Neetel Inside ニートノベル
表紙

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【前回のあらすじ(?)】
 神之上高校に転入および入学した玄と璃奈。2人は決闘部に入部しようと奮起(?)する。そんな中、小柄で小さくミニマムでどこからどう見ても小学生にしか見えない神之上高校決闘部副部長、辻垣外真子が突きつける凶悪(?)な入部試験内容。順調に勝利を手にしていく2人だが、そこで璃奈の前に現れたのは同じ新入生の鷹崎透。接戦の末、屈辱的(?)な敗北した璃奈。その様子を見ていた玄は璃奈の雪辱(?)を晴らそうと鷹崎に挑む。果たして玄は璃奈の仇(?)を討つことができるのか!(?)



「俺は……カードを1枚セットし、ターンエンドだ」
(先攻1ターン目でセットカード1枚のみ? 舐めてる……ってわけじゃないだろうが。明らかに怪しい、何を狙ってやがる)
「さぁて、楽しく行こうぜ」
 そう言って玄はターンを終了。フィールドには魔法・罠が1枚伏せられているだけ。璃奈とデュエルの時とは一変し、今度は薄い装甲だ。

第1ターン

LP:8000
手札:5
SS

鷹崎
LP:8000
手札:5
無し

「俺のターン、ドロー」
(焦るな。俺はいつも通りやればいいだけだ)
「まずは、《召集の聖刻印》を発動」
 その効果で「聖刻」と名のついたモンスター1体をサーチ。鷹崎は《聖刻龍-ドラゴンヌート》を手札に加え、そのまま通常召喚する。
「さらに《聖刻龍-ドラゴンヌート》を対象に、通常魔法発動、《ライトニング・チューン》!」
 対象となったことで《聖刻龍-ドラゴンヌート》の効果が発動。デッキよりドラゴン族・通常モンスター1体を攻守0の状態で特殊召喚。
「俺は《アレキサンドライドラゴン》を特殊召喚! そして、《ライトニング・チューン》の効果で《聖刻龍-ドラゴンヌート》はチューナーとなる」
 これでチューナーとチューナー以外のモンスターがフィールドに並んだ。その合計レベルは8。当然目的はシンクロ召喚だ。
「俺は、レベル4の《アレキサンドライドラゴン》に、レベル4の《聖刻龍-ドラゴンヌート》をチューニング! 疾風烈風その身に纏いて、星屑と共に現れろ! シンクロ召喚! 飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!」
 破壊無効効果を持った代表的なシンクロモンスターの1体。
(流石は鷹崎くん。早速レベル8のシンクロモンスターを出してきましたね)
 ここで何故、数あるレベル8シンクロモンスターの選択肢の中から《スターダスト・ドラゴン》が選ばれたのか。それは玄の受けの体勢が問題となった。伏せカード1枚のみでターンを終了。終盤で手札がなくなっているのならばよくあることかもしれないが、今は最序盤。多くの選択肢があるはずにも関わらず、魔法・罠カードを1枚伏せただけ。よほどの手札事故を起こしたのか、またはたった1枚の伏せカードによほどの自信があるのか。ならば警戒すべきは迎撃系の破壊カード。よって、選択肢の中から鷹崎は《スターダスト・ドラゴン》を選んだ。
(破壊に対してはめっぽう強い《スターダスト・ドラゴン》だ。可能性としては除外系の罠、《次元幽閉》なんかの可能性もあるが、ここは攻める!)
 低い可能性を常に気にしながらも、最良であろう選択肢を選ぶ。攻撃するか否か、その成否によってデュエルの結末というものは大きく変わってくるものなのだ。
「バトル、《スターダスト・ドラゴン》でダイレクトアタックだ!!」
 鷹崎が攻撃を宣言したその瞬間、璃奈はなんとなく、あくまでなんとなくではあるが「危ない」と思った。あの時――璃奈が玄とのデュエルで《メタモルポット》に2度目の攻撃を加えようとした時――と同じ感覚だった。この攻撃は、鷹崎を不利にするものだ、と彼女は直感的に感じ取っていた。
 そしてその直感は見事的中することとなる。
「攻撃の瞬間、速攻魔法発動。《禁じられた聖杯》! モンスター1体の攻撃力を400ポイントアップさせ、その効果を無効化する!」
「!?」
 対象となるモンスターは1体しかいない。フィールドには、《スターダスト・ドラゴン》が1体のみだ。間違いなく、どこを見てもそれ1体。
 この行動には流石の鷹崎も驚きを禁じ得ない。何か来ると感じ取っていた璃奈ですら驚きを隠せなかった。全くちっとも少しも全然かけらたりとも一切合財完膚なきまでに徹頭徹尾なんの意味も無く、玄は《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力を上げた。
 玄にどんな思惑があったとしても、少なくとも周りから見れば意味のない行為だ。

《スターダスト・ドラゴン》 ATK:2500→2900

「そしてバトルは続行される」
 1度攻撃宣言をしたモンスターは、モンスターが新たにフィールドに現れでもしない限りその攻撃を中断することはできない。この攻撃は鷹崎の意思によって止めることは不可能だ。
「……っは、しまった!」
 このとき鷹崎はすぐに玄の意図に気が付いた。ほんの少し遅れたが、璃奈もその思惑に気が付く。そう、今彼のフィールドにはカードが1枚も存在しないのだ。

皇貴 LP:8000→5100

 玄のライフが削られたその瞬間、フィールドには冥府から訪れた大刀を持った闇の使者。同じく大刀を持った光の使者が遅れてやってきた。
「《冥府の使者ゴーズ》、《冥府の使者カイエントークン》……っ! わざわざ《冥府の使者カイエントークン》の攻撃力上げるために《スターダスト・ドラゴン》の攻撃を上げてまでモロに喰らったってのか!?」
 自分フィールドが空の時にダメージを受けることで特殊召喚出来る悪魔族最上級モンスター、《冥府の使者ゴーズ》。その強力な効果からすぐに制限カードとなったカードの1枚。そして、《冥府の使者ゴーズ》の効果で現れたのは、受けたダメージに比例して強くなる《冥府の使者カイエントークン》。
(くそっ……伏せ1枚なら《冥府の使者ゴーズ》の可能性は十分にあっただろうが。気付かないうちに焦ってたのか、俺は)
(私の時は壁にしかならなかったけど……流石クロくん。完璧なタイミングでの《冥府の使者ゴーズ》です)
「さぁ、なんとかして見せろよ」
 右手の人差し指をくいくいっと折り曲げ、鷹崎を挑発する。
(出来たらとっくにしてるっての)
「チッ、カードを伏せて、ターンエンドだ」
 そしてこのエンドフェイズに《禁じられた聖杯》の効果が消え、《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力は元々の数値に戻る。

《スターダスト・ドラゴン》 ATK:2900→2500

第2ターン

LP:5100
手札:4
《冥府の使者ゴーズ》、《冥府の使者カイエントークン》

高崎
LP:8000
手札:3
《スターダスト・ドラゴン》、SS

「俺のターン、ドロー」
 玄は手札の《コアキメイル・サンドマン》を通常召喚し、即座にバトルフェイズに入る。
「《冥府の使者カイエントークン》で《スターダスト・ドラゴン》に攻撃!」
「くっ、《聖なるバリア-ミラーフォース-》を発動!」
「サンドマンをリリースし、無効にする!」
 岩石族「コアキメイル」に代表される3体のモンスター。
 モンスター効果を止める《コアキメイル・ガーディアン》。魔法を止める《コアキメイル・ウォール》。そして玄が場に出したばかりの《コアキメイル・サンドマン》は罠を止める。それぞれ自身をリリースすることでカードの発動を無効にし破壊する効果を持つ、【岩石族】の代表的なアタッカー。その効果は有名であり、当然鷹崎も《聖なるバリア-ミラーフォース-》が無効にされることぐらい分かってはいる。だが、1度に大幅にライフを持っていかれることを懸念し、またフィールドに残しておくのも危険だと感じて《コアキメイル・サンドマン》の効果を使わせ潰したのだ。
 結果、《聖なるバリア-ミラーフォース-》は無効となり、攻撃は続行となる。攻撃力2900の《冥府の使者カイエントークン》が攻撃力2500の《スターダスト・ドラゴン》に剣を振りかざす。敢え無くやられ、その攻撃力差400ポイントが鷹崎のライフから削られる。

鷹崎 LP:8000→7600

「さらに、《冥府の使者ゴーズ》でダイレクトアタックだ!」
 今度はゴーズの攻撃。再び剣は振り下ろされる。だが今度の相手はプレイヤー、鷹崎だ。
「ぐっ……!」

鷹崎 LP:7600→4900

「メインフェイズ2、カードを1枚セットしターンエンド」
 淡々とターンを進め、黙々とカードを操る。デュエルの流れはすでに玄が手にしていた。

第3ターン

LP:5100
手札:3
《冥府の使者ゴーズ》、《冥府の使者カイエントークン》、SS

鷹崎
LP:4900
手札:3
無し

「俺のターン、ドロー! 手札の《青眼の白龍》をコストに《トレード・イン》を発動し、2枚ドロー!」
 2枚のドローを確認し、内1枚をそのままデュエルディスクに叩きつける。
「このモンスターは、自分フィールドにモンスターが存在せず、相手のフィールドにモンスターが存在するとき、攻守を半分にすることで特殊召喚ができる! 《バイス・ドラゴン》!」

《バイス・ドラゴン》 ATK:2000→1000 DFE:2400→1200

「そしてチューナーモンスター、《ドレッド・ドラゴン》を通常召喚」
 場にはシンクロの準備が整う。2ターン連続でのシンクロ召喚だ。
「レベル5の《バイス・ドラゴン》に、レベル2の《ドレッド・ドラゴン》をチューニング! 王者の熱風ここに轟き、弱者を蹴散らし力を示せ! シンクロ召喚!燃え上がれ、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》!!」
 自身の攻撃力以下のモンスターと戦闘する場合、ダメージ計算を行わずに相手モンスターを破壊し、そのモンスターのフィールドでの攻撃力分のダメージを相手に与えるシンクロモンスター。だが。
「《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の攻撃力は2400。攻撃力が2700の《冥府の使者ゴーズ》と2900の《冥府の使者カイエントークン》は倒せないぞ」
「んなこたぁ分かってんだよ。永続魔法、《一族の結束》を発動!」
 種族統一デッキにおける全体強化型の永続魔法。墓地のモンスターはドラゴン族のみ……よって鷹崎のフィールドのドラゴン族モンスターの攻撃力はすべて800ポイントアップする。
「当然《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の攻撃力もアップだ!」

《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》 ATK:2400→3200

(すごいっ……! これで《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の攻撃力がクロくんのフィールドのモンスターの攻撃力を超えた! 私のデュエルの時もそうだったけど、大型モンスターを出した次のターンでも全く息切れを見せない……みんなが疲れ切ってる中で鷹崎くんだけが疲労してるように見えなかったのはこのすさまじい「体力」から来てるんですね)
 ソリッドビジョンシステムはデュエリストに体感的に衝撃を与えるシステムである。直接プレイヤーにダメージを与えるカード効果や、ダイレクトアタックなどではその衝撃が大きく、貧弱な肉体では1撃食らうだけで相当な負担となる。
 ここまで璃奈は6回のデュエル、鷹崎は9回、玄は15回のデュエルをこなしているが、当然その間にもダイレクトアタックを少なからず受けているだろう。そしてそのダメージは肉体に蓄積し段々とプレイングを鈍らせる。
 本来ならば、一般的なデュエリストはデュエルディスクを使用してのデュエルを、1日平均10~15回程度行うことができるとされている。各個人の限界を超えると判断能力が低下し、まともなデュエルが行えなくなる。事実、璃奈は1日に11戦程度が限度である。しかし、鷹崎の限度デュエル数はなんと25回。普通のデュエリストの2倍~2.5倍もの体力を有しているということになる。これは鷹崎の天性の異常体力のなせる業であるといえる。
(デッキ枚数が50枚なのも、息切れをしないためのものですか……)
 故に、鷹崎透のデュエルは衰えない。常にトップスピードで動くことができる。
「バトルフェイズだ。《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》で《冥府の使者カイエントークン》を攻撃! キング・ストーム!!」
 攻撃力で劣っている《冥府の使者カイエントークン》は成す術もなく、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の吐く業火に焼かれる。そして、その効果によって2900のダメージが玄を襲う。
 だが、ただでダメージを受ける玄ではない。
「ライフにダメージを与える効果が発動した時、手札より《アチャチャチャンバラー》を特殊召喚!そして400のダメージを相手に与える!」
「なにっ!?」

鷹崎 LP:4900→4500

玄 LP:5100→2200

「……はっ、一瞬何事かと思ったが、俺のライフにかすり傷を付けただけじゃねぇか。そんな程度じゃライフ差を多少埋める程度にしかならねぇ」
「そうかもな」
 大ダメージを受けたにもかかわらず、余裕の表情を浮かべる玄。やせ我慢なのか、何か策があるのか、また別の何かか。どちらにせよ、鷹崎は易々と「追い詰めた」という気分にはなれなかった。
(何を考えてやがるのかは知らねぇが、そう簡単に覆せる状況でもねぇはずだ。このまま次のターンが回ってくれば俺の勝ち。焦る必要はねぇ)
「カードを1枚伏せ、ターンエンド」
「そこだ」
 ターンエンドの宣言を確認し、そのタイミングで玄が動き始める。
「リバース罠、《岩投げアタック》! コストとしてデッキから岩石族モンスター、《ゴゴゴゴーレム》を墓地へ送る。さらに、罠カードが発動したことで、その効果の発動にチェーンして《ナチュル・ロック》の効果発動!」
 罠カードの発動時にデッキトップを墓地へ送ることで特殊召喚することができる岩石族モンスター。
「そして、《岩投げアタック》の効果で500ダメージ」

鷹崎 LP:4500→4000

「……分からねぇな。そんなちまちまとダメージを与えてどうなる。そんなんじゃ俺を倒すどころか、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の1体も倒せやしねぇぞ」
「何事にも準備ってのは必要なんだよ。嵐の前の静けさ……とはちょっと違うが、そんな感じのものだと思っておけよ」
 長かったエンドフェイズが終わり、玄のターンへ。

第4ターン

LP:2200
手札:1
《冥府の使者ゴーズ》、《アチャチャチャンバラー》、《ナチュル・ロック》

鷹崎
LP:4000
手札:0
《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》、《一族の結束》、SS

「俺のターン、ドロー」
 ドローカードを確認し、手札に加える。そして元々持っていたもう1枚の手札をモンスターゾーンへと置く。
「《ゴゴゴジャイアント》を通常召喚し、その効果で《ゴゴゴゴーレム》を蘇生する」
 玄のフィールドが5体のモンスターに埋め尽くされる。
「俺はレベル4の《ゴゴゴジャイアント》と《ゴゴゴゴーレム》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《妖精王 アルヴェルド》!」
 その名の通り妖精の王。玉座に座りどっしりと構えている姿は、王の名に相応しいものだった。
「オーバレイユニットを1つ取り外し、効果発動! フィールドの地属性以外のモンスター全ての攻撃力を500ポイントダウン!」

《妖精王 アルヴェルド》 ORU:2→1

《冥府の使者ゴーズ》 ATK:2700→2200

《アチャチャチャンバラー》 ATK:1400→900

《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》 ATK:3200→2700

(自分のモンスターごとパワーダウンさせやがっただと!?)
 しかも合計数値は玄のモンスターのほうが低下している。これではより《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》を倒すのがより困難となったように見えるが。
「さらに、レベル3の《アチャチャチャンバラー》と《ナチュル・ロック》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《No.30 破滅のアシッドゴーレム》!!」
 ランク3ながらもその攻撃力は3000ポイント。いくつかのデメリット効果を持っているが、その爆発力はすさまじい。そして、これで攻撃力の下がった《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》を倒せるモンスターの召喚に成功した。
(レベル3のモンスターを展開したのはこいつを出すためか……)
「バトルフェイズだ! 《No.30 破滅のアシッドゴーレム》で《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》を攻撃!」
(だがっ!)
「軽率な攻撃だったな! リバースカード発動! 《収縮》!! 《No.30 破滅のアシッドゴーレム》の攻撃力を元々の半分にする!」
 これで《No.30 破滅のアシッドゴーレム》の攻撃力は1500まで落ち、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》に劣ってしまう。さらに、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の効果で玄は致命的なダメージを受けることとなる。
「この勝負、俺がもらった!!」
「いいや、俺の勝ちだ。手札から速攻魔法をチェーン発動! 《禁じられた聖槍》!」
 《禁じられた聖槍》は対象モンスター1体の攻撃力を800下げる。さらに、対象にしたモンスターはそのターン魔法・罠の効果を受けなくなる。対象は《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》。つまり。
「《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の攻撃力は800ダウンし、《一族の結束》の効果を受けなくなる」
「なにぃっ!!」

《No.30 破滅のアシッドゴーレム》 ATK:3000→1500

《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》 ATK:2700→1100

 さっきまで3200あった《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》の攻撃力も3分の1程度にまで低下。これで攻撃力は再び逆転。そして《No.30 破滅のアシッドゴーレム》の振り下ろされた酸まみれの剛腕は、止まるということを知らないかのように《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》を吹き飛ばす。
「ぐっ……!」

鷹崎 LP:4000→3600

 モンスターも、伏せられたカードも、手札も、墓地誘発もありはしない。
「さて、ネタ切れのようだし、止めだ。《冥府の使者ゴーズ》と《妖精王 アルヴェルド》でダイレクトアタック!」
「ぐあああああああっ!!」

鷹崎 LP:3600→1400→0

「「速さ」も「強さ」も、1人でどうにかしようとすには少しばかり苦労がいる。なら相手を利用することを考えればいい。ただ攻めるだけなら誰にでもできる。相手の慢心と油断を突いて攻めろ」
 相手から力を利用して《冥府の使者ゴーズ》を召喚し、それをサポートする形で《冥府の使者カイエントークン》を強化。相手のダメージ効果を利用して《アチャチャチャンバラー》を特殊召喚。伏せカードがあることからくる慢心と油断を利用して攻撃を通す。それが、白神玄の決闘だった。


「ちくしょう。なんなんだよ、あんた」
 敗北した鷹崎が最初に口にしたのはそんな言葉だった。
「見ての通りだ」
「いや、何がだよ」
(こいつ……白神玄は、俺よりも数段強い。何度やってもいつ勝てるか……。だが)
「次は……なんて自惚れたことは言わねぇが、いつか……いつか必ず勝ってやるよ」
「そうか。だけど残念ながら次だろうといつかだろうと、いつまでも俺が勝ってやるよ」
 目の前にできた新たな目標を胸に、鷹崎透は拳を握りしめた。
 と、そこに璃奈も駆けつける。
「すごいデュエルでしたね! 2人ともすごかったです!」
 主にクロくんのほうが!特にクロくんのほうが!と最後に付け加えなければいい台詞だった。グサッと鷹崎の胸に言葉が突き刺さる。
「早川……お前、俺に負けた腹いせかよ」
「何がですか?」
 自覚的な悪意よりも、無自覚的な善意のほうが人を気づ付けることがある。鷹崎透が今日得た教訓だった。
 そこで、キィーーーーン!!っと大きな音が体育館に響き渡る。館内の生徒全員が驚き、音のしたほうへ振り返ると、スピーカー。マイクの電源を入れた音のようだ。
『うっさいわねぇ。ちゃんとマイクの手入れしてるのかしらここの教師は……あ、それはさておき、みなさん手を止めて下さい。デュエル中の人は速やかに終わらせてくださーい!』
 さっきと同じく、小柄な副部長、真子が壇上に立っている。入部希望者たちは、言われるがまま手を止める。僅かにしか残っていなかったデュエル中の者も、デュエル終盤だったようで、すぐに決着が付いた。そうしてすべてのデュエルが終わったことを確認すると、真子は口を開いた。
『えー、これにて、神之上高校、決闘部、入部試験を、終了します』
(噛まないように気を付けましたね……)
『えー今から呼ばれる人たち以外はさっさと帰りなさい。邪魔のなので』
(辛辣ですっ!)
 周りからは予想通り驚きの声ばかり。態度がひどい。
『はーい、静かにしてくださーい。それでは発表します』
 会場全体がピリピリとした空気に包まれる。
『えーっとぉ……1-B、鷹崎透くん。1-E、早川璃奈さん。それと2-A、白生徒たちは神玄くん。以上です』
「へ」
 と、間の抜けた声を出したのは璃奈。
「……ふん」
 と、当然のように鼻を鳴らしたのは鷹崎。
「へーい」
 と、適当に返事をしたのが玄。
 ちょうどここにいる3人が呼ばれる。
『はい、それではその3人以外は帰って下さい。興味ないです。1年間悔し涙で枕を濡らして下さい』
(より辛辣っ!)
 周りからは学年、性別関わらず抗議の声が聞こえる。あんな言い方されれば、当然と言えば当然。
『うるさい。帰らないと先生呼ぶわよ』
「小学生か、あの副部長とやらは」
 そう鷹崎が呟く。
「見た目はどうみても小学生だけどな」
 玄もそれに対して呟く。
「副部長さんの前では言わないほうがいいと思いますよ……それ」
 と各々呟いてる間に、いつの間にか副部長VS入部希望者たちの口論は激しさを増していた。
 それから10分ほど経過し決着。結果は、権力と圧力を盛大に振るった真子の勝利だった。止めの一言、「私、校長先生と仲がいいのよ」の一撃によって入部希望者たちは黙り、愚痴をこぼしながらトボトボと体育館の出口の方へと歩いていく。
(なんだか、申し訳ない気分になってきますね……)
 そこで壇上を見ると、真子が手招きしている。当然その相手は玄たちだ。
『鷹崎くん、早川さん、白神くん。こっちこっちぃ』
「なんか呼ばれてるし、行くか」
「そうだな」
(そうです……申し訳なくなってる場合じゃありませんでした。私はまだまだ弱いから、2人みたいに強くなれるように頑張らないと!)
「待ってくださーい!」
 少し遅れて玄と鷹崎の後をついていき、壇上を上っていく。
 この時、璃奈は少しだけいやの予感がした。入部が決まり喜ばしいはずなのに、何故か、何故かよくないことが起きる気がした。
(気にしなくても大丈夫……ですよね?)
 気にしておけばよかった、と璃奈はすぐに後悔することとなる。



 時計の針を少しばかり戻そう。
 決闘部副部長、辻垣内真子(つじがいとまこ)が入部希望者たちを体育館から追い払う数分前。体育館の上手袖には3人の生徒がいた。その全員が決闘部の面々だ。
「それで、2人はどう思うー?」
 最初に口を開いたのは真子。残りの2人に話しかける。
「そういう真子先輩はどうなの?」
 次に口を開いたのは2年生の女子生徒。真子に問いを投げ返す。
「私はあなたが言ってた女の子が結構いいと思うんだけど。何ていうか、叩けば伸びそうな感じにポテンシャルは高さそうな、叩いたらそのまま潰れてしまいそうな、そんな感じが気に入ったわ」
 うきうきとした顔で話を進めていく真子。再び2年女子生徒が口を開く。
「なるほど。確かに真子先輩が好きそうなタイプかもしれないね」
 納得したような顔でうなずく女子生徒。
「私はその子と一緒にいた男の子かな。嫌でも目につくよ、始まって3分で1人倒してたし」
 そこで最後の一人――3年生の男子生徒――が発言する順番となった。
「僕はあのやたらと速い1年生かな。光る点が多いね。安定性が高いとは言い難いけど、むらがなくなればかなりの実力者になると思う」
 彼のポテンシャルも相当なものだと思うよ、と付け加える。
 3人全員の発言が終わると、真子がパンッと胸の前で手を叩いた。
「それじゃ決定ね、あの3人で。ちょーど2人が推してる子たちがデュエルしてるみたいだから、それが終わったら終了にしましょうか」
「うん」
「そうだね」
 真子の提案に2人は何の不満もなく賛成の意を表す。
 丁度このタイミングが、とある転入生がとある新入生のライフを0にした瞬間だった。
 そして、ここから時計の針は少し進み、白神玄、早川璃奈、鷹崎透。3名が真子に手招きされるがまま体育館の壇上へと登る。
「さてさて、始めましょうかね。本当の入部試験を」
 そう呟いた真子の顔は、まだうきうきとした様子だった。

       

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Neetsha