Neetel Inside ニートノベル
表紙

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(甘く見てた……)
 『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』のミハイルが倒され、宮路森高校は部長である喜多見がステージへと上がっていた。
 喜多見の手札は初期の5枚のまま。対する美里は3枚。ライフは8000と3900。フィールドにはミハイルの置き土産、《シューティング・スター・ドラゴン》とそれをフィールドに繋ぎ止める《リビングデッドの呼び声》のみ。状況だけを見れば喜多見の圧倒的有利だった。
 しかし今大会のルール、「ターンプレイヤーのライフが0になった場合、メインフェイズ2へ移行することはできず、次のプレイヤーへとバトンタッチし、対戦プレイヤーのターンからスタートする」と言うルールによって、喜多見がバトンタッチしたにも関わらず、美里のターンから行われる。だが状況が状況。多少不利だとは思っても、覆されることはないだろうと思っていた。
 だが。
『喜多見選手のの《リビングデッドの呼び声》をコストに《トラップ・イーター》を特殊召喚し、さらに《墓守の番兵》を通常召喚してダブルアタック! そしてメインフェイズ2に《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》を立てましたーっ!』
「……やられたわ」

喜多見 LP:8000→7000→5100

『《シューティング・スター・ドラゴン》を《リビングデッドの呼び声》を処理することで間接的に除去し、その上先制ダイレクトアタック……。不利な状況を一気に覆しましたね……』
 《トラップ・イーター》は、相手フィールドの表側の永続罠を墓地へ送ることで初めてフィールドに姿を現すことを許されるモンスター。《シューティング・スター・ドラゴン》の破壊無効効果では処理することのできない相手。
 三木島プロが言うほど戦況を覆したわけではない。それでも1:9程度だった勝機が3:7程度まで回復したとは言っていいだろう。
「カードを、1枚セット。これで……ターン終了」
 けほっ、と軽く咳き込む。『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』を相手取り、美里のコンディションはおおよそ最悪のものとなっていた。
(まともにデュエルできるのはあと何ターン? 次のターンまで? それともあと10ターンくらい行ける? どっちにしても、立っていられる間は全力でデュエルする。そうじゃないと、目の前に立っている喜多見さんにも失礼だし、後ろで待ってくれるみんなに合わせる顔がない。それに、私がおもしろくない……!)

第9ターン
美里
LP:3900
手札:1
《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》、SS

喜多見
LP:5100
手札:5
無し

「私のターン! ドロー!」
(手札は結構いい。って言っても一気に攻め立てることができるような手札でもない。なら一手ずつ、確実に潰していく)
「私は《BF-極北のブリザード》を召喚! 効果を発動!」
 《BF-極北のブリザード》は召喚成功時、墓地から「BF」と名のついたレベル4以下のモンスターを蘇生できる。そして墓地にはミハイルが最初の《手札抹殺》で捨てた《BF-疾風のゲイル》がいる。対象はもちろんそれだ。
 しかし。
「させない。《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》の効果を発動! オーバーレイユニットを2つ取り外して、《BF-極北のブリザード》の効果を無効にする! バイス・クロー!!」

《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》 ORU:2→0

 《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》の大きな腕(というか全身)が《BF-極北のブリザード》の小さな体を握り潰す。
「効果は不発ね。まぁ、元々狙いは別にあるんだけど。このカードは、自分フィールドに「BF」と名のついたモンスターがいるとき手札から特殊召喚できる。《BF-黒槍のブラスト》を特殊召喚! さらに、レベル4の《BF-黒槍のブラスト》にレベル2の《BF-極北のブリザード》をチューニング! 漆黒の翼を広げ、地に伏す獲物を刈り取れ! シンクロ召喚! 黒き狩人、《BF-アームズ・ウィング》!!」
 強力な「BF」のシンクロモンスターの1体。その役割は「攻撃」。喜多見は即座にバトルフェイズに入る。
「《BF-アームズ・ウィング》で《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》を攻撃よ!」
「う、く……っ」

美里 LP:3900→3600

 ダメージは少ない。だが今の美里の体にはそれだけで十分に深刻なダメージだった。
「カードを1枚セット。これでターンを終了するわ」

第10ターン
美里
LP:3600
手札:1
SS

喜多見
LP:5100
手札:3
《BF-アームズ・ウィング》、SS

「私のターン、ドロー……けほっけほ……」
 咳き込みながらも手札を一瞥。やれることは少ない。今できる動きを行うしか美里にはない。
「《ホルスの黒炎竜 LV4》を通常召喚。バトルフェイズ、《ホルスの黒炎竜 LV4》で《BF-アームズ・ウィング》を攻撃……」
(ここで攻撃力の低い《ホルスの黒炎竜 LV4》で《BF-アームズ・ウィング》に攻撃。《収縮》か《禁じられた聖槍》を引いたわね……なら)
 喜多見はセットされたカードを発動させる。
「《ゴッドバードアタック》! 《BF-アームズ・ウィング》をコストに、あなたの《ホルスの黒炎竜 LV4》とセットカードを破壊!」
「させ……っない。《スターライト・ロード》を発動! 私のカードが2枚以上破壊する効果が発動されたとき、それを無効化してエクストラデッキから《スターダスト・ドラゴン》を特殊召喚!」
「くっ……」
『《BF-アームズ・ウィング》の犠牲も虚しく、《ゴッドバードアタック》は不発に終わりました! 秋月選手は新たな戦力を得てバトルを続行します!』
 《ホルスの黒炎竜 LV4》の攻撃。これによって喜多見のライフが美里のライフを下回ってしまった。

喜多見 LP:5100→3500

「私はっ、《冥府の使者ゴーズ》の効果を発動! このカードを特殊召喚して、さらに受けたダメージと同じ攻守を持つ《冥府の使者カイエントークン》を特殊召喚!」
(《スターダスト・ドラゴン》の攻撃を受けてから使ったんじゃ流石にライフがまずいことになる。仕方ないけどここはもう使わせてもらうわ……!)
「それじゃあ……《スターダスト・ドラゴン》で《冥府の使者カイエントークン》を破壊」
 《冥府の使者ゴーズ》の守備力は2500……《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力2500と同じであるため、《冥府の使者ゴーズ》を葬ることはできない。
「カードを1枚セット。けほっ……ターン、終了」
(《冥府の使者ゴーズ》が残った。セットカードは十中八九コンバットトリックカード。迂闊には攻められないわね……)

第11ターン
美里
LP:3600
手札:0
《ホルスの黒炎竜 LV4》、《スターダスト・ドラゴン》、SS

喜多見
LP:3500
手札:2
《冥府の使者ゴーズ》

「私のターン。ドロー!」
(よしっ。これなら《ホルスの黒炎竜 LV4》を突破できる!)
「永続魔法、《黒い旋風》を発動! さらに《BF-蒼炎のシュラ》を通常召喚よ!」
 ここで《黒い旋風》の効果が発動。通常召喚された「BF」よりも攻撃力の低い「BF」一体をデッキからサーチする。
「私は《BF-蒼炎のシュラ》の攻撃力は1800。よって攻撃力1300の《BF-疾風のゲイル》をサーチ! そのまま自身の効果で特殊召喚!」
 《BF-疾風のゲイル》も《BF-黒槍のブラスト》同様、フィールドに仲間がいれば自身を特殊召喚することができる。喜多見はさらに《BF-疾風のゲイル》の効果を発動した。

《ホルスの黒炎竜 LV4》 ATK:1600→800

「《ホルスの黒炎竜 LV4》の攻撃を半分に! バトル、《BF-蒼炎のシュラ》で《ホルスの黒炎竜 LV4》に攻撃!」
(《収縮》と《禁じられた聖槍》の両方を警戒して慎重に攻めてきた……。今の私じゃこの人を相手に思考の隙を突くのは難しいかも……っ)
 この時美里が伏せていたのは《禁じられた聖槍》。ここで使用しても《BF-蒼炎のシュラ》を迎え撃つことはできないため使用せず、《BF-蒼炎のシュラ》の攻撃を甘んじて受ける。

美里 LP:3600→2600

「さらに《BF-蒼炎のシュラ》の効果を発動! 相手モンスターを戦闘で破壊したとき、デッキから攻撃力1500以下の「BF」の効果を無効にして特殊召喚! 《BF-大旆のヴァーユ》!」
 喜多見はこの1度の攻撃でバトルフェイズを終了。セットカードを警戒し、攻めずに受けの態勢を取る。
「レベル4の《BF-蒼炎のシュラ》にレベル3の《BF-疾風のゲイル》をチューニング! 漆黒の翼を広げ、無敵の装甲を見せつけろ! シンクロ召喚! 黒き守り手、《BF-アーマード・ウィング》!!」
 戦闘において最高の型さを誇り、「攻め」の《BF-アームズ・ウィング》と対を成す「守り」の「BF」だ。
「さらにもういっちょ! レベル7の《冥府の使者ゴーズ》にレベル1の《BF-大旆のヴァーユ》をチューニング! シンクロ召喚! 不屈の戦士、《ギガンテック・ファイター》!!」
 《ギガンテック・ファイター》はお互いの墓地の戦士族モンスターの数×100ポイント攻撃力を上昇させる。だが現在互いの墓地に戦士族モンスターは存在しない。攻撃力の上昇は起こらない。
(2体とも戦闘に関して言えば無敵と言っても過言ではない強力なシンクロモンスター。やっぱりコンバットトリックを警戒してる……)
「私はこれでターンを終了よ!」

第12ターン
美里
LP:2600
手札:0
《スターダスト・ドラゴン》、SS

喜多見
LP:3500
手札:1
《BF-アーマード・ウィング》、《ギガンテック・ファイター》、《黒い旋風》

「私の……ッ、ターン!」
 ドローカードを確認し、発動を宣言する。
「《貪欲な壺》! 墓地の《ピラミッド・タートル》、《魂を削る死霊》、《クリッター》、《墓守の番兵》、《ホルスの黒炎竜 LV4》をデッキに戻して、2枚ドロー!」
(このタイミングで《貪欲な壺》を引いた!? データにある今までの彼女のデュエルからはこんな展開なかった。明らかに今までとは別人の動きじゃない!)
「なぁ、カイ。これもしかして……」
「ああ。間違いないな」
「えーっと、2人とも何の話をしてるんですか?」
 戒とミハイルの会話に首を傾げたのは鼬之原。2人の視線が彼に向けられる。
「あいつ、えーっとなんて言ったけ。あー、そう、秋月だったか。あいつのデュエリストレベルは8に上がってる。ミハイルとのデュエルを通してな」
「え?」
 鼬之原が驚いた。ミハイルとのデュエルを通して彼女のデュエリストレベルが上がった、と言うのはもちろんそうなんだが、それ以上に。
「そんなもの見て分かるんですか、針間先輩は?」
「俺は目がいいからな」
 理由になってない、と鼬之原は心の中でつっこんだ。
 同時刻、玄も同じく美里の異変に気づいており、神之上高校のメンバーたちにその説明を行っていた。
「最悪のコンディション、圧倒的強者とのデュエル。そういった極限の状態で美里は進化し、真価を発揮した。どうも奇妙だとは思ってたんだよ。ミハイルならあのレベルの作戦に気付く可能性は五分五分。ギリギリのところで気付かれるんじゃないかと思ってたけど、美里のデュエリストレベルが8に上昇してたのなら『羊の皮をかぶった狼(ミスディレクション)』の精度も上昇してるはず。これなら五分どころか十中八九成功する」
「美里ちゃんすごい……こんな土壇場でデュエリストレベルが上がるなんて!」
 璃奈が感嘆の声を上げる中、鷹崎はぼそっと呟いた。
「……離されちまったか」
「ん? 鷹崎、何か言ったか?」
「いいや、何も」
 各校のメンバーたちが会話を進めている間も、ステージの上ではデュエルが展開される。
(変な感じ……今にも倒れちゃいそうなくらい体がフラフラなのに、頭だけはすごくスッキリしてる。今なら……負ける気がしない!)
「魔法カード、発動! 《ブラック・ホール》!! フィールドのすべてのモンスターを破壊する!」
 《BF-アーマード・ウィング》と《ギガンテック・ファイター》は戦闘においては無敵に近い性能を持った強力なシンクロモンスターだ。しかし、効果破壊による体制は皆無。抵抗することもできずに重力の渦へと飲み込まれる。
「リバースカード、《禁じられた聖槍》を発動。《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力を800下げる代わりに、このカード以外の魔法・罠の影響を受けなくなる!」
「くっ」

《スターダスト・ドラゴン》 ATK:2500→1700

「《スターダスト・ドラゴン》でダイレクトアタック! シューティング・ソニック!!」

喜多見 LP:3500→1800

『《スターダスト・ドラゴン》のダイレクトアタックでライフはまたまた逆転! 喜多見選手のライフは2000を切ってしまいましたよーっ』
『それでも喜多見選手の墓地には「あの」カードがありますし……フィールドにも《黒い旋風》は残っています。まだ勝負はどうなるか分かりませんね……』
「はぁ、はぁ……私は、カードをセット。ターン、終了……」

第13ターン
美里
LP:2600
手札:0
《スターダスト・ドラゴン》、SS

喜多見
LP:1800
手札:1
《黒い旋風》

「私のターン、ドロー!」
(彼女は強い。それは事実よ。だけど……これでも私は宮路森高校決闘部の部長を任されてるんだ! 負けるわけにはいかない!)
「相手フィールドにモンスターが存在し、私のフィールドにモンスターがいないとき《BF-暁のシロッコ》はリリースなしで通常召喚できる!」
 そして《黒い旋風》の効果でデッキから《BF-黒槍のブラスト》をサーチする。 
「さらに、墓地の《BF-大旆のヴァーユ》の効果を発動! このカードと墓地の《BF-アーマード・ウィング》をゲームから除外し、レベル8の《BF-孤高のシルバー・ウィンド》をエクストラデッキから特殊召喚!」
 《BF-大旆のヴァーユ》の効果によって現れた《BF-孤高のシルバー・ウィンド》。その攻撃力は2800。《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力2500を超えている。しかし喜多見はそれを守備表示で特殊召喚した。
(今まで通りコンバットトリックはもちろん、《聖なるバリア-ミラーフォース-》を警戒するならココは《BF-暁のシロッコ》の効果を活用して単騎で攻める!)
「《BF-黒槍のブラスト》を守備表示で特殊召喚! そして、《BF-暁のシロッコ》の効果を発動!」
 1ターンに1度、「BF」1体を選択し、その攻撃力にほかのすべての「BF」の攻撃力を付加することができる。《BF-暁のシロッコ》の攻撃力2000に、《BF-黒槍のブラスト》の攻撃力1700と《BF-孤高のシルバー・ウィンド》の攻撃力2800を上乗せする。

《BF-暁のシロッコ》 ATK:2000→6500

「攻撃力6500……!」
(これなら《収縮》も《禁じられた聖槍》は大して意味がないし、《聖なるバリア-ミラーフォース-》が来ても破壊されるのは《BF-暁のシロッコ》だけ。そしてそうなっても、このターン引いた《次元幽閉》で対処できる。問題はないわ!)
「バトルよ。《BF-暁のシロッコ》で《スターダスト・ドラゴン》に攻撃!」
「速攻魔法、発動!」

美里 LP:2600→0

喜多見 LP:1800→0

『な……っ!?』
『両選手……ライフポイント、0……ですか?』
「これは……《ヴォルカニック・カウンター》!?」
 ミハイルのライフを0にした《ヴォルカニック・カウンター》。その効果が再び発動された。
「速攻魔法、《異次元からの埋葬》を発動させました……けほっ」
 除外されているカードを3枚まで墓地へ戻すことのできる速攻魔法。これで除外されていた《ヴォルカニック・カウンター》を墓地へと再び埋葬し、その効果によって《BF-暁のシロッコ》と《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力差、4000のダーメジがお互いのライフから削られ、共倒れと言う形になった。
「本来のルールなら、《ヴォルカニック・カウンター》の効果は自身がダメージを受けた後に相手プレイヤーにダメージが与えられる。そのため自分のライフが0になった場合はその処理がされずに負けが確定し、引き分けと言う結果にはならない。だけど今大会のルールでは、デュエルを引き継ぐプレイヤーがいるのならばその処理は行われ、相手プレイヤーにもダメージが与えられるという裁定が出てる。ちゃんと先日運営本部に電話してたしかめたから間違いないぜ」
 玄がその場の全員に引き分けと言う極めて稀な状況の説明を行う。
「大会専用の特殊裁定か。あるかもわからないこんな状況の裁定を確認しているとは……さすがは白神だな」
(負ける気がしないって思ってたけど、勝ってもいない。引き分けってオチとしてはどうなんだろう? でもそんなに贅沢言えないよね。引き分けにできただけ十分……かな。ちょっと頭痛い。熱も出てきたかも。視界がぼやけてる。足に力が入らない。倒れ……)
 体が前後に大きく揺れている。このまま倒れては体へと大きな衝撃が走ることとなる。そのことを理解していても体が言うことを聞かない。重力に身を任せ、美里の体は直立を保てなくなり、遂に前方に大きく倒れこんだ。
 だが、地面へと激突することはなく、ぽすっと誰かの胸と腕に支えられバランスを保っていた。
「大丈夫……秋月さん?」
「喜多見……さん?」
「すごい熱。こんな状況でミハイルくんと私とデュエルしてたなんて……あなたほんとにすごいわ」
 そう言いながら喜多見は美里を背負い、会場の出口の方へと向かった。
「え……っと、喜多見さん? 何を?」
「こんな状態なあなたを放っておけないでしょ。このまま医務室連れて行って多少は看病しようと思うけど……大丈夫かしら、神之上高校一同さん?」
「問題ないよ。と言うかありがたい。ご厚意に甘えるとするよ」
「あ……っと、ありがとう、ございます……」
 そう言って美里は喜多見の背中に身を任せる。
「そう、それじゃあ行ってくるわ。針間くーん、ちょっと抜けてるから、その間任せたわよー!」
 それだけ言い残し、美里を背負い退場する。おそらくは備え付けの中継画面からデュエルの経過を見守る気だろう。
「ったく、お人好しだな喜多見は」
「だからこそ喜多見先輩は僕たちの部長なんですよ。それじゃあ次、行ってきます」
「おう、気を付けろよ鼬之原。向こうの部長は、少々手強そうだ」
「はい」
『秋月選手は喜多見選手と共に医務室へ行ったようですね。それでは気を取り直して試合を再開しまーっす! 宮路森高校からは唯一の1年生、デュエリストレベル7の鼬之原宋次郎選手! 神之上高校からは3年生、デュエリストレベル8の部長さん、音無祐介選手です!』
『今大会のルールだと、宮路森高校側のターンでデュエルが中断しているため、神之上高校側のターンからスタートします……』

《BF-暁のシロッコ》 ATK:6500→2000

第14ターン
音無
LP:8000
手札:5
無し

鼬之原
LP:8000
手札:5
《BF-暁のシロッコ》、《BF-黒槍のブラスト》、《BF-孤高のシルバー・ウィンド》、《黒い旋風》

(僕のフィールドには喜多見先輩が残した「BF」が3体……相手のターンから始まるとはいえ、有利なのは僕だ。このデュエルは取らせてもらいます!)
 だが。
「それじゃ、僕ターン。ドロー」
 音無祐介にとってその程度のアドバンテージはハンデになりすらしない。



 9-3 ― 風向き ―



(風はこっちから吹いてる。ミハイル先輩が作って喜多見先輩が繋いだ流れを途絶えさせない……!)
「このモンスターは相手フィールドにモンスターが存在し、僕のフィールドにモンスターが存在しないとき特殊召喚できる。《サイバー・ドラゴン》!」
(【サイバー・ダーク】……別名【裏サイバー流】。それに【サイバー流】のギミックを組み込んだ亜種型のデッキを使ってくる。事前に確認してたデータ通りみたいだ。ここからさらに通常召喚を絡めて《BF-暁のシロッコ》と《BF-黒槍のブラスト》を破壊する気か……。でも、それなら《BF-孤高のシルバー・ウィンド》は残るし、そこで生まれるアドバンテージ差を少しずつ広げさせてもらいます)
 しかし、音無はその予想を裏切る。
「《融合呪印生物-光》を通常召喚! 効果を発動!」
(……ッ!? そんなものまで入ってるのか!?)
 その効果によって《融合呪印生物-光》と融合素材モンスターをフィールドから墓地へ送り、エクストラデッキから光属性の融合モンスターを特殊召喚する。現れたのは双頭の機械竜。
「《サイバー・ツイン・ドラゴン》を特殊召喚! そして機械族専用装備魔法《ブレイク・ドロー》を装備。バトル、《サイバー・ツイン・ドラゴン》で《BF-暁のシロッコ》に攻撃!」
「くっ……」

鼬之原 LP:8000→7200

「《ブレイク・ドロー》の効果が発動。このカードは装備後3ターンしかフィールドに存在できないが、装備モンスターが相手モンスターを戦闘で破壊したいとき、デッキからカードを1枚ドローする。そして《サイバー・ツイン・ドラゴン》は1度のバトルフェイズ中に2度の攻撃を行うことができるモンスター……もう一撃、《BF-孤高のシルバー・ウィンド》に攻撃! エヴェリューション・ツイン・バースト!!」
 《BF-孤高のシルバー・ウィンド》も2つの口から発射されたエネルギー砲によって破壊される。そして再び《ブレイク・ドロー》の効果によって1枚ドロー。
『これで互いに手札は5枚。フィールドにはモンスターゾーン、魔法・罠ゾーンにそれぞれ1枚ずつカードが置かれている状況! 勝負は五分五分となっちゃいました!』
(アドバンテージ差は一瞬で詰められた。三木島プロの言う通り、これでほとんど状況は五分……でも、実力はそうとは限らない。明らかに僕よりも格上の相手。普通にやっても勝てない)
「僕はカードを2枚セット。これでターンエンドだ」

第15ターン
音無
LP:8000
手札:3
《サイバー・ツイン・ドラゴン》、《ブレイク・ドロー》、SS×2

鼬之原
LP:7200
手札:5
《BF-黒槍のブラスト》、《黒い旋風》

「僕のターン、ドロー!」
(だからこそ、僕はいつも通りのデュエルをする。下手なことをしてあっけなく負けるわけにはいかない。当然勝ちは目指すけど、仮に負けても続く人たちが少しでも楽になるようにする!)
 手札6枚をじっくりと眺めながら長考する。
(攻撃力2000を超えるようなの高攻撃力のモンスターを序盤からガンガン使用して大幅にライフを削りながら、相手の動きを全て読み切っているかのように伏せカードで相手の動きを制するのがこの人の得意なプレイング。モンスターで攻め、魔法と罠で守る。とても当たり前でありふれたプレイング。だけでその当たり前でありふれたものをここまで高いクオリティで行うのは至難の業。隙らしい隙はない。それなら防御が追いつかなくなるくらいの攻めで隙を作る!)
「《手札断殺》を発動! 手札2枚を墓地へ送って2枚ドロー! 《紋章獣レオ》と《紋章獣アバコーンウェイ》を墓地へ」
「僕は《ハウンド・ドラゴン》と《サイバー・ダーク・エッジ》を墓地へ送り、2枚ドロー」
 《手札断殺》で墓地へ送られた《紋章獣レオ》の効果が発動。墓地へ送られた時、デッキから「紋章獣」1体をサーチする。鼬之原はデッキより《紋章獣ツインヘッド・イーグル》を手札に加えた。
「そしてそのまま通常召喚! そして鳥獣族レベル4モンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 吹き荒れろ、《零鳥獣シルフィーネ》!!」
 《紋章獣ツインヘッド・イーグル》と《BF-黒槍のブラスト》によって構築された氷のエクシーズモンスター。早速鼬之原はその効果を使用する。

《零鳥獣シルフィーネ》 ORU:2→1

「オーバーレイユニットを1つ取り外し、効果を発動! 相手フィールドの表側カードの効果をすべて無効にし、このカード以外の表側のカード1枚につきこのモンスターの攻撃力を300ポイントアップす……」
 ガチッ、と何か鉄のようなものが当たった音が鳴る。音無のフィールドから放たれた無数の鎖が《零鳥獣シルフィーネ》の体を縛り上げた音だった。
「《デモンズ・チェーン》を発動。《零鳥獣シルフィーネ》から効果と攻撃権を奪わせてもらったよ」
「くっ……なら次です! 《高等紋章術》を発動! 墓地の《紋章獣アバコーンウェイ》と《紋章獣ツインヘッド・イーグル》を一度フィールドを経由させてからオーバーレイ! エクシーズ召喚! 轟け、《電光千鳥》!! エクシーズ召喚成功時、セットされたカード1枚をデッキボトムに送ることが出来る! もう1枚のセットカードを選択!」
「《奈落の落とし穴》。《電光千鳥》を破壊しゲームから除外する」
 奈落の底へと追いやられる《電光千鳥》。鼬之原の攻めは次々といなされる。しかし。
「これで……伏せカードはなくなりました。魔法カード発動!《おろかな埋葬》を発動。デッキから《ダンディライオン》を墓地へ送って、その効果で《綿毛トークン》2体を特殊召喚!」
「トークン生成? 君のデッキが【紋章獣】であることを考えれば《クイック・シンクロン》からのシンクロかな?」
 それならば考えられる手は《ジャンク・アーチャー》でのダイレクトアタックか、《ニトロ・ウォリアー》で《サイバー・ツイン・ドラゴン》と相殺。
(どちらにしても痛手にはならないね……)
 しかし鼬之原のとった行動は全く別のものだった。
「《綿毛トークン》2体と、墓地のモンスター1体をゲームから除外!」
「!?」
 珍しい召喚条件を持ったそのモンスターは、大きな翼を広げ大気を震わせる色鮮やかな怪鳥だった。
「《The アトモスフィア》を特殊召喚!!」
『……最上級にも関わらず攻撃力はたったの1000。ですが《The アトモスフィア》は相手モンスター1体を吸収して、そのモンスターの攻撃力を自身の攻撃力に付加する効果を持ています。鼬之原選手の目的は最初からこれだったようですね……』
『音無選手の防御札がなくなるタイミングを狙ったんですねっ! これが決まれば流れは完全に鼬之原選手のもの。やや強引ではありますけど、うまい運び方です!』
「効果発動! 《サイバー・ツイン・ドラゴン》を吸収します!」
 大気が紐となり綱となり鎖となって《サイバー・ツイン・ドラゴン》に巻きつく。しかし、次の瞬間には大気は緩み双頭の機械竜は自由を取り戻した。
「《エフェクト・ヴェーラー》。手札からこのモンスターを墓地へ送り、《The アトモスフィア》の効果を無効にさせてもらった。デュエルはまだ始まったばかりだ。そう焦ることはないんじゃないかな?」
「……もう16ターン目ですけどね」
(ああ駄目だ。風は……向こうから吹いている)
 風向きはもう、変わっている。


 To be continue

       

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