Neetel Inside ニートノベル
表紙

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「――まぁ、未来を見通すって言うのは言い過ぎなんだけどね?」
 数秒の沈黙の後、全員が喜多見の方へと振り向く。心なしかさっきよりも視線が痛い。
「いや、ごめんなさい。ほんとごめんなさい。ちょっと見栄を張りたくなったというか、自慢したくなったというか、えっとあの無言で睨むのやめて?」
「それ医務室で私相手にもやったよね。みんなには絶対やらないほうがいいって言ったのに……」
「というか、他人の事で見栄を張ったり自慢するって言うのはどうなのかしらね?」
「ううっ……」
 神之上高校決闘部一同からの視線と言葉で若干涙目の喜多見。これで宮路森の部長を務められているのか甚だ疑問である。
「それで、結局のところ針間くんのデュエルスキルってなんなんだい?」
 閑話休題。音無が方向修正する。
「未来が見ているわけでもないのに《D-HERO ダイヤモンドガイ》と《デーモンの宣告》の効果を成立させたとなると、考え付く結論は1つだとは思うけど」
「察しがいいわね音無くん。あなたの考えてるとおり針間くんのデュエルスキルは、自分のデッキトップの上から数枚のカードを覗き見ることができるのよ」
 デッキトップのカードが分かっているならば、《D-HERO ダイヤモンドガイ》も《デーモンの宣告》もアドバンテージを容易に稼ぐことのできるカードとなる。戒のもつデュエルスタイルとは最高の相性だろう。
「十分すごい力だけど……喜多見さんの冗談のせいで驚きが薄まったわね」
「うっ……もうやめて。私豆腐メンタルだからやめて……」
 自業自得だが、不憫になったのか璃奈が話題を少し変える。
「えっと、その針間さんはデッキトップから何枚くらいのカードが分かるんですか?」
「ええっと確か、本人曰く調子のいい時で――」
 俯き気味だった喜多見が顔を上げ、璃奈の言葉に反応する。すると――。

「大体20枚くらいって……」

「はっ……?」
「「「「ええええええええええええええええええええええええええええええっっっ!!!」」」
 普段はあまり大きな声を出さない美里や音無までが相当な声量で驚きを声にした。
「ちょっ、喜多見さん! それ私も聞いてないよ!」
「あれ? 医務室でも言ってなかったけ?」
 聞いてない! と再度大声を出す美里。まだ体調が万全でない状態で叫んだせいか若干ふらつく。
「えっと、仮に針間さんのデッキが40枚なら、その半分を知ることができるってことですか!?」
「最初のドローと通常ドロー、《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果に《デーモンの宣告》の効果、あと2回の《終わりの始まり》で合計18枚デッキの圧縮をしてるから……残りのデッキのほとんどがどの順番で並んでるか分かるってこと? なにそれチートじゃない!」
「でもほら、調子のいい時で20枚くらいだから……普段は10枚程度だって言ってたわよ」
「いや、それでも十分すぎるだろ……」
「で、でもっ! クロくんのデュエルスタイルなら針間さんのデュエルスキルもコピーできるんですよね! それなら条件は五分五分……」
「いいえ、無理ね」
 喜多見が璃奈に対しそう呟いた。さっきまでの涙目の状態からは脱し、いつも通りの口調で続ける。
「私も針間くんから聞いた話なんだけどね。彼のデュエルスタイルはデュエルスキルをコピーするまでにはかなり時間がかかってしまうらしいのよ。少なくとも、このデュエル中にコピーするのは不可能らしいわ」
「そんな……」
(クロくん……)



 10-3 ― 決着 ―



「行くぞ。3体の《D-HERO ダイヤモンドガイ》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》!! 効果を発動!」

《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》 ORU:3→2

「通すか! 罠カード発動、《デモンズ・チェーン》!」
 《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》は魔法・罠・モンスター効果のいずれかを次の相手ターンのエンドフェイズまで封じることができる。残しておくのは厄介だと判断し、その効果を封じる。
 だが。
「残念ながら、本命はこっちじゃないぜ?」
 次の瞬間、《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》ごとすべてのモンスターがフィールドから消え去った。《ブラック・ホール》だ。
「……ッ!」
「そして《超古代生物の墓場》、《恵みの雨》、《リビングデッドの呼び声》を墓地に送り、現れろ――炎の化身!」

 Uria Load of Searing Flames!!!

『で、で、で、出ましたっ―!! 「三幻魔」の1体、《神炎皇ウリア》ですっ!』
『《D-HERO ダイヤモンドガイ》や《デーモンの宣告》でアドバンテージを稼ぎつつ、戦士族をメインにした【グッドスタッフ】型のデッキかと思っていましたが……これは予想外ですね』
「針間くんは、デュエルスキル『四次元視(ハイパー・ヴィジョン)』によってドローの順番が分かってる。それ故に成立する大型召喚のコンボ。彼はね、生粋のコンボデッカーなのよ」
 どう行動すればその未来に行きつくか。それが分かれば《神炎皇ウリア》レベルの大型モンスターの展開など、精々上級モンスターをアドバンス召喚する程度の苦労しかない。
「くっ、この瞬間《転生の予言》を発動! あんたの墓地の永続罠を2枚デッキに戻す!」
 ミハイルの発動した《リビングデッドの呼び声》と、鷹崎の発動した《手札抹殺》によって墓地へ送られたもう1枚の《リビングデッドの呼び声》をデッキへと戻す。今大会のルールから、それらのカードは戒のデッキには入らず、このデュエル中の使用できなくなる。これで再利用は不可能だ。
「《神炎皇ウリア》の攻撃力は俺の墓地の永続罠の数×1000ポイントとなる。2枚消えたところで、《神炎皇ウリア》の召喚コストとなった3枚の永続罠がまだ残っている!」

《神炎皇ウリア》 ATK:0→3000

 《神炎皇ウリア》は1ターンに1度、セットされた魔法・罠をチェーンさせることなく破壊することが可能である。そのため召喚成功のタイミングで《転生の予言》を撃たなければならなかった。その結果……。
「これでお前のフィールドには1枚もカードは残っちゃいない。思う存分攻撃させてもらうぞ……! ハイパー・ブレイズ!!」
「ぐっ……ぁあっ!!」

玄 LP:8000→5000

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

第36ターン

LP:5000
手札:4
無し


LP:7400
手札:1
《神炎皇ウリア》、《デーモンの宣告》、SC

「『無形火炎(フォームレス・ファイヤー)』+『派手に大きく(テンペスト)』……俺のターン!」
 その場の状況に合わせて、再びデュエルスタイルを切り替える玄。今度は栖鳳学園の東仙姉弟のデュエルスタイルを混合させたものだ。
「【先史遺産】相手に《神炎皇ウリア》を出したのは軽率すぎるぜ……! フィールド魔法、《岩投げエリア》を発動! さらに、フィールド魔法があるとき、こいつは特殊召喚できる。来い、《先史遺産トゥーラ・ガーディアン》!」
 続いて、玄は手札から《先史遺産モアイ》を特殊召喚する。
「レベル5の《先史遺産トゥーラ・ガーディアン》と《先史遺産モアイ》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 現れろ、《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》!!」
 【先史遺産】デッキの切り札にして、最大火力を誇るエースモンスターだ。
「オーバーレイユニットを1つ取り外し、《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》の効果を発動!」

《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》 ORU:2→1

「相手フィールドのモンスター1体を選択し、そのモンスターの攻撃力が元々の数値から変動していた場合、その数値分だけ相手プレイヤーにダメージを与える!」
 《神炎皇ウリア》の元々の攻撃力は0……そして現在の攻撃力は3000。その差3000ポイントが戒のライフから削られる。
「さらに、この効果によって与えたダメージ分、《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》の攻撃力は上昇する! 喰らえ、インフィニティ・キャノン!!」
 《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》1体によって戒のライフは2000まで削られ、ウリアも破壊。形勢は完全に逆転――。

戒 LP:7400→10400

 ――するはずだった。
「!?」
 本来削られるべきだった3000のライフが逆に上昇している。当然、その矛盾を生じさせたのは戒だ。
「罠カード……《レインボー・ライフ》を発動した。手札1枚をコストにし、このターン俺が受けるダメージはすべて回復へと変わる。そして、《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》はダメージを与えられなければ攻撃力の上昇もない。残念だったなぁ」
「くっ……俺は、ターンエンドだ……」
『セットカードはなし、ですねぇ』
『仮にあったとしても、《神炎皇ウリア》の効果で焼かれるてしまうだけですからね……』

第37ターン

LP:5000
手札:2
《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》、《岩投げエリア》


LP:10400
手札:0
《神炎皇ウリア》、《デーモンの宣告》

「俺のターン、ドロー。そして《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果で墓地へ送られた魔法カードの効果を発動! まずは《デステニー・ドロー》、そして《手札抹殺》、最後に《マジック・プランター》だ」
 2枚ドロー、その後戒は手札を3枚交換、玄は2枚交換し、さらに戒が2枚ドロー。
「そして《手札抹殺》の効果で捨てられた中には《メタル・リフレクト・スライム》がある。こいつは永続罠だ……つまり、《神炎皇ウリア》の攻撃力はさらに上昇する!」

《神炎皇ウリア》 ATK:3000→4000

「ライフを500払い、《デーモンの宣告》の効果を発動。宣言は《貪欲な壺》だ」

戒 LP:10400→9900

「当然成功。そのまま発動させてもうぞ」
 チームメイトたちのカードを適当に5枚選択。《転生の予言》と同様、戒のデッキには加わらずドロー効果だけが反映される。
「そして永続魔法、《平和の使者》、《ブレイズ・キャノン》を発動! これで条件は整った! 《デーモンの宣告》、《平和の使者》、《ブレイズ・キャノン》を墓地へ送り、現れろ――雷の支配者!」

 Hamon Lord of Striking Thunder!!!

『にっ、2体目の「三幻魔」が現れましたーっ!?』
『これはもしかすると……』
 そう、針間戒のデッキのメインアタッカーは「三幻魔」。《神炎皇ウリア》、《降雷皇ハモン》、そして《幻魔皇ラビエル》。その召喚条件から、普通なら1体召喚するのも一苦労だが、戒にとっては「三幻魔」の召喚条件など足枷になることもない。現に今、彼のフィールドには「三幻魔」の内2体が存在しているのだから。
「バトルだ……《神炎皇ウリア》で《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》を攻撃! ハイパー・ブレイズ!」
「《岩投げエリア》の効果によって、デッキより岩石族モンスターを墓地へ送り、《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》の戦闘破壊を無効化する!」
「だが《岩投げエリア》が使えるのは1ターンに1度だけだ。《降雷皇ハモン》で再び《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》に攻撃! 失楽の霹靂!」
 今後こそ《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》が破壊される。さらに、《降雷皇ハモン》はモンスターを戦闘破壊したとき相手プレイヤーに1000ポイントの追加ダメージを与える効果を持っている。これで《神炎皇ウリア》の攻撃、《降雷皇ハモン》の攻撃、そしてその効果によって合計4200のライフを削られてしまった。
「そして……これで終わりだ。メインフェイズ2、レベル10の《神炎皇ウリア》と《降雷皇ハモン》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 打ち抜け……」

 Superdreadnought Rail Cannon Gustav Max!!!

『ランク10のエクシーズモンスター、《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》! 「三幻魔」2体を使った豪華なエクシーズ召喚ですっ!!』
『これが通れば、針間選手の……宮路森高校の優勝が確定します……!』
「オーバーレイユニットを1つ取り外し、効果を発動!」

《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》 ORU:2→1

「相手プレイヤーに2000ポイントのダメージを与える! これで終わりだ!」
 これによって玄が受ける合計ダメージは6200。玄のライフ5000ポイントでは耐えきれない。
「ぐああああああああああっっ!!」
 だが。

玄 LP:7000→5400→3800→2800→800

「な……に……?」
 確かに玄のライフは800ポイント残っていた。
『こっ、これは……』
『一体どういうことでしょうか……?』
「はぁ、はぁ……今の結構効いたな。が、ライフは残った。先輩の戦力も落ちた。今度はこっちの番だ」
 会場全体が玄のその状況に驚いている。確かにライフは0になったはず、5000のライフでは6200のダメージには耐えられない。小学生でもわかる単純な答えを、白神玄は当然のように打ち破った。
「白神……お前一体何を……?」
(待てよ。今の《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》のバーンダメージを受けて奴のライフは800。本来の数値からは白神のライフが2000回復しているということになる。2000ポイント……【岩石族】……そして奴がこのターン行った行動はなんだ……? 手札からは何も発動していない。墓地には発動できるようなカードはなかった。そもそも奴のこのターンの行動なんて俺の発動した《手札抹殺》で手札を……)
「はっ……白神、お前まさか……!」
「そう、俺が使ったのはたった1枚……シンプルなカードだ」
 その正体は――《恵みの像》。
 相手によって手札から墓地へ送られた場合、ライフポイントを2000回復する岩石族モンスター。ライフ回復という時点で採用率は相当低い上、効果の発動条件はかなり限られている。カードプールに精通しているようなプロフェッショナルでも見逃すような超マイナーカードだ。
「針間先輩がこっちのライフを一気に刈り取って来ることは分かってたからな。だからちょっとでもそっちのライフ計算を崩せればそれでよかったのさ」
「この状況を予測してたってのか。なるほど、確かにお前らしい戦術だ」
 それでも戒には腑に落ちない点があった。何故、《恵みの像》の発動に気付かなかったのかと言うことだ。不意を突かれたとは言えそんなカードの効果の発動に気付かず、あまつさえライフの変動など気にも留めずに攻撃し続けたことは明らかに異常だと言える。
「不服そうだな、先輩」
「そう見えるか? てめぇの事だ、どうせ何かしらの種があるんだろう。不思議には思うが、気にはしてねぇよ」
「まぁそう言わずに聞いておけよ。別にそう大したことをしたわけじゃない。デュエルスタイルを発動させただけさ」
 この瞬間、戒は玄の発動させたデュエルスタイルの正体に気付いた。こんなトリックはよく考えればすぐに気付くはず……いや、そのトリックをよく考えても気付かせないためのデュエルスタイル。ミハイルを打倒した隠蔽の能力。
「『羊の皮をかぶった狼(ミスディレクション)』……あんたの認識をライフポイントと手札から逸らさせてもらった」
 先ほどまでとはまた違うデュエルスタイルを発動させる。ミハイル、アンナ、鷹崎、春江、冬樹に続いて美里。次々とデュエルの型を変幻自在に取り換えていく。
(全盛期ほどの脅威はねぇ……だが、全盛期以上に奴自身のデュエルスタイルの汎用性は上がっている。神之上高校出……いやそれ以外にも今まであってきた決闘者たちとの出会いが奴を大きく成長させたのか)
「ふん、してやられたな。カードを1枚セットしてターンエンドだ」

第38ターン

LP:800
手札:2
《岩投げエリア》


LP:9900
手札:3
《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》、SS

「俺のターン、ドロー!」
『ライフを繋いだとはいえライフは10倍以上の差があります……アドバンテージ的にも《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》を立たせている針間選手の方が上ですし、明らかに白神選手の不利ですね』
『ですが何が起こるか分からないのがデュエルです! 白神選手はどんな反撃を見せてくれるのでしょうかっ!』
「『咬歯の格子(スクリーン・バイト)』……俺は《ゴゴゴジャイアント》を通常召喚して効果を発動! 墓地より《ゴゴゴゴースト》を特殊召喚。その効果で墓地から《ゴゴゴゴーレム》を特殊召喚だ!!」
(《ゴゴゴゴーレム》はさっきの《岩投げエリア》で落としたカードか。だが《ゴゴゴゴースト》はいつ……そうか、これもミハイルの《手札抹殺》によって辻垣内の手札から墓地へ送られたカードの中にあったものか。ミハイルが相手とはいえいとも容易くやられたのは妙だとは思っていたが……なるほど、後続のためにコンボパーツを落としておくのも役目だったのか)
 連鎖的に吊り上げられた「ゴゴゴ」たちによって玄のフィールドには3体のレベル4モンスターが並んだ。
(2体エクシーズの可能性も0じゃないが……普通に考えれば3体を素材とする強力なモンスターを出してくるはずだ。《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》を打倒できるとすれば、《ヴェルズ・ウロボロス》か《ヴァイロン・ディシグマ》、あとは《No.91 サンダー・スパーク・ドラゴン》ってところか)
 《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》は超重量級のエクシーズモンスター。2000ポイントのバーンダメージを与える効果はもちろんのこと、3000ポイントある攻撃力もこのモンスターの強力な点だと言えるだろう。それを打破しつつ、その後の展開を有利に進めるとしたら《ヴェルズ・ウロボロス》か《ヴァイロン・ディシグマ》妥当だろう。
 しかし、玄の選択は違った。
「レベル4の「ゴゴゴ」3体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 咬み千切れ、《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》!!」
「何っ!?」
(しまった……そうか!)
 《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》の攻撃力は2800。その上《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》を除去できるような効果は持っていない。しかし、今の玄ならばその咬歯をより研ぎ澄ませる条件を満たしている。
「そして、《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》をエクシーズ素材としてカオスエクシーズチェンジ! 咬み潰せ、《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》!!」
 《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》の生物的な姿とは打って変わって機械的な姿の《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》。その能力は相手の勢力の鎮静化。
「ライフが1000以下の時、オーバーレイユニットを1つ取り外し、墓地のモンスター1体をゲームから除外して効果を発動!」

《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》 ORU:4→3

「《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》の攻撃力を0にする!」

《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》 ATK:3000→0

「バトル! デプス・カオス・バイトォッ!!」
「ぐぅっ……!!」

戒 LP:9900→7100

 そして玄は2枚のカードを伏せ、ターンを終了する。

第39ターン

LP:800
手札:0
《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》、《岩投げエリア》、SS×2


LP:7100
手札:3
SS

『このターンで40ターン目、デュエルも佳境に入ってまいりました!』
『おそらくはあと数ターン……早ければこのターンにでも決着が着いてしまいそうな勢いです……針間選手の動きに注目ですね』
「俺のターン、ドロー! さぁて、そろそろ終幕と行こうじゃねぇか。《E・HERO プリズマー》を通常召喚!」
 璃奈が常日頃から愛用している「E・HERO」の一体。墓地肥やしと名称変更を同時に行える優秀なモンスターだ。
「そしてこの召喚をトリガーに、罠カード発動! 《コピー・ナイト》!」
 レベル4以下の戦士族モンスターが召喚に成功したとき発動でき、召喚されたモンスターと同名のカードとして扱うという一風変わった罠モンスターだ。
「さらに2枚目の《地獄の暴走召喚》を発動!」
 本来ならば《E・HERO プリズマー》の攻撃力は1700のため、《地獄の暴走召喚》の「攻撃力1500以下のモンスター」という発動条件を満たせない。しかし、《E・HERO プリズマー》に名前を変えている《コピー・ナイト》の攻撃力は0。発動条件を満たすことができる。
「デッキから新たに2体の《E・HERO プリズマー》を特殊召喚だ」
「《E・HERO プリズマー》が……4体……っ」
「とは言っても一体は姿を真似ただけの木偶だ。まぁ、木偶には木偶の使い方があるがな! 《コピー・ナイト》をコストに《マジック・プランター》を発動! 2枚ドロー!」
 今はモンスターになっているとは言え、本来は永続罠。《マジック・プランター》や《神炎皇ウリア》のコストにもなり無駄がない。
「喰らえ、魔法カード発動だ。《ライトニング・ボルテックス》!!」
 手札1枚をコストに、相手の表側のモンスター全てを破壊する強力な魔法カード。このままでは《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》が破壊されてしまう。
「っ……! 《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》の効果を発動! ……にチェーンしてもう一度発動! さらにチェーンしてもう一度発動だ!」

《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》 ORU:3→2→1→0

 墓地のモンスターを合計3体除外し、その効果を発動。3体の《E・HERO プリズマー》の攻撃力を全て0にした。

《E・HERO プリズマー》 ATK:1700→0

《E・HERO プリズマー》 ATK:1700→0

《E・HERO プリズマー》 ATK:1700→0

「1つでも攻撃を受ければライフは0……そう簡単に通してはくれないか。だが、まだ終わらないぞ!」
(来るか……ッ!)
「3体の《E・HERO プリズマー》の効果を発動! 俺はデッキから《神炎皇ウリア》、《降雷皇ハモン》、そして《幻魔皇ラビエル》を墓地へ送ることでその冠す! そしてこの3体をゲームから除外! 現れろ――最強の幻魔よ!」

 Armityle the Chaos Phantom!!!

 《混沌幻魔アーミタイル》――最高レベルである12の融合モンスター。その召喚条件は「三幻魔」すべてをフィールドから除外することでしか果たすことはでず、名称を変更する《E・HERO プリズマー》や《ファントム・オブ・カオス》を用いない正規召喚の難易度は最大級。
「このモンスター戦闘では破壊されず、攻撃力は自分ターンのみ10000ポイントアップする!」

《混沌幻魔アーミタイル》 ATK:0→10000

『攻撃力10000!! 固定上昇値としては全カードの中でも他の追随を許さないほど圧倒的ですっ!!』
「バトル……! 《混沌幻魔アーミタイル》でダイレクトアタック!」

 全 土 滅 殺 天 征 波 !!!

 玄のライフはたったの800ポイント。この攻撃が通ればオーバーキル、玄の……神之上高校の敗北となる。
「させるかっ! 罠カード、《ガード・ブロック》を発動!」
 ダメージを0にし、カードを1枚ドローする防御カード。なんとかこのターンを耐えた。
「粘るな……俺はカードを1枚セットしターンエンドだ」
 そして戒のターンが終了したことで《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力は元に戻る。

《混沌幻魔アーミタイル》 ATK:10000→0

「《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力が0になった……これで殴りたい放題だが……」
「まだ針間くんのライフは7100も残ってる。一撃で簡単に削れるような数値じゃないわね」
「いえ、クロくんにはまだ「あれ」が残ってます!」
 玄が勝つにしろ、戒が勝つにしろ、おそらくはあと一巡で決着が着く。玄にとって最大にして最期、そして運命のターンがやってくる。

第40ターン

LP:800
手札:1
《岩投げエリア》、SS


LP:7100
手札:0
《混沌幻魔アーミタイル》、SS

「俺のターン、ドロー。魔法カード発動、《死者転生》。手札の《先史遺産クリスタル・スカル》をコストに、墓地の《メガロック・ドラゴン》を回収」
(俺の《手札抹殺》で《恵みの像》と一緒に墓地へ行ってたのか……)
「行くぜ、針間先輩! 墓地の岩石族モンスター12体をゲームから除外! 現れろ、《メガロック・ドラゴン》!!」

《メガロック・ドラゴン》 ATK:?→8400

(奴の墓地の岩石は……《先史遺産クリスタル・ボーン》、《先史遺産クリスタル・スカル》と《先史遺産モアイ》が2枚に、《先史遺産トゥーラ・ガーディアン》、《恵みの像》、《ゴゴゴゴーレム》、《ゴゴゴジャイアント》の全部で9枚。6300となり俺のライフには届かないはずだか……いや、そうか。秋月美里の《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》に音無祐介の《融合呪印生物-光》、そして早川璃奈の《ダイガスタ・エメラル》。これで12枚か)
「なるほど、あくまでもこれはチーム戦。チームの残した力は最大限利用するってか。いいぜ、てめぇの全力を捻り潰してやるよ」
「できもんならな……バトルフェイズ! 《メガロック・ドラゴン》で《混沌幻魔アーミタイル》に攻撃!!」

 Galaxian Explosion!!!

 大地を司る竜。大地そのものである竜。その攻撃力は大地に眠る同胞の数だけ上昇していく。無限に、際限なく、限りなく、どこまでも。上昇してくエネルギー、限りのないエネルギーーはいずれビッグバンへと到達する。宇宙を創りだし、宇宙を滅ぼすだけの力を持つ爆発。それだけの力を備えた玄の最大戦力して最高戦力である《メガロック・ドラゴン》の攻撃は――。
「罠カード発動」
 届かなかった。
「《聖なる鎧 -ミラーメール-》!!」
「っ……!!?」
 自分フィールド上のモンスターが攻撃対象となった時、攻撃対象となったモンスターと相手の攻撃モンスターの攻撃力を同じ数値とする強化カード。これより、相手ターン中には攻撃力を持たない《混沌幻魔アーミタイル》は《メガロック・ドラゴン》と同等の力を得る。

《混沌幻魔アーミタイル》 ATK:0→8400

 すでに戦闘は行われている。結果は引き分け。ダメージは発生しない。その上《混沌幻魔アーミタイル》は戦闘では破壊されない効果を持っている。以前として最強の「幻魔」はフィールドを覆っている。
「……俺は、《岩投げエリア》の効果を発動。デッキから岩石族モンスターを墓地へ送り、戦闘破壊を無効化する」
 玄も《メガロック・ドラゴン》を守る。だが……。
「無駄だ。次のターンには《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力は10000ポイントアップし、18400の攻撃力を得る。いくら《メガロック・ドラゴン》でも耐えられない」
「確かに……こいつにはもう攻撃の手段も、壁としての役割もない。だけど、いるのといないのじゃ、いてくれた方がいいだろう?」
 その方が場が映えるしな。玄はそう続けた。
「気持ちは分からなくもないがな。自分が負けようともエースである《メガロック・ドラゴン》を破壊されたくないというのは。だが負けは負けだ。大地のすべてを喰らい尽くしたその竜でも、世界のすべてを覆い尽くす悪魔には……勝てん」
 神之上高校の面々は口を開かない。諦めの声も、敗北の呻きも、悲痛の叫びも。絶望的な現状に対して、ただの一言も口にはしなかった。
「はぁ? 何勘違いしてんだよ」
 しかしそれは、玄が敗北するというの悲しみからくるものではない。
「これで……俺の勝利までの道が繋がった!!」
 一瞬でも玄が敗北すると思ってしまった不甲斐無さからくるものだった。
「別に大地ってもんはなぁ、砂や、泥や、石や、岩だけからできてるもんじゃないんだよ。例えば鉱物……それも特別にデカくて、本当は空の上に飛んでいたもの、なんてこともあるんだぜ?」
「お前……何を……?」
「罠カード、発動!!」

 Xyz Reborn!!! Special Summon! Number33:Chronomaly Machu Mech!!!

 それは大地から蘇えりながらも、大地に伏す巨竜とは裏腹に、天高くへとその身を浮上させた。本来ならば再び現れようとも存在することのない光球が巨体の周りをぐるぐると旋回している。
『これ……は……っ』
『白神選手……《エクシーズ・リボーン》によって、《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》を蘇生させましたあっ!?』
 《エクシーズ・リボーン》は自分の墓地からエクシーズモンスターを蘇生させ、このカード自身がそのモンスターのオーバーレイユニットとなる効果を持つ特殊な蘇生カード。それによって《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》は再びフィールドに姿を現した。
「あんたが攻撃力0の《混沌幻魔アーミタイル》をただ放っておくとは思わなかった。だから必ずそれをカバーするための何かを用意しているはずだとも思った。攻撃反応なのもほぼ間違いなかった。あとは《聖なるバリア-ミラーフォース-》や《次元幽閉》の可能性もなかったわけじゃねぇが……ただ「なんとなく」そう来ると思ってたぜ」
「まさか……っ! お前!!」
「デュエルスタイル、『自殺決闘(アポトーシス)』。そして……さっき言った通り、これで勝利への条件は整った。《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》の効果を発動!」

《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》 ORU:1→0

「攻撃力の変動しているモンスターの元々の攻撃力と現在の攻撃力の差分だけ相手プレイヤーにダメージを与える。《混沌幻魔アーミタイル》の攻撃力は本来ならば0だ。だが《聖なる鎧 -ミラーメール-》で《メガロック・ドラゴン》の攻撃力を映し出した今、その攻撃力は《メガロック・ドラゴン》と同じ8400……!」
(最初からこっちが狙いだったのか……!)
「さっきは不発に終わったが、今度こそ喰らってもらうぜ……!!」
「行け!」
「行け、白神君!」
「行って……!」
「行きなさい!」
「行っちゃってください、クロくん!!」

 Infiniti Canon!!! Full Burst!!!

 《No.33 先史遺産-超兵器マシュ=マック》の側面から無数の砲身が現れ、連続的に戒へと放たれた。
「ぐぅっ、おおおおおおおおおおおおっ!!」

戒 LP:7100→0

『しょっ……勝者、白神玄選手!! そしてこの瞬間っ、神之上高校決闘部が全国高校生デュエル大会本戦決勝戦を勝ち抜き、見事優勝しましたーっ!!!』
 巨大な衝撃音と共に決着を迎えた決闘は、観客席からの歓声、拍手の嵐によって彩られた。
 喜ぶ者、悲しむ者、高ぶる者、尊ぶ者。様々な人がこの会場内でこのデュエルを観戦し、様々な感情を、感想を持っただろう。しかし、その誰もが掛け値なくこの決闘に見入り、心に刻んだ。
「やるじゃねぇか、白神。とりあえずまぁ、よくやったな」
「針間先輩……。なんか、倒した相手にそう言われるのはちょっと変な気分だな」
 歓声と拍手に包まれる中、戒が玄の傍へと近寄った。
「『限りなく黒く塗り潰された白(ブラック・ホワイト)』。実際に受けてみた感じだと、当時程じゃあねぇが精度はかなり完成形に近いものだったな」
「そうっすね。と言っても、まだ『四次元視(ハイパー・ヴィジョン)』みたいなデュエルスキルはコピーできねぇし、ミハイルの『明鏡止水(クリア・マインド)』だって今日見たばっかりだからまだ完璧とは言い難いんすよね」
「半年のブランクを考えれば上出来だろ。さて、名実共に高校生最強のデュエリストになったわけだが、次はやっぱり……「あいつ」に挑む気か?」
 場の空気が一瞬張り詰める。
「……いや、そこまでは考えてないっすよ。そう簡単にエンカウントできるような奴でもないし、そもそも半年前の二の舞になるのが目に見えてる」
「そうか。ま、俺から言うことはこれくらいだ。あとはお前の好きにしろよ」
 そう言って戒は身を翻し、ステージを降りて行った。それとまったく同じタイミング、神之上高校決闘部一同が玄の元へと歩み寄る。
「おめでとうございますクロくん!!」
「……そんな他人行儀に喜び方するなよ。チームの勝利なんだからそこは普通に「やったな」でいいんだよ」
 真子の下準備がなければ戒とのデュエルはより厳しいものとなっていたはずだし、鷹崎がミハイルのライフを削り美里に繋ぎ、その美里もボロボロの状態で大きな戦火を挙げた。そして音無が不利だった状況を一転させたおかげで流れはよくなり、膨大なデュエリストレベルの差がありながらも十時と一進一退のデュエルを繰り広げた璃奈のお陰で玄は戒と互角のデュエルをすることができた。
 フィニッシュを決めたのが玄だったというだけで、これは間違いようもなく神之上高校決闘部6名の力があったからこその優勝なのだ。
「だからさ……やったな、みんな」
「ああ、やったな」
「うん。やったやった」
「ええ、やってやったわ」
「やったね」
「はい! やりましたね!」
 少しの静寂が訪れ、互いに顔を見合わせる。それから少しして可笑しくなったのか、込み上げる喜びを抑えきれなくなり、誰ともなく全員が笑い出した。
 彼ら彼女らは、幼馴染であったり、3年来の仲であったり、つい4ヶ月前に出会ったばかりだったりするが、きっとここまで一体となったのは初めてであっただろう。それを考えると、またなんだか可笑しくなり、笑った。

       

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Neetsha