Neetel Inside ニートノベル
表紙

黄金決闘
第6話 黄金決闘者

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『最終戦、大将戦の選手を発表します。神之上高校2年、デュエリストレベル10、白神玄選手』
 静かな会場に無機質な女性のアナウンスが響く。そのアナウンスにより今まで以上の歓声を巻き起こし、ステージの玄へ向けて多くの眼差しが向けられた。
 デュエリストレベル10の高校生などそういない。数いるプロデュエリストの中でも数えるほどしか存在しないほどの希少で貴重な、デュエリストレベル10と言う存在。
 しかし、これから巻き起こる歓声は、この比ではなかった。
『栖鳳学園1年、デュエリストレベル測定不能、アンナ・ジェシャートニコフ選手』
 デュエリストレベル測定不能。
 それの表す意味はたった一つ。最強を超える最強。無敵を凌駕する無敵。最強無敵の12の頂点、『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』であることの証明だった。
 伝説の存在。世界に12人しか存在しないそれは、希少や貴重どころの話ではない。その伝説の存在が、何百何千と言う観客たちの前に、可愛らしい外国人の少女として姿を晒しているのだ。
 観客たちは、興奮を抑えられない。感情の高ぶりが衰えない。体を覆う熱が引くことを知らない。もしかしたら興奮で倒れてしまった人間すらいるかもしれない。
 それほどまでの、伝説。
 対するステージ上では、2人の決闘者が静かに言葉を交わしていた。
「改めて。久しぶりだな、アンナ」
「うん、久しぶりだよ、クロ。楽しみにしてた? 「リベンジ」を」
「別に。ただ、黙っていればいつかは来ると思ってたさ。こんなに早いとは思わなかったけどな」
「私は楽しみだったよ?」
「お前は何でも楽しみだろうが」
 適当に挨拶を済ませると2人は距離を取る。最低限の会話だけで済ませる。旧知の仲であろうと、語るのはデュエルの中でだ。
 興奮する観客たちを余所に、その中心に立つ2人の決闘者はこれ以上ないほど冷静だった。歓声は未だ消えない。歓声が止まってから始まるのか、はたまた歓声の中始まるのか、誰もタイミングを掴めないようなこの状況で、玄とアンナはあらかじめ決めていたかのようなタイミングで、声を重ねて始まりの言葉を紡いだ。

「「デュエル!!」」

 遂に……始まる。
「さーて、先攻はもらうぜ、っと。俺のターン、ドロー」
 副将戦の敗北から、玄は迷わず先攻を選択。
「俺は《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》を通常召喚。フィールド魔法、《岩投げエリア》を発動。さらにカードを1枚セットし、これでターンエンドだ」

第1ターン

LP:8000
手札:3
《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》、エリア、SS

アンナ
LP:8000
手札:5
無し

「先攻で《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》を攻撃表示か……」
「クロくんのデッキは、【メタビート】型の岩石デッキみたいですね」
 フィールドに存在する限り敵味方問わず特殊召喚を封じるモンスター。さらにはリバース時に特殊召喚モンスターをすべて破壊する効果も持つ。アンナのデッキが特殊召喚を多用することを念頭に置いた選択だ。
「玄くんは予想通りの選択だね」

 それは璃奈がアンナと出会った次の日、彼女のことについて玄が部員たちに語っているところだった。
「『反逆の忘却(ゼロカウンター・パーミッション)』……それが、アンナのデュエルスタイルだ」
 デュエルスタイル。デュエリストが持つデュエルの型。
 鷹崎ならば「速さ」。真子ならば「制圧」。美里ならば「抑制」と言ったように、デュエリストの中でも特に強者と呼ばれる者が持つ確立されたデュエルのスタイル。
「『反逆の忘却(ゼロカウンター・パーミッション)』っていうのは、その名の通りカウンター罠を使用しない【パーミッション】タイプのデッキ、そしてそれを十全に引き出すアンナの技量があって成り立つデュエルスタイルだ」
 【パーミッション】デッキとは、カウンター罠などを使用して相手の動きを封殺するタイプのデッキを表す言葉。その名称の由来は、行動を制限された相手が自身のプレイが成立するかどうかを相手に「許可しますか?」と何度も何度も問いかけたことから。
 しかし【パーミッション】デッキであるならば、カウンター罠がデッキの中心となるのは必然だが、アンナの『反逆の忘却(ゼロカウンター・パーミッション)』は違う。
「実際デュエルしたお前ならわかるだろ、璃奈」
「はい、大体の動き方は……」
 スタンバイフェイズに使用され、展開を防御用の札の一切を封じてきた《トラップ・スタン》。
 並べられ、魔法・罠の発動をほぼ不可能にしてしまった《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》の大量展開。
 さらには優先権を使用することによって罠も、手札の《オネスト》も封殺された。
「本来、【パーミッション】っていうの相手が行動してから動くもんだ。だが、アンナは相手が動く前にまず自分が動く。一から十まで止めるのではなく、一を止めることで十も止める。それがあいつのデュエルスタイルなんだ」
「ってことは、そのアンナって子はカウンター罠を1枚も投入していないの?」
「いくら初動を止めることに専念しているとはいえ、カウンター罠特有の「スペルスピード3」を捨てるなんて……」
 カウンター罠は唯一「スペルスピード3」を持つカード。最大にして最高位のカウンタースペルである。
 「スペルスピード」は高ければ高いほど強い。「スペルスピード3」のカウンター罠を止めるには同じカウンター罠でなければならないのだ。
「確かにな。だが、カウンター罠ってのは強力な反面、自分を追い詰める可能性のある諸刃の剣なんだ」
 多大なライフコストを必要とするな《神の宣告》、《神の警告》、《盗賊の七つ道具》。手札コストを要する《天罰》、《マジック・ジャマー》。発動タイミングが限られている《トラップ・ジャマー》、《威風堂々》。相手にアドバンテージを与える《魔宮の賄賂》など。
 【パーミッション】が敗北する理由としては、その多様性が高すぎるが故のデメリットからくると言うのが8割を超えている。
「お前だってデッキには全然カウンター罠を入れてないだろ?」
「それは、【ネオスビート】は除去カードはほかに十分にあるデッキですから、コストが必要なカウンター罠はあんまり合わないんですよ」
「そう、そういうことだ。カウンター罠が合わないデッキがあれば、カウンター罠が合わないデュエルスタイルってのもある。そういう解釈でいい」
 いまいち納得のいっていないような顔だが、それ以上突っ込んでは来ない。
「まぁ、このデュエルスタイルだってアンナのデュエルを構成するメインウェポンと言うだけであって、すべてじゃない。【パーミッション】デッキが本来防御タイプのデッキなのに対し、アンナのデッキは超攻撃的。通れば逆転不可能なレベルの制圧力だ。しかしどちらもあいつの力の片鱗でしかないんだ。だが、逆に言えばこのスタイル自体は封じることはそう難しくない」
「つまり……対策方法や攻略方法があるってことかしら?」
「ある。そしてそれは案外単純なんだ。単純だからこそやり辛いってのはあるけど、要は相手が動く前に動けばいいんだから――」

「――先攻を取って、相手の動きに対応できるようにすること」
 その答えが、玄の第1ターンだった。
 先攻はこの大会の特別ルールによって得ることができた。そして玄のデッキは【メタビート】。【パーミッション】とは多少毛色が違うが、相手の動きを逐一止める、封じる、抑制することには変わりない。その選択がいったいどうアンナに響いてくるのか。
(それにしても、さっき聞こえた「リベンジ」って……クロくんは昔アンナちゃんに負けた、ってことですか? 相手は『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』です。普通に考えたらクロくんとはいえ勝てるような相手じゃないのかもしれません。それでも、クロくんが負けるところを、私は想像できません)
 それほどまでに璃奈にとって白神玄と言うデュエリストは今まであった度のデュエリストよりも特別で、それほどまでに圧倒的だったのだ。
(……? なんでしょう。今感じた違和感は)
 璃奈が自分の思考に疑問を持っている間も、ステージの上ではデュエルは進む。第2ターン、アンナのターンがスタートした。
「アンナのターン、ドロー。うーん、特殊召喚を止められるのはさすがに痛いんだよー」
 頭を抱える素振りを見せるアンナ。それが本音なのか演技なのか、どちらせによ彼女の行動はすでに決まっていた。
「勿体ないけど、《ジャンク・シンクロン》を通常召喚だよ」
 チューナーモンスター。本来ならば単体でLV4かLV5のシンクロモンスターを場に出すことのでき、サーチやサルベージが豊富である優秀なモンスターだが、特殊召喚が封じられてしまってはその効果もその特性も意味がない。
 しかしその攻撃力は1300と、《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》の攻撃力1200を僅かながらに上回っている。
「だが、俺のフィールドには《岩投げエリア》が張られている。戦闘破壊はできねぇぜ」
 《岩投げエリア》がある限り、玄のモンスターは1ターンに1度だけ戦闘破壊を免れる。しかしもちろんアンナはこのことを忘れてなどいない。
「《サイクロン》を発動だよ。《岩投げエリア》を破壊」
 投石場はあっさりと旋風に巻き込まれ砕け散る。これで《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》を守る壁を壊したアンナはバトルフェイズへと突入する。
「《ジャンク・シンクロン》で《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》を攻撃!」
「喰らう」

玄 LP:8000→7900

 激しく地味ではあるが、展開を阻害していた《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》を破壊するとともに多少のダメージを与える。
「これで邪魔者はいなくなったね。魔法カード、《手札抹殺》を発動!」
 メインフェイズ2へ移行し、手札総入れ替えカードを発動。墓地を肥やすことと手札を一新させることを同時に行うその性能は、制限カードである所以の一つだ。
「させるかよ! リバース罠、《リビングデッドの呼び声》!」
 《手札抹殺》にチェーンする形で発動されたのは蘇生用罠、《リビングデッドの呼び声》。玄の墓地には蘇えらせる対象は1体のみ、もちろん《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》のことである。
「チェーンの逆順処理だ。まずはチェーン2で俺の《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》が復活。そしてチェーン1で《手札抹殺》の処理……互いに手札を全て捨て、同じ枚数だけドローする。3枚捨て、3枚ドロー」
「むー、3枚捨てて3枚ドローだよ」
 この時アンナの手札から捨てられたのは《ダンディライオン》、《スポーア》、《BF-精鋭のゼピュロス》の3枚。どれも墓地で真価を発揮するカードだが、その効果はどれも特殊召喚効果。特殊召喚封じの《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》が居てはその効果を発揮できない。
「《ダンディライオン》は墓地へ送られた場合2体のトークンを生成する。しかしトークンの発生も特殊召喚。《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》の前じゃ不発だぜ」
「クロってばやらしーことするね」
「褒め言葉として貰っといてやるよ」
 展開は再び封じられた。アンナはこのターン満足な動きはできない。
「アンナはスペルを1枚セット。ターンエンドだよ」
 状況としてはほぼ五分五分。だが、プレイングのセンスを見れば玄のほうが若干有利に見える。予備知識とそれによって考案された対策によって、『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』相手に一歩も引かない。
「私の時とは事情がいろいろと違うとは言え、アンナちゃんの動きをあそこまで封じるなんて……流石はクロくんです!」
「スタートは悪くないね。いや、むしろ良いとも言える。相手を思い通りに動かさない上に、主導権は彼に傾きけている」
「まだ2ターン目だっていうのに、見てるこっちが気を抜けないわ……」
「実際にデュエルしてる当事者たちの方が何倍も気を抜けないだろうけどな」
「問題は「ここ」だよね。この1周が流れを持っていくキーになるはずだよ」
 逆に言えば、ここで玄が流れを持っていかなければ、次はアンナは流れを持っていくチャンスを得ると言うこと。一瞬も油断などできない。

第2ターン

LP:7900
手札:3
《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》、《リビングデッドの呼び声》

アンナ
LP:8000
手札:2
《ジャンク・シンクロン》、SS

「俺のターン、ドロー! このまま流れに乗らせてもらうぜ。《コアキメイル・サンドマン》を召喚!」
「今度は罠を止めに来たね」
 岩石型の【メタビート】の代表たる《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》に「コアキメイル」。封じることに徹底した構築だ。
「バトル! 《コアキメイル・サンドマン》で《ジャンク・シンクロン》を攻撃!」
 セットカードの発動はなし。仮に発動しても罠カードならば《コアキメイル・サンドマン》に止められるだけだ。

アンナ LP:8000→7400

「さらに、《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》でダイレクトアタック!」
 空いたフィールドにすかさず《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》の突進がアンナを襲う。
「うっ……」

アンナ LP:7400→6200

 こちらもまた地味。しかし地味ながらに確実にライフを削っていく。
 派手に攻めるアンナに対して地味に攻める玄。
「カードを1枚セット。俺はこれでターンエンド」
 静かに、しかし確実にデュエルは進んでいく。ただし、その静けさが続くのもこのターンまで。嵐の前には必ず静けさが訪れるものなのだ。

第3ターン

LP:7900
手札:2
《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》、《コアキメイル・サンドマン》、《リビングデッドの呼び声》、SS

アンナ
LP:8000
手札:2
SS

「アンナのターン。クロ……クロのデュエルは何かを怖がってるみたいに見えるよ」
「……俺が、怖がってる? まぁ、そうかもな」
 互いに茶化すようでもなく、真剣な眼差しで言葉を交わす。
「やっぱり……あの時の」
「今はそんな話はいいだろ。昔話に花咲かしたいならデュエルの後にしろっての。余裕かましてるなら喉元咬み千切るぞ」
「うん、そうだね……。それじゃあ気を取り直して、速攻魔法、《禁じられた聖杯》! 《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》の攻撃力を400ポイントアップ!」

《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》 ATK:1200→1600

 しかし対価として《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》はその効果を奪われる。これでアンナの展開力は回復した。
「2枚目の《ジャンク・シンクロン》を通常召喚! 効果で《スポーア》を特殊召喚だよ!」
 並んだのは2体のチューナーモンスター。しかしこれではシンクロはできない。
「まだまだ! 墓地からモンスター特殊召喚に成功したとき、手札から《ドッペル・ウォリアー》を特殊召喚!」
「まずい! この流れは『必殺同調龍の構え(クェーサールート)』だ!」
 声を大にしたのは神之上高校決闘部部長、音無祐介だ。
「彼女の墓地には《ダンディライオン》、フィールドには《ジャンク・シンクロン》、《スポーア》、そして《ドッペル・ウォリアー》。このまま行けば致死寸前まで追い込まれてしまう!」
「そうは言っても罠を封じる《コアキメイル・サンドマン》じゃこの展開は防げませんよ……!」
「後はあのセットカードにセットカードに望みを託すしかなさそう……だね」
「いっくよぉっ! レベル2の《ドッペル・ウォリアー》に、レベル3の《ジャンク・シンクロン》をチューニング! シンクロ召喚! 機械仕掛けの魔法使い、《TG ハイパー・ライブラリアン》!!」
 ここで《ドッペル・ウォリアー》の効果が発動。シンクロ素材に使用されたとき、2体の《ドッペル・トークン》をフィールドに残す。
「レベル1の《ドッペル・トークン》にレベル1のレベル1の《スポーア》をチューニング! シンクロ召喚! 光の同調師、《フォーミュラ・シンクロン》! シンクロ召喚成功時に1ドロー。さらに《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果でさらに1枚ドロー!」
 0枚になっていた手札が一瞬で2枚増える。そしてまだ展開は続く。
「墓地の《ダンディライオン》をゲームから除外して、墓地の《スポーア》をアンナのフィールドに特殊召喚!」
 《手札抹殺》の効果によって墓地へ送られたカード。
 その効果は、墓地の植物族モンスターをゲームから除外し、除外したモンスターのレベルを自身のレベルに追加した状態で墓地から特殊召喚ができるというもの。《ダンディライオン》のレベルは3、《スポーア》の元々のレベルは1。よって。

《スポーア》 LV:1→4

 レベル4のチューナーモンスターとしてフィールドに現れる。
「レベル1の《ドッペル・トークン》にレベル4になった《スポーア》をチューニング! シンクロ召喚! 無慈悲の殺戮機械、《A・O・J カタストル》!」
 当然《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果で1枚ドロー。
「これで準備完了……ってか?」
「まだまだっ! 手札1枚を墓地に送って《クイック・シンクロン》を特殊召喚! そして《クイック・シンクロン》のレベルを1つ下げて、今墓地に送った《レベル・スティーラー》を特殊召喚!」

《クイック・シンクロン》 LV:5→4

「レベル1の《レベル・スティーラー》にレベル4になった《クイック・シンクロン》をチューニング! シンクロ召喚! 鉄拳の戦士、《ジャンク・ウォリアー》!!」
 さらに1枚ドロー。減っては増える手札。しかしモンスターの数だけは一向に減らない。
「レベル5の《ジャンク・ウォリアー》と《A・O・J カタストル》に、レベル2のシンクロチューナー《フォーミュラ・シンクロン》をチューニング! リミットオーバー・アクセルシンクロ!! 最強龍――」

 Shooting Quasar Dragon!!!

「クロくんのセットカードは反応なし……つまり」
「出ちゃったわね」
「最強のシンクロモンスター、《シューティング・クェーサー・ドラゴン》が」
 シンクロモンスターを最低3体要する重さに見合った超重量ドラゴン。
 チューナー以外の素材モンスターの数だけ攻撃することができる連続攻撃能力。1ターンに1度、魔法・罠・モンスター効果の発動を止める広範囲防御能力。フィールドを離れた時にエクストラデッキから《シューティング・スター・ドラゴン》を特殊召喚する後続展開能力。
 3つの驚異的な能力を持つその神々しい姿がフィールドを圧倒する。
「《シューティング・クェーサー・ドラゴン》のシンクロ召喚に成功したから、《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果で1枚ドローするよ」
「だが、そいつらの攻撃をすべて受けきってもライフは残る。刈り切れねぇだろ」
 玄のフィールドには攻撃力1900の《コアキメイル・サンドマン》と《禁じられた聖杯》によって強化され攻撃力が1600まで上昇している《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》。2体の攻撃を受けても1100のライフが残る。ゲームエンドとはいかない。
「そうだね。1ターンでも隙を出せばクロは何をしてくるか分からないし……。だから、ここで終わらせるんだよ!」
 アンナそう言いながら1枚のセットカードに手を当てる。
「《二重召喚》を発動! 通常召喚の権利を1回増やすよ!」
(さっきのターンにセットカードしてたのは《二重召喚》……ブラフか。いやそれだけじゃないな。カードをセットすれば罠を警戒し、同じ「コアキメイル」でも《コアキメイル・ガーディアン》や《コアキメイル・ウォール》よりも優先して《コアキメイル・サンドマン》を出すと踏んだのか……)
 そして、《二重召喚》の効果により増えた召喚権を使用し、《シンクロン・エクスプローラー》を追加召喚。
「《シンクロン・エクスプローラー》の効果を発動だよ! 墓地から「シンクロン」1体――《クイック・シンクロン》――を蘇生! さらに《シューティング・クェーサー・ドラゴン》のレベルを1つ下げて《レベル・スティーラー》を特殊召喚!」

《シューティング・クェーサー・ドラゴン》 LV:12→11

「レベル1の《レベル・スティーラー》とレベル2の《シンクロン・エクスプローラー》に、レベル5の《クイック・シンクロン》をチューニング! シンクロ召喚! 怒涛の破壊者、《ジャンク・デストロイヤー》!!」
 《ジャンク・デストロイヤー》は、シンクロ召喚成功時に、使用したチューナー以外の素材の数だけフィールドのカードを破壊できる。
「チェーン1、《TG ハイパー・ライブラリアン》のドロー効果。チェーン2、《ジャンク・デストロイヤー》の破壊効果。逆順処理で《ジャンク・デストロイヤー》の効果が発動! クロのセットスペルと《コアキメイル・サンドマン》を破壊!」
 これを受け、全軍の攻撃を受ければ玄のライフは即座に消え去る。しかし《シューティング・クェーサー・ドラゴン》がいては発動したカードは無効にされるだけ。あっけなく玄のフィールドから2枚のカードが消え去った。

 同時に、アンナのフィールドからも《シューティング・クェーサー・ドラゴン》と《ジャンク・デストロイヤー》が姿を消した。

「――!?」
 驚愕するアンナ。いや驚きを見せているのは彼女だけでなく、ベンチのチームメイトたちや、会場を包む観客たち、その全てが驚きを隠せずにいた。
「今……何が……?」
「何呆けてやがる。俺はたった1枚、リバースカードをチェーン発動しただけだぜ」
 《シューティング・クェーサー・ドラゴン》召喚までのプロセス中には発動の意思すら感じられなかったそのセットカードがここにきて発動された。
 よく見ると玄の手札が1枚減っていることに気付き、この現象の理由にもすぐに気付いた。
「手札1枚をコストに、お前のフィールドの《シューティング・クェーサー・ドラゴン》と《ジャンク・デストロイヤー》を融合した。現れろ――」
 竜巻のエフェクトと共にフィールドに現れたのは一槍のランスを持った竜騎士。

 Dragon Knight Draco-Equiste!!!

「《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》……!! 発動されたカードは、《超融合》ですか!?」
 《超融合》――手札コスト1枚を要するが、その代り強力な効果を持つ。1つは相手フィールドのカードも素材とすることができること。そしてもう1つ――。
「あのカードに対してチェーンは組めねぇ。《シューティング・クェーサー・ドラゴン》がいくら魔法・罠・モンスター効果を止めることができるとは言っても、チェーンできないなら意味はねぇな」
「それに《シューティング・クェーサー・ドラゴン》がフィールドを離れた時に発動する後続展開能力は、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の特殊召喚処理が挟まるからタイミングを逃し発動できないね」
「《シューティング・クェーサー・ドラゴン》にとって《超融合》は天敵中の天敵とも言えるカードだ。彼はこの状況を見越していたのか」
「1ターンでライフを刈り切ろうと焦った結果、玄くんのフィールドにモンスターを展開した上、強力なシンクロモンスターを2体も失った。ミスとも言えないようなミス。それでも、ほんの一瞬の隙を突いてきたわね」
(アンナの隙を突いた……? ううん、さりげないセリフに、軽い目線移動や息遣いまで利用してアンナのプレイングをクロが誘導したんだよ。と言うかそもそもアンナが《フォッシル・ダイナ・パキケファロ》をすり抜けて《シューティング・クェーサー・ドラゴン》を出すことまで読んでた?)
 すべて計算。アンナの至った結論はそんな信じられないようなものだったが、しかしもしそれが正解だったなら――白神玄は。
 とその時、観客席がざわめき始める。ここにきて観客たちには1つの疑念が生まれ始めていた。
 アンナ・ジェシャートニコフは本当に『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』などと呼ばれるほど強いのか。
 果たして『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』とは本当に最強かつ無敵の存在なのか。
 彼女はここにいるデュエリストたちとなんら変わらない普通のデュエリストなのではないか。
 だが、そんなものはただの勘違いの思い違いの気違いである。アンナとデュエルした経験のある璃奈や栖鳳のメンバーならこの状況の異常性が分かった。
「アンナが押し負けてる……? 何の冗談よ、一体」
「僕らはともかく鳳先輩だって勝てなかったのに」
「『反逆の忘却(ゼロカウンター・パーミッション)』だって全然決まらないし……」
「もはや異常を超えて異様、いや偉業とでも呼ぶべきか」
 栖鳳側が各々に心境を口にしている中で、璃奈は自身の違和感に気が付いてた。
(私ににとってクロくんと言うデュエリストは、今まであった度のデュエリストよりも特別で、それほどまでに圧倒的でした。「今まであったどのデュエリストよりも」? なんで、私はそう思ったのでしょうか? なんで『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』であるアンナちゃんを差し置いてそんなことを思ったのでしょうか? いつの間にかにアンナちゃん以外の、と心の中で勝手に条件を作ってた? ううん違います。私はアンナちゃんを含めて、アンナちゃんがいることを前提にして、それでもクロくんが誰よりもどんなデュエリストよりも特別で圧倒的だと思ったんです)
 璃奈は無意識的に気付いていた。いや、気付いていたが頭が追いつかなかっただけなのだ。
(多分、2人とデュエルしたことがある私だから気付けたのでしょう。クロくんは……アンナちゃんよりも、強いんです)
 それが……唯一無二の、事実にして真実だった。
「やっぱりクロはアンナよりもずーっと強くて、すごくて、かっこいいんだよ。ね、クロ? ううん――」

 ――元『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』、ジェミニの白神玄、って言ったほうがいいのかな?


 To be continue

       

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