Neetel Inside ニートノベル
表紙

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第15ターン
美里
LP:5400
手札:1
《ホルスの黒炎竜 LV8》、《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》

澤木
LP:8000
手札:5
無し

「私のターン、ドロー」
 桜ヶ丘女学院側からの4人目、澤木のターン。じっくりとドローカードを眺めている様子を見ると、初ターンから《裁きの龍》は引いていないようだった。その様子を見て美里はほっと一息つく。
(《ソーラー・エクスチェンジ》なんかで手札交換をしようにも《ホルスの黒炎竜 LV8》で封じてるからできないし、このターンは大丈夫そうかな)
 そこで澤木は考えがまとまったのか、1枚のカードを手札から引き抜いた。
「《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚です。バトルフェイズ、《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》に攻撃」
 伏せカードも手札もなし、魔法の発動も無しでモンスター効果の発動もなければ美里のできることはない。甘んじて《フォトン・スラッシャー》の攻撃を受ける。

美里 LP:5400→5300

「メインフェイズ2に入ります。《ライトロード・ウォリアー ガロス》を通常召喚し、2体のレベル4モンスターでオーバイレイ! エクシーズ召喚! フィールドを指揮する魔人、《交響魔人マエストローク》! 効果を発動します!」

《交響魔人マエストローク》 ORU:2→1

「オーバーレイユニットを1つ外すことで、相手フィールドのモンスター1体を……《ホルスの黒炎竜 LV8》を裏側守備表示にします」
 こうなっては《ホルスの黒炎竜 LV8》の効果は使用できない。これで澤木は魔法を使えるようになった。
「デッキの上からカードを3枚墓地へ送って、魔法カード《光の援軍》を発動。「ライトロード」と名の付いたモンスター1体をデッキから1枚サーチします。そして今加えたカードをコストに《ソーラー・エクスチェンジ》を発動。2枚ドローして、デッキの上から2枚のカードを墓地へ送ります」
 一気に魔法を2枚発動させ、手札を交換し整える。
「カードを2枚伏せて、ターンを終了します」
(《ホルスの黒炎竜 LV8》は残ったけど……これはちょっと難しいかも。それでも、残りのみんなが少しでも楽できるように頑張ろう)

第16ターン
美里
LP:5300
手札:1
SM

澤木
LP:8000
手札:2
《交響魔人マエストローク》、SS×2

『一時的にだけど《ホルスの黒炎竜 LV8》の能力が封じらちゃいましたね。それでもまだ健在ですから、この勝負どう転ぶかは分かりませんよー!』
「三木島プロはそう言ってますけど、正直美里ちゃんかなりピンチですよね」
 不安そうな声を出したのは璃奈。それに受け答えたのは玄だった。
「そうだな。基本的にデュエルってのは1対1、多くとも2対2を想定して行われるものだ。特に美里のデッキは正にそういうもの。今回は変則的なルール。それにさっきのデュエルみたいにほぼ五分五分の状況ならまだしも、手の内を晒し切った今の状態からのスタートは厳しいな」
「向こうはもう4人目、最初の3人に比べてデッキ内の大型の比率が上がってきてるはず。小型で攻める美里ちゃんには厳しかもね」
 このターンのドローはようやく相手にとって全く未知数のドローカード。そのカードによっては一発逆転と言うのもあり得るが……。
(ドローは《王宮のお触れ》。……微妙なタイミングでドローしちゃった)
 ここで問題となるのは《ホルスの黒炎竜 LV8》を反転召喚するか否か。成功すればとりあえずは相手の魔法を封じることに成功する。しかし、《激流葬》や《奈落の落とし穴》があれば《ホルスの黒炎竜 LV8》は除去されてしまう。
(だからと言って一旦《王宮のお触れ》を伏せてから次のターンに動いたんじゃ遅すぎる。だったら)
「まずは《ホルスの黒炎竜 LV8》を反転召喚」
 これに対して澤木は何の反応も見せない。
(《奈落の落とし穴》はなし……それでもこっちが《N・グラン・モール》を出してからの《激流葬》はまだ十分あり得る。そうなると《N・グラン・モール》は出せない。そして次の問題は《ホルスの黒炎竜 LV8》攻撃するかどうかだけど……)
 攻撃に成功すれば、《交響魔人マエストローク》は自身の効果で破壊こそされないが、オーバーレイユニットを失いその効果を発揮できなくなる。しかし《聖なるバリア-ミラーフォース-》や《次元幽閉》なんかの攻撃反応カードが発動されれば成す術なく《ホルスの黒炎竜 LV8》は除去される。
(でも、《交響魔人マエストローク》の素材を外さないと、結局次のターンにまた効果を使われて《ホルスの黒炎竜 LV8》が裏側守備表示になっちゃう。それにさっきも言ったけど、《裁きの龍》が攻撃の要な以上、自分のセットカードも破壊してしまう可能性が高いから、攻撃反応型よりもフリーチェーンのカードの方が多く採用されてるはず。そうなればもう一択しかない……よね)
「バトルフェイズ、《ホルスの黒炎竜 LV8》で《交響魔人マエストローク》に攻撃!」
「何もありません。オーバーレイユニットを身代りに《交響魔人マエストローク》を生き延びさせます」
 戦闘破壊は免れても、攻撃力の差分のダメージは受ける。

澤木 LP:8000→6800

(《王宮のお触れ》も決まれば有利にはなるかもだけど……)
 相手のセットカードはどちらも表になることはなかった。《サイクロン》などの可能性が高いため、《王宮のお触れ》が決まるとも限らない。
「けほっ……カードを1枚セットして、ターン終了」
 ここで澤木は動き出した。
「エンドフェイズ、罠カード《光の召集》を発動! 手札2枚を捨てて墓地から2枚の《裁きの龍》を回収!」
「しま……」
(……ったぁー! 《王宮のお触れ》を読んでエンドフェイズに使ってきた。これで次のターン私のフィールドは消し飛んじゃう!)
 しかしできることなどもうない。美里はターンを終える。

第17ターン
美里
LP:5300
手札:1
《ホルスの黒炎竜 LV8》、《王宮のお触れ》

澤木
LP:6800
手札:2
《交響魔人マエストローク》、SS

「私のターン、ドロー。ではさっそく、《裁きの龍》を特殊召喚! 効果を発動します!」

澤木 LP:6800→5800

 美里のフィールドの《ホルスの黒炎竜 LV8》と《王宮のお触れ》、そして澤木が自分で伏せたセットカード諸共フィールドから消滅する。
「そしてもう1体の《裁きの龍》を特殊召喚。バトルフェイズに入ります」

美里 LP:5300→2300→0

「あーうん、残念」
『秋月選手、粘り切れずに負けちゃいました。でも澤木選手も秋月選手を倒すのに少し手札を使いすぎた様子ですし、続く神之上高校は多少は攻めやすいかもしれませんね』 ふらふらとステージを降りていく美里。見ていられなくなった真子と璃奈が支えに行く。
「大丈夫美里ちゃん?」
「うーん、久しぶりに結構来てるかも……」
 2人の手を借りてゆっくりとステージを降り、ベンチに座る。
『次は神之上高校決闘部の部長さん、3年生でデュエリストレベルは8。音無祐介選手の出番でーす!』
「音無先輩頑張ってね、……けほっ」
「ああ、頑張るよ。それよりも美里ちゃん、調子悪い様だったら医務室行って休んで来たらどうだい?」
「ううん、大丈夫。座ってるだけで結構楽だから。ベンチで応援してるよ」
「そうかい。ありがとう」
『選手交代が終わったみたいなのでー、澤木選手、メイン2に入っちゃって下さいっ!』
「このままエンドフェイズに入ります。《裁きの龍》2体の効果でデッキの上からカードを4枚ずつ落として、これでターン終了です」

第18ターン
音無
LP:8000
手札:5
無し

澤木
LP:5800
手札:1
《裁きの龍》×2

「ホントならライフを半分くらいは持っていきたかったんだけどね。駄目だったよ」
 ベンチに横になりながら美里が呟く。ちなみに頭を痛めないように真子が膝枕している。
「まぁ、大丈夫だろ。音無先輩なら」
「ああ、関係ないだろうな」
「4000も5800も大差ありませんよ」
「音無くんなら大丈夫よ、だって私たちの部長ですもの」
「……そうだね。音無先輩なら大丈夫だったね」
 神之上高校決闘部の誰もが、音無祐介の心配などしていなかった。
「僕のターン、ドロー。まずは《手札抹殺》を発動。5枚捨てて5枚ドローだよ」
「1枚捨てて1枚ドローします」
(……やった。《オネスト》が手札に来た。これなら大型で来れられても大丈夫)
 しかしその瞬間、2体の《裁きの龍》が重力の渦に呑まれ消える。
「魔法カード、《ブラック・ホール》を発動。ん、どうしたんだい? そんな手札の《オネスト》が使えなくなってしまったみたいな顔は?」
「……!?」
 見事手札を言い当てられ動揺する澤木。対する音無は普段と変わらないトーンで軽く笑う。
「随分と驚いているようだけど、図星だったのかい? 当てずっぽうだったんだけどな。それじゃあ《バトルフェーダー》なんかがないと分かったわけだし、心置きなく攻めさせてもらおう。手札から魔法カード――」
 その宣言をした途端、墓地から3枚のカードが弾き出され、デッキへと戻る。戻された3枚は《サイバー・ダーク・ホーン》、《サイバー・ダーク・エッジ》、《サイバー・ダーク・キール》。それの表す意味は一つ。
「――《サイバーダーク・インパクト!》!! 融合召喚、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》!!!」
 禍々しい機械の竜。全身のパーツが突き刺さるように尖っている。
「効果を発動。融合召喚成功時、墓地からドラゴン族モンスター1体を装備し、その攻撃力分自身の攻撃力に加算する。僕は《手札抹殺》で落とした《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》を選択。さらに、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は自分の墓地のモンスターの数だけ攻撃力が100ポイントアップする。僕の……いや僕たちの墓地にはすでにモンスターが15体。2つの効果を合わせて、攻撃力は合計5500ポイントアップだ」

《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》 ATK:1000→5000→6500

「こっ……攻撃力、6500……!!」
(《手札抹殺》で3種類の「サイバー・ダーク」を墓地に送って、それと一緒に《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》も送って、しかもそのドローで《サイバーダーク・インパクト!》を引くなんて……)
「それじゃあ、バトルフェイズ。《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》でダイレクトアタック! フル・ダークネス・バースト!!」
「きゃあああああああああああっ」

澤木 LP:5800→0

『……えーっとぉ、け、決着です! お姉さんもびっくりな正に一撃必殺!! 流石は部長さんっ、ものすごいインパクトでした! えっと、桜ヶ丘女学院は早くも5人目、デュエルの勝敗が決するまであと僅かとなってきましたよ。3年生、デュエリストレベル7の二見原(ふたみはら)さくら選手!』
 選手交代のため音無はメイン2へ強制移行する。
「僕はカードを2枚セットして、ターンエンドだ。さぁ、このままもう一人くらいは倒してしまおうかな」

第19ターン
音無
LP:8000
手札:1
《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》(装備)、SS×2

二見原
LP:8000
手札:5
無し



   8-3 ― 部長の役目 ―



 音無祐介は、目立つのがあまり好きではない。かと言って目立ちたくない訳でもない。変に目立つのは嫌だが、全く無関心でいられるのも嫌だという、極めて一般的な思考を有する高校生なのだ。
 その証拠がこの【サイバー・ダーク】と言うデッキだ。派手な動きはなく地味に攻めていくデッキ。しかし、使い手が少ないせいか注目度は低くはない。音無は単純にこのデッキを気に入っているから使っているのだが、無意識のうちにそんな目立ちそうで目立たないデッキを気に入っていたのだ。
 対する対戦相手、二見原さくらは目立ちたがりのお嬢様だった。
(ふんっ……【サイバー・ダーク】ですって? 攻撃力を上げることしか能のない地味カテゴリでわたくしに挑もうなんて、ちゃんちゃらおかしいですわ!)
「わたくしのターン! ドローですわ」
(……語尾に「ですわ」を付ける人なんて本当にいるんだ……)
「手札の《ライトロード・モンク エイリン》をコストに、魔法カード《ソーラー・エクスチェンジ》を発動ですわ。デッキから2枚のカードをドローし、その後デッキの上から2枚のカードを墓地へ。そしてもう1度《ソーラー・エクスチェンジ》を発動。今度は《ライトロード・パラディン ジェイン》をコストにして2枚ドロー、そして2枚のカードを墓地へ送りますわ」
 2連続《ソーラー・エクスチェンジ》によって手札を大幅に入れ替える二見原。準備は整ったようだ。
「そんなちんけな機械竜、吹き飛ばして差し上げましてよっ! 《裁きの龍》を特殊召喚!」
「生き生きとしているところ悪いけど、カウンター罠、《神の警告》を発動。ライフを2000払って《裁きの龍》の特殊召喚を無効だ」

音無 LP:8000→6000

「そっちのデュエルはもう何度も見せてもらった。やってきそうなことはもう大体わかったよ」
「それでは、これはどうかしら。《歯車街》を発動し、《ライトレイ ダイダロス》を特殊召喚ですわ!!」
『二見原選手、ここに来て《歯車街》を発動しました! 《ライトレイ ダイダロス》とのコンボからの大ダメージを狙ってるみたいですね』
 《ライトレイ ダイダロス》はフィールド魔法1枚と、相手フィールドのカード2枚を選択し、選択したカードを破壊するという効果を持つ。そして、《歯車街》は破壊され墓地へ送られたとき、デッキ・手札・墓地から「アンティーク・ギア」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる効果を持つ。このコンボが成立すれば音無のフィールドは空き、二見原のフィールドに高攻撃力のモンスターが2体並ぶ。
「《ライトレイ ダイダロス》の効果を発動ですわぁ! 《歯車街》とあなたのフィールドの《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》とセットカードを選……」
「《デモンズ・チェーン》を発動。《ライトレイ ダイダロス》の攻撃と効果を封じる」
 鎖が《ライトレイ ダイダロス》の体に雁字搦めに巻きつく。《ライトレイ ダイダロス》は身動き一つできない。
「大体わかった、って言っただろう? それくらいも十分に想定の範囲内さ」
「くっ……カードを1枚セット。これでターンを終了しましてよ」

第20ターン
音無
LP:6000
手札:1
《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》(装備)、《デモンズ・チェーン》

二見原
LP:8000
手札:2
《ライトレイ ダイダロス》、《歯車街》、SS

「僕のターン、ドロー。魔法カード、《マジック・プランター》を発動。《デモンズ・チェーン》を食べて2枚ドローだ」
 これで手札が3枚となる。
「あら? 《ライトレイ ダイダロス》を縛る鎖を解いてしまってもよろしいので?」
 ニヤ、っと小馬鹿にしたように口元を釣り上げる。これでもし次のターンまで《ライトレイ ダイダロス》と《歯車街》が残ることになれば音無のフィールドが壊滅する。
 だが、音無に対するそのような挑発は百害はあっても一利もない。
「挑発……と言う行為には何種類かの意味がある。この状況なら、攻撃させるためか、攻撃させないためか。僕が挑発に乗って攻撃すればそのセットカード、または手札に控えている可能性のある《オネスト》で返り討ち。僕が挑発に乗らず攻撃しなければ次のターンに《ライトレイ ダイダロス》の効果が発動される。ならここで僕がするのはただ一つの簡単な確認作業だ。《サイクロン》を発動。セットカードを破壊する」
 破壊されたのは《次元幽閉》。攻撃反応型の罠だ。二見原は心の中で舌打ちをするとともに、気にしなければ分からない程度に表情を歪めた。
 しかしそんな程度の情報ですら、音無にとっては有益な情報だ。
「そのセットカードが攻撃反応型の罠であることを考えれば、手札に《オネスト》はない。なぜなら、もし手札に《オネスト》があるならば《次元幽閉》をセットする意味がないからだ。手札に《オネスト》があるならばわざとセットカードで警戒などさせず「自分には何もない」と思わせ、無警戒に攻撃してきたところを《オネスト》で返り討ちにすればいいからね。それに、ほんの僅かだが悔しそうな顔をしたね。これで《オネスト》を持っている可能性はさらに下がった。と言うことで、そろそろバトルフェイズに入ろうか」
「……」
 音無の読みはすべて正解。その証拠に二見原が呆然と立ち尽くしていたのだ。
 しかし今の読みには穴がある。もしも二見原が音無の思考を読み切った上でのプレイングだとしたら、その手札に《オネスト》がある可能性はまだ拭えない。
 だが音無はさらにこう考えた。前のターンでのプレイングや彼女の性格、またデュエリストレベル7程度であることを考慮し、二見原ならばあの一瞬でそんな思考を巡らせることはできないだろう、と。
 そしてまるで当然のように、この読みも正解だった。
「《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》で《ライトレイ ダイダロス》を攻撃!!」
「きゃあああっ」

二見原 LP:8000→4100

「カードを2枚セット。ターンエンド」
『二見原選手のすべてを読み切った上でのプレイングですねー。音無選手はとっても思考の能力が早いみたいです。ちなみに私は考えるのが苦手なので、あんまり深く考えずにデュエルしてまーっす☆』
 そんなんでいいのかプロ。会場中の心が一つになった瞬間であった。

第21ターン
音無
LP:6000
手札:0
《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》(装備)、SS×2

二見原
LP:4100
手札:2
《歯車街》

「くっ……わたくしのターンですわ」
 このドローを含め二見原の手札は3枚。今ドローした《激流葬》に、元々手札にあった《ライトレイ ギア・フリード》と《ライトロード・モンク エイリン》。逆転には程遠い。
「モンスター1体とカードを1枚セット。これでターン終了ですわ」
(これならそのまま攻撃されてもダメージは0。ゲームエンドに持っていこうとモンスターを召喚したら《激流葬》であの邪魔な《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は消える。一先ずは大丈夫そうですわね)
 だが。
「手札の位置をずっと確認していたけれど、今のドローカードはそのセットカード。そしてセットモンスター、《ライトロード・ハンター ライコウ》ではないね。もしもそうだったならさっきのターンにセットしているはずだ。ならそのセットモンスターに警戒する必要はない。なら問題はセットカードの方。これも、全く問題がない」
 音無は何の警戒すらなく、いつも通りに淡々と口を開く。
 ここで二見原は悟る。自分ではこの相手には勝てない。自分では全く及ばない。そして、自分は次のターンで負けるのだろう、と。

第22ターン
音無
LP:6000
手札:0
《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》(装備)、SS×2

二見原
LP:4100
手札:1
《歯車街》、SM、SS

「僕ターン、ドロー」
 音無は今ドローしたカードをデュエルディスクへ読み込ませる。
「《レスキューラビット》を通常召喚。何かレスポンスは?」
「《激流葬》を発動しますわ」
「《盗賊の七つ道具》を発動。ライフを1000払い罠カードを無効だ」
 無効にされることが分かっていたかのように、二見原は無気力にカードを発動していた。もはや彼女は勝利を諦めていた。

音無 LP:6000→5000

「《レスキューラビット》をゲームから除外し効果を発動。デッキから同名の通常モンスター2体を特殊召喚。僕は《ハウンド・ドラゴン》2体を特殊召喚する。レベル3の《ハウンド・ドラゴン》2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《No.17 リバイス・ドラゴン》!!」
 《No.17 リバイス・ドラゴン》はオーバーレイユニットを1つ外すことで、攻撃力を500ポイントアップさせる。さらに、オーバーレイユニットとして墓地にモンスターが送られたため、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の攻撃力も上昇する。

《No.17 リバイス・ドラゴン》 ORU:2→1 ATK:2000→2500

《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》 ATK:6500→6600

「さぁバトルだ。《No.17 リバイス・ドラゴン》でセットモンスターを攻撃! バイス・ストリーム!!」
 何事もなくセットされていた《ライトロード・モンク エイリン》は破壊される。これで《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の一撃を防ぐ術は残されていない。
「不本意ながら、僕は部長を務めさせてもらっているからね。チームを引っ張っていくという役目がある以上、こんなところで負けてはいられないんだよ」
「……それなら分かりますわ。わたくしたちの部長も、きっとそんなことを思っているのでしょうね」
 二見原が無気力ながらも反応する。
「ですから、わたくしが負けてしまっても、わたくしたちのチームは負けませんわ。その部長が、私を引っ張ってくれますもの」
「そうかい……それは気を引き締めないと行けなそうだね」
 音無はほんの少しだけ微笑むと、目付きを決闘者のそれに変えた。
「《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》で、ダイレクトアタック。フル・ダークネス・バースト!!」

二見原 LP:4100→0

『さぁ、遂に終盤戦までやってきましたよ~。長かったような短かったようなそんな時間でしたけど、桜ヶ丘女学院は後がありません。大将にあたる6人目は、3年生で決闘部を引っ張る部長、デュエリストレベル8の円城凛々音(えんじょうりりね)選手です!』
「円城さん……ごめんなさい。わたくし、あの方には手も足も出ませんでしたわ……」
 ステージに上ってきた円城に向けて、二見原は深く頭を下げた。
「頭を上げてください二見原さん。彼は神之上高校のナンバー2です。負けてしまっても恥じることなどありません」
 円城は二見原の両肩にポンと手を置き、話を続ける。
「それに二見原さんが頑張ってくださったおかげで、彼のライフは5000まで減り、手札は0枚。守りは薄くなっています。あなたの努力を無駄にしないため、ここは私が……いいえ、私たちが勝ちます」
「そうですわね……お気をつけて」
「はい。部長の役目……果たしてきます」
 そうして円城はステージ上に立ち、デュエルは再開された。音無は何もせずターンエンドを宣言。

第23ターン
音無
LP:5000
手札:0
《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》、《No.17 リバイス・ドラゴン》、《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》(装備)、SS

円城
LP:8000
手札:5
《歯車街》

『各校の部長対決になりますねー。部を仕切っている者同士として、お互い負けらない戦いでしょう』
「私のターン、ドロー」
(うーん、正直この状況はあまりいいとは言えないんだよね。攻撃力6600の《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》と攻撃力2500の《No.17 リバイス・ドラゴン》がいるとは言え、あっちの必殺技は効果破壊。効果破壊耐性を持たないこの2体は相手ターンじゃ実際はただの木偶。セットカードも1枚あるけど、防げるのは1回だけ。対してあちらさんの手札はこのドローを含めて6枚。それに《歯車街》も残ってるし……きついなぁ)
「私たちの墓地には光属性のモンスターが5種類以上存在しているため、このモンスターの召喚条件を満たしています。《ライトレイ ディアボロス》!」
(まず《ライトレイ ディアボロス》から来たってことは……詰み、かな)
「《奈落の落とし穴》を発動。《ライトレイ ディアボロス》を破壊し除外だ」
 《ライトレイ ディアボロス》には1ターンに1度セットカードを除去する事ができる。ここで使うにせよ使わないにせよ、結局は音無から防御の手段が失われる。
「はい、了承しました。では、《ライトレイ ダイダロス》を特殊召喚し、効果を発動します。《歯車街》と《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》、《No.17 リバイス・ドラゴン》を選択し、破壊します」
 さらに、《歯車街》が破壊されたことで、その効果が発動。デッキから
「私は《歯車街》の効果でデッキから《古代の機械巨竜》を特殊召喚します!」
 攻撃力3000の《古代の機械巨竜》は、《歯車街》から呼び出すことのできる最高打点を誇るモンスター。
「バトルフェイズに入ります。《ライトレイ ダイダロス》と《古代の機械巨竜》でダイレクトアタック!」

音無 LP:5000→2400→0

「お互い部長同士ですけれど、ひとまずこの勝負は私の勝ちのようですね」
「そうだね。素直に負けを認めよう。変則ルールとは言え負けは負けだ」
「残りの2人……早川さんと白神さんも私が倒します。例え相手が『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』だとしても」
「……一つ塩でも送っておこうかな。君の対戦相手は白神君じゃなくて、早川さんだということを、覚えておくことだね」
 それだけ言い残し、音無はステージを降りる。
「後は任せたよ。君なら勝てる」
「はい」
 短く答え、早川璃奈はステージへと登る。
『人数的にはまだ神之上高校のほうが有利ですけど、後のない桜ヶ丘女学院の持つ威圧感はすごいものですね~。それじゃあ神之上高校からは5人目です。1年生、デュエリストレベル6の早川璃奈選手ー!』
「メインフェイズ2に移行します。カードを1枚伏せて、ターンエンドです」

第23ターン
璃奈
LP:8000
手札:5
無し

円城
LP:8000
手札:3
《ライトレイ ダイダロス》、《古代の機械巨竜》、SS

(早川さん……この方はデュエリストレベルが6でありながらその爆発力は明らかにその枠組みから外れているほどのポテンシャルを持っています。ですが、勝率は悪い。辻垣外さんの情報も、鷹崎さんの情報も、秋月さんの情報も、音無さんの情報も、すべて事前に収集した通りのものです。ならば早川さんの情報も調べ通りのはず。それならこのデュエルをすぐに終わらせて、白神さんを全力で相手取らせてもらいます)
 この時の円城凛々音の思考には、ミス……見落としがある。
 確かにどの情報も収集した結果通りになっただろう。だが、その情報と言うのは2週間前で止まっているのだ。公の大会での情報、つまりは地区予選時の情報が最終的な評価となるのだが、もしも、その2週間の間に大幅に進化した決闘者がいたとしたら? 当然その情報は意味を成さなくなる。しかし普通に考えて2週間の間に劇的に進化する人間などいない。そう、普通は。
 これより、早川璃奈の新たな決闘が始まる。


 To be continue

       

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Neetsha