Neetel Inside ニートノベル
表紙

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『凄まじい勢いで繰り出された《零鳥獣シルフィーネ》、《電光千鳥》、《The アトモスフィア》の鳥獣族三連投! ですが音無選手はその全てを防ぎきってしまいます! 決勝戦も中盤に差し掛かってまいりましたーっ! 勝利はどちらの手にっ』
「僕はターンを終了します……」
(伏せる札はない……このままだと2ターン前とはアドバンテージ差が逆転してしまう!)

第16ターン
音無
LP:8000
手札:2
《サイバー・ツイン・ドラゴン》、《ブレイク・ドロー》、《デモンズ・チェーン》

鼬之原
LP:7200
手札:2
《零鳥獣シルフィーネ》、《The アトモスフィア》、《黒い旋風》

「僕のターン、ドロー!」
 このドローで手札は3枚。鼬之原の《手札断殺》で準備は整っている。相手に守るための札はなし。躊躇いなく攻めていく。
「《サイバー・ダーク・ホーン》を通常召喚! 効果で墓地の《ハウンド・ドラゴン》を装備し、その攻撃力1700分自身の攻撃力をアップ!」

《サイバー・ダーク・ホーン》 ATK:800→2500

(くっ……僕の《手札断殺》で結果的に向こうの展開速度を上げてしまった。いや、やってしまったことを後悔しても遅い。今は目の前の状況を何とかすることに集中しないと)
「バトルフェイズに入ろう。まずは《サイバー・ツイン・ドラゴン》で《零鳥獣シルフィーネ》を攻撃!」

鼬之原 LP:7200→6400

「《ブレイク・ドロー》の効果で1枚ドロー。さらに、もう一撃! 《The アトモスフィア》を破壊しろ! エヴォリューション・ツイン・バースト!!」
「ぐっ……ぅ!」

鼬之原 LP:6400→4600

 当然《ブレイク・ドロー》の効果でカードをドロー。
「続いて《サイバー・ダーク・ホーン》でダイレクトアタック!」
 鋭く研ぎ澄まされた機械生物がプレイヤーに向かって突撃する。しかし、その攻撃は突如現れた壁に阻まれる。
「ダイレクトアタックを宣言されたとき、このモンスター手札から特殊召喚できる。《ガガガガードナー》を守備表示で特殊召喚!」
 守備力2000の壁。だがドラゴンの力を吸収し強化された《サイバー・ダーク・ホーン》の攻撃力2500前のでは意味を成さない。構わず突進する。
「《ガガガガードナー》の効果を発動! 攻撃対象に選択されたとき、手札1枚を捨てることで戦闘破壊を免れる! 僕は《紋章獣レオ》を捨てて破壊を無効!」
「だけど《サイバー・ダーク・ホーン》には守備貫通効果がある。ダメージは受けてもらうよ!」
「捨てられた《紋章獣レオ》の効果が発動します。デッキから《紋章獣アバコーンウェイ》をサーチ!」

鼬之原 LP:4600→4100

『手に汗握る攻防! 鼬之原選手は大幅にライフを削られながらも守り、次の一手への布石を打ちます!』
「カードを1枚セット。ターンエンドだ」

第17ターン
音無
LP:8000
手札:3
《サイバー・ツイン・ドラゴン》、《サイバー・ダーク・ホーン》、《ブレイク・ドロー》、《ハウンド・ドラゴン》(装備)、SS

鼬之原
LP:4600
手札:1
《ガガガガードナー》、《黒い旋風》

「僕ターン!」
 鼬之原の手札は2枚。1枚は《紋章獣レオ》の効果でサーチした《紋章獣アバコーンウェイ》。そしてこのターンドローした《紋章変換》は「紋章獣」の特殊召喚とバトルフェイズをスキップする効果を持つ罠カードだ。
(《紋章獣アバコーンウェイ》を通常召喚すれば4×2のランク4エクシーズが出せる。そして《紋章獣アバコーンウェイ》が墓地に行けばその効果で《紋章獣レオ》を回収して《紋章変換》も使えるし、まだ大丈夫だ!)
「《紋章獣アバコーンウェイ》を通常召喚! レベル4の《ガガガガードナー》と《紋章獣アバコーンウェイ》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 打ち抜け、《ガガガガンマン》!! オーバーレイユニットを1つ取り外して、効果を発動!」

《ガガガガンマン》 ORU:2→1

「このモンスターが攻撃表示のとき、モンスターと戦闘を行うダメージステップ時このモンスターの攻撃力を1000ポイント上げ、戦闘するモンスターの攻撃力を500下げる。バトル! 《ガガガガンマン》で《サイバー・ツイン・ドラゴン》に攻撃!」
 銃口が《サイバー・ツイン・ドラゴン》に向けられる。しかし、その攻撃が行われることはなかった。
「バトルフェイズ移行時、罠カードを発動。《魔のデッキ破壊ウィルス》! 攻撃力2000以上のモンスター《サイバー・ダーク・ホーン》をリリースし、相手のフィールド、手札の攻撃力1500以下のモンスターを全て破壊する。《ガガガガンマン》を破壊。手札も確認させてもらうよ」
 《ガガガガンマン》はダメージステップに入らなければ攻撃力が上昇しない。素の攻撃力は《魔のデッキ破壊ウィルス》の効果圏内、ぴったり1500だ。
 鼬之原は《魔のデッキ破壊ウィルス》の効果処理通り手札を見せる。
「《紋章変換》か。破壊されるのは《ガガガガンマン》だけだね」
 音無の消費は2枚、鼬之原が失ったのは1枚だけ。そう考えればディスアドバンテージを負ったのは音無の方。だが、手札を見られてしまっては鼬之原の動きが筒抜けになったも同然。損害の大きさは明らかだった。
「僕は……カードを1枚伏せて、《紋章獣アバコーンウェイ》の効果で別の《紋章獣アバコーンウェイ》を除外し、《紋章獣レオ》を回しゅ……」
「チェーン、《D.D.クロウ》。このカードを墓地へ送り、《紋章獣レオ》をゲームから除外する」
 《紋章変換》を発動させるためのコストさえ奪われる。もはや鼬之原に音無の攻撃を防ぐ術は何一つとして残されていなかった。
「っ……ターン、終了……です」

第18ターン
音無
LP:8000
手札:2
《サイバー・ツイン・ドラゴン》、《ブレイク・ドロー》

鼬之原
LP:4600
手札:0
《黒い旋風》、SS

「僕のターン! 《サイバー・ツイン・ドラゴン》で2度のダイレクトアタック! エヴォリューション・ツイン・バーストォ!」
(なんなんだこの人は……これで本当にデュエリストレベル8? 明らかにその枠を逸脱してる……!)
「うわああああああああっ!!」

鼬之原 LP:4600→1800→0

『決着ですっ。音無選手、ノーダメージで鼬之原選手に勝利しました!』
『これで両校とも残っている選手は3名ずつ……序盤でミハイル選手が付けた差はなくなってしまいました』
『会場の皆様の予想を裏切る展開!! 熱くなってきましたー! それでは宮路森高校からはデュエリストレベル7、2年生の神宮寺一二三選手です!』
「神宮寺先輩、気を付けて下さい」
「おう、任せとけっ!」
 音無はメイン2へ移行。カードをセットし、ターンを終えた。
「カードを1枚セット。このエンドフェイズ時、《ブレイク・ドロー》発動から3ターンが経過したため自動的に破壊される」
 この《ブレイク・ドロー》によって音無がドローしたカードは合計4枚。3ターンだけの役目とはいえ、十分な活躍だろう。
「ターンエンドだ」

第19ターン
音無
LP:8000
手札:2
《サイバー・ツイン・ドラゴン》、《サイバー・ダーク・キール》、《ハウンド・ドラゴン》(装備)、SS

神宮寺
LP:8000
手札:5
《黒い旋風》、SS

「僕のターン、ドロー!」
『ウイルスカードはドローしたカードを逐一確認して、効果圏内のカードを破壊していくカードです。だけど、今大会の特殊裁定では、ウイルスを掛けられたプレイヤーが退場して後続のプレイヤーにバトンタッチした場合その効力は切れる、と言うことになっています……』
『つまり神宮寺選手に対して《魔のデッキ破壊ウィルス》は適用されない、ってことですねっ!』
 それは神宮寺に対しては朗報であると同時に音無に対しての悲報。しかし音無もその程度把握した上でのこと。なんら問題はない、と言う風だった。
「魔法カード、《大嵐》発動! 魔法・罠ゾーンのカード全てを破壊する!」
 互いに魔法・罠が2枚ずつフィールドに存在する。しかし神宮寺の魔法・罠はすでに意味のない《黒い旋風》とセットされた《紋章変換》だ。ダメージを受けるのは音無だけとなる。しかし。
「チェーンして《八汰烏の骸》を発動! デッキからカードを1枚ドロー」
 セットカードはブラフ。だが伏せがブラフだと分かった今、神宮寺は心置きなく攻めることができる。
(さて……鼬之原君とのデュエルで多少カードを使いすぎた感はある。こっちのフィールドには2800の《サイバー・ツイン・ドラゴン》もいるけど、向こうの手札はまだ5枚。こっちには伏せもないし、これくらいはこのターン中には抜けられそうだ。問題は次のターンの切り返しだけど……まぁ、問題はないか)
「僕は《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚!」
「……っ!」
『ここで神宮寺選手、音無選手と同じく《サイバー・ドラゴン》を出してきましたっ! と言うことは……』
『「アレ」が来ますね……』
「《サイバー・ドラゴン》と《サイバー・ツイン・ドラゴン》を素材に、融合召喚!!」
 《融合》のカードを必要としない特殊な融合方法。その上その素材対象は相手フィールドにも及ぶ。自身が機械族であるにもかかわらず、機械族キラーと呼ばれる要塞。

 Chimeratech Fortress Dragon!!!

 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》。その攻撃力は素材としたモンスターの数×1000ポイントとなる。
 素材となったのは《サイバー・ドラゴン》、《サイバー・ツイン・ドラゴン》の2体。よって《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》攻撃力は……。

《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》 ATK:0→2000

 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力自体は低い。だが、これで音無のフィールドにカードは存在しない。完全に無防備な状態となった。
「さらに《ブリキンギョ》を通常召喚。効果で《イエロー・ガジェット》を特殊召喚!」
 《イエロー・ガジェット》の効果でデッキから《グリーン・ガジェット》をサーチ。そして。
「機械族レベル4モンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 歯車の戦士、《ギアギガント X》!! 効果発動!」

《ギアギガント X》 ORU:2→1

「オーバーレイユニットを1つ取り外し、デッキまたは墓地からレベル4以下の機械族モンスターを手札に加える! 《マシンナーズ・ギアフレーム》をデッキからサーチ!」
(典型的な【マシンガジェット】……! 少しやっかいかな)
「バトル! 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》、《ギアギガント X》でダイレクトアターック!!」
「ぐっ……うわぁっ!!」

音無 LP:8000→6000→3700

『音無選手ここで初ダメージです! 一気にライフポイントを持っていかれちゃいましたーっ!!』
「ふふん! どうだっ! 僕はカードを2枚セットして、ターンエンド!!」
「……結構痛いなぁ。これはきっちりお返ししないと駄目だね」

第20ターン
音無
LP:2700
手札:3
無し

神宮寺
LP:8000
手札:2
《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》、《ギアギガント X》、SS×2

「僕のターン、ドロー」
(思ったより落ち着いてるなぁ……向こうの手札は4枚、フィールドはがら空き。こっちのフィールドには《ギアギガント X》と攻撃力2000の《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に2枚の伏せカード。モンスター自体はそう大したものじゃないけど、簡単に覆される状況じゃないはず……)
 音無は手札から1枚のカードを引き抜く。するとフィールドに突風が吹き荒れた。
「《大嵐》を発動。君の2枚の伏せカードを破壊させてもらうよ」
「同じ手で来たか! でも……《スターライト・ロード》を発動! 自分のカードが2枚以上破壊カード効果が発動されたとき、そのカードを無効化し破壊。さらにエクストラデッキから《スターダスト・ドラゴン》を特種召喚する! 飛翔しろ《スターダスト・ドラゴン》!」
 吹き荒れる突風を押し退け、風を纏い星屑の竜が現れる。
 だが、隙間を縫うようにして新たに旋風が巻き起こり、神宮寺のセットカード――《神の警告》――が破壊された。
「《スターライト・ロード》にチェーンして《サイクロン》を発動。もう1枚のセットカードを破壊させてもらったよ」
『んー? このプレイング、どう思いますか明石プロ?』
『そうですね……何か逆転の大技を狙っているなら《スターライト・ロード》を警戒して《サイクロン》で1枚破壊してから《大嵐》を発動してもおかしくありません。ですが……これはチーム戦ですし、なるべく手札を温存しておきたかったのかもしれませんね』
『うーん……何か音無選手らしくないというか、何かが引っかかってるんですよねー』
(確かにおかしい……)
 鼬之原も三木島プロの感じていた違和感を同じように感じていた。
(あの人は恐ろしいくらいこっちの手を読んでくる。中型モンスターを2体並べ、伏せカードも2枚。この状況なら《スターライト・ロード》伏せられてると考えても何もおかしくない。それを音無さんが読めなかった? それとも、わざと……?)
 その疑問は、音無の繰り出す1枚の魔法によってスッキリ解決された。
「続いて魔法カード、《オーバーロード・フュージョン》を発動!」
 闇属性・機械族専用の融合カード。音無は墓地から5体のモンスターをゲームから除外した。
「《サイバー・ドラゴン》、《サイバー・ツイン・ドラゴン》、《サイバー・ダーク・エッジ》、《サイバー・ダーク・ホーン》、《サイバー・ダーク・キール》をゲームから除外し、融合召喚! 現れろ……」

 Chimeratech Overdragon!!!

 《キメラテック・オーバー・ドラゴン》。神宮寺の召喚した《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》とは同系統の強力な融合モンスター。素材の数×800ポイントの攻撃力を得て、同じく素材の数だけモンスターに攻撃することができる。その強力な効果の代償として融合召喚時に自身以外の自分のフィールドのカードをすべて破壊してしまうが、現在音無のフィールドには《キメラテック・オーバー・ドラゴン》のみのため損害は0となる。
「5体のモンスター素材としたため攻撃力は4000ポイント! さらにモンスターに5回攻撃が可能となる!」

《キメラテック・オーバー・ドラゴン》 ATK:?→4000

(そうか……攻撃回数を増やし、ダメージをより多く与えるために《スターライト・ロード》を使わせたのか!)
(でもこれで僕が受けるダメージは合計5200……大ダメージだけどライフはまだ2800残るし、返せない状況じゃない!)
「さらに、機械族専用装備魔法《重力砲》を《キメラテック・オーバー・ドラゴン》に装備! その効果で《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の攻撃力を400ポイントアップさせる!」

《キメラテック・オーバー・ドラゴン》 ATK:4000→4400

(攻撃力が400ポイントアップしても受けるダメージは合計1200増えて6400……ん? 待てよ……《重力砲》? ってことは――)
「――しまった」
 《重力砲》には攻撃力上昇効果だけでなく、もう1つ効果が存在する。装備モンスターと戦闘したモンスターの効果をダメージステップ終了時まで無効化する。《ギアギガント X》や《スターダスト・ドラゴン》の効果が無効になったところで今は関係ない。だが、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》は別。《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃力は自身の効果によって保たれているもの。つまり。
「《重力砲》を装備した《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の前ではただの攻撃力0のモンスター。いくよ、バトルフェイズ! 《キメラテック・オーバー・ドラゴン》で全モンスターに攻撃! エヴォリューション・リザルト・バーストォッ!! 3連打ァ!」
「うっ、うわああああああああああっっ!!!

《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》 ATK:2000→0

神宮寺 LP:8000→3600→1500→0

『大ダメージを受けたと思ったら次のターンには1ターンキル! 神宮寺選手を2ターンで退場させてしまいました!』
『と言いますかこれは……』
「形勢逆転……だね」
 宮路森高校は残り2人。対する神之上高校は音無を含めて3人。ミハイルの付けた数の差はこれで逆転した。
「くっそー! 勝てると思ったのにーっ!! 悔しーっい!」
「そう凹むな神宮寺。あれを相手に4000以上ライフ削っただけで十分だ。それに今ので向こうの手札は0枚。よくやったよお前は」
「そうそう。こっちにはカイがいるし……ナオも残ってるんだぜ」
 全員の目線が十時直に向けられる。その視線を感じたのか、十時ははぁと溜め息をついた。
「はぁ、私の出番……ね。やってくるわよ。約束通りね。それでいいんでしょ?」
「ああ。頼んだぞ」
 十時は無言でステージへと登っていく。長い前髪が邪魔をして表情は全く読めない。



 9-4 ― もう一つの壁 ―



 会場入口付近。たったったったったったっ、と走る6つの足音が響く。
「ああもう。始まってから大分経っちゃったじゃない! 誰のせいよ!」
「姉さんが乗る電車を間違えたからじゃ……」
「あんたのせいよ!」
「ええっ!? なんで僕に責任転嫁!?」
「はいはい分かったから。口じゃなくて足動かしなさい」
「会場にとーちゃくっ! クロたちのデュエルはどこでやってるのかなー?」
「あそこだな。歓声が聞こえる」
『それでは宮路森高校からは5人目です!』
「あらあら。もうそんなに進んじゃってるの? アンナのお兄さんはもう負けちゃったみたいね」
「もちろんだよ! アンナが一生懸命マコとトオルとミサトを特訓してあげたんだからっ!」
 栖鳳学園決闘部。東ブロック決勝で玄たち神之上高校決闘部デュエルし、接戦の末に本戦への切符を逃した6人。
 金銭面の関係で2日間来ることはできず、決勝である本日のみ玄たちを応援しにやってきたのだが、諸事情のため会場に着くのが遅れてしまい、終盤になってようやく観客席まで辿り着いたのだ。
「ふぅ、ようやく着いたわ。今ステージに立ってるのは音無くんと……誰かしら? 見たことないわね」
(ん? あの女どこかで……)

『なんとデュエリストレベル10! 3年生、十時直選手です!』
『2人の『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』のほかにデュエリストレベル10のデュエリスト……神之上高校がチームでのデュエルを意識しているのに対して、宮路森高校は個人の強さを前面に押しているように感じられますね……』
「僕のターンはこれで終わりだ。ターンエンド」

第21ターン
音無
LP:3700
手札:0
《キメラテック・オーバー・ドラゴン》、《重力砲》

十時
LP:8000
手札:5
無し

「……ドロー」
 気怠そうにカードをドローし、十時のターンが始まる。
「魔法カード、《トレード・イン》。手札の《銀河眼の光子竜》をコストに、2枚ドロー」
(《銀河眼の光子竜》……【フォトン】かな。彼女のデュエリストレベルは10。この状況から何ターン堪えられるか)
 この時、音無にしては珍しく相手の事を読み切れていなかった。
 攻撃力4400、戦闘モンスターの効果を無効化する《キメラテック・オーバー・ドラゴン》が場にいるのだから、そう易々と盤面は覆らないはず……そう思っていた。だが。
「《未来への想い》を発動。墓地からレベルの違うモンスター3体の効果を無効化し、攻撃力を0にして特殊召喚」
 十時は《銀河眼の光子竜》、《イエロー・ガジェット》、《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚。

《銀河眼の光子竜》 ATK:3000→0

《イエロー・ガジェット》 ATK:1200→0

《サイバー・ドラゴン》 ATK:2000→0

 《未来への想い》は3体のモンスターを特殊召喚できる強力な効果を持っているが、発動ターンはエクシーズ召喚以外の特殊召喚ができない上、そのターン中にエクシーズ召喚しなければ4000のライフを失ってしまう。まさに諸刃の剣と言ったところだろう。
「《ギャラクシー・クィーンズ・ライト》を発動……自分フィールドのモンスターのレベルを《銀河眼の光子竜》のレベルに揃える」

《イエロー・ガジェット》 LV:4→8

《サイバー・ドラゴン》 LV:5→8

「この流れは、まさか……っ!?」
「レベル8のモンスター3体で、オーバーレイ」
 3体のモンスターが光の球となり、螺旋状に交わり、ビッグ・バンを彷彿させるような大きな爆発を生む。
「轟く銀河よ……至高の光となりて、ここに顕現しろ……。エクシーズ召喚」

 Neo Galaxy-Eyes Photon Dragon!!!

 三つ首のドラゴン。全身を赤く光らせ、その鋭い眼光は名の通り銀河を映し出している。
「このモンスターが《銀河眼の光子竜》を素材としてエクシーズ召喚に成功したとき、このカード以外の表側でフィールドに存在するカードの効果を全て無効化する」
 効果が無効となった《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の攻撃力は著しく減少する。かろうじて《重力砲》の効果によるアタックの上昇分のみが攻撃力として反映されるが、《超銀河眼の光子龍》の前では何の意味もなさない。

《キメラテック・オーバー・ドラゴン》 ATK:4400→400

「バトルフェイズ。《超銀河眼の光子龍》で《キメラテック・オーバー・ドラゴン》に攻撃……!」

 Ultimate Photon Stream!!!

「ぐっ……ぁあああっ!!」

音無 LP:2700→0

「《銀河眼の光子竜》……ということは間違いないな……」
「……? 鳳先輩、あの人のこと知ってるんですか?」
 観客席からただ一点を凝視する鳳に向かって冬樹が問いかける。
「ああ。俺が優勝した3年前の全国中学生デュエル大会。それの準優勝者があいつ、十時直だ」
 鳳の様子とは裏腹に、栖鳳の者たちの反応は薄かった。
「ふぅーん、じゃあ少なくとも昔は鳳くんの方が強かったわけね。今のデュエリストレベルは彼女のが上みたいだけど」
「それがそうでもないのよね」
 答えたのは鳳ではなく彩花。そのまま話を続ける。
「私も今思い出したんだけど、瞬ちゃんと十時さんはその年の2大優勝候補だったのよ」
 《ネフティスの鳳凰神》を主軸とし、トリッキーな戦術で確実に追い詰めていく鳳。《銀河眼の光子竜》を主軸とし、圧倒的攻撃性で一気に場を制圧する十時。他の追随を許さず、そうなることが決まっていたかのように2人は決勝へと駒を進めた。
「だが、十時は決勝の舞台に現れることはなかった。不戦勝……それがあの大会の結末だ。それ以来、俺はアンナと出会うまでデュエルをやめた。その間、十時もデュエルをやめていたと聞いていたが……」
「瞬ちゃん同様アンナに……『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』に出会ったことで、デュエルを再開したってことね」
「鳳先輩はアンナを通してデュエルの楽しさを思い出した。それじゃあ十時さんも同じように……?」
(いや……1ターン。たったの1ターンだが、十時のデュエルからは楽しんでいるという風には見えなかった。むしろこれは……)

『宮路森高校、追い抜かれても即座に追いつきましたっ』
『連続で対戦プレイヤーが交代していきましたが、次はどうなるでしょうね……』
『神之上高校からも5人目、デュエリストレベル6ながらも大きな爆発力を備えています! 1年生、早川璃奈選手です!』
「気を付けなよ。ミハイル君、針間君と同様に、彼女は僕たちにとってもう一つの壁となる」
「はい。頑張ってきます」
 璃奈がステージに到着すると、十時はメインフェイズ2へと移行する。
「……カードを2枚セット。ターンエンド」

第22ターン
璃奈
LP:8000
手札:5
無し

十時
LP:8000
手札:2
《超銀河眼の光子龍》、SS×2

 このデュエルが、このチーム戦の勝利に大きく関わるであろうことを、両チームはもちろん、会場中の全員が感じていた。
 片やレベル10の《銀河眼の光子竜》使い。片やレベル6の《E・HERO ネオス》使い。
 圧倒と破壊。展開と蘇生。瞬殺と必殺。似て非なるデュエルをする2人の決闘者。
 ここまでのデュエル、同じ決闘者が多くのターンを1人の決闘者と戦うことはなかった。それはデュエリストとしての実力が拮抗したデュエルが、強いて言うならば美里と喜多見のデュエルくらいしかなかったためだと言えるだろう。
 ならばこの2人はどうだろうか。デュエリストレベルだけを見ればその差は歴然。しかしそれがすべてを物語るわけではなかった。
 またこのデュエルは、チームの勝敗を揺るがすだけでなく、1人の少女のこれからに、大きく関わるデュエルにもなることを、この会場にいるすべての人間はまだ知らない。

       

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Neetsha