Neetel Inside ニートノベル
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<Side-K>

 玄VS美里。
 5ターン目に突入したそのフィールドを見れば、どちらが優勢であるかはすぐに判別がつく。圧倒的とまでは言わずとも、その盤面は美里が流れを掴んでいた。
「私のターン。《墓守の偵察者》をリリースして、《邪帝ガイウス》をアドバンス召喚!」
 場に残っていた《墓守の偵察者》を糧として、上級モンスターである《邪帝ガイウス》を召喚。その効果によって、セットモンスターを除外する。
「させるか。《デモンズ・チェーン》発動! その効果と攻撃を封じる!」
「残念。それじゃあバトルフェイズに入って、《ホルスの黒炎竜 LV6》で守備モンスターを攻撃!」
「守備モンスターは《ゴゴゴゴーレム》。守備表示の時、1ターンに1度戦闘では破壊されない」
 《邪帝ガイウス》の攻撃宣言は《デモンズ・チェーン》で封じられている。《ゴゴゴゴーレム》を排除することはできない。
(簡単にレベルアップはさせてくれないね……)
 《ホルスの黒炎竜 LV6》は相手モンスターを戦闘破壊したターンのエンドフェイズに《ホルスの黒炎竜 LV8》に進化することができる。戦闘破壊できなければレベルアップはお預けだ。
「カードを1枚セットして、ターン終了」

第5ターン
美里
LP:8000
手札:2
《ホルスの黒炎竜 LV6》、《邪帝ガイウス》、《洗脳解除》、SS


LP:8000
手札:2
《ゴゴゴゴーレム》、《デモンズ・チェーン》

「俺のターン、ドロー」
(今のところほとんど予想通り。ライフはお互い全然減らないけど、このまま少しずつ壁を崩していく)
 ただの1度とはいえ玄の裏をかいた美里。だが、その程度のことで油断などしない。裏をかいて掴んだ流れを取り逃さないためにも慎重に動く。
「魔法カード、《マジック・プランター》で《デモンズ・チェーン》をコストに2枚ドロー。《コアキメイル・サンドマン》を通常召喚。レベル4のモンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《妖精王 アルヴェルド》! 効果を発動!」
 その効果によって、《ホルスの黒炎竜 LV6》と《邪帝ガイウス》の攻撃力は低下する。

《妖精王 アルヴェルド》 ORU:2→1

《ホルスの黒炎竜 LV6》 ATK:2300→1800

《邪帝ガイウス》 ATK:2400→1900

「そして魔法カード、《エネミーコントローラー》発動。《邪帝ガイウス》を守備表示に変更」
 流れると様に動作をこなしていき、バトルフェイズに入る。
「《妖精王 アルヴェルド》で《邪帝ガイウス》を攻撃」
 何の抵抗もなく《邪帝ガイウス》は破壊される。
「メイン2に移行。カードを1枚セットし、ターンエンドだ」
「用心深いね」
「相手は「あの」神之上高校決闘部だ。そりゃ多少はな」
(私のセットカードは《収縮》。モンスター1体の元々の攻撃力を半分にするカード。もしさっき、《エネミーコントローラー》を使わずに《妖精王 アルヴェルド》を出してから攻撃してたら、これで返り討ち。でも《邪帝ガイウス》確実に倒せるように守備表示にしてからの攻撃。デッキがバレてるっていうのが効いてるのかな? どちらにせよ、白神くんは慎重にならざるを得ないはず……外堀から少しずつ埋めていってあげる。もはや君のデュエルは私にとっての公開情報だよ)

第6ターン
美里
LP:8000
手札:2
《ホルスの黒炎竜 LV6》、SS


LP:8000
手札:1
《妖精王 アルヴェルド》、SS

 美里はドローを終えると即バトルフェイズに入り、《ホルスの黒炎竜 LV6》で攻撃宣言。
「ダメージステップ、《収縮》を発動! 《妖精王 アルヴェルド》の元々の攻撃力を半分にするよ!」

《妖精王 アルヴェルド》 ATK:2300→1150

 これで攻撃力の下がった《ホルスの黒炎竜 LV6》でも《妖精王 アルヴェルド》を倒すことが可能となった。
「《妖精王 アルヴェルド》を破壊!」

玄 LP:8000→7350

 第7ターンに来て初のダメージ。ダメージ量は微々たるものだが、これで《ホルスの黒炎竜 LV6》が進化の時を迎える。
「カードを1枚セット、エンドフェイズ、《ホルスの黒炎竜 LV6》が相手モンスターを破壊したことで、《ホルスの黒炎竜 LV8》に進化!!」
 これで玄は一切の魔法カードの発動を封じられた。勝利は一気に美里に傾いたと言っても過言ではない。
「これで俺は魔法を使えない。まずいなそれは、そうなると確かにまずい」
(ん? なんか……雰囲気が違――)
 と、その瞬間だった。
 フィールドに現れたはずの《ホルスの黒炎竜 LV8》が、姿を消した。
「え……?」
(何が……起きたの? 《ホルスの黒炎竜 LV8》が消えて、え? 消えた? なんで?)
「随分と驚いた顔をしてるじゃないか。そんなに不思議か?」
 美里は不思議で不思議でたまらない。なぜなら、玄のデッキを知り尽くしているからこそ、その異常性が不思議でたまらないのだ。
(どう……して……?)
「まぁ、ここでネタばらしだ。リバース罠を発動した。それだけだ」
 しかし、それは明らかにおかしかった。何がおかしかったか。それは、さっき美里が開示したデッキレシピの中には、1枚も召喚に反応する除去カードがなかったのだ。にも関わらず、《ホルスの黒炎竜 LV8》はその召喚時に姿を消した。
「な……なんで? なんでそのカードが……」
 玄フィールドにはリバースされた1枚の罠カード。それは。

「どうして君のデッキに、《奈落の落とし穴》が入ってるの!?」

 そのカードは紛れもなく、どうみても、《奈落の落とし穴》だった。
 攻撃力1500以上のモンスターの召喚、特殊召喚成功時にそのモンスターをゲームから除外する。強力な除去罠だ。
 だが。
「ありえないよ。なんでそれが……」
(カードの枚数を数え間違えた? ううん、そんなんじゃない。数える時に枚数はデュエルごとに数えなおしてた)
 焦りながらもあらゆる可能性を考える。そこで1つの可能性を提示する。
「もしかして。デッキ枚数が40枚じゃない?」
 それならば可能性として十分にあり得る。デッキは必ずしも40枚でなくてはならない訳ではない。40枚から60枚の間ならば好きなように枚数を調整できる。流石に60枚なんてことはないが、それでも45枚程度なら十分にあり得る。
「それは違うな。俺はこだわりとしてデッキ枚数は必ず40枚にしてるんだ」
 しかし、そんな美里の予想も外れる。
「じゃあ、いったいどうして?」
「答えは至極単純明快。少し考えれば分かることだけど、時間切れってことで正解発表。俺はただ単純に、デッキを変えたんだよ」
 玄の言うとおり、至極単純明快。ネタが分かればそれだけのことなのだ。
「体育館でデュエルしたとき(今もまだ体育館内だけど)使ったデッキはお前がさっき言った通りのものだ。それで合ってる。そして、副部長さんに呼びかけられたとき、気付かれないように、懐に入れておいた別のデッキと差し替えた」
 ここからは多少長くなるので、要約して記そう。
 玄は神之上高校決闘部には入部試験が存在するということ自体は前々から知っていた。しかしその試験の内容がどんなものかは一切知らなかった。とは言え相当な数の入部希望者が来るのは容易に想像でき、その人数を審査するのであれば、いかなる方法であろうと複数回のデュエルが必要ではないかと考えた。さらに、直接部員が実力を確かめることなく入部試験が終わることはないという考えにも至った。そうでなかった場合も考えられるが、両方考えておいて損はない。結果としては予想が当たり、玄が思い描いた通りの展開となった。
 では、何をしたのか? これも大したことをしたわけではない。まず普通に使うデッキを1つ用意する。そして、もしデッキを入れ替えるチャンスがあった時のために、それによく似た違うデッキを用意する。ただ、これだけである。そして誰も見ていないタイミングで懐のデッキと交換して、準備は完了だ。
「……最初に真子先輩が「デッキの変更は不可能」って言ってたはずだけど」
「いいや違うな。正確には「ストップがかかるまでの間デッキの変更は不可能」だ。そして副部長さんのストップはもうかかってる。それ以降ならデッキをいくら変えたって大丈夫なはずだ」
 美里は黙る。玄の言っていることは屁理屈に聞こえるかもしれないが、間違いなく正論だった。というか、そこに気付けるかどうかも試験の一部でもあったのだ。
 合格を聞かされて浮かれている入部希望者たちを計るための、一種の罠の様なものだった。しかし、玄は難なく乗り越える。
「お前はこのデッキの内容を完全に把握していると思っているだろうが、それは違う。むしろ、よく似ているデッキを完全に把握してしまっているせいで、お前にはどこが違いどこが同じかは分からない。と言っても相違点はたったの9枚。その1枚がこの《奈落の落とし穴》だったというわけだ」
 ここまで玄が見せたカードは《奈落の落とし穴》を含め9枚。つまり、あと31枚の内8枚が未公開のカードだ。
(白神くん……。この1戦のために16度の試合をすべて見て、その対策をわざわざデッキに組み込んだ私が言えることじゃないかもしれいけど、普通そこまでする?)
「そういえば、ターンエンドだったな。それじゃ、俺のターンに行かせてもらおうか」
 確かに掴んでいたはずの流れは、いつの間にか奪われていた。

第7ターン
美里
LP:8000
手札:2
《洗脳解除》、SS


LP:7350
手札:2
無し

「ドロー。《ブロック・ゴーレム》を召喚し、効果発動!」
 自分の墓地が地属性のみの場合、リリースすることでレベル4以下の岩石族を2体特殊召喚できる。玄の墓地のモンスターは《伝説の柔術家》、《ゴゴゴゴーレム》、《コアキメイル・サンドマン》、《妖精王 アルヴェルド》の4枚のみ。どれも地属性、条件は満たしている。
(さっそく未公開カード……!)
「《ゴゴゴゴーレム》と《コアキメイル・サンドマン》を蘇生し、バトルフェイズ! ダイレクトアタック!」
「きゃあっ!」

美里 LP:8000→6200→4300

 中々決まらなかった攻撃が嘘のようにすんなりと通る。
(私の伏せカードは2枚目の《王宮のお触れ》。《ホルスの黒炎竜 LV8》が場に出たから【お触れホルス】を決めようと思った矢先、こうなっちゃうか……)
「メイン2、2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《ジェムナイト・パール》! さらにカードを1枚伏せてターンエンドだ!」


第8ターン
美里
LP:4300
手札:2
《洗脳解除》、SS


LP:7350
手札:0
《ジェムナイト・パール》、SS


(あの伏せカードは何? 私が知ってるカード?それとも別の何か? 知ってるカードだとしたら何がある……《デモンズ・チェーン》? 《リビングデッドの呼び声》? 《禁じられた聖槍》? 《岩投げアタック》? ……ダメだ、もうそのカードが入っているかすら私には分からない……!)
 すでに思考に意味はない。考えるのを諦め、美里は1枚のモンスターを召喚する。
「《N・グラン・モール》! 《ジェムナイト・パール》に攻撃!」
「《聖なるバリア-ミラーフォース-》を発動! 破壊だ」
「うっ……!」
 《聖なるバリア-ミラーフォース-》は公開されているカードの中にあった。だが、もはやそれは意味をなさない。考えれば考えるほど深くはまっていく。もはや逃げることはできない。
「カードをセット、ターン終了……」

第9ターン
美里
LP:4300
手札:1
《洗脳解除》、SS×2


LP:7350
手札:0
《ジェムナイト・パール》

「ドロー、魔法カード発動。《鬼神の連撃》! 《ジェムナイト・パール》のオーバレイユニットをすべて取り外し、2回攻撃権を得る!」

《ジェムナイト・パール》 ORU:2→0

 今伏せた《激流葬》のカードも、さっき引いたばかりの《エフェクト・ヴェーラー》も、デッキのメインコンセプトである《王宮のお触れ》も、メタカードとして投入した《洗脳解除》も、この状況では全く意味をなさない。
「パールでダイレクトアタック!」
「きゃああっ!」

美里 LP:4300→1700→0

 勝者、白神玄。

「負けたよ。すごいね」
「どんな気分だ?」
「なんか案外スッキリしてるよ。今日はいいことが分かったしね」
「何が分かったんだ?」
 笑顔を浮かべて一言。
「上には上がいる」
「ちょっと違うな。上には下がいるんだよ」
 玄が挑発すると、むっとしたように頬を膨らませる。
「そうむくれるなよ。上とか下とかなくなるように精々がんばれ」
「そうだね……頑張る」
「2人は……璃奈と鷹崎のほうはどうなったのか気になるな」
 互いが互いの邪魔にならないように、場所を変えてしまったため、ほかの2つのデュエルの状況を知ることはできない。
 と、そこで美里の顔が沈んだ様子だった。そして、口を開く。
「白神くん……正直に言うよ」
「何をだよ」
「2人は、璃奈ちゃんと鷹崎くんは……勝てないよ」


<Side-T>

「俺のターン、ドロー!」
 5ターン目、鷹崎のドロー。圧倒的不利な状況にもかかわらず、未だ鷹崎の覇気は消えてはいない。
「《聖刻龍-ドラゴンヌート》を通常召喚。そして、墓地の《スキル・サクセサー》の効果を発動!」
 《スキル・サクセサー》は通常の場合、自軍のモンスター1体の攻撃力を400上げるだけのカード。だが、《スキル・サクセサー》には墓地で発動するもう1つの効果がある。
「《スキル・サクセサー》をゲームから除外し、《聖刻龍-ドラゴンヌート》の攻撃力を800ポイントアップ。さらに、《聖刻龍-ドラゴンヌート》が対象となったことで、デッキより《アレキサンドライドラゴン》を特殊召喚!」

《聖刻龍-ドラゴンヌート》 ATK:1700→2500

「《スターダスト・ドラゴン》の攻撃力と並んだか……」
「まだだ! 《アレキサンドライドラゴン》を墓地へ送り、《馬の骨の対価》を発動。2枚ドロー!」
 《調和の宝札》、《トレード・イン》に続いて3種類目のドローブーストカード。
(よしっ!)
「魔法カード、《死者蘇生》。墓地より《青眼の白龍》を復活させる!」
 効果の備わっていない通常モンスターとはいえ、攻撃力3000の上級モンスター。これで音無のフィールドのモンスターの攻撃力すべてを上回った。
「バトル! 《青眼の白龍》で《スターダスト・ドラゴン》を、《聖刻龍-ドラゴンヌート》で《サイバー・ドラゴン》を攻撃!!」
「両方受けよう」

音無 LP:8000→7500→7100

 ここに来て音無初のダメージ。しかしそれでもライフポイントの差は僅かにしか埋まらない。
「カードを1枚伏せ、ターンエンド!」
 そして《スキル・サクセサー》の効力が消え、《聖刻龍-ドラゴンヌート》の攻撃力が下がる。

《聖刻龍-ドラゴンヌート》 ATK:2500→1700

第5ターン
鷹崎
LP:1600
手札:2
《聖刻龍-ドラゴンヌート》、《青眼の白龍》、SC

音無
LP:7100
手札:3
《サイバー・ダーク・ホーン》、《ボマー・ドラゴン》(装備)

「僕のターン。速攻魔法、《手札断殺》を発動。お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送り、2枚ドローする」
 鷹崎の手札は丁度2枚。選択することもできず2枚の手札を墓地へ。
「《聖刻龍-ドラゴンゲイヴ》と《ドレッド・ドラゴン》を墓地へ送り、2枚ドロー」
「《サイバー・ダーク・キール》と《仮面竜》を墓地へ送り、2枚ドロー」
(さらに【サイバー・ダーク】の種を落としたか……)
「《サイバー・ダーク・エッジ》を通常召喚。《仮面竜》を装備し、攻撃力1400アップ」

《サイバー・ダーク・エッジ》 ATK:800→2200

「バトルフェイズ、《サイバー・ダーク・ホーン》で《青眼の白龍》に攻撃。ダメージステップ、《収縮》を発動し、《青眼の白龍》の攻撃力をダウン」
「くっ!」

鷹崎 LP:1600→1300

「《サイバー・ダーク・エッジ》で《聖刻龍-ドラゴンヌート》に攻撃」

鷹崎 LP:1300→800

「ターンエンド」
 再び鷹崎の場ががら空きになる。音無は焦ることもなく、目の前の障害を難なく崩していく。
 だが、鷹崎もまだまだ終わりはしない。
「リバースカード、《リビングデッドの呼び声》発動! 墓地よりモンスター1体を蘇えらせる!」
(《手札断殺》の手札交換でいいカードが引けた。このままぶっちぎる!!)
「《聖刻龍-ドラゴンヌート》を蘇生!」
「へぇ……ここで《聖刻龍-ドラゴンヌート》かい。何を狙っていることやら。うん、何もないよ。ターンエンドだ」

第6ターン
鷹崎
LP:500
手札:2
《聖刻龍-ドラゴンヌート》、《リビングデッドの呼び声》

音無
LP:7100
手札:1
《サイバー・ダーク・ホーン》、《サイバー・ダーク・キール》、《ボマー・ドラゴン》(装備)、《仮面竜》(装備)

「俺のターン、ドロー!」
(ライフ差6600ポイント。正直かなりやばかったが、それもここまでだ! 一気に押し返す!!)
「速攻魔法、《月の書》を《聖刻龍-ドラゴンヌート》に対して発動!」
 《聖刻龍-ドラゴンヌート》は裏側守備表示となるが、対象に取られたことで、チェーンする形でその効果が発動し、墓地から《アレキサンドライドラゴン》を攻守0にして特殊召喚。
「そして《聖刻龍-ドラゴンヌート》を反転召喚!さらに通常召喚、《スター・ブライト・ドラゴン》! 召喚時にモンスター1体のレベルを2上げる。対象はもちろん《聖刻龍-ドラゴンヌート》だ!」
 1度セット状態になったことで、《聖刻龍-ドラゴンヌート》の「1ターンに1度」しか発動できない効果はリセットされ、再び効果の発動が可能となった。それによって、レベル6の《エレキテルドラゴン》を特殊召喚した。
 そして、《聖刻龍-ドラゴンヌート》のレベルも、6まで上昇。

《聖刻龍-ドラゴンヌート》 LV:4→6

「レベル6となった《聖刻龍-ドラゴンヌート》と《エレキテルドラゴン》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 世代を繋ぐ古の龍、《聖刻龍王-アトゥムス》!! 効果を発動!」

《聖刻龍王-アトゥムス》 ORU:2→1

 その効果により、デッキからドラゴン族モンスターを特殊召喚できる。攻守は0になってしまうが、効果の発動は可能だ。
「デッキより、《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を攻守0にして特殊召喚! 効果を発動し、墓地より《青眼の白龍》を蘇生!」
「すごい展開力だ。でも、まだ終わりじゃないんだろう?」
「もちろん! レベル4の《アレキサンドライドラゴン》と《スター・ブライト・ドラゴン》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 燃えろ、《竜魔人 クィーンドラグーン》!! こっちも効果発動だ!!」

《竜魔人 クィーンドラグーン》 ORU:2→1

「墓地より、レベル5以上のドラゴン族1体を特殊召喚。俺は《バイス・ドラゴン》を蘇生する」
 この効果で特殊召喚されたモンスターはこのターン攻撃に参加できず、また効果を発動することもできない。だが、今の状況には関係ない。これはさらなる攻撃のための布石に過ぎない。
「魔法カード、《ドラゴニック・タクティクス》!」
 自分フィールドのドラゴン族2体――《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》と《バイス・ドラゴン》――をリリースしデッキからレベル8のドラゴン族を1体特殊召喚する魔法カード。鷹崎が呼んだのは2体目の《青眼の白龍》。
「さらに、エクシーズチェンジ! 《聖刻龍王-アトゥムス》を素材とすることで、《迅雷の騎士ガイアドラグーン》をエクシーズ召喚!!」
「……驚いた。正直、あの状況からここまで場を埋め尽くすとは思わなかったよ」
「バトルだ! 《竜魔人 クィーンドラグーン》、《迅雷の騎士ガイアドラグーン》、《青眼の白龍》2体で、攻撃!!」
 「サイバーダーク」の共通効果。装備を外すことで、戦闘破壊を無効化する。これによって、《サイバー・ダーク・ホーン》と《サイバー・ダーク・キール》は1度だけ戦闘破壊を免れる。
「それでも、あんたのフィールドのモンスターは全滅する!! 食らえ!!」
「ぐぅ……ッ!!」

音無 LP:7100→6700→4900→4100→1900

 見事5200の大ダメージを与え、ライフを一気に詰め寄らせる。
「どうだ!」
 これで、鷹崎の手札は0枚。することはなく、このままターンを終了する。

第7ターン
鷹崎
LP:800
手札:0
《竜魔人 クィーンドラグーン》、《迅雷の騎士ガイアドラグーン》、《青眼の白龍》×2、《リビングデッドの呼び声》

音無
LP:1900
手札:1
無し

「僕ターン、ドロー。このターンを進める前に、一つ言っておくことがあるんだ、鷹崎君」
「……何を」
「この勝敗に関わらず、さっきのプレイングだけで十分に及第点だ。君の合格は確定だ」
「そりゃどうも」
「だから、君はこの敗北を何も恥じることはない」
 その瞬間だった。鷹崎は言い返してやろうと口を開こうとした瞬間、その場の空気が一変した。
(なん……だ、これは……?)
 さっきまでは感じられなかった、まるで押しつぶされるかのような空気。突然、その場の大気圧が変改したかのように息苦しくなり、鷹崎は今日初めて息切れというものを起こした。
(くそっ……なんだこれ……! わけがわからねぇっ!!)
「僕は《手札抹殺》を発動」
 たった1枚のカードの発動が、最上級モンスターをフィールドに出したかのような威圧感を帯びている。
 手札は、音無が持っている1枚以外にない。たった1枚の手札交換。ただそれだけのはずなのに、鷹崎にはそれが死刑宣告化のように感じられた。
「魔法カード、《サイバーダーク・インパクト!》!! 墓地の《サイバー・ダーク・ホーン》、《サイバー・ダーク・キール》、《サイバー・ダーク・エッジ》をデッキに戻し、融合召喚!!」

 Cyberdark Dragon!!!

 その効果により、墓地のドラゴン族を装備。そのモンスターの攻撃力分、自身の攻撃力に加算する。
「僕は、手札抹殺で墓地に送った《Sin トゥルース・ドラゴン》を装備。攻撃力を5000ポイントアップ」
 さらに、自分の墓地のモンスター1体につき攻撃力が100ポイントアップする。

《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》 ATK:1000→6000→6500

「こっ……攻撃力、6500……だと」
 この瞬間、鷹崎が1つの事に気付く。
「これが……あんたの本気かよ……」
「気付いたかい。一応、試験だからね。審査するのが目的だ。多少の無礼は許してくれると、ありがたい」
「別に……悪いのはあんたじゃねぇよ」
 互いに口にはしないが、鷹崎は気付き、音無は認めた。
 ここまで音無祐介は本気など出していなかった。手加減をしていたのだ。いや、そもそもこのデッキだって審査用に手を抜いて作っているものかもしれない。それでも、高崎は自分が思っていたほど怒りを感じることはなかった。むしろ、自らの実力不足に嫌気がさした。
(白神といい……世界は広いんだな、くそったれ)
「バトルフェイズだ。《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の攻撃」
「また……またいつかデュエルをしてくれ。その時までにはもっと、強くなってるからよ」
「ああ」
(1日で……目標が2つもできちまった。負けてばかりだが、今日は良い日だな)

 Full Darkness Burst!!!

鷹崎 LP:800→0

 勝者、音無祐介。

「……ちくしょう」
 鷹崎は、音無に聞こえないように、小さくそう呟いた。


To be continue

       

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Neetsha