Neetel Inside ニートノベル
表紙

黄金決闘
第7話 終わりと始まり

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 8月9日、正午。
 夏の日差しを鬱陶しく感じるのすら鬱陶しく感じ始めた頃、全国高校生デュエル大会地区予選東ブロックで優勝を果たした神之上高校決闘部は、都心で開かれる全国高校生デュエル大会本戦を5日間後に控えていた。
 本戦では多少変わったルールが設けられており、それについての作戦及びデッキの強化を目的として彼らは近所のカードショップ、「MAGIC BOX」へと向かっていた。
「もしかして全員で来るのって初めてかな?」
「そう思ってこの際だから提案してみたわ。気分転換にもなると思ってね」
 妙に楽しそうに口を開く真子を横目で見ながら、見た目はどこまで行っても子供だなぁ、と思う一同。スキップまでし始めた。
「確かに、私はクロくんや美里ちゃんとならよく行きますけど、6人揃って行くのは初めてですね」
「ってか行くの久しぶりだな。大会の3週間くらい前に璃奈と一緒に行ったきりだ」
 そこで玄、何かに引っかかる。が、大して気にも留めず「MAGIC BOX」の店頭へと繋がる角を曲がる。
 すると。
「あ」
 そこで思い出した。その3週間前に璃奈が誰に出会ったのかを。そして、その人物が今この瞬間に自分と璃奈に向かって飛びついてきた人物であるということを。
「クロ! リナ! 久しぶりなんだよー!」
 と言うより、よく今の今まで忘れていたな、と玄は自身の記憶力の乏しさに頭を抱えていた。
 1週間前にデュエルした『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』、アンナ・ジェシャートニコフは同じ栖鳳学園の仲間たちを連れ、カードショップ「MAGIC BOX」に集まっていた。


 曲がり角から登場した神之上高校決闘部御一行。先頭を歩いていた玄と璃奈はアンナのダイレクトアタックを喰らう。
「奇遇……だな」
 思わぬ出会いに困惑、と言うか迷惑そうな顔をする玄。別段これと言って迷惑なわけではないが。
「アンナちゃん! お久しぶりです!」
 玄とは正反対に嬉々とした笑顔を浮かべる璃奈。
 その他顔見知りたちも各々に挨拶し、偶然の再開を喜ぶ。基本的に玄だってこの再開は嬉しいのだが……。
(なーんか、間が悪い……いや良すぎるな。作為的なものを感じる。まぁ、仕組む人なんて1人しか思い浮かばねぇけど)
 首だけ回し、副部長へと目線を移す一般部員。
「ひゅ~ひゅひゅひゅ~♪」
 出せもしない口笛の真似をして誤魔化そうとしている(?)真子。もろバレだ。
「はぁ……妙に嬉しそうだとは思ってたけど、こういうことか」
(今思うと、提案したのもこの人だし、大会終わった後に春江先輩ともアドレス交換してたみたいだし)
「そんで、どーいうつもりなんだ、真子先輩?」
「な、何のことかしら……?」
「いやもういいから。バレバレだから。全員気付いてるから」
 周りのメンバーたちを見渡すと。
「ホント奇遇ですね、アンナちゃん!」
 気付いていない者が一名。と言うか璃奈だった。
「……まぁいいや。で?」
「それは俺から私から話すわ」
 口を開いたのは真子ではなく新塚彩花。栖鳳学園決闘部の部長だ。
「先日、春江伝いで真子ちゃんと話してね」
 要約すると、本戦までにできるだけ強豪とデュエルし、緊張感を保つことと自分たちのウィークポイントの改善を目的とした練習試合。部のレベルアップを考えた真子からの提案だった。
 ついこの前に負けた相手にリベンジマッチができる上、当然栖鳳のレベルアップにも繋がるため、彩花を含め部員全員が賛成したのだ。
「と、言うわけでどうかしら白神君?」
「そうだな……部内でやりあうのにも限度がある。こっちとしては願ったり叶ったりだな。ただ……」
「真子ちゃん、僕らに一言あってもよかったじゃないか。と言うか僕一応部長なんだけど」
 玄と音無の2人で真子を見下ろす。精神的な意味ではなく、単純に身長差の問題で。
「いや~サプライズがあった方がいいかなーと思ったのよ。ね? 驚いたでしょ?」
「まぁ、驚いたけど」
「僕は僕自身の信頼のなさに驚いたよ」
 音無祐介。案外根に持つ男である。
「ま、まぁいいじゃない! 細かいことは! ほらほらデュエリストがこんなに集まってるんだからデュエルしないと損よ損!」
 逆ギレ気味に無理矢理話を逸らそうとする。
「はいはい分かりましたよ。やりますやりゃいいんでしょ」
「はーい、栖鳳も神之上の人たちも集まってー! これから簡単に練習試合するから!」
 彩花の一言で全員が一か所に集まる。
「どーする? 大会の時と同じオーダーにするか?」
「それもいいんだけど、残念ながらこっちは病欠で津田君が来れてないのよね」
 よく確認すると確かにいない。大会でもあっさりと負けたせいか影が薄いので神之上高校の誰も気付いていなかった。不憫である。
「ならランダム戦でどうだ? 神之上高校は1人余ることになるが、違った対戦もできるだろう」
 鳳が提案する。他10名全員が首肯する。
「それじゃくじかなんか作ってさっさとやるか」


 第1試合、秋月美里VS東仙冬樹。

第7ターン
冬樹
LP:3700
手札:3
SS

美里
LP:4300
手札:2
《ドリルロイド》、SS

「僕のターン、ドロー!」
(冬樹君……タッグ戦の時はお姉さんの方をサポートするのがメインだったけど、個人戦だと結構印象が違うね)
 第6ターンの攻防によって、美里の出した《ホルスの黒炎竜 LV8》と《ヴォルカニック・デビル》が相殺し、先の第7ターンで《ドリルロイド》のダイレクトが決まりほぼ互角の状況。このターンは冬樹の攻めとなる。
「僕は《アチャチャアーチャー》を通常召喚。召喚時の効果にチェーンして手札から《アチャチャチャンバラー》を特殊召喚です!」
 その効果で連続バーンダメージ。

美里 LP:4300→3900→3400

「僕は2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 《グレンザウルス》!!」
「《グレンザウルス》……渋いね」
「バトルフェイズです! 《グレンザウルス》で《ドリルロイド》に攻撃!」
 攻撃力の差分、400ダメージを与え、さらに《グレンザウルス》の効果を発動する。

美里 LP:3400→3000

《グレンザウルス》 ORU:2→1

「戦闘で相手モンスター破壊したときに《グレンザウルス》のオーバーレイユニットを1つ取り外して、1000ポイントのダメージを与えます!」
「うっ……」

美里 LP:3000→2000

「そして、リバース罠発動です! 《火霊術-「紅」》!」
 リリースした炎属性モンスターの攻撃力分だけのバーンダメージを与える強力なカード。《グレンザウルス》の攻撃力は2000、美里のライフも2000。このままでは美里のライフがちょうど0となり負けが確定するが……。
「させない。永続罠、《王宮のお触れ》!! 罠カードの効果をすべて無効にするよ!」
 ダメージの発生はなし。《グレンザウルス》がフィールドから消えて今度は美里のチャンスとなった。
「僕は……カードを1枚伏せて、ターンエンドです」

第8ターン
冬樹
LP:3700
手札:1
SS

美里
LP:2000
手札:2
《王宮のお触れ》


 第2試合、早川璃奈VS新塚彩花。

第7ターン
璃奈
LP:4900
手札:1
《E・HERO アナザー・ネオス》、《バルキリー・ナイト》、SS

彩花
LP:6000
手札:2
SS

「私のターン、ドロー!」
(瞬ちゃんやアンナは彼女に何かあるって言ってたけど、そーいう以前にこの子普通に強いわよ。レベル6ってホントなの?)
 ライフでは多少彩花が勝っているが、フィールドの状況を見れば押しているのは璃奈の方。
(攻めあぐねてたらこっちが押し負ける。ならここで勝負よ!)
「まずは《六武衆の結束》を発動。そしてリバース罠、《究極・背水の陣》!!」

彩花 LP:6000→100

《六武衆の結束》 C:0→1

「ライフを100になるように払って、墓地から5体の「六武衆」、《真六武衆-キザン》、《六武衆-ザンジ》、《六武衆のご隠居》、《真六武衆-カゲキ》、《六武衆-カモン》を特殊召喚!」
 6000あるライフを一気に捨て、一必殺の切り札である《究極・背水の陣》を発動。ここで一気に勝負を決めるつもりだ。
「《六武衆-カモン》と《真六武衆-カゲキ》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《M.X-セイバー インヴォーカー》! そして速攻魔法《六武衆の荒行》を発動し、《六武衆のご隠居》と攻撃力の同じ《六武衆の影武者》を特殊召喚よ! レベル3の《六武衆のご隠居》にレベル2の《六武衆の影武者》をチューニング! シンクロ召喚! 真の侍にして真の長、《真六武衆-シエン》!!」

《六武衆の結束》 C:1→2

 1ターンに1度だけ魔法・罠を封じることのできる《真六武衆-シエン》。破壊と展開に魔法・罠をメインとする璃奈には相当痛い。
「《六武衆の結束》を墓地に送って2枚ドロー。そして《M.X-セイバー インヴォーカー》の効果を発動して、デッキから《H・C エクストラ・ソード》を特殊召喚よ!」

《M.X-セイバー インヴォーカー》 ORU:2→1

「レベル4の《六武衆-ザンジ》、《真六武衆-キザン》、《H・C エクストラ・ソード》の3体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《ヴェルズ・ウロボロス》!!」
 《H・C エクストラ・ソード》の効果でその攻撃力が1000ポイント上昇。

《ヴェルズ・ウロボロス》 ATK:2750→3750

(《オネスト》を考えれば、ここは手札を叩き落とさせてもらうわ!)
 だが。
「速攻魔法、《超融合》を発動です!」
 手札1枚をコストにして《E・HERO アナザー・ネオス》と《ヴェルズ・ウロボロス》を素材に《E・HERO エスクリダオ》を融合召喚する。玄とアンナのデュエルでも活躍を見せた《超融合》。当然、《真六武衆-シエン》の効果でもチェーンはできない。
 さらに《E・HERO エスクリダオ》は墓地の「E・HERO」の数だけ攻撃力を上昇させる。

《E・HERO エスクリダオ》 ATK:2500→3100

「くっ……」
(色々と予定が崩れてるわね……でも)
「まだよ。《六武衆の露払い》を通常召喚。その効果で自身をリリースして《E・HERO エスクリダオ》を破壊するわ」
 これで璃奈の残りの戦力は《バルキリー・ナイト》のみ。
「バトルよ! 《真六武衆-シエン》で《バルキリー・ナイト》に攻撃!」

璃奈 LP:4900→4300

「《バルキリー・ナイト》が戦闘で破壊されて墓地へ送られたとき、このカードと墓地の戦士族を除外して墓地のレベル5以上の戦士族モンスター1体を特殊召喚します! 私は《E・HERO アナザー・ネオス》をゲームから除外して、《E・HERO ネオス》を特殊召喚です!」
 《M.X-セイバー インヴォーカー》が攻撃力は1600なのに対して《E・HERO ネオス》の攻撃力は2500。このままでは勝てないどころか返しのターンで負けてしまう。
「速攻魔法、《六武衆の理》を発動! 《真六武衆-シエン》を墓地へ送って、同じく《真六武衆-シエン》を特殊召喚!」
 これで再び攻撃可能となった《真六武衆-シエン》。その攻撃力は《E・HERO ネオス》と同じ2500だ。
「《真六武衆-シエン》で《E・HERO ネオス》に攻撃! そして空いたフィールドに《M.X-セイバー インヴォーカー》で攻撃!」
「きゃっ……!」

璃奈 LP:4300→2700

「私はカードを1枚伏せてターン終了よ」
(ギリギリね。伏せカードがあるとは言っても、あっちのドロー次第では負けちゃうわ)
 最後まで何が起こるか分からないのがデュエル。次のターンが命運を分ける。

第8ターン
璃奈
LP:2700
手札:0
無し

彩花
LP:100
手札:0
《M.X-セイバー インヴォーカー》、SS


 第3試合、辻垣内真子VSアンナ・ジェシャートニコフ。

第4ターン
アンナ
LP:7000
手札:0
《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》×2、《スターダスト・ドラゴン》、《ブラッド・メフィスト》、SS×2

真子
LP:2900
手札:2
《茫漠の死者》、SM

 『反逆の忘却(ゼロカウンター・パーミッション)』によって、真子の動きはほぼ封じられていた。そんな中で《ピラミッド・タートル》の自爆特攻で特殊召喚した《茫漠の死者》によってなんとか《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》1体を破壊し、1000ポイントのダメージをアンナに与えた真子。それでもライフは大幅に削られた上にフィールドの状況も圧倒的に不利だった。
 《スターダスト・ドラゴン》によって効果破壊は遮られ、2体の《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》によって魔法・罠は使えない。さらには黙っているだけで《ブラッド・メフィスト》のバーンダメージが入る。
「アンナのターンだよ、ドロー!」
(やっっっっっっばいわね、勝てるビジョンが全く見えないわ)
 表面上はポーカーフェイスを保っているが、内心汗だくの真子。
 そんな真子を余所に、ドローカードを確認したアンナはそれをすぐセット、そしてリバースカード1枚を発動させる。
「魔法カード、《シンクロキャンセル》を発動して、《ブラッド・メフィスト》を分解っ! そして出てきた《太陽風帆船》と《シンクロ・マグネーター》でもう1回チューニング! シンクロ召喚! 《スクラップ・ドラゴン》!!」
 廃棄物をを固めて作ったような造形の竜が再同調される。その効果によって、アンナはさっき伏せたばかりのセットカード――《ブレイクスルー・スキル》――と《茫漠の死者》を粉砕。真子のフィールドには壁モンスターが1体だけ残る。
「バトルだよ! 《スターダスト・ドラゴン》でマコのセットモンスターに攻撃! これで終わりだよマコ!」
 圧倒的ピンチ。しかし真子の顔は笑っている。
「まだやられないわよ! セットモンスターは《魂を削る死霊》! 戦闘では破壊されないわ!」
「うー、マコしぶとーい。《ブラッド・メフィスト》を消しちゃったのは失敗だったかなー?」
 と言っても真子にとっては多少ダメージが少なくなる程度。一撃一撃が重いこの状況では微々たる差にしか思えなかった。
「ま、いっか。アンナはこれでターンエンドだよ!」
(このターンは生き残った……でもやばいわ。《ブレイクスルー・スキル》は墓地でも効果を使えるし、《スクラップ・ドラゴン》もいる。どっちにしろ《魂を削る死霊》の命は次のアンナちゃんターンには消えてる。なんとかいいカードをドローしたいけど、この状況打破するカードなんてなんかあったかしら……?)
 ないにしても途中でデュエルを投げ出すなんてことはしない。デッキを信じ、自分のターンへと移る。
(せめて一矢ぐらいは報いないとね)

第5ターン
アンナ
LP:7000
手札:0
《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》×2、《スターダスト・ドラゴン》、《スクラップ・ドラゴン》、SS

真子
LP:2900
手札:2
《魂を削る死霊》


 第4試合、鷹崎透VS東仙春江。

第6ターン
鷹崎
LP:5050
手札:2
SS

春江
LP:7200
手札:2
《エヴォルカイザー・ラギア》、SS×2

「俺のターン、ドロー!」
 《エヴォルカイザー・ラギア》の素材はまだ残っている。この存在が鷹崎の攻めを遅らせる。
「魔法カード、《トレード・イン》を発動。手札の《青眼の白龍》をコストに2枚ドロー」
 そして、ドローした2枚のカードを即座にフィールドに叩きつける。
「《バイス・ドラゴン》を特殊召喚! 《デルタフライ》を通常召喚! レベル5の《バイス・ドラゴン》にレベル3の《デルタフライ》をチューニング! シンクロ召喚! 破壊と悪魔の象徴、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!!」
「させるかっての! 《エヴォルカイザー・ラギア》の効果を発動!」

《エヴォルカイザー・ラギア》 ORU:2→0

「オーバーレイユニットを2つ取り外して、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の特殊召喚を無効よ!」
「是が非でも通す! カウンター罠、《角笛砕き》! モンスターの召喚・特殊召喚を無効にする効果を無効化し破壊する!」
「なっ、そんなピンポイントカウンター……舐めんじゃないわよっ! こっちもカウンター罠、《魔宮の賄賂》!!」
 今度は魔法・罠を無効化するカウンター罠。
 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の特殊召喚を無効化した《エヴォルカイザー・ラギア》の効果を無効化した《角笛砕き》の効果を無効化した《魔宮の賄賂》。結果《エヴォルカイザー・ラギア》の効果が成立し、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》はフィールドに現れることを許されず墓地へ。
「《魔宮の賄賂》の効果で1枚ドローさせてもらう」
 これで鷹崎の手札は2枚。まだ展開は可能である。
(伏せカードは1枚。おおよその見当は付く。なら……)
「墓地の《ドラゴラド》と《エクリプス・ワイバーン》をゲームから除外し、《ライトパルサー・ドラゴン》を特殊召喚! さらに、《エクリプス・ワイバーン》の効果で除外していた《聖刻龍-ウシルドラゴン》を手札に加え、墓地の《青眼の白龍》と《聖刻龍-ドラゴンヌート》をゲームから除外し特殊召喚!」
「くっ……なら《激流葬》を発動! すべてのモンスターを破壊するわ!!」
 鷹崎と春江のフィールドから合計3体のドラゴンが洗い流される。
(《ライトパルサー・ドラゴン》は墓地に送られたときに墓地のレベル5以上の闇属性・ドラゴン族モンスターを特殊召喚できる……。《レッド・デーモンズ・ドラゴン》は蘇生制限を満たしてないから復活できないけど、それでもまだ《バイス・ドラゴン》が出てくる。ま、2体のドラゴンで殴られるよりはましよね)
 だが。
「その伏せ、読めてたぜ! 速攻魔法《禁じられた聖槍》を発動! 《聖刻龍-ウシルドラゴン》を《激流葬》から守る!」
「しまっ……!」

 《聖刻龍-ウシルドラゴン》 ATK:2600→1800

「さらに、《激流葬》で流された《ライトパルサー・ドラゴン》の効果で《バイス・ドラゴン》を特殊召喚! バトルフェイズ! 2体のドラゴンでダイレクトアタックだ!!」
「きゃあああっ!」

春江 LP:7200→5400→3400

「よしっ! 俺はこれでターンエンドだ!」
 エンドフェイズに《聖刻龍-ウシルドラゴン》のステータスが元に戻る。

《聖刻龍-ウシルドラゴン》 ATK:1800→2600

「やるわね……今度はこっちの番よ!」

第7ターン
鷹崎
LP:5050
手札:0
《聖刻龍-ウシルドラゴン》、《バイス・ドラゴン》

春江
LP:3400
手札:2
無し


 第5試合、白神玄VS鳳瞬。

第8ターン

LP:7700
手札:3
SM×2、《岩投げエリア》


LP:4800
手札:1
《ネフティスの鳳凰神》、SS×2

「俺のターン、ドロー。まずは《番兵ゴーレム》を反転し、効果を発動。《ネフティスの鳳凰神》をバウンスだ」
 今回玄が選択したデッキは【サイクルリバース】。反転召喚時に効果を発動し、自身の効果で再びセットすることができるモンスター群。攻める力は弱いが、嵌った時の厄介さは相当なものだ。
「させるか! 《デストラクト・ポーション》を発動! 《ネフティスの鳳凰神》を破壊!」

鳳 LP:4800→7200

「サクリファイスエスケープ+ライフ回復+《ネフティスの鳳凰神》の効果発動条件を満たしたか……なら今度は空いたフィールドに攻め入らせてもらおうか。《ゴゴゴゴーレム》を通常召喚」
 優れた防御能力を持つが、攻撃でも申し分ない力を発揮する。
「バトルだ。《番兵ゴーレム》でダイレクトアタック!」
「通す」

鳳 LP:7200→6400

「続いて《ゴゴゴゴーレム》で攻撃だ!」
「その瞬間、罠カード、《八汰烏の骸》を発動! デッキからカードを1枚ドロー!」
 この《八汰烏の骸》の目的は当然ドローなどではなく、本当の意味でフィールドを空にするため。

鳳 LP:6400→4600

「この瞬間、俺はこのモンスターを特殊召喚する……現れろ、《冥府の使者ゴーズ》、《冥府の使者カイエントークン》!!」
 光と闇の使者。不利な状況から一気に大型モンスターを展開する。
「さっすが鳳先輩。だが」
 バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2へ移行する玄。
「モンスターを反転召喚だ。《メデューサ・ワーム》! 反転召喚成功時にモンスター1体を破壊する! 《冥府の使者ゴーズ》を破壊!」
「くっ……」
「さらに、《番兵ゴーレム》と《メデューサ・ワーム》を再びセット。カードを2枚セットし、ターンエンドだ」
(《ネフティスの鳳凰神》の効果で魔法・罠が一掃されることを承知の上でセットカードを2枚場に出すか……何を狙っている)
「さーて、目標はあと1周かな。来いよ、鳳先輩」
「ふん……いいだろう。行くぞ白神!」

第9ターン

LP:7700
手札:1
《ゴゴゴゴーレム》、SM×2、《岩投げエリア》、SS×2


LP:4600
手札:1
《冥府の使者カイエントークン》


 そして……。
  ○ 美里 - 冬樹 ●
  ● 璃奈 - 彩花 ○
  ● 真子 -アンナ○
  ○ 鷹崎 - 春江 ●
  ○ 玄 - 鳳 ●
 と言う結果。
「1周目は僕らの勝ちだね」
「1周目って……何周するつもりなの?」
「まだ時間はあるし、僕人数オーバーで溢れ出ちゃってデュエルしてないよ」
「いいじゃねぇか、日が落ちるまでやり尽くそうぜ」
 と、全員がノリノリでデュエルをして――。
 2周目。
  ● 鷹崎 - 鳳 ○
  ○ 玄 - 冬樹 ●
  ○ 音無 - 彩花 ●
  ● 美里 -アンナ○
  ● 璃奈 - 春江 ○
 今度は栖鳳の勝利。
 3週目。
  ○ 玄 - 春江 ●
  ● 美里 - 鳳 ○
  ● 鷹崎 -アンナ○
  ○ 音無 - 冬樹 ●
  ● 真子 - 彩花 ○
 拮抗したデュエルを繰り広げていたが、ギリギリのところでまたも栖鳳勝利。
 そして4週目。
  ○ 真子 - 春江 ●
  ● 音無 -アンナ○
  ● 鷹崎 - 冬樹 ○
  ○ 美里 - 彩花 ●
 ここまで4戦。2勝2敗の状態で決着は大将戦。奇遇にも、大会で1度デュエルした相手、璃奈VS鳳。
「いっけーシュン! 頑張れー!」
「大会の時くらいの勢いでやっちゃいなさい!」
「頑張れよ璃奈。チームの勝敗、お前に預けたぜ!」
「璃奈ちゃんファイトー」
 各チーム味方に対して声援を送る。練習試合とは言ってもお互い本気だ。
「今度は負けませんよ」
「ふん……来い!」

「「デュエル!!」」


「ふぅ……」
 ソリッドビジョンは座りながらでも見えるため、デュエルしている2人から少し離れベンチに腰を掛ける玄。
「どーしたの、クロ?」
 そこに近づいてきたのはアンナ。玄のすぐ横に腰を掛ける。
「いーや、何でも。ただちょっと久々に騒ぎ過ぎたからな……少し疲れただけだ」
「そっか」
 妙な間。どちらも口を開かずに黙る。そして2分を過ぎたというところでアンナが再び玄に話しかける。
「クロはさ……どーしてアンナとのデュエルの時に、デュエルスタイル……ううん、デュエルスキルを使わなかったの?」
 玄はまだ口を開かない。
「それとも……使えなかったの?」
 玄は口を噤んだままだ。
「やっぱり……「あの時」から、クロはデュエルスキルもデュエルスタイルも使えなくなったんだね?」
「そう……か。お前はあの時あの場にいなかったんだよな。ああ、俺はあの時からスキルもスタイルも使えなくなった。いや、全て忘れさせられた……ってのが正しいか」
「忘れさせられた……? どういうことなんだよ?」
 玄の言っている意味が分からないといった風に聞き返す。
「お前は大会の時に俺が「怖がってる」って言ったよな。あれは正しいよ。俺は怖いんだ……「あの時」の事を思い出そうとすると、恐怖が先行して頭痛がしてくる。吐き気を催す。気分が悪くなる。別に完全にスキルもスタイルも使えなくなったわけじゃない。とは言っても今じゃ全盛期の5~10パーセント程度が限界だ」
「ってことは……だから」
「そう、だから俺はお前のデッキをメタるような構築をしてきた。当時の俺ならそんな必要は全くなかっただろうけど、今の俺じゃこれが精一杯。大会の時は気丈にふるまってたけど、実際あの時お前に対しての策を練らなきゃ、正直負けてた可能性だってある」
 普段は見られないような弱気な発言。しかし、アンナにはそれが茶化しているわけでもふざけているわけでもないと感じた。それほどまでに、玄の顔は真剣な表情をしていたのだ。
「クロ……」
 心配そうな顔を浮かべるアンナ。普段の明るい雰囲気からは掛け離れている顔だった。
「お前が気にするようなことじゃない。それに、本戦であの人とデュエルすることになれば、いやでも使わないといけないだろうしな」
「……クロは、今もやっぱり怖い? みんとデュエルしてる今も」
「怖いさ。だが、それ以上に楽しい。怖さなんて忘れさせてくれるぐらい、今が楽しいんだ。少なくとも半年前までただ逃げるだけだった時よりは楽だ。それもこれも、決闘部のみんなのお蔭だ」
 その顔はやはり真剣だった。しかし、さっきまでのように切羽詰った顔ではなく、前をしっかりと見つめているような顔だった。
 その時だった。アンナとの会話に集中していたせいか、いつの間にかデュエルの内容は頭の片隅にしか入っていなかった。狙ったわけではなく、丁度2人の視界から外れた瞬間――。

 ――大きな音が、鳴り響く。

 いや、別段耳を揺さぶるような音だったわけではない。ただその音からは何か異様で異常な気配が感じられたのだ。
 音源はデュエルフィールド。玄がアンナと話していた時間を考えれば、デュエルは佳境に入っている頃のはずだった。事実として1ターン前、6ターン目には、璃奈のライフは400まで削られ、フィールドにはカードがなかった。対する鳳のライフは11500の上にフィールドには《ネフティスの鳳凰神》と《ダーク・ネフティス》、1枚のカードがセットされていた。
 そして玄とアンナが近づくと――。

鳳 LP:11500→0

 璃奈がデュエルに勝利していた。
「――!!?」
(おいおいおい、どういうことだよ。さっき少しの間だけデュエルを見てはいなかったが、ボロボロに璃奈が負けてたはずだろ!? それがなんだこの状況……)
 近くで見ていた真子や彩花たちも何が起きたか分からないといったように呆然と決着のついたフィールドを眺めていた。もちろん、対戦者である鳳も無気力に立ち尽くしていた。
(途中までは先日対戦した時となんら変わらないデュエルだった。しかし……なんだ、あれは? 大会の時に感じた妙な感覚の正体がこれか? アンナが気に留めていたものの正体はこれか? だとしたらこいつは……)
(今の感覚は……何でしょう。まるで自分の体じゃないような。いいえ、むしろあまりにも自分の体に合致し過ぎていたような……? こんな感覚、今までも何回か……)
「決まり……だな」
「クロ……これは間違いないんだよ。リナは……」
「璃奈は……」

 特異なデュエルスタイル、またはデュエルスキルを保持している。

 2人はそれを即座に理解した。
 この日を境に、早川璃奈の決闘は一変することになる。
 しかし、さらに数分後、玄たちを新たな驚愕が襲う。その始まりは着信音。神之上高校決闘部のメンバー全員の携帯電話が各々の着信音を響かせたのだ。
 確認すると、全国高校生デュエル大会本部からの通知だった。記されていたのは各地区予選優勝校と、そのメンバー。
「本戦出場校は……北の代表が桜ヶ丘(さくらがおか)女学院、西が藍原(あいはら)学園、そして南が宮路森(みやじもり)高校か」
 玄たちは一旦、目の前の異常事態から目を背けるように携帯の画面に映し出された情報を確認する。
「西の藍原学園は去年私たちが負けたところよ。もう少しの所だったんだけどね」
「ほかの2校は知らないなぁ。どうやら今年が本戦初出場みたいだけど」
 次は各々が出場校のメンバーを確認する。聞いたことのある名前もあれば、当然知らない名前もいくつかある。そんな中で。
「……は? なんだよ、これ」
 その声を上げたのは玄。見ているページは宮路森高校の出場者ページだった。
「ん? どうしたの玄くん? 誰かいたの?」
 横から除くようにして美里が携帯の画面を除く。すると、「2年 ミハイル・ジェシャートニコフ」の一文を発見する。
「これ……ジェシャートニコフって、アンナちゃんと同じ苗字じゃないですか! これってもしかして」
「うん……アンナも驚いてるんだよ。なんで……ミハが、お兄ちゃんが日本の高校にいるの?」
 全員驚愕。同性と言うことである程度の予想はついていたが、まさかのまさか。
「玄くん……嫌な予感がするんだけど……このミハイル君ももしかして……」
「お察しの通り、ミハイルも『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』だ。どうしてこいつが……いつの間に日本に留学なんかしてやがったんだ」
「つーことは、このミハイルってやつが本戦での一番の問題か。ちっ、次から次へと……」
「いや違う」
 その言葉を呟いたのは玄。全員の視線が玄に集められる。
「違うって……何がです、クロくん?」
「確かに、ミハイルが日本にいることに驚いたのは事実だ。だがそれ以上に、こいつが「宮路森高校にいること」の方に俺は驚いたんだ。名簿の一番下に書かれてる名前を見てくれ」
 玄に言われた通り、部員たちは一番下に記された名を見た。そこには、「3年 針間戒(はりまかい)」と書かれていた。
「彼が……どうかしたのかい? 聞いたことはない名前だけど……」
「だからこの人なんだ。本戦での一番の問題はな。針間戒。俺やアンナ、ミハイルと同じく、『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』だよ」
「――え?」
「心して掛かれよ。本戦では、2人の「黄金」と戦わなきゃならねぇ。それも1試合のうちにな」
 第8位、アリエスのミハイル・ジェシャートニコフ。
 第6位、アクエリアスの針間戒。
 本戦では、神之上高校決闘の前に大きな大きな2つの壁が立ち塞がることとなる。
「……面白くなってきたじゃねぇか、おい」
 玄は小さく、誰にも聞こえないような声でそう呟いた。


第一章 黄金始動編 終

       

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Neetsha