Neetel Inside ニートノベル
表紙

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「ありがとうございました」
 2人の少女の決闘が終わり、先に口を開いたのは敗者――璃奈だった。
「楽しかったです。またやりましょうね」
「……お礼を言うのはこっちの方よ。ありがとう早川さん。それとごめんなさい。色々、ひどいこと言っちゃったから」
 申し訳なさそうに俯く十時。
「いえ、全然気にしてませんよ。だからそんな顔しないでください。勝者は笑ってないといけないんですよ?」
「……ふふっ、そうよね。本当にありがとう。また今度……次は、チームとかそういうの関係なしにデュエルしましょう」
「はいっ」
『さあっ! 遂にやってきましたよ! 神之上高校からは最後の一人! 現在はレベル10と言うことになっていますが、元『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』の経歴を持ったデュエリスト! 2年、白神玄選手です!』
「よーっやく俺の出番か。滅茶苦茶久しぶりな気がするぜ」
「クロくん……あとは任せましたよ」
「ああ、あとは任されてやるよ」
 パン、と互いの手を軽くタッチし、璃奈はステージから降り、玄はステージへと登っていく。

「さて、白神の出番か。この盤面……神之上の連中にとって吉と出るか凶と出るか……」
 観客席。呟いたのは鳳瞬だ。
「どういうこと、瞬ちゃん?」
「だからその呼び方はやめろと……まぁいい。十中八九このターンの内に白神は十時を倒すだろう。そうなれば次は『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』同士の決闘となる。そこに行きつくにあたって、有利となるか不利となるか……と言う話だ」
「そんなの不利じゃないの? 十時さんを倒すために最低1枚はカード消費するんだから、どう考えたってアドバンテージの面で白神くんの方が不利になるじゃない」
 そう答えたのは春江。言っていることは至って当たり前のこと。先程の璃奈と十時のデュエルも、十時が先にアドバンテージを消費していたためあそこまでの接戦になったが、もしも対等な条件の下デュエルしていればもっと早く決着が着いていただろう。
 だが。
「そうとも限らない」
 鳳はそう返した。
「普通に考えればその考えは正しい。だが、逆に考えれば向こうの大将が来る前に下準備をしておけると言うことだ」
「下準備……ですか?」
「ああ。針間戒……奴がどんな戦術、デッキ、デュエルスタイルを使用してくるかは分からないが、白神には分かっているはずだ。奴ほどのデュエリストなら、十時のライフを0にしつつ、針間の攻めを待ち構えることができるかもしれん」
「なるほどねぇ……」
「とは言っても、あくまで俺の想像にすぎんがな。だが白神ならばその程度の事、やってのけそうだと思ってな……」
 そして……。

第32ターン

LP:8000
手札:5
無し

十時
LP:100
手札:0
《輝光帝ギャラクシオン》、《No.107 銀河眼の時空竜》

「俺のターン、ドロー」
(私のライフはたったの100……はっきり言ってこのターンを生きる残るのは不可能ね。問題はどれだけの戦力を針間くんに残せるか、そして彼の戦力を削れるか。と言っても私のできることはもうないけど)
 玄の手札は6枚。このうち何枚削れるかによって、後続の戒がどれだけ有利になってくるかが変わってくる。
 だが、まさか誰も玄がこのターンのエンドフェイズに手札0枚になるとまでは予想できなかった。
「さぁて、久しぶりだ。うまくやれるかは分からねぇが、気を引き締めてやりますか」
 そう言って玄は誰にも聞こえないような小声で呟いた。
「『明鏡止水(クリア・マインド)』……」
 すると玄は、だらん、と両腕から力を抜き棒立ちした。そして――。
「――すぅー……ふぅーっ。すぅー……ふぅーっ」
 深呼吸をし始めた。
(ちょっ……これってまるで……)
 ミハイルみたいじゃないか、十時は……いや会場中にいる大半の人間がそれを感じていた。
「白神……てめぇまさか……ッ!」
『……これは、どういうことなんでしょうか? ミハイル選手の物真似?』
『……物真似とは何か違いますね。物真似、と言うにはあまりにも……』
 明石プロはそれ以上言葉を続けなかった。いや、続けてはいけないと思った。まるでそんなことはあってはならいと言うように、自らの思考を否定し、口を噤んだ。
 あまりにも……あまりにも――。

「――そのままで有り過ぎます」

 そう呟いたのは璃奈。未だ若干だが『自殺決闘(アポトーシス)』の力が発動したままの彼女は、壇上に立っている白神玄がミハイル・ジェシャートニコフに重なって見えたのだ。
「……ふぅー。さぁ、行くぜ」
 呼吸が、手付きが、立ち方が、視線が……白神玄が行う一挙一動がミハイルのそれそのものだった。
「まずは《先史遺産クリスタル・ボーン》を特殊召喚。このカードは相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合手札から特殊召喚できる。さらに、この効果で特殊召喚に成功した時、手札または墓地から「先史遺産」と名の着いたモンスター1体を特殊召喚できる! っと……まぁ効果は使わないんだけどな」
 あいにく玄の墓地には「先史遺産」は1体もいない。
「次だ。フィールドに「先史遺産」がいるとき、《先史遺産クリスタル・スカル》は手札から墓地へ送ることで、デッキから《先史遺産クリスタル・スカル》以外の「先史遺産」をサーチできる。俺は《先史遺産モアイ》をサーチしそのまま特殊召喚!」
 《先史遺産モアイ》は「先史遺産」がフィールドに存在する場合、手札から特殊召喚することができる。レベル3の《先史遺産クリスタル・ボーン》とレベル5の《先史遺産モアイ》。このままではシンクロもエクシーズもできないが……。
(召喚権がまだ残ってる。出てくるのはチューナー? それともレベル3かレベル5のモンスター?)
 十時のその考えはほぼ正解だったと言える。しかしその展開量は想像を超えていた。
「《先史遺産モアイ》を手札に戻し、《A・ジェネクス・バードマン》の効果を発動! このモンスターを特殊召喚する! そして《先史遺産モアイ》の効果を発動。自分フィールドに「先史遺産」が居れば手札から特殊召喚できる! 再び現れろ《先史遺産モアイ》! 続いて通常召喚だ、《深海のディーヴァ》!」
 《深海のディーヴァ》は召喚成功時にデッキからレベル3以下の海竜族モンスター1体を特殊召喚できる。呼び出したのは同名モンスター。これで玄のフィールドは5体のモンスターに埋め尽くされた。
「どんどん行こうか。レベル3の《先史遺産クリスタル・ボーン》にレベル2の《深海のディーヴァ》をチューニング! 科学と魔術が交差するとき、新たなる物語の1ページが刻まれる! シンクロ召喚! 《TG ハイパー・ライブラリアン》!」
 ジェジャートニコフ兄妹がよく使用するドローブースト効果を持つシンクロモンスター。それが現れたということは玄の展開はまだまだ終わらないということだ。
「続いて、レベル5の《先史遺産モアイ》にレベル3の《A・ジェネクス・バードマン》をチューニング! 煉獄より生まれし紅蓮の炎を身に纏いて、不都合な現実を捻り潰せ! シンクロ召喚! 砕け、《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》!」
「今度はアンナちゃんのフェイバリット……!」
「まだまだ終わりそうにないね……これは」
「《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果で1枚ドロー。そして今引いたカードをデッキトップに置き、墓地から《ゾンビキャリア》を特殊召喚! さらに墓地の《D-HERO ディアボリックガイ》の効果を発動。このカードをゲームから除外し、デッキから同名モンスターを特殊召喚!」
「なっ……いつの間にそんカードが墓地に!?」
「辻垣内真子……ミハイルの発動した《手札抹殺》か。あの時捨てられた4枚のカードの中に《ゾンビキャリア》も《D-HERO ディアボリックガイ》も確かにあった。ここで使ってくるか……」
「レベル6の《D-HERO ディアボリックガイ》にレベル2の《ゾンビキャリア》をチューニング! 2体目の《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》をシンクロ召喚だ!」
 さらに《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果で1枚ドロー。
「そしてもう1度《D-HERO ディアボリックガイ》の効果を発動し、特殊召喚する!」
 本来ならば《D-HERO ディアボリックガイ》は準制限カード。その効果の使用は1度きりとなる。しかしこの変則的なルールならば仲間の力を利用し、その効果を2度発動させることも可能なのだ。
「レベル6の《D-HERO ディアボリックガイ》を、今度はレベル2の《深海のディーヴァ》とチューニング! 瓦礫より生まれし屑鉄の竜よ、その力を存分に振るい眼前の敵をぶっ壊せ! シンクロ召喚! 《スクラップ・ドラゴン》! 《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果で1ドロー……にチェーンして《シンクロ・マグネーター》の効果を発動! このモンスターを手札より特殊召喚する!」
 次から次へと溢れるモンスター。その光景はまさにミハイルやアンナがデュエルしているかのようだった。
「レベル5の《TG ハイパー・ライブラリアン》にレベル3の《シンクロ・マグネーター》をチューニング! 閃光に包まれた決闘の竜……今こそその力を開放しすべてを覆う盾となれ! シンクロ召喚! 照らせ、《閃珖竜 スターダスト》!」
 これで、玄のフィールドには4体のレベル8、ドラゴン族シンクロモンスターが並んだ。
「まずは《スクラップ・ドラゴン》の効果を発動。《スクラップ・ドラゴン》自身と《No.107 銀河眼の時空竜》を選択し破壊する!」
 さらにチェーンして《閃珖竜 スターダスト》の効果を発動し、1度だけの破壊体制を《スクラップ・ドラゴン》に付加し破壊を防ぐ。アドバンテージの喪失なしに《No.107 銀河眼の時空竜》を破壊することに成功した。
「そしてバトルフェイズ……《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》で《輝光帝ギャラクシオン》に攻撃!」
「これで……負け、ね」

十時 LP:100→0

『……あ、えっと、け、決着です! なんだか目の前の出来事がよく分からなかったというか……分かり過ぎたというか……お姉さん軽く放心してました』
『……兎にも角にも、これで両校とも残る選手は1人ずつになりました。遂に……決着の時が来ます』
 2人のプロデュエリストが驚きを露わにする中、再び玄は聞き取れないような小さな声で呟いた。
「『反逆の忘却(ゼロカウンター・パーミッション)』……」



 10-2 ― 限りなく黒く塗り潰された白 ―



『それでは宮路森高校からも最後の選手です! 2人目の『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』、3年、針間戒選手っ!』
「カードを3枚セット。手札は0枚……やることはもうねぇよ。ターンエンドだ。さぁ、来いよ針間先輩」
「言われずとも……そのつもりだ!」

第33ターン

LP:8000
手札:0
《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》×2、《スクラップ・ドラゴン》、《閃珖竜 スターダスト》、SS×3


LP:8000
手札:5
無し

「俺のターン、ドロー」
 このドローによって戒の手札は6枚となる。しかし……。
「針間さんがどういったデュエリストなのかは分かりませんが……このフィールドはそう簡単に崩せないはずです」
 2体の《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》によって魔法・罠はほぼ無力化。破壊しようにも《閃珖竜 スターダスト》の効果で防がれ、壁を作ろうとも攻撃力合計11300のドラゴン軍団に加え、《スクラップ・ドラゴン》の破壊効果。さらには正体不明の3枚のセットカード。並大抵の手札では突破することは不可能なレベルのフィールドだ。
「流石だな白神……この状況は「このターンでは」返せないな」
「はっ、言ってろよ。あんたが何しようが、勝つのは俺だ」
「いいや、俺だ。お前は精々今の状況を楽しんでろ。《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚」
 極めて汎用的なアタッカー。しかし2100程度の攻撃力では玄の布陣は超えられない。
「さらに、《D-HERO ダイヤモンドガイ》を通常召喚。効果を発動する。チェーンはあるか?」
「……ねぇよ。お好きにどーぞ」
「そうさせてもらう。デッキトップを捲り、そのカードが通常魔法だった場合墓地へ送り、次のターンのメインフェイズにその効果を発動することができる。捲れたのは《終わりの始まり》。発動確定だ」
 強力なドローカードである《終わりの始まり》。次のターン、戒の手札は通常のドローを含め4枚引くこととなる。
「中々の好スタートじゃねぇか」
「まだまだ行くぞ。レベル4の戦士族モンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 切り落とせ、《H-C エクスカリバー》!!」
「それは通さねーよ。《奈落の落とし穴》発動だ」
 《H-C エクスカリバー》は効果を使われることなく、奈落の底へと落ちていく。
「このまま何にもなけりゃあ次のターンで一気に決めるぜ?」
「このまま終わるかよ。ダメージ入ればいいかくらいに考えてたが、まぁ通らねぇよな。それじゃあ……」
 4枚の手札を右手に持ち替え、戒はその全てをデュエルディスクに差し込んだ。
「カードを4枚セット。ターンエンドだ」
(なるほど。最初からそっちが狙いね……まぁそれでも2枚は止められる。なら怖いのは……)
「手札が0枚じゃなくなる瞬間。ドローフェイズでのタイミングですね」
 《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》の効果は非常に強力だが、自らの手札が0枚でなければ発動することは敵わない。そしてドローフェイズならばその条件は崩れる。誰もが考え付くありきたりな手だが、それ故に実行しやすくまた成立させやすい。
(でも……)

第34ターン

LP:8000
手札:0
《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》×2、《スクラップ・ドラゴン》、《閃珖竜 スターダスト》、SS×2


LP:8000
手札:0
SS×4

『スタートから両選手とも手札0枚と言う全力前回な展開! 針間選手は白神選手の布陣を突破することができるのでしょうか!?』
「俺のターン、ドロー」
 戒が狙うのはこの瞬間。《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》が力を失うこの瞬間だ。だが。
「この瞬間、優先権を行使させてもらうぜ。速攻魔法、《サイクロン》!」
 璃奈がアンナと初めて出会った時のデュエル。その時璃奈はセオリーに従いドローフェイズの一瞬を狙った。しかしドローカードが速攻魔法ならば優先権を行使することでその思惑を打破することができるのだ。
(これで1枚破壊したうえで《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》の力を維持できる!)
「その程度……読めていないとでも思ったか? 罠をチェーン発動!」
「っ!」
 手札が0枚になった以上、チェーンしたところで《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》で無効にできる。しかし例外もある。
「カウンター罠、《魔宮の賄賂》! 《サイクロン》を無効にする!」
 スペルスピード3のカウンター罠。いかに《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》と言えども、スペルスピードの差を埋めることはできない。さらに。
「《魔宮の賄賂》の効果によって1枚引きな」
(《魔宮の賄賂》は相手にドローを強制させる効果がある。これで俺の手札はまた1枚……これが速攻魔法でなければ、《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》の効果は使えなくなってしまう)
「ドロー」
 引いたのは通常魔法。優先権の行使はできない。
「その様子じゃ駄目だったようだな。なら永続罠を発動……《超古代生物の墓場》!」
「しまっ……」
 《超古代生物の墓場》。特殊召喚されたレベル6以上のすべてのモンスターの効果の発動権と攻撃権を取り上げる永続罠。玄のフィールドのモンスターはどれもその条件に当てはまっている。
「あのフィールドを一瞬で打ち破りやがった」
「玄くんのモンスターの動きはすべて止められた。まだ手札1枚と伏せられたカードが残ってるけど……」
 現時点で動かなかったということは、《超古代生物の墓場》の墓場を突破できるカードではないということだ。
「流石は針間先輩……この布陣も突破するか。なら次だ。『強大かつ迅速に(ストロング・スウィフト)』……」
 またも小声で呟く。それと同時に玄は行動に移る。
「俺は、《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》と《スクラップ・ドラゴン》、《閃珖竜 スターダスト》……レベル8のモンスター3体でオーバーレイ! 燃える闘志を滾らせろ! エクシーズ召喚! 《熱血指導王ジャイアントレーナー》!!」
「なっ……なんつー勿体ない使い方してんだ」
「効果を発動!」

《熱血指導王ジャイアントレーナー》 ORU:3→2→1→0

「オーバーレイユニットを1つ取り外すことでカードを1枚ドローしお互いに確認する。そのカードがモンスターならば相手に800のダメージを与える。この効果を使用したターンバトルフェイズを行うことはできないが、この効果は1ターンに3度発動することができる。行くぜ! 1枚目、《先史遺産クリスタル・ボーン》。800ダメージ! 2枚目、《マジック・プランター》。ダメージはなしだ。そして3枚目……モンスターだ。《先史遺産クリスタル・スカル》!」
「チィッ……」

戒 LP:8000→7200→6400

「まだだ! リバース罠、《リビングデッドの呼び声》! 蘇えれ《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》!」
「何ッ!?」
 戒のフィールドにまだ《超古代生物の墓場》がある以上、蘇生であろうと特殊召喚されたモンスターは行動できない。つまり狙いは……。
「《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 砕き、壊し、打ち付けろ! 《No.22 不乱 健》!!」
 不気味な漆黒に身を包んだ巨人。攻撃力は《青眼の究極竜》と同じ4500を誇っている。
「無意味に残った《リビングデッドの呼び声》をコストに《マジック・プランター》を発動。2枚ドロー。さらにカードを1枚セットして、ターンエンドだ」
『スタート時点では手札0枚だった白神選手! ここで一気に手札を4枚まで蓄えましたっ!』
『ですが対する針間選手も次のターンには《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果で墓地へ送った《終わりの始まり》の効果によって手札を増やすことができます。盤面がどう転ぶか見ものですね』

第35ターン

LP:8000
手札:4
《熱血指導王ジャイアントレーナー》、《No.22 不乱 健》、SS×2


LP:6400
手札:0
《超古代生物の墓場》、SS×2

「デュエルスキル……って言葉ぐらいは聞いたことあるだろ」
 今から3日前、ふと玄がそんなことを口にした。
「デュエルスタイルの上位的存在。より洗練された決闘者のみが手にすることのできる恩恵……こんなイメージだけど、これであってるかな?」
「概ね正解。少なくとも今はその認識で十分っすね」
「それがどうしたんだよ」
「針間戒。あの人が持っているのはそのデュエルスキルだ」
 と言うか『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』の過半数はデュエルスキルを持っている、と玄は付け加えた。
「まずはこの2つの違いから説明するか。デュエルスタイルってのはデュエリストが多くの時間を費やし、自分にとって最善となる決闘方法を体現させる術のことで、それは間違いなく後天的なものだ。対してデュエルスキルは、デュエリストが生まれながらに持つ他人とは違う個性、特技、能力をデュエルに生かす才能のことで、こっちは逆に先天的なものだ。簡単に言っちまうと、努力の結晶がデュエルスタイル。才能の結果がデュエルスキルって感じだな」
 この2つの大きな違いは、その希少性にあると言っていい。究極的に言ってしまえば、時間さえあればどんなデュエリストであってもデュエルスタイルを身に付けることが可能だ。しかしデュエルスキルは生まれ持った才能がなければ発現はしない。凡人がいくら努力したところで、天才には辿り着けない。
「現在確認されているだけでも、デュエルスキルをもった決闘者は20~30程度。普通に生きてりゃ人生で1人とデュエルできるかどうかってレベルだな」
「そ、そんなに珍しいものなんですか……」
「もしかして玄くん、まさかとは思うけど、あなたも……」
 デュエルスキルを持っているのか。そう真子が問おうとしているのはその場の全員が理解していた。だが、そう言い終わる前に玄が口を開いた。
「うーん、半分正解。俺はデュエルスキルを持ってない。でも、デュエルスキルを使うことはできる」
「どういうこと? 持ってないけど、使える?」
 矛盾。サッカーボールがなければサッカーができないように、ゲームソフトがなければゲームができないように、本がなければ読書できないように、デュエルスキルを持っていなければ、それを使用することなど不可能なのだ。
 しかし、この男、白神玄はそれを可能にする。
「サッカーボールがないなら誰かから借りればいい。ゲームソフトがないなら誰かから借りればいい。本がないなら誰かから借りればいい。デュエルスキルがないなら……誰かから借りればいい。それが俺のデュエルスタイル、『限りなく黒く塗り潰された白(ブラック・ホワイト)』」

「――他者のデュエルスタイル及びデュエルスキルをコピーするデュエルスタイル」
 そう呟いたの璃奈だった。
 最初はミハイルの『明鏡止水(クリア・マインド)』で完璧なフィールドを展開、次にアンナの『反逆の忘却(ゼロカウンター・パーミッション)』でフィールドを制圧し、破られた布陣を鷹崎の『強大かつ迅速に(ストロング・スウィフト)』で立て直した。ネタさえ分かっていればこの異常事態も驚くほどの事ではない。
 しかしそうは言っても――。
「ここまでの精度とはね……」
 精々7、8割程度の再現率だと踏んでいて神之上高校決闘部一同。しかし壇上に立つ彼の姿は、ほぼ100パーセントの再現率でコピーしていると言っても過言ではないだろう。
「事情はよく知らねぇが、今は全盛期ほどじゃないらしいな。とは言え……」
「ほとんど最強と言っていいほどのデュエルスタイル。アンナちゃんやミハイルくんも大概だったけどこれはねぇ……」
 ようは今まで出会ったすべてを自分に取り入れることがあるということ。普通に考えて負けるビジョンが見えない。
「久しぶりだな白神。お前のデュエルスタイルを見たのは」
「そうだな。俺自身、使うのが久しぶりなわけだし。ぶっちゃけここまでうまくいくかは五分五分だったが、うまくいって何よりだ」
「デュエルスタイル、『限りなく黒く塗りつぶされた白(ブラック・ホワイト)』。今までに見た、聞いた、味わった、触れた、嗅いだ、感じたすべてのデュエルスタイル、デュエルスキルを自分のものとして模倣する」
 完全な模倣。それが白神玄が持つ、デュエルスタイルであった。
「だが、どうやら「あの時忘れた」ものはまだ思い出してないようだな」
「それはどうかな? あんたが気付いてないでけで実はもう使ってるかも?」
「はっ、仮にも俺のデュエルスキルだぜ? 使われたらわかるっつーの」
 おっしゃる通りで、と茶化すように肩を竦める玄。
「『明鏡止水(クリア・マインド)』はあの短時間の観察でモノにしたみたいだがな、やはりデュエルスタイルとデュエルスキルをコピーするのは圧倒的に後者のが難しいらしいな。流石にそこまで万能じゃないか」
 努力さえすれば誰にでも使えるデュエルスタイルに対し、才能によってその有無を左右されるデュエルスキルの模倣は短時間では厳しいものがあるらしい。
(あれ? 針間さんの口ぶりからすると、すでにクロくんはデュエルスキルをコピーするタイミングがあったってことですか? でも、それはいったいいつでしょう?)
 璃奈の感じた疑問はすぐに解消されることとなる。
「さぁ、デュエルを続けようぜ。あんたのターンだ」
 玄は戒にターンを始めるよう促し、戒もデュエルの姿勢へと体制を変える。
「まずはお前のエンドフェイズに永続罠、《恵みの雨》を発動。俺がドローするたびにライフを500回復させてもらう。俺のターン、ドロー!」

戒 LP:6400→6900

「さらに、《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果で未来へと飛ばされた《終わりの始まり》の効果を発動。デッキからカードを3枚ドローする!」
 《D-HERO ダイヤモンドガイ》がその効果で未来へと送った魔法カードは、発動コストを必要とせず、その効果だけを発動することができる。本来なら発動に重い条件のある《終わりの始まり》も、《D-HERO ダイヤモンドガイ》を通せば楽に使用することができるのだ。
 そして《恵みの雨》の効果でライフをさらに回復する。

戒 LP:6900→7400

「速攻魔法、《エネミーコントローラー》を発動。対象は《No.22 不乱 健》だ」
 《No.22 不乱 健》はオーバーレイユニット1つと、手札1枚、さらに自身を守備表示に変更することで魔法・罠・モンスター効果を止めることができる。しかし元から守備表示ではその効果を使用することはできない。
「最低限の消費で邪魔な《No.22 不乱 健》を封じたか……」
「まだまだ行かせてもらうぞ。墓地の5体の「BF」をゲームから除外し、もう1枚の《終わりの始まり》を発動! さらに3枚ドローし、ライフを500回復する」

戒 LP:7400→7900

(ライフも手札もほぼ初期状態に戻されたか……いや、針間先輩の恐ろしいところはこれからか)
「《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地から《D-HERO ダイヤモンドガイ》を蘇えらせ、その特殊召喚をトリガーに速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動!」
 攻撃力1500以下のモンスターの特殊召喚成功時に同名モンスターを可能な限り特殊召喚する展開補助魔法。
「玄くんのフィールドにはエクシーズモンスターだけ……《地獄の暴走召喚》の恩恵は受けれられないわね」
「さぁ、行かせてもらうぜ。《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果を発動! デッキトップのカードは《デステニー・ドロー》だ」
(えっ……今、デッキトップのカードを確認せずに名前を言い当てました……?)
「2体目の《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果を発動。《手札抹殺》の発動確定」
 再び効果発動成功。
「流石は『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』。2回連続で成功させるとは良い運を持っているね」
「いいえ、運ではないわ」
 音無の一言に、ふいにそんな言葉が返された。
「君は……」
「喜多見さん。それに美里ちゃんもっ!」
 栖鳳学園部長、喜多見涼香。体調不良の美里に肩を貸し神之上高校決闘部の前に現れた。
「美里ちゃんもう大丈夫なんですか?」
「うん。少し横になってたら大分良くなったよ」
「それで、さっき言ってたのは? 運じゃない……つまりは偶然じゃなく必然として2回連続通常魔法を引き当てったってのか?」
「そういうことらしいよ。さっき喜多見さんから話を聞いたんだけど、私も半信半疑だよ」
 一同の視線が説明を求めるように喜多見へと集まる。
「まぁ、説明するよりも実際に彼のデュエルを見ている方が分かり易いかもね」
「3体目の効果を発動……の前に、こいつを使わせてもらおうか。永続魔法、《デーモンの宣告》」
 ライフを500払い、カード名を1つ宣言。デッキトップのカードを捲り、そのカードが宣言したカードだった場合手札に加え、違った場合そのカードを墓地へ送る。《魔導書整理》や《天変地異》などのカードと組み合わせることによって真価を発揮するコンボカード。だが……。
「ライフを500払い、宣言は《フォトン・スラッシャー》だ」

戒 LP:7900→7400

「デッキトップを何も確認せずに宣言!? まさか……」
「そのまさかよ」
 捲られたのは……《フォトン・スラッシャー》。宣言通りの結果となり、戒の手札へと加わる。
「3度目の《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果発動。《マジック・プランター》……発動決定だ」
『針間選手っ、《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果を3つとも成功させるだけでなく、何の情報も無しに《デーモンの宣告》も成功させましたーっ!?』
「流石だな……針間先輩。《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果によって次のターン以降のアドバンテージを稼ぐあんたの十八番」
 《D-HERO ダイヤモンドガイ》のステータスは決して高いものではない。しかし、その効果によって未来へと送られる魔法たちはどれも一級品。その場を離れようとも、金剛の意思は鮮やかに残り続ける。

 Diamond Dust!!!

「デッキトップのカードが通常魔法じゃなかった……だから間に《デーモンの宣告》を挟んでから《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果を発動した……のか?」
「ま、待ってください! それじゃあまるで、針間さんには次のドローが……」
 璃奈はそこで言葉を紡ぐのを止めた。より正確に言うならば、そこで言葉を遮られた。
「そう、あなたたちの思っている通り、針間くんには見えているのよ。次のドローが」
 沈黙。喜多見のその言葉に、その場の誰もが言葉を失った。
「これが針間戒のデュエルスキル、『四次元視(ハイパー・ヴィジョン)』。未来を見通すデュエルスキルよ」


 To be continue

       

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