Neetel Inside ニートノベル
表紙

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 音無祐介は神之上高校決闘部の部長である。
 本人は「ガラじゃない」「真子ちゃんのほうが適任だ」「僕には人の上に立つような役職はできない」などと否定はしているが、真子や美里はもちろんのこと、今年入部してきたばかりの玄、璃奈、鷹崎でさえも、彼が部長と言う役職に最も適している人間であると感じている。
 音無祐介は、穏やかな性格のためかよく不憫な扱いを受けたりするが、部内での信頼はかなり厚い。むしろ、いつも不憫な扱いなのは信頼の厚さから来ているものとも言える(真子談)。
 デッキ構築のカードバランスはもちろん、運のような要素でも輝きを見せる彼だが、その中でも特に目を見張るのはその「流れ」を引き込む才能と「流れ」を断ち切る才能だ。
 有利だと思っていたらいつの間にか不利になっている。攻めていると思ったらいつの間にか守りに入れられている。勝ったと思ったらいつの間にか負けている。
 そんな彼は、今日も今日とて「流れ」を断ち切り、「流れ」を掴んでいた。
「《サイバー・ダーク・エッジ》、《サイバー・ダーク・キール》でダイレクトアタック!」
「ぐああああああああっ!!」

津田 LP:3100→600→0

『勝者、神之上高校、音無祐介!!』

 無機質な女性の声が高らかに勝者を宣言すると、会場はまたも歓声で埋まる。
 次鋒戦、音無祐介VS津田浩二。
 今大会の特別ルールとして、前の試合で負けたチームは、次の試合で先攻後攻を選択する権利が得られる。
 先鋒戦で負けた神之上高校決闘部は先攻を選択し、そこから11ターンの攻防によってじわじわと津田を追い詰め音無が勝利を得た。
「さっすが音無くん。危なげもなく勝ったわね」
「危なくないことなんてないさ。彼もいいデュエリストだったよ。僕はただ運が良かっただけさ」
 ベンチに戻ってきた音無を真子が出迎える。
「1勝1敗。流れは悪くないな」
「それにしても、今のところ玄君の言った通りになりましたね」
「ん? ああ、順番の話か」

 遡ること2週間前。
「それじゃ、大会でのデュエルの順序を決めましょうか。先鋒やりたい人ー」
 そう言ったのは真子。挙手を促す。
「いやいや、真子ちゃん。もっとまじめに考えようよ」
「冗談よ」
 そう言うと真子は自身の背後から1枚の紙を取り出し、部員達の前に出す。
 そこには、先鋒:辻垣内真子。次鋒:鷹崎透。中堅:秋月美里&早川璃奈。副将:白神玄。大将:音無祐介。と書かれていた。
「私なりに考えたんだけど、どう思う?」
「却下」
 即座に真子の案を否定したのは玄だった。紙を眺めていた部員たちの目が玄へと移る。
「この順序にした理由もだいたいわかるけどさ、ベストな選択とは言えない。賛成はできないな。ギリギリ賛成なのは中堅、しかも美里だけだ」
「僕も同意見だね」
「なんでよ」
 むすっと顔をしかめる。本人的にはどうだかわからないが、周りから見れば小学生が意地悪をされて怒ってるようにしか見えない。
「俺ならこうする」
 真子の渡した紙の裏側にペンで新たに表を書く。
 書き終わった紙を全員が注目すると、先鋒:鷹崎透。次鋒:音無祐介。中堅:秋月美里&辻垣内真子。副将:早川璃奈。大将:白神玄。と書かれてあった。
「俺の案がこうなった理由を先鋒から順に説明しよう」
 コクリ、と全員が首を縦に振った。
「まずは先鋒。ここはセオリーとしては最も強いやつを入れるな」
「じゃあ、あなたがやればいいじゃない」
「最後まで話を聞いてくれよ。いやまぁ、確かに俺が一番強いけども、間違いなく俺が一番強いけども」
「……殴っていいか」
「お、落ち着いてください」
 グッ、と拳に力を込める鷹崎を璃奈がなだめる。
「それで、何故鷹崎を選んだかと言うと、ここは強さ以上に「勢い」がほしいからだ」
「勢い……ですか?」
「個人戦ならともかく、これは団体戦だ。次につなげるための「勢い」がほしい。俺らの中じゃ最も「勢い」があるのは鷹崎か真子先輩。それで真子先輩がここから外された理由は、まぁ若干鷹崎のほうが適任だと思ったてのもあるんだけど、それは置いとく」
 そのまま次鋒の説明を始める。
「ここには、実力者を置いておきたい。だから、音無先輩だ」
「どうしてかな?」
 美里が疑問を挟む。
「どうして、次鋒戦は実力者がいいの?」
「ああ、それには2つ意味がある。まず1つ、先鋒戦でこっちが勝利した場合、勢いづいてるこっちが相手に実力者をぶつけることで、2勝。つまりリーチの状態を作るためだ」
 音無の実力はここにい全員が認めている。音無が負けるところなどなかなか想像ができない。そのため確実な勝利を得るために次鋒戦に音無を設置。さらに勢いをつけて中堅戦へと続けるためだ。
「2つ目の理由はなんなんですか?」
「それは先鋒が負けた時の場合だ」
 この時若干鷹崎がイラついたように顔をしかめたが、何も言うことはなかった。その程度のことにいちいち反応していては身が持たないと思ったのだろう。
「先鋒が負けた場合、今度は敵側が勢い付いてるってことになる。そこで状況をイーブンにするために、確実な勝利を得るための実力者、音無先輩だ」
「……流石に何度も何度も「実力者」と言われると恥ずかしな」
 音無はポリポリと照れ臭そうに指で頭を掻いた。
「よし、次は中堅戦だな。まず真子先輩も言ってたように美里だ。これは俺らの中で美里が一番バランスが取れてるからだな。2勝した場合でも、1勝1敗の場合でも勝利に向かって安定して向かうことができると思う」
「えっへん」
 誇らしそうに胸を張る。
「さらに、タッグデュエルではサポートという概念が生まれてくる。そこでもやはり美里が適任だ。【お触れホルス】が決まれば相手の動きを抑えつつ自軍の攻撃を通しやすくなる。サポートに関してはこれ以上ないだろう」
「えっへん」
 再び胸を張る。
「だが、攻めはいまいちだ。あと、無い胸張って虚しくないか?」
「……」
 誰からでも見て分かるようにしょんぼりとした。
「玄くんセクハラー」
「そんなにがっかりしないで下さいよ、美里ちゃん。小さくたって良いこといっぱいありますよ!」
 美里が顔を上げ、璃奈の胸部を凝視。
「……璃奈ちゃんが言うと、嫌味だよね」
「ええっ!?」
 持つ者と持たざる者の感性の違いである。
「それで話を戻すけど……ここで出てくるのが、真子先輩だ。攻めに関しちゃ部内じゃ最高クラスだからな」
「それで、ここで先鋒戦に私じゃなくて鷹崎くん。中堅戦に鷹崎くんじゃなくて私が選ばれた理由があるんでしょ?」
「ああ、それは単純に相性だよ。デッキの相性も、人間的な相性もな」
 そこでう頷いたのは音無。彼には玄の言わんとしていることが理解できたようだ。
「鷹崎君のデッキはどちらかと言うと無理矢理押し通すタイプだろう? しかしそれだと相手が2人って言うのは鷹崎君にとっては厳しい。それに鷹崎君はサポートなんてないほうがうまく回れるんじゃないかと僕は思う」
「あーそりゃ同感。正直タッグでうまくやれる自信はねぇな」
「さらに言うと、真子先輩のほうは他人を利用しながら攻めるタイプだ。それならタッグデュエルってのは利用する相手が3人もいるから真子先輩がより輝く。それに、付き合いで言ったら鷹崎よりも真子先輩のほうが長いしな。そういう意味では真子先輩の美里&璃奈案も方向性は正しいと言えるな」
「……クロくん、結構真面目に考えてるんですね」
「いや、普段俺が真面目じゃないみたいな言い方をするな」
 続いて副将。今度は璃奈だ。
「なんでここが私なんでしょうか……? 消去法?」
「そんな適当な理由で決めねぇよ。まぁ、ぶっちゃけて言わせてもらえば、璃奈はこのメンツの中で一番弱い」
「分かってますけど……そう言われると傷つきます」
「ちょっと男子ー、璃奈ちゃんが可愛そうだよー。謝りなよー」
「そうよそうよー」
 美里と真子が悪乗りしてくる。
「すみませんでしたー」
 腰を直角に曲げ、首も正面を見るように胴体に対して直角に曲げつつ、両手をガルウィング(一部の車についている縦に開閉するドアのこと)のように上げ、おちょぼ口を作りながら身を見開いて謝る。
「謝る……っていうよりも誤ってますよね、それ」
「まぁ、小ネタは置いといてだ。璃奈は弱いが、それでも時々見せる爆発力は結構なものだ。だが、何度も対戦したり観戦したりするとその対策はいくらでも思いついてしまう。だから、なるべく璃奈は出さないように控えておきたい」
 一瞬、そこにいる全員(玄を除く)がポカーンとしていたが、すぐにはっと我を取り戻す。
「そ、それってつまり決勝戦までの間、私たち中堅までで勝負を決めろってこと?」
「そうなるな」
 当たり前のように呟くが、それは相当な難易度のことである。ぎりぎりまで、決勝までの間3連続勝利、ストレート勝ちをしなければならないということだ。
「みんなの実力はみんなが知ってるように、俺たち神之上高校決闘部は強い。だから、俺はそれくらいできるって信じてるよ」
 そう言われては部員たちも言葉は出ない。期待に応えるべく、全力で戦う。
「でも……もし決勝戦でアンナちゃん、栖鳳学園と当たることになったら、私の事をアンナちゃんが部員さんに話してたらアウトですよ?」
「その点に関しては大丈夫だ。アンナはネタバレが大嫌いなんだよ」
「なるほど……なるほど?」
 いまいちピンと来ていないようだったがそのまま玄は次へ進める。
「最後は大将、俺だな」
「まぁ、大将に一番強いのを持ってくるってのも普通の考えと言えば普通の考えよね。先鋒の時とは違うセオリーみたいなものかしら」
「まぁそれもあるけど、理由は一つだ」
「それは?」
 一泊置いて、一言。
「アンナは俺にしか倒せないからだよ」

「見事に玄くんの選択が功を奏したわね。これでイーブン」
「ああ、そして次は君たちの番だよ、真子ちゃん、美里ちゃん」
「ええ、このまま2勝目も取ってくるわよ」
「頑張るよ」
 ステージに2人が上がっていく同時に、栖鳳学園側からも男女の姿が現れる。
『続いて中堅戦。神之上高校2年、デュエリストレベル7、秋月美里選手。3年、デュエリストレベル8、辻垣内真子選手。栖鳳学園2年、デュエリストレベル7、東仙冬樹(とうせんふゆき)選手。3年、東仙春江(とうせんはるえ)選手』
 名字からわかるとおり、栖鳳側の両選手は姉弟だ。
『ほとんどの方は知ってらっしゃると思いますが、ここで説明を入れさせてもらいます。今回使用されるタッグデュエルのルールは、最もメジャーなTF(タッグフォース)ルールです』
 TFルール。モンスターゾーン、魔法・罠ゾーンは5スペースを2人で分け合い、墓地は共有。手札の共有は不可能で、パートナーが伏せたカードは自分のターンが回ってくるまで確認不可能。
 このほかにも細かいルールがいくつも存在するが、ここでは割愛する。
 次鋒戦で敗北した栖鳳側が先攻を選択。春江と冬樹のどちらが先攻を務めるのかは、デュエルディスクがランダムで決定する。その結果、冬樹、美里、春江、美里の順でターンが進んでいくことが決定。
「それじゃあ、いつも通りいきましょうか、美里ちゃん」
「うん。真子先輩も緊張したりしてない?」
「美里ちゃんよりはね」
「なら大丈夫だね」

「「デュエル!!」」

 ターンランプは冬樹の方へ灯る。ターンは、冬樹、美里、春江、真子の順となる。
「ぼ、僕の先攻! ドロー」
 緊張しているのか、きょどった様子でカードを場に出す。
「《ヴォルカニック・エッジ》を通常召喚。そして《悪夢の拷問部屋》を発動。《ヴォルカニック・エッジ》の効果で500ダメージを、《悪夢の拷問部屋》の効果で追加で300ダメージを与えます」

美里・真子 LP:8000→7500→7200

 早速ライフを削ってくる。冬樹のデッキは【ヴォルカニックバーン】。破壊とバーンダメージに優れており、また戦闘をこなすことも可能である。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドです」

第1ターン
冬樹・美里
LP:8000
手札:3-5
《ヴォルカニック・エッジ》、《悪夢の拷問部屋》、SS

美里・真子
LP:7200
手札:5-5
無し

「私のターン、ドロー」
(とりあえず、落ち着いて、いつも通り)
「《ホルスの黒炎竜 LV4》を通常召喚。バトルフェイズ、《ホルスの黒炎竜 LV4》で《ヴォルカニック・エッジ》に攻撃」
 攻撃力の低いモンスターで攻撃力の高いモンスターに攻撃。この時、美里の手札には、攻撃力を800下げる《禁じられた聖槍》がある。ダメージステップにこれを使い《ヴォルカニック・エッジ》の攻撃力を下げ、《ホルスの黒炎竜 LV4》で破壊しレベルアップを目論む。だが。
「り、リバース罠、《火霊術-「紅」》を発動です! 《ヴォルカニック・エッジ》をリリース!」
 炎属性モンスターをリリースし、その攻撃力分のバーンダメージを相手に与える。《ヴォルカニック・エッジ》の攻撃力1800ポイントがライフから削られる。
「うっ……!」
 さらに《悪夢の拷問部屋》の効果で追加で300ダメージ。

美里・真子 LP:7200→5400→5100

 バーンダメージを与えると同時に、《ホルスの黒炎竜 LV4》のレベルアップを阻止する。
「よしっ、よくやったわ冬樹! ナイスバーン!!」
 グッ、と親指を立てて弟を褒める。
「あ……ありがとう姉さん。でも」
「でも、攻撃はまだ残ってるよ……! 《ホルスの黒炎竜 LV4》でダイレクトアタック!」

冬樹・春江 LP:8000→6400

「冬樹! あんたのせいでダイレクト食らったじゃない! どうしてくるれのよ!」
「ええっ!? さっきは褒めてたのに!?」
「気が変わったのよ」
「早いよ!」
(コントしてるけど……続けていいのかな……?)
「カードを2枚セットして、ターン終了」

第2ターン
冬樹・美里
LP:6400
手札:3-5
《悪夢の拷問部屋》

美里・真子
LP:5100
手札:3-5
《ホルスの黒炎竜 LV4》、SS×2

「私のターン」
 カードを1枚ドローし、そのカードを右手に持ったまま左手で持っていた手札の左端のカードを手に取る。
「冬樹といい、そこのあなたといい、攻めが地味なのよ」
 そう言って1枚のカードをデュエルディスクに叩きつける。それと同時に、フィールド全体に大きな竜巻が現れる。
(このエフェクトは……!)
「《大嵐》。魔法・罠ゾーンのカードをすべて破壊するわ。私、ちまちましたのが嫌いなのよね」
 美里のセットカード――《禁じられた聖槍》、《王宮のお触れ》――が破壊され、フィールドには美里の《ホルスの黒炎竜 LV4》のみが残る。
「さらに、《レスキューラビット》を召喚し、効果発動!!」
 自身をゲームから除外し、デッキから同名通常モンスター2体、《セイバーザウルス》を特殊召喚する。
「バトルよ!」
 攻撃力1900の《セイバーザウルス》。1体目が《ホルスの黒炎竜 LV4》を破壊する。

美里・真子 LP:5100→4800

「もう1体でダイレクトアタック!」
(これ以上は通さない!)
「ダイレクトアタック宣言時、《ガガガガードナー》を手札から特殊召喚!」
 《ガガガガードナー》は相手の直接攻撃宣言時に手札から特殊召喚ができる。そしてその守備力は2000あり、1900の《セイバーザウルス》では越えられない。
「ならメイン2! 2体の《セイバーザウルス》でオーバーレイ! エクシーズ召喚!《エヴォルカイザー・ラギア》!! カードを2枚伏せて、ターンエンド」
(ちまちましたのが嫌いって言う割には……自分は《エヴォルカイザー・ラギア》とか出すんだ……。まぁ、ある意味大味のカードだけど)
 心の中で春江に文句をつける。

第3ターン
冬樹・美里
LP:6400
手札:3-2
《エヴォルカイザー・ラギア》、《悪夢の拷問部屋》、SS×2

美里・真子
LP:5400
手札:2-5
《ガガガガードナー》

「私のターン、ドロー」
 手札を一瞥すると、真っ直ぐ前を向く。
「さっき、ちまちましたのは嫌いって言ってたわね」
 真子が春江に話しかける。
「言ったわね? 何か文句でも?」
「ないわよ、私も同じ意見だもの。魔法カード、《ライトニング・ボルテックス》!」
 全体スペル破壊の《大嵐》に対して、表側の相手モンスターを破壊する《ライトニング・ボルテックス》で応戦する。
「通すわけないでしょ! 《エヴォルカイザー・ラギア》の効果を発動!」

《エヴォルカイザー・ラギア》 ORU:2→0

「オーバーレイユニットをすべて使い、召喚・特殊召喚、魔法、罠を無効化する」
「でも、これで心置きなく展開できるわ。《ゾンビ・マスター》を召喚。手札を捨てて、効果で今捨てた《ピラミッド・タートル》を蘇生! レベル4の《ゾンビ・マスター》と《ピラミッド・タートル》と《ガガガガードナー》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》!!」
 真子のデッキの切り札の1体。連続攻撃で相手のライフを大幅に削り取る。
「バトルフェイズ! 《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》で《エヴォルカイザー・ラギア》を攻撃! デプス・バイト!」
「効果は使わせない! 《攻撃の無敵化》を発動! 1つ目の効果で《エヴォルカイザー・ラギア》のこのターンの戦闘及び効果による破壊を防ぐ!」

冬樹・春江 LP:6400→6000

「ざーんねん。カードを1枚伏せてターン終了」
「あなた、えーっと、辻垣外さんだっけ?」
「真子でいいわよ」
「あらそう。じゃあこっちも春江でいいわよ真子。あなたとは仲良くなれる気がするわ」
「奇遇ね、私もよ春江。カード1枚伏せて、ターン終了」
 そう言いながらも2人は視線を交差させ、バチバチと火花を散らしているように見えた。大会とは他校の生徒との交流を深める場でもある。だが、試合とはまた別の話。友人だからこそ、親しいからこそ手など抜けない。

第4ターン
冬樹・美里
LP:6000
手札:3-2
《エヴォルカイザー・ラギア》、《悪夢の拷問部屋》、SS

美里・真子
LP:4800
手札:2-1
《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》、SS


 若干だが栖鳳側が有利のまま2週目に入る。
「僕のターン。《手札抹殺》を発動です」
 冬樹が3枚、美里と春江が2枚、真子が1枚の交換。
「さらに、僕の手札から墓地へ送られた《ヴォルカニック・バックショット》の効果を発動。墓地へ送られた時500のダメージを相手に与える。《悪夢の拷問部屋》と合わせて800ダメージです!」

美里・真子 LP:4800→4300→4000

 ここでさらに、墓地へ送られた《ヴォルカニック・バレット》の効果を発動。ライフを500払い、デッキから《ヴォルカニック・バレット》を手札に加える。

冬樹・春江 LP:6000→5500

「そして、《炎帝近衛兵》を召喚。召喚成功時に墓地の炎族モンスター4体をデッキに戻して、デッキからカードを2枚ドロー」
 墓地の《ヴォルカニック・エッジ》、《ヴォルカニック・バックショット》、《ヴォルカニック・バレット》、《ヴォルカニック・ハンマー》をデッキへ戻す。
「さらに、永続魔法《ブレイズ・キャノン》を発動し、墓地へ送って《ブレイズ・キャノン-トライデント》を発動」
 現れた砲台を糧として3つ首の砲台を出現させる。そして、それすらも糧として炎の悪魔が姿を現す。
「《ブレイズ・キャノン-トライデント》を墓地へ送って、《ヴォルカニック・デビル》を特殊召喚!!」
 高い攻撃力と強力な破壊及びバーン効果を持つ「ヴォルカニック」の頂点。
「バトルです! 《ヴォルカニック・デビル》で《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》を攻撃!」
「させないわ。罠カード、《強制脱出装置》! 《ヴォルカニック・デビル》をバウンスよ!」
「冬樹!」
「わ、分かってるよ姉さん。こっちもリバース罠、《火霊術-「紅」》を発動!」
(さっきお姉さんの方が伏せてたカード……! そっか、《エヴォルカイザー・ラギア》なんかが主軸だから無理なく入れられる上に、弟さんのサポートもできる。考えてるなぁ)
 冷静に分析するが、ダメージを回避する方法は2人には現状ない。《悪夢の拷問部屋》の効果も含め、2人に大ダメージが入る。
「「きゃああああああああああっ!!」」

美里・真子 LP:4000→1000→700

「カードを1枚伏せて、エンドです」
 大幅にライフを削られ、戦況は一気に悪化。《悪夢の拷問部屋》のバーンもあり、あと一撃でゲームエンドにされてしまうレベルまでライフを削られた。
(バーン相手にこれはかなりきついなぁ。なんとか……なんとか真子先輩に繋げないと)

第5ターン
冬樹・美里
LP:5500
手札:1-2
《エヴォルカイザー・ラギア》、《炎帝近衛兵》、《悪夢の拷問部屋》、SS

美里・真子
LP:2700
手札:2-0
《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》

「私のターン、ドロー!」
 ドローカードを手札に入れ、じっくりと1枚ずつカードを眺める。
(攻めれる手札じゃない……かな。ここは……)
 手札を眺めるのをやめ、眼前のデュエリストに目を向ける。
「バトルフェイズ、《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》で《炎帝近衛兵》を攻撃!」
 ここはライフ差を縮めることを最優先とし、攻撃を仕掛ける。だが。
「《ヴォルカニック・バレット》をコストに《サンダー・ブレイク》を発動! 《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》を破壊です!」
 攻撃も封じられる。
(《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》を破壊されたのは痛い……。できれば戦力は削りたかったんだけど)
「それなら、メインフェイズ2へ。モンスターとカードを2枚セットして、ターン終了」
(これで次のターンを耐えきれなかったら私たちの負け。でも、これさえ防げれば、あとは真子先輩が何とかしてくれる……はず)
 真子にすべてを託し、美里がターンを終える。

第6ターン
冬樹・春江
LP:5500
手札:0-2
《エヴォルカイザー・ラギア》、《炎帝近衛兵》、《悪夢の拷問部屋》

美里・真子
LP:700
手札:0-1
SM、SS×2

「私のターン、ドロー!」
 ドローカードを確認し、一瞬ニヤッと笑う。
「《炎帝近衛兵》をリリースして、《フロストザウルス》 をアドバンス召喚! さらにアドバンス召喚成功時、手札から《イリュージョン・スナッチ》を特殊召喚!」
 自分がアドバンス召喚に成功したときに、アドバンス召喚されたモンスターと同じ種族、属性、レベルに変化しフィールドに特殊召喚できるモンスター。《イリュージョン・スナッチ》の姿が気色悪く変化する。

《イリュージョン・スナッチ》 種族:悪魔→恐竜 属性:闇→水 LV:7→6

「私は、レベル6の《フロストザウルス》 と《イリュージョン・スナッチ》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 出てきなさい、《エヴォルカイザー・ソルデ》!!」
 攻撃力2600と言う数値に加え、効果破壊体制と特殊召喚モンスター破壊効果を持つ強力なエクシーズモンスター。
(っ……! このタイミングでなんて最悪なカードを!)
 春江はバトルフェイズに入り、《エヴォルカイザー・ラギア》で守備モンスターを攻撃する。
「速攻魔法、《収縮》を発動! 《エヴォルカイザー・ラギア》の攻撃力を半減! そして、守備モンスターは《墓守の偵察者》。守備力は2000だよ」
「くっ……」

《エヴォルカイザー・ラギア》 ATK:2400→1200

冬樹・春江 LP:5500→4700

 《墓守の偵察者》はリバース時にデッキから「墓守」を1体特殊召喚する効果を持つ。美里は同名モンスター、《墓守の偵察者》を呼び出した。
「でも、さっそくで悪いけど消えてもらうわ。《エヴォルカイザー・ソルデ》の効果を発動!」

《エヴォルカイザー・ソルデ》 ORU:2→1

「オーバーレイユニットを1つ取り外して、特殊召喚されたモンスターを破壊! 2枚目の《墓守の偵察者》には消えてもらうわ」
 さらに《エヴォルカイザー・ソルデ》の攻撃で1体目の《墓守の偵察者》も破壊。これで壁は消える。
「カードをセットして、ターン終了よ」
(《エヴォルカイザー・ソルデ》は出した。セットも十二分に効果を発揮するはず。ライフ差も4000ある。はっきり言って負ける気はしないんだけど……)
 春江は目の前にいる2人の決闘者に目を向ける。
(なーんで、勝てる気もしないのかしらね)
 美里と真子からは諦めの気配など微塵も感じられない。どこか1つでも選択を間違えればその瞬間に喉元を切り裂かれてしまうかのような威圧する感じられる。
「姉さん……」
 その様子を見て冬樹が春江を見つめる。
「冬樹、そんな心配そうな顔するんじゃないの。特殊召喚なしで大型モンスターを出すのはほぼ無理なこの状況。《エヴォルカイザー・ソルデ》が場にいる限り大丈夫だわ」
「真子先輩……攻撃は防いだよ。だから、あとはお願いね」
「任せておきなさい。こう見えても私、あなたたちの副部長なんだから」

第7ターン
冬樹・春江
LP:4700
手札:0-0
《エヴォルカイザー・ラギア》、《エヴォルカイザー・ソルデ》、《悪夢の拷問部屋》、SS

美里・真子
LP:700
手札:0-1
SS

「私のターン、ドロー」
 このドローで真子の手札は2枚。真子だけが唯一手札を手にしているこの状況。
 すべては、このドローにかかっていた。
「……ふぅ」
 一息置いて、1枚のカードを発動させる。
「速攻魔法発動。《禁じられた聖杯》! 《エヴォルカイザー・ソルデ》の攻撃力を400ポイント上げて、その効果を無効!」

《エヴォルカイザー・ソルデ》 ATK:2600→3000

「これで……《エヴォルカイザー・ソルデ》の効果が無効になった。真子先輩!」
「墓地の《馬頭鬼》の効果を発動!」
(……《ゾンビ・マスター》の効果で捨ててたカードね)
 《馬頭鬼》を墓地から除外することで、墓地のアンデット族モンスター1体を蘇生させる。真子が選択したのは《ゾンビ・マスター》。
「手札1枚をコストに、墓地から《ピラミッド・タートル》を蘇生!」
「なるほどね。これで《No.39 希望皇ホープ》からの《CNo.39 希望皇ホープレイ》で私のライフを一気に削ろうってわけね。でも、させないわ! カウンター罠発動! 《神の警告》!! ライフ2000をコストに、召喚、特殊召喚、さらに特殊召喚を含んだカード効果を無効にし破壊!」

冬樹・春江 LP:4700→2700

 《神の警告》の効果により、《ゾンビ・マスター》の特殊召喚効果は無効化され破壊。手札コストも払ってしまい、真子に残っているのは1枚のセットカード。
「さぁ、どうする?」
「……それじゃあ、こうさせてもらおうかしら? リバースカード発動! 《リビングデッドの呼び声》! 蘇生させるのは《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》!!」
(やっぱり伏せられてたのは展開用のカード。でも)
「でも、それじゃあ《禁じられた聖杯》で強化された《エヴォルカイザー・ソルデ》は次のターンまで破壊できない。もう1度聞くわ……どうする?」
 次のターンが来る前に冬樹のバーンカードによって負けてしまう可能性のほうが明らかに大きい。今の《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》では《エヴォルカイザー・ラギア》を破壊して400のダメージを与えるのが関の山である。
 しかし真子は春江の問いに、口元を吊り上げこう言った。
「じゃあ、もう1度言うわ。こうするつもりよ! 私は、《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》をオーバーレイユニットとすることで、カオスエクシーズチェンジ!! 深海より現れし混沌の海皇よ、すべてを噛み砕きすべてを飲み干せ!! 《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》!!」
「あ……ああああああああああああっ! しまった忘れてたぁ!」
 《CNo.39 希望皇ホープレイ》と並ぶ2体目の「CNo」。その効果は、ライフが1000以下の時のみ発動が可能である。
「オーバーレイユニットを1つ取り除き、墓地のモンスター1体をゲームから除外することで、モンスター1体の攻撃力を0にする!!」
 効果対象は《エヴォルカイザー・ソルデ》だ。

《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》 ORU:1→0

《エヴォルカイザー・ソルデ》 ATK:3000→0

「これで、終わりよ!!」
「いっけー! 真子先輩!!」

 Depth Chaos Bite!!!

冬樹・春江 LP:2700→0

『勝者、神之上高校、秋月美里! 辻垣内真子!』

 巻き起こる歓声。そんな歓声の中心で4人のデュエリストは握手を交わしていた。
「正直あれは私のミスね。普通に存在を忘れてた」
「姉さん……」
「うっさいわね! 殴るわよ!」
「まだ何も言ってないよっ!?」
 姉弟のコントを微笑ましく見つめる美里と真子。少したって話しかける。
「楽しかったわ、春江。またいつかやりましょ?」
「ええ、次はタッグじゃなくて1対1もいいかも」
「僕は全然活躍できなかったけど……楽しかったです」
「私も。またこうやってわいわいやりたいなぁ」
 激闘を終えた4人は再戦を誓い、ステージから降りるとそれぞれのチームメイトが温かく向かいいれた。
「2人ともお疲れ様」
「ナイスデュエルです! 最後の一撃がすっごくかっこよかったです」
 ねぎらいの言葉をかける。だが、一同の意識はすぐに次の試合へと移る。
 2勝した神之上高校にとっても、2敗した栖鳳にとっても次の試合は重要な意味を持つ。
 副将戦。璃奈の出番だが、相手の実力は未知数。しかし、それは相手側も同じことだった。
「ふぅ……き、緊張してきました」
「今さらになってだらしねーぞ。ほら深呼吸。吸ってー吐いてー、吸ってー吐いてー」
「すぅーはぁー、すぅーはぁー」
「吸って吸って吐いてー、吸って吸って吐いてー」
「ひっひっふー、ひっひっふー」
「吸って吸って吸って吸って吸って吸って吸って吸って吸って吸ってー」
「すぅすぅすぅすぅすぅすぅすぅすぅすぐふぅっぉっ!!」
 咽る。
「なっ、何するんですかクロくん!」
「いや、素直に実行するお前もどうかと思うけど……。まぁこれで緊張は解けただろ」
「え……はい、一応……そうですね」
「じゃあ、頑張ってこい」
「……はい。全力全開頑張ってきます!」
 ここに来て今大会初のデュエルとなる2人のデュエル。副将戦が、今始まる。


To be continue

       

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Neetsha