Neetel Inside ニートノベル
表紙

黄金決闘
第9話 本戦:VS宮路森高校(前編)

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「いぇーっいクロォ!! 昨日振りっ! 元気にしてたー!? 僕は元気だz……」
「「黙れ」」
「ごるばちょふっ!!?」
 開口一番騒がしくなりそうだったミハイルを、前方と後方からラリアットが襲う。
 前方からは白神玄が、そして後方からは……。
「久しぶりだな……白神」
「元気そうで何よりだよ……針間先輩」
 『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』、アクエリアスの針間戒。190cmを超えるであろう身長に、ペンキでも被ったかのように真っ黒の髪の毛、さらには目付きの悪い三白眼。放っている威圧は栖鳳学園の鳳以上のものだった。
 8月15日。正午。
 白神玄と針間戒。互いの後ろには各高校のメンバーたちが、下には首を抑えて悶え苦しむミハイルが。
 これから控室に入るというところで神之上高校決闘部一同は、宮路森高校決闘部のメンツと鉢合わせになっていた。
 そこで戒は玄を見下ろし話しかける。身長は30㎝近く離れているため、対する玄は当然見上げる形となった。
「思いのほか早い再会だったな。よくもまぁあの状況から這い上がってきたもんだ」
「色々とあったんですよ。色々とね」
「うぐおおおおおお」
「昨日のお前らのデュエル、見せてもらったぞ。どいつもこいつもいいデュエルをしやがる」
「そりゃあどうも。だがあれくらいでこいつらの全力だと思っちゃ足元掬われるぜ」
「ぬあああああああ」
「言うじゃねぇか。俺の出番前に負けるなんてことがないように気を付けろよ」
「それはこっちの台詞ですぜ、針間先輩」
「ふげええええええ」
「「うるせえっ」」
 ドスッ、という鈍い音は、2人の踏み付けがミハイルの腹部にクリーンヒットした音だった。今度は奇妙な断末魔もなく、完全に意識がなくなる。
「あの……クロくん。大丈夫じゃないと思うん……」
「大丈夫だ。日常茶飯事だ」
「いや、口から泡吹いて……」
「大丈夫だ。宮路森でも週に一度はこんな感じだ」
 うんうん、と戒の後ろにいる宮路森高校のメンバーたちも頷く。神之上高校のメンバーはミハイルの将来を考えるとやるせない気持ちになり自然と視線が下降した。
 閑話休題。
 騒がしいミハイルが完全に沈黙(意識不明)したことで、いったん場が静まる。最初に口を開いたのは音無だった。
「2人で話を進めるのもいいけど、君の後ろのメンバーも含めてみんなが退屈してるよ」
「ん? ああ、すまんな。何せ久しぶりとの知人との再会だ。話に花が咲いた」
 戒は高い視線を玄からその後ろのメンバーに移す。
「お前たちはこちらの試合は見たんだろう? 観客席の一番前でビデオカメラを回している奴がいた。おそらくあれはお前たちの知り合いだろ?」
「相変わらず目がいいな、針間先輩は」
「まぁな。それはそれとして、そうなるとミハイルの試合しか見ていない訳だ。なら紹介しておこう、俺の愉快な仲間たちだ」
 いたのは『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』の戒とミハイルを除く4人の男女だった。
「3年生、部長をやらせてもらっているわ。喜多見涼香(きたみりょうか)よ。よろしくね」
 眼鏡を掛けた礼儀正しい女性。わざわざ神之上高校の全員と握手をして回った。
「1年生、鼬之原宋次郎(いたちのはらそうじろう)です。よろしくお願いします」
 次に出てきたのは温厚そうな少年。大人しそうに見えるが何か芯のようなものが感じられる。
「2年、神宮司一二三(じんぐうじひふみ)でっす! よろしく!」
 先ほどの鼬之原とは真逆の活発そうな少年。明らかに髪の毛を茶色に染めているのが分かった。
「……」
「十時(ととき)さん。挨拶しましょう?」
「……はぁ。3年、十時直(なお)」
 喜多見に催促され、億劫そうに溜め息をついた少女。前髪が長すぎて表情がよく読み取れない。
「そしてご存じ、そこに転がってるのが2年のミハイル・ジェシャートニコフ。そして俺が3年、副部長の針間戒だ」
「なら今度はこっちの番か? 知ってるかもしれないけど、白神玄とその愉快極まりない仲間たちだ」
 玄のその言葉に反応し、神之上のメンバーたちも同じように自己紹介をした。
 それが終わるとまた僅かに場が静まる。今対面している者たちとこれから戦うのだという実感が湧いてきたのか、先程とは違い若干空気がピリピリとしている。
「そう構えるなよ。俺たちがやりあうのはまだ後だ。こんなところで気を張って体力消耗するだけ無駄だろ?」
「確かにな。ほら見ろ、そこに転がってるミハイルなんてこれでもかと言うぐらいに脱力しているじゃねぇか」
「それは気絶してるからでしょ……」
「というか放っておいても大丈夫……なんですよね、はい。もうそれでいいです」
 そんなミハイルの首根っこを掴み、ずるずると地面を引きずりながら戒は宮路森の控室のある方へと向かっていった。
「一応試合前だ。人目もあるし、対戦校同士が仲良くしてるってのも不自然だろ。俺たちはこれから試合に備える。お前らもデッキ調整でもしてろよ」
「それじゃあ試合の時はよろしくねー」
 喜多見がバイバイと手を振り、部員たちもその後ろに着いていく。
 全員が控室に入り終わったところで音無が口を開き、自分たちも控室に入ろう提案した。音無の言う通りにみな控室へと入っていく。
「ふぅ、思い掛けない遭遇だったけど、すごいね彼らは」
「直接渡り合ってもいないのに、実力の高さが分かった。2人の『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』だけじゃねぇってか」
「そうだな。だが昨日も話した通り、まずはミハイル打倒が第一目標だ」
 玄が口を開き、場の空気が変わる。
「桜ヶ丘戦のようにはいかない。まずミハイル1人にこっちの戦力がかなり持って行かれるだろうな」
 Aブロックでのデュエル。ミハイル1人に藍原学園の部員6人全員が打ち負かされてしまったのだ。どれだけ警戒しても警戒したりないだろう。
「それについてはもう何度も聞いた。それよりもあっちの針間ってやつ、あっちの方はどうなんだよ」
「確かにね。実力的には針間くんのが上なんでしょ?」
「ああ、それについては俺に任せてくれ。と言うか、今ここにいるメンツじゃ俺以外にはどうしようもできねぇ。いや、俺の見積もりが甘ければ俺でも駄目かもしれない」
 弱気な発言をする玄に周りが心配そうな顔をする。それを見て玄は笑顔を作った。
「ま、そんな心配そうにするなよ。俺じゃあ勝てないかもしれないが、別に1対1ってわけじゃない。これは団体戦だ」
 それも6対6と言う変則ルール。必要なのは個人の実力だけではない。
「勝とうぜ、俺ら6人で。ミハイルに、針間先輩に、そして宮路森に」
 スッと右手の甲を上向きにして正面に出す。すると小さな手がその上に乗る。璃奈だ。
「もちろんですよ」
「頑張るよ」
「楽しませてもらさ」
「全力で行きましょう」
「さぁ、勝ちに行こう」
 さらに手が、その上にもまた手が重なる。6人の手が重なると、玄が言葉を紡ぐ。
「作戦は昨日言った通りだ。まず第一にミハイルを倒すことが優先されるけど、だからと言って他の奴ら相手なら気を抜いていいってわけじゃねぇ。何度も言うが……勝つぞっ!!」
「「「「「おうっ!!」」」」」
 重ねられた手は離れる。だが、重ねられた思いは離れることなく、6人の心の中に残り続けた。



 9-1 ― 明鏡止水の決闘 ―



「ミハイルのデュエルスタイル、『明鏡止水(クリア・マインド)』は……言葉では説明しにくい」
 今から5日前。再び「MAGIC BOX」に集まった神之上高校決闘部に向けて玄が放った第一声がそれだった。ちなみに美里はこの日も体調不良で休みだった。
「つーか、説明したところで対策立てられるようなもんでもないし」
「……断片的でもいいから教えなさいよ」
「えーっと……爆発力がない、けど安定してる『自殺決闘(アポトーシス)』って言い方が一番しっくりくるかな」
 この時点では璃奈以外のメンバーが『自殺決闘(アポトーシス)』について詳しく知らない状態。しかし大体のニュアンスは伝わってきた。
「行動に無駄がない……とは少し違うな。洗練されてるってのが正しいか? まぁそんな感じ」
 説明の仕方が大分曖昧だった。
「えっと……弱点みたいなものは?」
「ないな。と言うか弱点をなくすためのスタイルみたいなもんだし。まぁ、あのスタイルはミハイルが集中している間にしかうまく機能しないし、強いて弱点と言うなら長続きしないことか」
 スッと璃奈が挙手する。
「どれくらいで集中が切れるんですか?」
「その時々で結構変わるけど、12~13ターンってところかな。と言っても、あいつを相手に10ターン以上も耐えられる奴なんて現役高校生で10人もいないだろうけど」
「それってほとんど止めれないってことじゃないですか」
「いや、今回のルールに限ってはそうでもない。デュエルが1戦で終わらず、後続のプレイヤーに引き継がれるからな。それにこんなルールはミハイルにとっても初めてだろうし、いつもより集中できる時間は短いかもしれない」
 そう言うと、物陰からひょこっと顔だけを覗かせている少女が現れた。というかアンナだ。
「アンナちゃん!? どうしたんですか?」
「クロに呼ばれて来たんだよー。練習相手になってくれーって」
「デッキタイプ的にはアンナとミハイルは似てるんだ。って言うかアンナにデュエルを教えたのはミハイルだからな。と言うわけでアンナをミハイルに見立てて練習だ」
「さらっとカミングアウトしましたね。ミハイルさんはアンナちゃんのお師匠さんってことですか?」
「まぁそんなもんだろ」
「それよりもアンナちゃんは良いの? 相手はお兄さんなのに私たちを手伝ってくれて」
 真子が首を傾げアンナに問いかける。
「いいんだよ。ミハよりもクロやリナたちの方が好きだもん」
 ミハイルは聞いたら騒ぎそうな一言だったが、突っ込まずアンナの好意に甘えることにした。
「美里は今日いないから、真子先輩と鷹崎の2人掛かりでアンナを倒せるように特訓だな」
 さらっと言うが、2人掛かりだとしても『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』を倒すのは容易ではない。しかし2人ともノリノリでアンナに挑む。余談だが、この日真子と鷹崎はアンナに惨敗し続けることとなる。
「さて、次は音無先輩と璃奈だ。ぶっちゃけ音無先輩の方はほとんど心配ない。後はいろんなタイプのデッキと戦わせて、そのいなし方を身に付けるくらいしかすることないだろ」
「そんな適当な……」
「適度と言ってくださいよ。あとでデュエルしたこのないタイプを教えてください。そのデッキを作って俺がやるんで」
「それじゃあ私はどうすればいいんですか?」
 美里はいない。真子と鷹崎はアンナと特訓。玄と音無がスパーリング。璃奈だけ余った。だが。
「璃奈も俺とやってもらう。並行して2つのデュエルを俺が受け持つ」
「で、出来るんですかそんなこと!?」
 2人の相手と1人とデュエルするのであれば、変則タッグデュエルとして成り立つが、玄が2つのデッキを使い、2人のデュエリストと別々のデュエルを行うなど、およそ神業だ。
「できるよ。とは言っても十全に力は出し切れない。璃奈はその状態の俺から一本取ってみろ。付け焼刃の『自殺決闘(アポトーシス)』を残りの数日だけで完璧にしないといけないからな」
「……はいっ!」
「僕も頑張らせてもらうよ」
 言う方も無茶だが、それに応える方も無茶。しかし無茶を超えなきゃ勝てない相手もいる。
(大会本番まであと4日。宮路森との対戦はさらにプラス1日。だけど、前日には向こうに行かなきゃならないから移動で時間が食われる。実質この3日の間に何とかしなきゃいけない訳だ。結構しんどいが、俺の勘を取り戻すためにも……な)


 そして……。
(前日にギリギリ全員ノルマは達成した。それでも不安は残るけど……やれることはやった)
 あとはそれを結果として残すだけ、玄は心の中で何度も反芻した。
『はーっい! 会場のみなさんお静かにー! これより全国高校生デュエル大会本戦決勝戦を開始いたします! 実況兼解説はBブロックから引き続き、三木島由愛とっ』
『ぁ……はい……Aブロックからは、明石光(あかしひかり)……です。プロデュエリストです……』
 名前の割に暗い明石プロ。ちなみに、ランキングではアベレージ109位。三木島プロに一歩及ばないが、それでもかなり上位に位置している。
「何とも両極端なプロを呼んだもんだな、実行委員会は」
「偶然暇だったんだろ」
『それでは対戦校の発表です。Aブロックからは宮路森高校決闘部!』
 玄たちの相手。先程出会ったばかりだか、一風違った印象を受ける。向こうも臨戦態勢と言うことだ。
『明石プロ、宮路森高校はどういったチームなんですか?』
『はい……。まずいやでも目に付くのは2人の『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』ですね。Aブロックではその1人のミハイル選手が藍原学園を1人で倒してしまったことが今でも鮮明に思い出されます……』
 もはや何を伝えたいのか分からないが、事実ミハイルの偉業は誰にとっても衝撃的であった。
『ではBブロック、神之上高校決闘部です!』
 今度は視線が玄たちへと向けられる。すさまじいプレッシャーだった。
『神之上高校にも1人『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』がいますけど、昨日の桜ヶ丘女学院とのデュエルでは彼が出るまでもなく決着してしまいました! お互い実力の程はすべて見せてはいません。どっちが勝つか気になりますねっ。っていうかバーゲンセールかと言うぐらい『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』だらけですね!』
「ねぇねぇ玄くん。今さらなんだけど質問良い?」
 小さく挙手したのは美里だ。
「なんで『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』がいたのに、宮路森は今まで公式戦でのデータが全然ないの?」
「どうやら人数不足だったらしいな。そこに針間先輩が転入して、ミハイルが留学してきたみたいだ」
「なるほど」
 宮路森高校は人数不足によってここ5年ほど公式戦には出ていない。ここにいる相手すべてのデータが少ないのだ。
「全く情報がないってわけじゃないけど、こっちの情報はおおよそ筒抜け。これは厳しいわよねぇ」
 そうこう言っているうちに三木島プロの雑談が終わり、決勝戦の幕が下ろされた。
『各校、一番手のプレイヤーはステージに上がってきてくださーい』
 三木島プロが促し、2人の決闘者がデュエルディスクを腕に装着する。
「行ってくるわ」
「練習通り、頼んだぜ副部長」
「善処するわ……」
 真子がステージを上り終えると同時に、ミハイルも所定の位置へと着いた。
「やっほー。最初は君かー。よろしくね」
「よろしくー」
『宮路森高校からは2年生で『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』! 特攻隊長ミハイル・ジェシャートニコフ選手! 神之上高校高校からは副部長。3年生でデュエリストレベルは8、辻垣外真子選手です! それでは……』

「「デュエル!!」」

 あっさりと始まった第一戦。先攻は真子に決まった。
「私のターン、ドロー!」
 6枚の手札を凝視する。スタートが肝心となる。ここは慎重に動く真子。
(手札は悪くない。でも彼相手に悪くない程度じゃダメよ。牽制手なんて撃たずに最初から全力!)
「モンスターをを1体守備表示で召喚。そしてカードを1枚伏せて……ターン終了」
 持てるすべての力を吐き出す。そのための静の構え。攻撃を待ち構える。
「それじゃあ、僕のターンだね」

第1ターン
真子
LP:8000
手札:4
SM、SS

ミハイル
LP:8000
手札:5
無し

 ミハイルのターン。しかしカードをドローしない。目を閉じ大きく息を吸った。
「すぅー……ふぅーっ。すぅー……ふぅーっ」
『……ミハイル選手はドローもせずに深呼吸をし始めましたね?』
『はい……。彼はAブロックの時も同じような行動をしていました。プリショット・ルーティーンに似たものだと思います……』
 プリショット・ルーティーン。ゴルフや野球などでショットを打つ前の一連の動作の事を指し、それを行うことによってショットの安定化、集中力の強化などの効能が見られる。当然デュエルでもそういった行為はあり、彼にとっての深呼吸は彼のデュエルスタイルである『明鏡止水(クリア・マインド)』に必須のものなのだ。
「……ふぅー。さぁて、行くよ。僕のターン! ドロー!」
 勢いよくカードをドロー。手札を一瞬だけ確認すると、迷いなく1枚のカードを発動させる。
「魔法カード、《手札抹殺》! 5枚捨てて5枚ドロー!」
「4枚捨てて4枚ドローよ」
(このあたりはアンナちゃんと同じ動きね。さすが兄妹)
「相手のフィールドにモンスターがいて、僕のフィールドにモンスターがいないとき、このモンスターは特殊召喚することができる。《TG ストライカー》!! さらに、レベル4以下のモンスターが特殊召喚されたことで、《TG ワーウルフ》を特殊召喚!」
 一気に「TG」のコンボで召喚権を使わずにチューナーと非チューナーを揃える。
「レベル3の《TG ワーウルフ》にレベル2の《TG ストライカー》をチューニング! シンクロ召喚! 現れろ、《TG ハイパー・ライブラリアン》!!」
 シンクロデッキの要。連続シンクロによるドローでさらなる展開の助けとなるキーカード。もちろんミハイルの展開は続く。
「次だよ! デッキトップに手札を1枚置いて、《ゾンビキャリア》を特殊召喚。そして墓地の《D-HERO ディアボリックガイ》を除外してデッキから同名モンスターを特殊召喚! レベル6の《D-HERO ディアボリックガイ》にレベル2の《ゾンビキャリア》をチューニング! 疾風を纏いて勝利を導け! シンクロ召喚! 羽ばたけ、《スターダスト・ドラゴン》!! さらにチェーン1《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果、チェーン2墓地の《スターダスト・シャオロン》の効果を発動! 逆順処理、《スターダスト・ドラゴン》がシンクロ召喚に成功したことで、墓地の《スターダスト・シャオロン》はフィールドに特殊召喚できる! そして《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果でカードを1枚ドロー」
 《スターダスト・シャオロン》。スターダストの名を関しているがその姿は西洋の「竜」と言うよりは東洋の「龍」と言った感じだ。
(展開が速い……けど、アンナちゃんとの特訓ではこんなものじゃなかった! まだまだ余裕よ!)
「続いて通常召喚。《ジャンク・シンクロン》! その効果で墓地の《音響戦士ベーシス》を特殊召喚! レベル1の《スターダスト・シャオロン》にレベル1の《音響戦士ベーシス》をチューニング! 新たなる力をその身に宿し、奇跡へと通じる道を切り開け! シンクロ召喚! 未来へと駆け抜ける光の使者、《フォーミュラ・シンクロン》!!」
 その効果により1ドロー。さらに《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果でもう1枚ドロー。
「フィールドにチューナーモンスターが存在するとき、このカードは墓地から特殊召喚することができる! 《ボルト・ヘッジホッグ》!」
 便利な自己再生効果を持っているが、1度使用されれば次に送られるのは墓地ではなく除外ゾーン。一度っきりの効果だ。
「レベル2の《ボルト・ヘッジホッグ》にレベル3の《ジャンク・シンクロン》をチューニング! シンクロ召喚! 光を憎み光を嫌う機械の兵隊、《A・O・J カタストル》! もちろん1ドロー!」
 減らないどころか増えていく手札。これだけ展開しても手札はまだ5枚。初期手札となんら変わらない量を誇っていた。さらに。
「さてさて、主役の登場だ! レベル8の《スターダスト・ドラゴン》に、レベル2のシンクロチューナー《フォーミュラ・シンクロン》をチューニング! 捕われない風のように、掴むことのできない光のように。その身は怒涛の光となりて、ここに顕現せよ!」
(くるっ……!!)
「アクセルシンクロォ!!」
 目を眩ます様な多大の閃光が会場を包み込む。光りに目が慣れた頃には、すでに「それ」は会場全体を埋め尽くさんばかりの威圧を放っていた。

 Shooting Star Dragon!!!

(……っぅ!!? なんて威圧なの!? 存在としては《シューティング・クェーサー・ドラゴン》が上位のはずなのに、ミハイル君のこれはそれ以上の存在感を持ってる!! あのアンナちゃんを相手取ったときよりも明確に「脅威」を感じる……っ!)
「アンナは、攻撃的なデッキに『反逆の忘却(ゼロカウンター・パーミッション)』と言う防御的なデュエルスタイルを合わせることによって「攻防合わせ持つデュエリスト」と言うキャラクターを生み出した。しかしその元祖たるミハイルは、攻撃的なデッキを攻撃的に扱い攻撃し、『明鏡止水(クリア・マインド)』によって無駄に洗練された無駄のない無駄に攻撃的な「超攻撃型のデュエリスト」と言うキャラクターを生み出した。その攻撃力は『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』の中では3番か4番目と言ったところだが、その攻撃の速度は間違いなく1番だ」
 玄が認めるミハイルの実力。その真骨頂はこれからだ。
「まずは《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果で1枚ドロー。そして《シューティング・スター・ドラゴン》の効果を発動! デッキトップから5枚のカードを捲って、その中のチューナーモンスターの数が《シューティング・スター・ドラゴン》の攻撃回数となる! 行くよ!」
(おそらくチューナーの比率は3分の1近い程度には入っているはず。3回攻撃くらいは覚悟しておかないと……)
「1枚目、《クイック・シンクロン》! 2枚目、《ジャンク・シンクロン》! 3枚目、《アンノウン・シンクロン》! 4枚目、《スポーア》、5枚目、《エフェクト・ヴェーラー》! これで5回攻撃ィ!!」
「なっ……!?」
『ミハイル選手ここで5回連続攻撃確定! まだ2ターン目だというのに《TG ハイパー・ライブラリアン》と《A・O・J カタストル》を含めて7回攻撃! 辻垣外選手は防ぎきれんでしょうかっ!?』
「バトルフェイズに入るよ。まずは《TG ハイパー・ライブラリアン》で裏側守備モンスターに攻撃!」
「《ピラミッド・タートル》の効果を発動! デッキから《茫漠の死者》を特殊召喚!」

《茫漠の死者》 ATK:?→4000

(攻撃力4000の《茫漠の死者》なら攻撃力3300の《シューティング・スター・ドラゴン》で超えられないし、闇属性だから《A・O・J カタストル》も無意味! これでこのターンは……)

真子 LP:8000→7400

「はっ……?」
 現れた次の瞬間には《茫漠の死者》は破壊されていた。
「速攻魔法、《イージーチューニング》を発動したよ。僕は墓地の《ジャンク・シンクロン》を除外して、その攻撃力1300ポイント分《シューティング・スター・ドラゴン》の攻撃力を強化!!」

《シューティング・スター・ドラゴン》 ATK:3300→4600

(ほとんど反射みたいな速度で対抗された……速すぎる!)
「バトルは続行! 《シューティング・スター・ドラゴン》の2回目の攻撃!」
「くっ、《リビングデッドの呼び声》を発動! 《ピラミッド・タートル》を特殊召喚!」
 《シューティング・スター・ドラゴン》の攻撃を《ピラミッド・タートル》が受ける。当然なんの壁にもならず、あっさりと破壊される。
「きゃっ……!」

真子 LP:7400→4000

「《ピラミッド・タートル》の効果で《魂を削る死霊》を守備表示で特殊召喚!」
 攻撃性の高い《茫漠の死者》でバトル終了を目論み失敗したことから学習し、今度は防御的な方法でバトル終了を目論む。《魂を削る死霊》は戦闘では破壊されず、また闇属性であるため《A・O・J カタストル》の効果でも破壊されない。
 だが。
「《エネミーコントローラー》第2の効果を発動! 相手モンスター1体の表示形式を変更する!」
 その目的は表示形式の変更ではなく、《魂を削る死霊》の効果を発動のトリガーとすることだった。《魂を削る死霊》はハンデス、戦闘破壊体制というメリットを持っているほかに自壊デメリットを持っている。その発動条件はカードの効果の対象となった時。当然《エネミーコントローラー》でもその効果は発動し、《魂を削る死霊》は自壊を強いられる。
 一瞬で打開される。何の迷いもないプレイング。それこそがミハイル・ジェシャートニコフのデュエルスタイルなのだと、まさにこの瞬間真子は気付かされた。
 不意打ちは効かず、打開策は最善手で破られ、攻撃は急激。その表情は強者の余裕もなく、弱者に対する油断もなく、己の力を過信するわけでもなく、相手の力を見誤ってもいないような、そんな「無」だった。デュエルスタイルが成立している間は彼の心には一切の波紋は立たない。
 これこそが彼の境地にして極地、『明鏡止水(クリア・マインド)』だ。
「地味だが相手にすればはっきり言ってうざいことこの上ない。心理戦もブラフも通用せず、目の前の壁は最短ルートで打ち破っていく。普段の印象からミハイルを甘く見てたら一瞬で狩られちまう」
「すごい……」
 璃奈の口から出たのは純粋な感想。それ以上の言葉として語る術がないほど単純な強さを持つミハイルへの敬意を表す感想だった。
「《魂を削る死霊》は自壊! これで壁はなくなった! 《シューティング・スター・ドラゴン》でダイレクトアタック!!」

 Starlight Extinction!!!

「きゃあああああああああああっ!!」

真子 LP:4000→0

『わ……僅か2ターン目にして決着っ! 初戦を制したのは臨界時高校ミハイル選手です!』
『……彼は藍原学園とのデュエルでも、1人を除いてすべての相手を返しの2ターン目で倒してしまっています。生半可な防御では、神之上高校も藍原学園と同じようにやられてしまいますよ……』
「いっぇーっい!! まず1勝!」
「……はぁ、強いわね、あなた」
 ライフが0となり、真子はミハイルに向かってそう告げる。
「でも……こっちだってそう簡単には負けられないわ。覚悟しておきなさい」
 そう言って真子はミハイルの返答も待たずにステージから降りる。
「鷹崎くん。正直想像以上よ。基本的な動きはアンナちゃんと同じだけど、圧倒的に速さが違いすぎる。気を付けて」
「任せろ。倒すとまでは言えねぇが、一矢ないし二矢くらいは報いてやるよ」
『続いて神之上高校からは、2年生、デュエリストレベル7、鷹崎透選手です! 「速さ」に関しては彼も相当なものを持っていますから、お姉さん的には楽しみな対戦カードです』
「僕はカードを1枚セット。これでターンエンド!」
 開始早々追い込まれてしまった神之上高校決闘部。しかし、デュエルはまだ始まったばかりだ。

第2ターン
鷹崎
LP:8000
手札:5
無し

ミハイル
LP:8000
手札:4
《シューティング・スター・ドラゴン》、《TG ハイパー・ライブラリアン》、《A・O・J カタストル》、SS


 To be continue

       

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