ミルさん、何か今日はうなされていたみたいですけどどうかしましたか?」
「え、・・・いや、特には・・・ ・・・」
「?」
「なんか・・・悪い夢を見ていたみたいだ」
「そうですか?最近はやっと気温が下がってきましたから、きっと体が季節の変わり目でついてこれなくなっているのかもしれませんね」
「ご主人様お体気をつけてくださいブヒ~」
「あ、ああ、・・・そうだな」
「では御朝食の用意ができていますので、着替えが終わりましたら降りてきてください」
「あ、ああ、ありがとう・・・イクリ」
「ふふ、変なミルさん」
 そういって彼女はオレの部屋を後にした。
「ご主人様どうしたブヒ~?さては、昨日エッチな動画を見ようとしたらとんでもないブラクラを引いたブヒ?」
(トロトンがいて・・・イクリがいて・・・)
「オレが・・・ここにいて・・・」
「ブヒ?」
「トロトン、一つ聞きたい事がある」
「?」
「オレ達はこれからもここで生活を続け何気ない日常を続けていくんだよな・・・?」
「そうだブヒ、だから難しい事は考えなくていいブヒ」
「そうか・・・トロトンオレ達、イクリを・・・いや・・・なんでもない」
「ぶひ~、ご主人様なんかおかしいブヒ~、またなにか新しい遊びでも思いついたブヒ~?」
 オレはたしか・・・オレはたしか。
「さらわれたイクリを助けに来たはずだ」
「何を言ってるブヒ?イクリさんなら今一階にいるブヒ~」
「いや、たしかにイクリを救いに、オレと、そう、トロトン、お前と一緒に空港でイクリの香りを嗅いで黒いスーツ達のいる研究所に行ったはずだ!そうだよ、覚えてるだろ?!トロトン!オレ達と、そうドーベル犬のジャポラ君も一緒だっただろう!?」
「ドーベル犬?ジャポラ君?」
「そうだよ!思い出せ!オレ達はたしかに一緒に研究所に行ったはずなんだ!たのむトロトン!思い出してくれ!」
「ん~~~~~、ご主人様の言うとおり思い出したいブヒけどなんにも思い出せないぶひ~」
「な・・・」
 本当に夢だったのか、たった一瞬の悪夢だったのか?だとしたら・・・この瞬間を生きていくしかないが・・・そうか・・・夢だったのか・・・。
「いや」
「ブヒ?」
「な~んてな!どうだ驚いただろ~!
「ブッヒ~!演技だったブヒ~?わからなかったブヒ~~~!」
「この前知り合いから芝居劇をやるから脚本を覚えていてくれって頼まれていてな、つい練習してしまった、迷惑かけたなトロトン」
「ご主人様すごいブヒ~!一瞬本当におかしくなってしまったと思ったブヒ~」
「オレがおかしくなるはずないだろ、その証拠に今までのは演技だったんだからな」
「ブッヒ~!イクリさんにも教えてくるブヒ~」
「ははっ、まぁ本気を出せばこんなもんだ」
 何事もない日常が始まり続いていく、これで良かったんだよな・・・これでいいんだ・・・。
 
 










「人の記憶を弄んで楽しいかい?母さん」
「あら~、ばれてたの?」
 オレは目を覚ました。
 人間の記憶の研究をしているミルの母、『セラ・グリース』はそこにいた。
「あんまり難しいことばかり考えてないで、楽に行きましょうよミル?あなたはなんでも難しく考えすぎなのよ、あ、そうそう、新しいメイドが欲しいの?じゃあ代わりのを用意するわね、だからあなたはこんな所にいないで早くおうちに帰りなさい、トロトンも次期つくわ」
「いいんだよ、オレはこれで、母さん、用件だけ言う」
「なぁに?」
「イクリを返してくれ!」
「だから、新しいメイドが欲しいなら、母さんが用意してあげるっていってるでしょ?早く帰りの支度をしなさい、飛行機はもうとってあるんだから」
「母さん、もう一度だけ言う、イクリを返してくれ」
「あ、そろそろ向かえの車が来るそうよ、ミル、母さん外で待ってますからね、見送ってあげるわ」
 オレは母さんを置いて走り出す、あれから時間は経っていないはず、母さんがイクリの場所を教えてくれないなら自分で探すまでだ」
 その瞬間、奴が覚醒した。
「ツバクカクシルマ!!」
「ぐぁああ!!」
 謎の呪文が聞こえたかと思った瞬間オレは激しい頭痛を覚え走るのをやめその場にへたり込んでしまった。
「ミ~ル~、母さんの言う事聞かなきゃダメよ~?あんまりいたずらしたらおしおきしちゃうんだから」
「オレに・・・何をした・・・」
「簡単よ、いたずら好きなミルちゃんの為に頭脳にチップを仕込んでおいたの、いろんな合言葉でミルは母さんのいいなりで~す」
「く・・・なんて親だ・・・」
「ミルが母さんの言う事を聞かないからこうなるのよ」
「母さんがイクリの居場所をオレに教えればこうならないんだよ!」
「あ、ほ~ら~、時間だわ、早く車に乗らなきゃ、飛行機間に合わないでしょ」
(またはぐらかす、いつもそうだ・・・)
「わかった、また夢を見たいのね、だったら早く言ってくれればいいのに、すぐに眠らせてあげる」
「ぐ、くそ・・・!」
 オレの母、セラ・グリースは脳内のチップを使って人の精神意識を操る事ができる、正確には自信の脳内に埋め込められているチップを使って支持しているのだが。
「母さん、やめてくれ、オレはイクリを取り戻しに来ただけなんだ!」
「ねぇ~え、ミル、今日ばかりは母さんの言う事聞いて、ね?」
「いやだ!絶対に譲らない!!」
「わかったわ、しかたないわね」
 その瞬間オレの脳内に埋められたチップがオレに眠るように支持する、オレは恐ろしい眠りに襲われすぐその場で眠りそうになる、ここで眠るわけにはいかない!かくなる上は!!
「あら?どうしたのミル?母さんにだっこしてもらいたいの?」
「食らえ母さん!!!」
 そういってオレは母さんの脇腹を思いっきりくすぐった!
「あ、あは、あひゃははは!!」
「どうだ母さん、早くオレのチップへの命令をやめろ!」
「あふぁ、あはははは!ん・・・こらぁ!!ふぁは!、やめなさい!みる!!」
「母さんがいけないんだぞ!早く命令をやめろ!!」
「ふぁ!、あは、そんないできない」
「ならばこうだ!!」
 オレは全身の性感帯を所かまわず押しまくる!!
「ふぁあああ、ゆあめ!!・・・、やまえ!やぁめぇて~~!!」
「どうする?ここで一生オレに笑わされるつもりか!?オレは母さんがやめるまでやめないぞ!死んだってオレはやめない!死ぬまでだ!オレが死ぬ前に母さんが寿命で死ぬかもしれないけどなぁ!!!」
「わはは!あはぁん!、わぁ、わぁかったわ、やまれましゅ!やめるから~~ッ!!」
「よし!」
 オレはくすぐるのをやめた、それと同時にオレの脳内チップ内への母さんからの命令も止まったようだ、これでイクリを迎えにいける、だがその前に一応オレは無駄だとわかっていても聞いてみた。
「母さん、知ってるんだろ、イクリの場所、・・・教えてくれ」
「はぁ・・・ハァ・・・はぁ・・ふぅ・・・ひどいわ・・・・ミル・・・あ、はぁ、・・・ハァン・・・」
「母さん、オレはイクリを探しに行くよ」
「はぁ・・ハァン・・・はぁ・・・・」
「さよなら母さん」
「通路右、突き当たり、3階まで階段を登って一番奥の部屋、キーロックがかかってるから、暗証番号は9769よ」
「・・・・ありがとう、母さん」
 そういってオレは部屋を後にした。
「はぁ、・・・ハァ・・・、いつも部屋に閉じこもってばかりのあの子が、こんなにも真剣になるなんて・・・ふふ・・・」
 母は息子の成長に笑みをこぼすのだった。
 
 
 3階まで登って一番奥の部屋の前にくる。
(ここにイクリが・・・)
 ゴクリと覚悟を決めて入ろうとしたその時。
「入れ」
 声がした、懐かしい声、もう10年以上も聞いていない、けれど忘れるはずのない、懐かしい声が今は冷たくドア越しに聞こえてくるのだった。
 ガチャリ
「ミル、久しぶりだな、また会えるとは思っていなかった」
「父さん・・・」
「率直に用件だけ言おう、オレはまだお前に会おうと思っていない、時期がくればこちらから会いに行く、つまり、今は即刻家に帰ってもらえないか?」
 懐かしい声、懐かしい顔、懐かしい、なにもかも・・・。
 人間機能研究科の科学者「ユニバ・グリース」がそこにはいた。
「断るよ、オレはイクリを・・・!!」
「ならば、また少し眠ってもらおう」
 !!
「うぐァッ!!」
 父は一瞬でオレの後ろに回って後ろから掌打をくらわせた。
「私の研究はうすうす勘付いているだろう?」
「クッ・・・人間機能研究・・・人間の肉体の限界を研究する学問、人間の未だ発見されていない力を研究、実装し続ける研究だろ・・・?」
「そうだ、そしてその技術を私は私自身に施している、そしてお前は生身の只(ただ)の人間、この意味がわかるか?」
「・・・ ・・・」
「お前は肉体的には私には勝てない、つまりお前に残された道は私の言う事を聞いて素直に帰るか、そのどれだけ知識が詰まっているのかわからない脳で私に立ち向かうかだ」
「・・・」
「経験、知識、忍耐、全てが私の方が勝っている、やめておけ、あの実験マウスの事はあきらめろ」
 オレは一瞬何がそのマウスなのかわからなかった、だがすぐに察知した、と同時に自分の父親がどんな人間か認識を始める、こんなのが父親だという事に悲しさを覚えた、そして、
「誰がマウスだって?」
 自身の父親に生まれて、初めて
「あの実験代に名前なんてあったか?」
「誰がマウスだって聞いてんだよ!!!!!!!」
 怒りを覚えた!!!
「怒りで我を忘れるとは、ずいぶん無様だな、ミル、お前はもう帰れ」
 静止の言葉だったのかもしれないがオレには挑発に聞こえた。
「いいからイクリをッ」
 全身に力を込める、どの道この男は自分の妨害をする事はわかっていたので父親でも遠慮なく排除させてもらおうと思う、物理でごり押ししようという父親だ、こちらも例外的な力を使わせてもらう。
「返せぇええええ!!!」
 全身、オレは父親にとびかかった、父親ユニバは予測していたのだろうすぐに身構えてオレへの攻撃からの反撃を狙う、しかしオレはユニバのすぐ近くまで来た瞬間斜め2時の方向に前転し、ユニバの後ろにあったパイプ椅子を手に取る、そのままイスを目標に叩きつけた。
「オゥラァアアア!!!」
 クゥワァン、という音と共にパイプ椅子は宙を舞った、ユニバの片腕を薙ぎ払っただけでミルの攻撃ははじかれてしまったのだ、すぐさまユニバは攻撃に移ろうとミルに早足でミルに近づく、ミルは予想していたので攻撃の後すぐに後退して次の武器をさがす、室内は研究施設そのもの、いろいろな試験管や実験器具をその場で作れるように戦いに必要な鉄パイプや金槌等もそなわっていた、ミルは鉄パイプを手に取り身構える、身構えた瞬間、鉄パイプで人殴ったらやばいのではと思ったが自分の前にいるのは人間を越えているので罪悪感はすぐに消えた、むしろ鉄パイプじゃしょぼいのでもっと強い武器が欲しいとまで思うようになっていた。
「ずいぶん身のこなしがいいな、何か運動でもしていたのか?ミル?」
「世間話は父さんがイクリを返してくれたらゆっくししよう」
「・・・」
 刹那目の前にいた父親は消えた、と見えるくらい早い速度で上空にジャンプした、ミルは空中からの攻撃は予想していなかったので素直に後退して何をされても大丈夫なように距離をとったがしかし!父親は空中で服の中から羽のような物を広げて物理法則を無視し、鳥が風にのるような速度と角度でミルに突進してきた。
「なに!・・・ぐほぁ!!」
 空中からの奇襲攻撃にミルは後ろにあった試験管セットを倒しながら後ろに3m程吹っ飛ばされた。
「これが科学の力を実装した新人類の力だ」
「ぐぅ・・・物理の法則を無視するなんて反則だろう・・・」
「ミル、これ以上は無駄だ、帰れ」
「なんで・・・」
「・・・」
「なんで父さんも母さんもイクリを実験代にしようなんて思うんだよ!今まで普通に生きていたじゃないか!イクリはそんなに悪い事でもしたのか!?なんで今まで普通に生かしていたのに突然ひどい実験代にしようなんて思うんだよ!!」
「・・・」
「教えろよ!知ってるんだろ!!」
「・・・」
「てめぇ!教えないってんなら!」
 オレは立ち上がる、そして落ち着きを取り戻す、冷静さを最大限に引き出す、オレの人生でうまくいってきた事だけを思い出す、その時の感覚を体に身につけ、不要な考えや感覚をどんどん頭の中から排出していった、そう、オレは本気の状態になった。
「今から、親父を倒し、イクリを迎えに行く、親父、オレはあまり強くない、だから手加減はできない、オレと戦って只で済むとは思わない方がいい」
「ミル・・・いい目をするようになったな」
 すぐさまオレは駆出した、近くにある鉄パイプを回収していく、何本もの鉄パイプを手に抱えて、ある程度の数になったら親父に向けて投げる、すぐに手刀で払われてしまうが何本かはユニバの直撃コースだったらしく、ユニバは体制を変えたり、その場を飛びのいてしまわなければいけないみたいだ、オレはツバメのような速さで鉄パイプを拾いユニバに投げつける、だいたい奴の直撃コースがわかってきたのでそこを狙う、もちろんユニバは体を移動させる、つまりオレは奴が体を移動させた場所に向かってあらかじめ予想して鉄パイプを投げてやった、その一本の鉄パイプだけは今まで出していない渾身の力を振り絞って。
「ぐぅ、なに!」
 大体鉄パイプがそろそろ直撃がくるだろうなと予想していたユニバは自身の回避ポイントにきた鉄パイプを手刀で払おうとしたみたいだが、その一本だけオレの渾身の力が込められているとまでは予測していなかったみたいで見事直撃した。
 オレはそれがチャンスだとばかりに今度は鉄パイプを低速で投げてやる、ユニバは今までと速度が違う鉄パイプにすぐ対応する、だが対応には一瞬のスキができる、オレはそこに目掛けて渾身の一本を投げる。
「ぐぅお!」
 直撃、ミルは手を休める事はない、今度は一辺に三本程を低速で投げる、宙に浮かんだ三本、すぐに対応するユニバ、その時ユニバは鉄パイプの他に対応しなければいけない物ができてしまっていた、全ての力を振り絞り渾身の一撃を握っている鉄パイプに込め突進してくるミルだったのだ!
「ォオオ!!!!!!」
「なにぃ!ミルぅ!!」
 ゴゴ!!
 鈍い音がした、人間に本気で鉄を食らわすとこんな音がするんだなとミルは学習する、重症の一撃をくらい跪いている父親の側で。
「親父、イクリの居場所を言え、殺すかもしれない」
「・・・ ・・・ミル・・・」
 もう一発食らわす。
 ゴゴォ!
「ウグゥ!」
「親父、イクリはどこだ?」
「・・・ック・・・そんなにあの娘が大事か・・・」
 ゴキ!
「グはッ!」
 少し加減してもう一発。
「早くしろ」
「自分の・・・ミル・・・お前の・・・妹の命を引き換えでもか?」
「・・・」
 くだらない妄想に付き合っている暇はない、そんなつまらんエピソードはいらないんだよ。
 いらないんだよ。
「どういう事だ?」
 オレは質問してしまっていた、その先の展開がつまらない物になるとわかっていたのだが。
「私と母さんが人間の記憶や肉体の研究をしている事はわかっているな?」
「・・・」
「それは全て、生まれて間もない、お前の妹を助ける為だったんだ・・・」
「そんなつまらない嘘はごめんだ、早くイクリを・・」
「嘘じゃない!!・・・ミル、お前に真実をみせてやろう」

 

 研究所の奥、最深部にそれはあった、液体の入ったカプセルにオレの妹らしい、肉片と、イクリの姿が。
「イクリ!」
「これが真実だ・・」
「今ここから出してやる!」
「無駄だ、このカプセルは普通の人間じゃ壊す事はできない」
「じゃあ、早く出せ」
 オレは戦った時の殺気を父親に向ける。
「ミル、話を聞け、彼女は死んでいない。」
「早くしろ」
「話を聞け、ミル、聞いた後、お前の彼女を出すという願いを叶えよう」
 こうやってはぐらかされている気がしたが、イクリの姿を見て少し安心したのか、彼女が生きているという話ならば、今はそれを信じようと思った。
「見ての通り、あれがお前の妹になるはずだったものだ」
「あのイクリと一緒に浮かんでいる肉塊がか?」
「そうだ」
「それで、あの肉とイクリがなんの関係がある?」
「あの肉塊と一緒にお前の妹の脳も保管してある、そしてその脳は損傷が時間と共に損傷は進んでいく」
「・・・」
「そして、その・・」
[[まって・・・]]
 突然声がした、モニター付近のスピーカーからだ。
[[突然私が話してびっくりしたよね、ごめんなさい、でもお父さんとお母さんは悪くないの・・・]]
「誰だ?」
 答えはわかっていたがオレは問いかけてみた。
[[私は体のないあなたの妹のベル・グリース、始めまして、お兄さん、私があなたの妹です」
 あぁ、こんな施設全て壊してしまいたい、こんな事実等なんの意味もない、イクリを早く救って逃げてしまえばよかったんだ、こんな父親も妹も、もうどうでもいいだろ?
「そうか・・・」
「ミル・・・」
[[お兄さん、私は体が欲しいってお父さんとお母さんにお願いしたの、最初はずっとここにいれば誰にも迷惑かけないと思っていた、けど・・・]]
「けどなんだよ?何も知らずに平和に生活していたイクリを犠牲にしてもいいのか?」
「ミル!」
 父さんがオレに殴りかかってくる、オレは容赦なく一撃を喰らわせた
 グガゴ!!
 父さんは沈む。
「答えろ」
[[私は体が欲しい、イクリさんを犠牲にしてでも]]
「お前は人間でもなんでもない、ただの自己中心的なモンスターだ」
[[それはお兄さんも同じだと思うわ]]
「同じじゃない、少なくとも、オレとイクリには人間的に生活する権利がある」
[[体を失った私にはその権利はないというの?]]
「いや、ある」
[[だったら]]
「ある、しかし、イクリを犠牲にするという権利はない!!」
[[!!]]
「もういいだろ、イクリを返してもらおう」
 オレは持っていた鉄パイプで目の前のガラスを割った。
 ガッシャアアアアアンン!!!
 ガラス片と水が研究所の床を濡らす、それと同時にイクリと肉塊も出てきた。
「イクリ・・・無事か?」
 抱きかかえた彼女は体温があった、オレは安心する、するとゆっくり彼女は目を覚ました。
「ミル・・・さん・・・」
「イクリ、もう大丈夫だ、帰ろう。」
[[ma...tte...]]
「!!」
 先ほど壊したカプセルからイクリと一緒にでてきた肉の塊がもぞもぞと動きながらこちらへ這いよって来ていた。
[[wa...ta...shi...so.to.ni.de.ta.i...:;; so to no sekai wo siri tai...]]
「そこに眠っている奴に頼むんだな、誰かを踏み台にしないと生きていけない奴なんてな、誰も助けようとは思わないんだよ、我が妹よ」
[[そん・・・naのって・・・ない・・・よぉ、、、私・・・datte・・・生きたい・・・せ、かいを・・・見たいの・・・]]
 もう聞くのをやめた、オレはイクリを抱きかかえて外にでようとする、だがイクリは・・・
「ミルさん・・・待って」
「・・・」
 オレは本当はわかっていた、彼女がこう言い出すのを、だけどどうすればいい?こんな問題解決方法なんてあるのか?オレだって助けたいさ、だけどな!助ける方法なんてどう考えてもみつからないじゃないか!だったら、心を鬼にして、『選ぶ選択』をオレは取る、そうしないと、一生ここで立ち止まったままだからな!オレも、イクリも全員が犠牲になる、ならばこいつ一人を犠牲にすれば・・・・・・・・・・・・そうだな、オレもか・・・だがオレは選ぶ、選ばせてもらう、それがオレの選択、周りの奴がいくら奇麗事を吐こうが知った事じゃない!そいつらは助ける方法も知らないし、責任なんて1mmも取らないんだからな!!何人かは、助けようとするだろうさ、だけど時間が経ち、無理だとわかればごまかすように笑って終わるもんさ、オレはそれを知っている。
「イクリ・・・」
 どうしようってんだよ・・・オレには・・・完全に無理だ・・・お前が無理だとわかってごまかそうとしたつまらない笑い顔なんて見たくないんだよ・・・。
「ミルさん、無理しなくていいですよ、この子の事、助けたいんですよね?」
 ・・・オレの事はお見通しなんだな、だけどどうする?
「ベルさん、外に出たいですよね、ちょっと待っててください」
「ど、どうするつもりだ?」
「ミルさん、たぶんあなたのお父様とお母様は妹さんの記憶だけを私に移植しようとしたんだと思います」
「!!・・・それじゃあイクリはどうなってしまうんだ?」
「わかりません、それは・・・」
「もちろん、ベルだけがそこにいる事になるわ」
 気がつけば後ろにミルの母親、セラ・グリースがいた。
「母さん・・・」
「ミル、あなたの気持ちはわかった・・・・もうイクリさんの事はあきらめるわ、どこにでも好きにおいきなさい」
 母さんが『イクリ』の名前を出したのには驚いた、はぐらかしてばかりだったのに・・・、つまり、彼女の存在を認めこの件からは完全に手を引く合図でもあった。
「セラさん、そこで質問なのですが・・・」
「なぁに?」


 鮮やかな青色インクに丁寧に雲を描いたような美しい空、気持ちいい雨日後の風が吹き、草花は雨で潤った葉と太陽に向けて光合成をしてその生命の強さを咲き誇っていた。
「あはははははは!!お兄さん!えい!」
 パシッっと彼女のボールをキャッチ、返してやる。
「おっとっとっと・・・わぁ!!」
 歩きなれない体の性か、彼女は転んでしまう、彼女の事が心配な父親のユニバ・グリースとセラ・グリースは手を貸そうとする。
「大丈夫だってば~、でもありがとう!お父さん!お母さん!」
 今まで一度も喋ったことがないのだ、なんにでも反応を返す、なんにでも楽しそうに喋る、彼女はいつも笑顔だった。
「ミル・・・」
 父さんがオレに囁きかける。
「イクリさんの事は、本当に感謝している」
「もう、いいよ、これはイクリが決めたんだし・・・」
「ミルちゃん、ありがとね」
「だからいいって母さん」
「ぶっひ~~~!ぶたもキャッチボールやるぶひ~~~!!」
「あは!こっちだよトロトン!」
 楽しそうに遊ぶトロトンとベル、オレはその微笑ましい光景を見ながら、目を優しく薄め、深く考えていた・・・。
「これが・・・イクリの、選択・・・」
「あははは!お兄さん!あ、ちょっと、待ってね」
 そして彼女はいつもの表情に戻る。
「ミ~ルさん、どうしたんですか、浮かない顔して?」
「そりゃあ、イクリの選択がまだ・・・」
「いいんです、私は元々生まれるはずのない存在でしたから、元々生まれるはずの人に、半分この体を譲っても」
 そう、イクリはあの日、自分の脳にもう一人分の脳を移植する事にしたのだ、最低限の大きさのチップに脳のデータを完全に移行したチップを自身の脳内に・・・、その結果、イクリの体はイクリとベルの物になったのだ、こうしてバトンタッチするような感覚で体をお互いに譲りあって現在に至る。
「いつか、後悔するぞイクリ?」
「もちろん、ずっとこのままってわけじゃないですよ、ユニバ様の研究が進めばベルさんの体もできるらしいですし」
「でもそれはまだできると決まったわけではないし、当事者の父さんはこの研究に10年以上かけても技術的に必要な物ができると決まったわけじゃない・・・」
「じゃあ、ミルさんが研究を進めればいいじゃないですか」
「な!?」
「ミルさんならできます、私、信じてますから・・・」
 そう言って彼女はオレを優しく抱きしめた。
「ミルさん、嬉しかったですよ、助けに来てくれて」
「・・・」
「あんまり無理しないでください、ミルさん、時々自分を殺して嘘ばっかりいいますから」
「・・・すまない」
「ミルさんが辛くなったら私が見抜いて笑顔にしますね、だから、これからもよろしくお願いします!」
 世界最高のひまわりとはこういう事をいうのだろうなと思った。
 澄み渡る空と心地良いそよ風がオレとオレの大切な人達を包む、もうそろそろ夏がくる、きっとこの夏は今までの人生で一番、安らげる夏となるだろう、そうだな、予定はみんなで立てよう、新しい家族も増えたみたいだから。

 
 
                                      FIN
 
 
 


 
 
 
 
 

       

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Neetsha