Neetel Inside ニートノベル
表紙

黄金決闘
第8話 本戦:VS桜ヶ丘女学院

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「やぁ! やぁやぁやぁやぁやぁやぁやぁ! ひぃっっさしぶりじゃんクロォー!! まったく何年ぶりだよ!? いや1年もたってないか! それでも超久しぶりだよな! あれあれ? どうしたんだよクロ! やけにテンション低いなぁもう! 久しぶりの友人との再会だっていうのにそんなテンション低いんじゃ神様に祟られちゃうぜ! 日本の神様はいっぱいいるって言うし、もっとテンション上げて行こうぜー! んー? クロもしかして身長伸びた? いや伸びてないか! それはそれはとしてアンナが世話になったみたいじゃん! いやーこの前突然アンナから電話が来てさぁ、「なんでミハが日本にいるんだよっ!?」ってすごく驚かれたよ! まぁ、アンナに気付かれないように僕も留学したんだけどね、サプライズとして! いやー我が妹ながら中々可愛いやつだよ! おやおやおやおや、ねぇねぇそっちにいるのはクロの高校のメンバー!? よろしく! 僕はミハイル・ジェシャートニコフ!! こう見えても『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』やってます! みんなは呼び捨てでミハイルとか略してミハって呼んだりしてくれるよ! みんなも好きに読んでくれていいよ! おいおいクロォ! 可愛い女の子いっぱいじゃなないか! あの小っちゃい子なんてエルの好みっぽくない? なぁクロもそう思うよなぁ! それでそれでクロはいったいどの子と付き合ってるの? そのロリっ子? 眼鏡の大人しそうな子? それとも巨乳ちゃん? いやーでも僕的にはアンナが一番かわいく見えちゃうなぁ! 兄バカかなぁ? でもアンナ可愛いよね! クロもそう思うよな! アンナ可愛いよな! なぁクロどうしたんだよさっきから何無言で肩をプルプル震わせてるんだよああなるほど感動の再会に感動して感動の声も出ないのか僕も感動で涙が溢れ出そうd……」
「うるせええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
「べへりっとぉっ!!?」
 玄はその小柄の体のどこにそんな力があるんだというほどの脚力で高く飛び、ガヤガヤとうるさい少年の側頭部に向かって飛び膝蹴りを喰らわせる。妙な断末魔と共に、面白いくらい吹き飛んだ。
「えっとぉ、クロくん? 大丈夫……じゃなさそうですけど大丈夫なんですか? あの人」
 璃奈が心配そうに言う。
「大丈夫だ。あの程度じゃ死にはしねぇよ」
「いやぁ……あれは死ななくても重症だと思うんだけど。彼、5、6メートルくらい吹き飛んだけど」
「大丈夫大丈夫。あいつはあれが日常茶飯事だから」
 そう玄が言うと、むくっと立ち上がりこちらに近づいてきた。
「ちょおおおおおおおおクロオオオオオオオオゥッ!? どこの世界に久しぶりにあった友人に脈絡もなくシャイニング・ウィザード喰らわせる奴がいるんだよおおおおおおおおお!」
 8月14日、午後1時。
 全国高校生デュエル大会本戦会場。神之上高校決闘部はそこで、宮路森高校決闘部でありアンナ・ジェシャートニコフの兄であり『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』であり馬鹿であるミハイル・ジェシャートニコフに偶然出会っていた。
 出会い頭に怒涛のミハイルワールドを展開され、一言もしゃべれずにいた玄が痺れを切らして怒りのシャイニング・ウィザード。それでようやくミハイルも少しだけ静かになった。
「脈絡があるとかないとか関係ねぇ。うるせえんだよ、お前は。もっと緊張感的なものを持ちやがれ」
「緊張? 僕がそんなキャラに見えるのか、クロ?」
「見えねぇよ。こっちの緊張感を考えてお前も合わせろって言ってんだ」
 ミハイル・ジェシャートニコフは玄と同じく高校2年生。銀髪碧眼という特徴はアンナと同じで、黙っていれば普通に美少年。身長は音無よりは小さいが、それでも180㎝はある。
「ってか、なんでお前がここにいるんだよ」
「だからさっきも言ったじゃん。決闘留学だよ。アンナと同じで」
「いやそう意味じゃ無くて、今現在なんでこんな場所にいるんだよって聞いてんだ。Aブロックの会場は真反対だろ」
「えぇっ、マジで!?」
 そして方向音痴である。
「トイレを探してたらようやくここで見つけて……」
「いや、おトイレなら控室のすぐ隣にあるんじゃ……」
 神之上高校決闘部の面々は、丁度これからステージへ向かうときにトイレから出てくるミハイルに出くわしたのだ。
「ん? Bブロックの俺らがこれからステージに向かうところってことは……」
 と鷹崎が切り出し、ほかのメンバーも気付く。
「なぁミハイル、お前時間やばいんじゃねぇか?」
「ん? え、あっ、ホントだ! ダッシュで帰らないと! クロ、また明日!」
 そう言って颯爽と通路を駆け抜けていった。と思いきやすごい勢いで止まり玄の方へ振り返った。
「っと、その前にクロ。カイから伝言があるんだった」
「ん?」
「「楽しみにしてるぞ」だってさ。それじゃ今度こそバイバーイ!!」
 玄の返答を待たず、手を大きく振りながら走り出すミハイル。もうその姿は見えなくなっていた。
「あいつ、また迷うぞ……?」
(つーか針間先輩、ミハイルに俺宛の伝言を伝えってあったってことは、あいつが道に迷ってこっちの方にまで来ること予想してたな。分かってたなら誰か付き添わせればいいのに……)
「えーっと、賑やかな人ですね」
「いや、妙なフォローはいらねぇよ。あれはうるさいでいいんだ」
「ミハイルくんも『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』……なんだよね?」
「アンナちゃんといい、ミハイルくんといい、どうもそんな感じはしないわよねー」
 雰囲気というか、風格というか……と、真子は付け加えた。
「そんなもんだ。実際、『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』で風格のある奴なんて半分もいねぇよ。それよりも、ステージに向かおうぜ」
 スタートは1時半から。A、B、両ブロックのデュエルが別々のステージで同時に始まる。



   8-1 ― 本戦開始と準備完了 ―



「本戦はどんなルールでデュエルするんだよ?」
 それは5日前、「MAGIC BOX」で栖鳳学園と練習試合もどきを行った日。アンナは不意にそんなことを玄に聞いてきた。
「結構面白そうな感じだったぜ。えーっと、この前本部から詳細ルールを記したメールが来てたんだけど……あった、これだ」
 その画面を移した携帯をアンナに渡す。その画面には、いくつかのルールが記されてた。
 1.本戦では6対6の勝ち抜け戦を行う。勝利したプレイヤーはそのままのライフ、手札、フィールドの状況のままターンを進め、次の対戦プレイヤーとデュエルをする。例)プレイヤーAとプレイヤーBのデュエルの結果、プレイヤーAがライフ4000、手札2枚、モンスターゾーンには《スターダスト・ドラゴン》、魔法・罠ゾーンには《聖なるバリア-ミラーフォース-》が伏せられている状況で、プレイヤーBのライフを0にした。その状況のままプレイヤーCのターンからデュエルが再開する。
 2.バトルフェイズでライフを0にした場合、そこで強制的にバトルフェイズは終了し、メインフェイズ2に移行する。ただし、バトルフェイズに《魔法の筒》などのカードによってターンプレイヤーのライフが0になった場合、メインフェイズ2へ移行することはできず、次のプレイヤーへとバトンタッチし、対戦プレイヤーのターンからスタートする。その場合でもモンスターゾーン、魔法・罠ゾーンの状況はそのまま次のプレイヤーに引き継がれる。
 3.バトルフェイズ以外でライフを0にした場合、バトルフェイズ前であればそのターンにバトルフェイズを行うことはできず、メインフェイズを終了した時点でそのままエンドフェイズとなる。
 3.墓地は同校内で共有。《貪欲な壺》などの墓地のカードをデッキに戻すカードによって前プレイヤーのカードを選択することは可能だが、選択したカードは持ち主に戻るだけで、発動プレイヤーのデッキには戻らない。
 4.最終的に対戦校のメンバー6人すべてを倒したチームの勝利とする。
 5.このルールに関してのみ、特別禁止カードを設ける。表は以下の通り。
「えーっと、《封印されしエクゾディア》、《終焉のカウントダウン》、《ウィジャ盤》とかの特殊勝利効果を持ったカードに……《カオス・ネクロマンサー》、《究極時械神セフィロン》、《残骸爆破》などなど……」
「特殊勝利されちゃあ団体戦の意味がないし、2人目以降が楽に使えたり強くなりすぎたりするカードも、そればっかり使われたらみてる側が面白くないからな」
「ふーん……それでクロ、何か策みたいなのは考えたんだよ?」
「いや……大して考えてないな」
「……それで大丈夫なのー、クロー?」
「まぁ、対戦相手がやってくるであろう手はいくつか予想がつく。その辺適当に考えるさ」


 午後1時半。遂に全国高校生デュエル大会本戦が始まりを告げる。
 Bブロック。神之上高校と桜ヶ丘女学院の試合。その頃反対側のAブロックでは宮路森高校と藍原学園が試合を行っている頃だろう。
『Bブロックの実況及び解説は私、プロデュエルリストの三木島由愛(みきしまゆめ)お姉さんが務めまーすっ。いぇーい!』
「すっげーな。三木島プロっていたっら確かランキングでも2桁クラスだろ。よくそんな人の都合がついたな」
 本戦では実況兼解説としてプロデュエリストが呼ばれる。今回呼ばれた三木島プロは数百数千といるプロデュエリスト中でも2桁クラス。6年間のアベレージで91位を記録している相当な実力のデュエリストだ。
「三木島プロは桜ヶ丘女学院の卒業生らしいよ。そういうつながりじゃないかな?」
「なるほど」
「目立ちたがりでも有名ですからね……プロデュエリスト界でも「デュエルのお姉さん」で通ってるほどですし、率先してこういうのに来てるんじゃないでしょうか?」
「それに今年は盛り上がるのが確定してるしね。なんてったて『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』が確定で3人も出るんですもの」
「……俺は「元」だけどな」
『このままオープニングはお姉さんのトークで盛り上げちゃってもいいんだけど、みんなはごちゃごちゃ話しを聞くよりもデュエルを見たいだろうから、早速対戦校の紹介から。まずは東ブロック代表、神之上高校!!』
 うるさいほどの歓声。予選の時とは比べ物にならない観客の声がステージを震わせる。
『続きましてー、北ブロック代表、桜ヶ丘女学院!!』
 同じだけの歓声が響く。
「こういう大会に参加する高校で女子高は珍しいよね」
「地区予選にはずっと出てたみたいだけどね。本戦出場は今年が9年ぶり2回目だそうだよ」
「つまり、今までのブロック代表を下しての本戦出場……油断は大敵ってか」
「逆に、今までの本戦出場が全然ないからデータが集めづらいんだよなぁ」
 そうこうしているうちに試合スタートの準備が整う。
『それではさっそく行っちゃいましょーっ! 両校、最初の選手は出てきちゃって下さいな~!』
「それじゃ、言ってくるわ」
 立ち上がったのは真子。ステージに上がっていく。
(1度決めたオーダーは最後まで変えられない。宮路森を相手取るなら初戦は真子先輩に任せた方がいいだろう……多分)
 オーダーの変更は不可能。ならば最も恐れるべきであろう宮路森と対戦するときのことを考えての玄が提案したオーダー。その選択がどう影響するのかはまだ分からない。
(あー、っと去年は感じなかったんだけどなぁ。3年生だから、かしら? プレッシャーやばいわね。負けちゃったら合わせる顔ないかも……)
 ステージへと登っていく階段の途中、真子は後輩の前では出さないような弱気な思考をする。しかし登り終えると……。
「よしっ! まずはぱぱっと1人くらいやっつけちゃおうかしらね!」
 デュエルディスクを勢いよく構える。
「よ、よろしくお願いします!」
 桜ヶ丘側からも一人現れる。真子の……神之上の最初の対戦相手だ。
「え……えっと、胸をお借りします」
「貸すほどないけどねー」
(随分と弱気な子ね。緊張してるのかしら?)
『まずは初戦、神之上高校3年生で副部長さん、デュエリストレベル8の辻垣内真子選手! そして桜ヶ丘女学院1年生、デュエリストレベル6の入野真由(いりのまゆ)選手!』
 デュエルディスクが先攻後攻を決める。この結果が今後のデュエル全てに反映される大事な瞬間だ。結果先攻は。
『先攻は神之上高校ですね。それでは――』
 両者、構えたデュエルディスクからカードを引き……。

「「デュエル!!」」

 真剣勝負、その始まりのゴングが鳴り響く。
「私のターン、ドロー!」
(重要な初ターン。とりあえずは焦らずにいつも通りいつも通り……)
 6枚の手札から2枚のカードを引き抜く。
「モンスター1体とカードを1枚伏せて、ターンを終了するわ」
 落ち着いて様子見を選択。派手な動きは次のターンからだ。

第1ターン
真子
LP:8000
手札:4
SM、SS

入野
LP:8000
手札:5
無し

「わ、私のターンです……えーと、《ライトロード・パラディン ジェイン》を召喚です」
(【ライトロード】かしら?  いや……それよりも、何かしらこの違和感は?)
 真子の感じた違和感など知りもせず、入野はフェイズを進める。
「バトルフェイズです。《ライトロード・パラディン ジェイン》で裏側守備表示のモンスターに攻撃します!」
 自らモンスターにバトルを仕掛けるとき、《ライトロード・パラディン ジェイン》は攻撃力が上昇する。そこらの壁ではその攻撃を防ぎきれない。

《ライトロード・パラディン ジェイン》 ATK:1800→2100

 だが。
「迂闊ね。《ピラミッド・タートル》の効果を発動よ! このモンスターが戦闘によって破壊されたとき、デッキから守備力2000以下のアンデット族モンスター1体を特殊召喚できる! 現れなさい、《茫漠の死者》!!」
 そしてバトル終了と共に《ライトロード・パラディン ジェイン》の攻撃力も元に戻る。

《ライトロード・パラディン ジェイン》 ATK:2100→1800

《茫漠の死者》 ?→4000

「よ、4000……! えっと、じゃあ、メインフェイズ2で、カードを1枚伏せて、エンドフェイズに入ります」
「そこよ! 速攻魔法、《サイクロン》! その伏せたカードを破壊!」
 エンドフェイズ《サイクロン》。通称エンドサイク。速攻魔法では伏せターンにチェーンはできず、罠は1ターン待たなければ使えない。デュエリストの基本技の一つだ。
「あっ、《サンダー・ブレイク》が……」
 手札1枚をコストにカードを1枚破壊する罠カード。《茫漠の死者》を迎え撃つつもりだったのだろうが、発動されることなく墓地へと送られる。
「このままターン終了なら、《ライトロード・パラディン ジェイン》の効果を処理しちゃったら?」
「えっ、あ、はい。エンドフェイズ、デッキの上からカードを2枚墓地へ送ります」
 「ライトロード」は単体で強力な効果を持つモンスターが多いが、その副産物兼デメリットとして、自らのデッキを削っていかなければならない。
「これで私のターンは終わりです」
 完全に真子が攻め入る流れ。それを感じたのか真子のきらりと光る。

第2ターン
真子
LP:8000
手札:4
《茫漠の死者》

入野
LP:8000
手札:4
《ライトロード・パラディン ジェイン》

「私のターン、ドロー!」
 入野の伏せカードはなし。真子は一気に展開を目論む。
「《ゾンビ・マスター》を通常召喚。手札の《馬頭鬼》を捨てて効果発動! 墓地からアンデット族モンスター1体を蘇生……私は墓地から《ピラミッド・タートル》を特殊召喚! バトルフェイズに入って《ピラミッド・タートル》で自爆特攻よ!」

真子 LP:8000→7400

「《ピラミッド・タートル》が戦闘で破壊されたことでもう1度効果を発動! 2体目の《茫漠の死者》を特殊召喚!」

《茫漠の死者》 ATK:?→4000

「ま、またぁ……」
「まだまだバトルフェイズは続くわよぉ! 《ゾンビ・マスター》で《ライトロード・パラディン ジェイン》に攻撃!」
 攻撃力は両方とも1800……このまま行けば相殺だ。
「《オネスト》警戒ですね。良ければこのまま相殺で場が空いて、2体の《茫漠の死者》の攻撃でライフは0です」
「悪いと1800の反射ダメージを受けるけど、それでも《茫漠の死者》2体で4400ダメージ入るしね」
(《オネスト》がないなら私は無駄に《ゾンビ・マスター》を破壊させたことになるけど、それでも勝ちは取れる。《オネスト》があっても使わざるを得ない状況。それでも十分に《茫漠の死者》で圧倒できるわ)
 結果は。
「お、《オネスト》を手札から墓地へ送って効果を発動します……」
 手札から墓地へ送ることで光属性モンスターの攻撃力を戦闘モンスターの攻撃力分上昇させる強力なカード。《ゾンビ・マスター》の攻撃力1800ポイント分だけ攻撃力が上がる。

《ライトロード・パラディン ジェイン》 ATK:1800→3600

真子 LP:7400→5600

 しかし《ライトロード・パラディン ジェイン》の攻撃力が2倍になろうとも《茫漠の死者》には敵わない。
「それじゃあ、《茫漠の死者》Aで《ライトロード・パラディン ジェイン》を攻撃!」

入野 LP:8000→7600

「モンスターがぁ……」
「さらに《茫漠の死者》Bでダイレクトアタックよ!」
「きゃぁっ……!」

入野 LP:7600→3600

「私はカードを1枚伏せて、ターンを終了するわ」
(なんだか拍子抜けよねぇ……)
 緊張感を緩めるが、油断だけはしないようにしながら真子はターンを終える。

第3ターン
真子
LP:5600
手札:2
《茫漠の死者》×2、SS

入野
LP:3600
手札:3
無し

『序盤から辻垣外選手が押していますねー。デュエリストレベルの差か、それとも年齢の差か。どちらにしても、デュエルの流れは完全に辻垣外選手がものにしちゃってますし、入野選手にはこのターン頑張ってほしいものですね~』
 などとおっとりした調子で三木島プロは言うが、入野動きはこのターンも大人しいものだった。
「私のターン、ドローです。えっと、《ライトロード・マジシャン ライラ》を通常召喚します。効果で守備表示に変更して、伏せカードを破壊します」
(私の伏せカードは《リビングデッドの呼び声》。墓地には《ピラミッド・タートル》と《ゾンビ・マスター》と《馬頭鬼》だけ。チェーン発動させて美味しいモンスターは墓地にはいないし)
「破壊されるわ」
「それじゃあ、カードを1枚伏せて、えーっと、エンドフェイズに《ライトロード・マジシャン ライラ》の効果でデッキの上から3枚墓地に送って、ターンエンドです……」
 4ターン目だというのに動く気配もなければ、たどたどしい口調も治ることはなかった。後者はそういう性格のだとしても、前者については不可解どころか不気味ですらあった。
(この子……何を考えているの? いや……何も考えてない?)
 何も考えていないということはないだろうが、明らかに真子を倒そうという気概が感じられなかった。
 そして再び真子のターンへ。

第4ターン
真子
LP:5600
手札:2
《茫漠の死者》×2

入野
LP:3600
手札:2
《ライトロード・マジシャン ライラ》、SS

「私のターン!」
(何を考えていようと考えていまいと、このターンで終わりにする!)
 メインフェイズを飛ばして即バトルフェイズに入る。
「《茫漠の死者》Aで《ライトロード・マジシャン ライラ》を攻撃! 《茫漠の死者》Bでダイレクトアタック!」
 《ライトロード・マジシャン ライラ》は何の抵抗もなく破壊される。
 そして入野のライフは3600。対する《茫漠の死者》の攻撃力は4000ポイント。このダイレクトアタックを受ければ入野のライフは0となるが……。
「きゃああああああっ!」

入野 LP:3600→0

 何の防御もなく、あっけなく勝負はついた。
『初戦、決着です! 勝負は予想外にあっさり着いてしまいましたね。【ライトロード】の「切り札」が出てくる前にデュエルが終わってしまったのがお姉さん的にはちょっぴり残念です。それでは気を取り直して桜ヶ丘女学院からは2人目のご登場です。3年生、デュエリストレベル8、小野寺百合香(おのでらゆりか)選手です! 辻垣外選手と同じく副部長さんのようですね』
 今大会の特殊ルールによって、デュエルはこれでは終わらない。プレイヤーが入れ替わり、デュエルは続行される。
「お疲れ様」
「お、小野寺副部長……。ご、ごめんなさい。私何にも出来なくって……」
「いいのよ。あなたの仇はあたしが取ってあげるから」
「うぅ……っ、副部長ぅ……」
「それに」
 準備は整ったわ。真子には小野寺がそう言っているのように聞き取れた。
(準備……切り札……【ライトロード】……そしてあの子のプレイング……。まさか……っ!)
 ここで真子が桜ヶ丘の思惑に対して、ある一つの結論に至る。可能性は無視できる程度には低くない。
「これは……まずいかもね」
『プレイヤーが交代致しましたので、辻垣外選手は強制的にメインフェイズ2へ移行してもらいますね~』
「私はカードを1枚伏せるわ。これでターンエンド」
(防御札が足りない……間に合わないかも)
 呑気そうな三木島プロに対し、直接デュエルしていたからこそ感じ取れた違和感に、真子は内心相当焦っていた。

第5ターン
真子
LP:5600
手札:2
《茫漠の死者》×2、SS

小野寺
LP:8000
手札:5
SS

「私のターン。まずは伏せカードを発動」
 入野が残した1枚の魔法カードを小野寺が発動する。そのカードの発動によって真子の不安は確信へと変わる。
(やっぱりそう来るのね……)
「魔法カード、《ソーラー・エクスチェンジ》。手札の《ライトロード・ビースト ウォルフ》をコストにして、2枚のカードをドロー。その後デッキの上からカードを2枚墓地へ送るわ」
(【ライトロード】2連投……! いやおそらくは6連投で来る!)
 【ライトロード】には墓地が肥えることで出せる強力な切り札が存在する。条件を満たすのは大して難しくはない。しかし今回の特別禁止枠にはそのカードは入っていなかった。なぜなら【ライトロード】という区切りでしかその真価を発揮できないからだ。デッキを縛られる代わりに強力な切り札を得る。桜ヶ丘女学院はそのデメリットよりもメリットに目を付け、本戦ではメンバー6人全員が【ライトロード】デッキで挑んできたのだ。
(最初の入野さんが妙に慣れない手つきだと思ったら、普段使ってるデッキとは違う【ライトロード】を使っていたから……。そして私を倒すためのデュエルではなく、残りのメンバーのために準備をするためのデュエルをしてたからあんなに攻める気配が感じられなかったのね)
「気付いたみたいね。でももう遅いわ。条件は整った……墓地にはすで4種類の「ライトロード」が存在するわ。早速見せてあげる、私の、いいえ私たちの【ライトロード】の切り札――」

 Judgment Dragon!!!

「出たわね。でも……早々に退場願うわ! 罠カード発動! 《奈落の落とし穴》!」
「速攻魔法、《禁じられた聖衣》!」
「くっ」
 《裁きの龍》の攻撃力は600下がり、対象に取られなくなるとともにカード効果による破壊から守られる。当然《奈落の落とし穴》にも落ちない。

《裁きの龍》 ATK:3000→2400

「そして、《裁きの龍》の効果を発動! ライフポイント1000をコストにして、このカード以外のすべてのカードを破壊する!! ジャッジメント・レイ!!」

小野寺 LP:8000→7000

 《裁きの龍》の効果によって真子のフィールドの《茫漠の死者》2体も無残に破壊される。攻撃力が4000あろうとも、効果で破壊されてしまっては意味がない。
「そして墓地には光属性モンスターは4体以上いる……《裁きの龍》の召喚条件を満たすとともに、このカードの特殊召喚条件も満たしているわ。《ライトレイ ダイダロス》を特殊召喚! さらに通常召喚、《ライトロード・モンク エイリン》!」
 一気に3体のモンスターが展開される。
「あっちゃー、まずったわ。私の負けね」
「それは残念だったわね。バトルフェイズ、《裁きの龍》、《ライトレイ ダイダロス》、《ライトロード・モンク エイリン》でダイレクトアタック!」
「きゃあああっっ!!」

真子 LP:5600→4000→1600→0

『桜ヶ丘女学院、小野寺選手がフィニッシュ~! 入野選手の仇を取るように3体のモンスターによる攻撃で辻垣外選手に勝利しました! チーム一丸となっての思い切った策ですが、これに対して神之上高校はどう迎え撃つのでしょうかね、目が離せませんっ!』
「ごめんなさい。不意を突かれたわ……」
 真子はステージから降りてくると申し訳なさそうに頭を垂れていた。
「はっきり言ってこれはかなりうざそうよ。頑張って」
「言われるまでもなく」
 降りてきた真子は登っていく仲間にバトンタッチする。続きは任せた、と。
 そして真子の意思を引き継ぎ、神之上高校決闘部、鷹崎透が出陣する。


 To be continue

       

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